お偉方
「なんで、囲まれてるのに、手伝って、くれないんだよっ!!」
「「お前に任せるって言ったろ?」
「だからって徹底して俺に任せるなよ!!なんで向かってきた奴斬らないで俺の方に蹴ってくるの!?一体ぐらいいいじゃん!?なんなの?イジメなの!?イジメ反対っ!!」
でっかい豚との戦闘を終え、朝部に帰りの敵を全員任せて帰ってきたら四十分ぐらい掛かった。敵が少なかったとはいえ、少し掛かりすぎである。まぁ、『黒化』よりオークやゴブリンが多かったのが原因だろうが。
レベルも5に上がったので文句を言われたくはない。
「まぁまぁ、そんなに怒るなよ『忍者』。それよりも、この後の言い訳は任せたぞ」
「ちょっと黒川さん!?‥‥は良いとして、居ても邪魔なだけだし。けど、『限定英雄』は付いて来いよ!?豚を殺ったのはお前だし、初レベルアップもお前だろ!?」
「ファイトッ!!」
「それ言えば俺がなんでもすると!?」
え?違うんですか?だってさっきはやってくれたのに‥‥つか、そんか暇無いっての。背中の奴寝かせてこないとだし。
「ほら、 着いた‥‥お前ら、これはなんのつもりだ?」
バリケードの前に着くと、最初に来た時と同じ‥‥いや、まだバリケード潜ってないからその時以上の最悪なお出迎えだ。
「あ、あなた方には殺人罪の容疑が掛かっている!!お、大人しく着いて来てくださいっ!!」
「ブハッ!!」
やっべぇ噴いちゃったよ。本部とかで処罰されるどころか犯罪者扱い。これは酷いな。
「なっ何がおかしい!?」
「いやぁ〜?別に何でも無いですぅ〜‥‥ブフッ」
「おい、笑うなよ。コッチは泣きそうなんだが?」
いやいや、笑うなって無理言わないでよ。この状況じゃ笑うしか無いでしょ。
顔を真っ赤にさせてさっきよりも大きな声で叫んでいる朝部の部下であろう男。ちょっと可哀想なので黙ってあげよう。
「と、とにかく付いて来いっ!!お前らと話したい奴がいるそうだ!!」
「話ねぇ‥‥お偉方かね?」
「バカ言え、おっさん達が最前線まで来る訳無いだろ」
「じゃあ誰だよ?」
「さぁ?」
わかんないのかよ‥‥というか、コレ付いて行かないと駄目なの?別に行く必要無いと思うんだけど。
「連れてきましたっ!」
『うむ、下がって良し』
中から偉そうな男の声が聞こえる。こんな最前線に偉い人が来る物なのか?
「ハッ!失礼します!!‥‥入れ」
朝部がこれ以上面倒な事にしたくないと言うので案内した兵士で遊びながらコウに与えられていたテントまで来ていた。犯罪者なのに牢屋に入れなくて良いのだろうか?
『よく来たな。黒川一等陸佐に朝部二等陸佐。そして『限定英雄』背中に背負っているのは『戦巫女』だな?今回の巨豚討伐。見事であった。が、君たちは我々が『感染病』としてきた物を見事にぶち壊してくれた。よって、今回の褒美や昇進は無しとする』
まさかのテレビ電話。何という事でしょう。偉そうなおっさん達が高そうな椅子に座ってふんぞり返ってる。苛つくわぁ‥‥まぁこの事は置いといて、なんでソッチが上みたいに話してるんだろう?自分達の置かれてる状況を把握してないな。
「あのさぁ、安全地帯に引きこもって指示だけ出してるアンタらにご苦労とか見事とか言われたくないんだけど?俺の事知ってるって事はレベルアップ者がそっちに居るんだろ?なら此処じゃなくていいから何処かに応援に行かせろよ。レベルアップ者をアンタらのお守りに使える程今の世の中余裕無いんだけど?」
「おいっ!!」
朝部が慌てて止めに入って来るが、もう遅い。テレビの奥にいるおっさん達顔真っ赤だし。それよりも、『狂戦士』どうにかしたら?首を縦に振ってコッチに向かって親指立ててるけど?
『きっ、貴様ァッ!!一位だかなんだか知らんが、調子に乗るなよっ!?我々はこの国のトップに位置する‥‥』
「国なんてもう機能してねぇよ。アンタらは只の椅子に座ってブクブク太ってる使い物にならないおっさんだ。前の『日本』でどれだけ偉かったか知らねぇけどな。今の『日本』という国だったこの島じゃ何の役にも立たないんだよ」
怒りで言葉が上手く出て来ないようだ。顔を真っ赤にさせて口をパクパクさせている。笑っちゃうからその顔止めてください。
「とりあえず、まだ『軍みたいな物』は使えるんだ。今のうちにレベルアップさせないと駄目だぞ?」
「きっ、貴様ぁ‥‥っ!!、フンっ、知ってるぞ。お前の『大切』が今、九州に向かっていることを。コイツらの命が惜しければ、我々に従ってもらおう!!」
おっと、オーガウス達の事も知られてるのか。けどまぁ、別に問題無いけどな。
「どうぞお好きに。まぁ、出来ればの話だがな。お前らの側で子守りしてる奴がどのくらいのレベルか知らないがな、俺の使い魔に勝とうとするなら上位陣を何人か連れてこないと話にならないぞ」
「おいっ、それぐらいにしてくれ‥‥っ!!」
顔を真っ青にして縋りついてくる朝部をみて、流石に可哀想だとこれ以上煽るのは止めておく。
「別に、おまえ等に使われるのが嫌なんじゃねーよ。それ相応の褒美って奴がほしいんだ。さっき殺った豚のな」
『‥‥だから、それは無しだ。それに我々には今直ぐ払える報酬など無い。特別に軍に入れてやってもいいが』
「そんな何の役にも立たないものいる訳ないだろ。俺が欲しいのは情報だ。何処が安全か、『黒化』が進んでいるのか、とかそう言う情報が欲しい」
『そんなものか、別に構わん。まぁ完全に分かっている部分とそうでない部分があるが、それでも良いなら‥‥‥』
「嘘の情報与えてワザと危険地帯に行かせる。なんてするなよ?そんな事しても俺のレベルを上げる手伝いをするだけだからな」
『‥‥‥‥‥チッ』
目を逸らして一斉に舌打ちをしてきた。このクズ共、どうしてくれようか?
「さて、じゃあ俺は行くぞ。助けなきゃならない人が居るからな」
『まてっ!人名救助は此方の指示の下、行ってもらう。勝手に行動するなっ!!まずは大塚議員の家族を‥‥‥』
「そんなもの知らん。俺は『限定英雄』だ。まず助けるのは『大切な人』それ以外は正直どうでもいいんだよ。だから、そいつらは後だ」
『お、お前っ!私達の言うことを聞けっ!!』
顔を真っ赤にしたテレビ越しにみるおっさんと、逆に顔を真っ青にさせている朝部を放って『雀羽織』を翻しテントを出る。その前に一応、『狂戦士』に声を掛けてる。
「断る。じゃあ俺行くから、後よろしくー」
テントを出て、人を避けながら真っ直ぐに張り直されたばかりのバリケード前まで歩いていく。が、バリケードの前でコウの足は止まってしまった。バリケードの前に、突破される前以上の自衛隊員が配置されていて出られなくなっている。無理に突破しようとするなら楽勝だが、それは色々と不味い。
「さて、夜まで待つか。それとも‥‥」
「無理に突破は止めてくれよ?」
「‥‥おっさん達のご機嫌取りは良いのかよ?」
気配を消した朝部が、後ろに佇んでいた。流石忍者、ある程度近づいてくるまでわからんかった。
「ほら、コレ持って行け」
「なにこれ?」
手に持っていた紙の束を放り投げて来る。結構分厚くい。開いて見ると、男の顔写真と名前が書いてあった。捲ると、一人につき一枚で手配書みたいに書かれている。途中で野島先輩と上條部長の両親のもあった。最後の方にコウとレイの両親の紙も。
「お前が助けたいと言う六人の顔写真とさっきお偉方が言っていたお偉方の家族の物だ。まぁお前の事だから六人だけ連れて帰ってくるのかも知れんが、一応な」
「‥‥なるほど、結構居るな。でも俺が助けるのは六人。他は付いてきたければ来させる。それ以上はしないからな」
「あぁ。それでいい‥‥さて、俺と黒川さんはこの後部下達の監視下に置かれる。今は抜け出して来たが、次に動けるのは‥‥」
「此処が突破された時。だろ?別にお前らに期待なんかはしてない。まぁ、礼は言っておく。アイツらを、九州に送る手続き、本当に助かった」
頭を下げて朝部にキチンとお礼をする。コイツが動いてくれなかったらこんなに早く九州に送れなかっただろう。
「ちょっ、止めろ!?良いから行くぞ。今後は今から行く所から出入りしてもらう事になる。助けた人達はバリケードから入ってもらうよう誘導してくれ」
「了解」
朝部の案内で来た道を戻り、さっきまで居たテントも通り過ぎて、人気の無い小さい林のような所に案内された。奥からは水が流れる音がする。きっと小川があるのだろう。
「さて、ここから行ってくれ。この林を突っ切れば今も聞こえるだろうが小さな川がある。幸いガードレールもあるし人も来ないから『黒化』した連中がガードレールが壊れるまでぶつかってくるような事もない」
「オークとか来たら終わりだな」
「‥‥しょうがないだろう。少し前までオークが居る等知らなかったんだ。が、近々此処にも人員が配置される。が、それを待たずしてオークが乗り込んで来るだろうな」
コイツ、サラッととんでもない事言ってない?突破される前提で話す位ならその前になんとかしようとは思わんのかね?
「お前も此処が守られるとは思っていないだろう?まぁそれでも、さっきここら辺のは集まって居ただろうから一日くらいは猶予がある。それまでに‥‥」
「六人と、できれば他の奴も連れてこい‥‥か、無茶苦茶言ってくれるな」
「お前なら楽勝だろう?なにせ八十人近くを連れて此処まで来たのだからな」
「簡単に言うなよ‥‥じゃ、行くわ」
「あぁ、頼んだぞ」
これ以上時間は無駄に出来ないし、無茶苦茶言って来る朝部を殴り飛ばしそうだったので、小川に向かって走る。林を抜けると小川の向こうにガードレールが敷かれた道路が見えた。
少し下がって思いっきりジャンプをする。
「‥‥よっと、あっぶねぇ〜ギリギリだった」
なんとかガードレールの上に立つ事が出来たが、もう少し足が短かったら今頃靴が水に沈んで、歩くたびにグチャグチャと鳴っていただろう。
「さて、この情報によると、この道を左に行って、暫くした所にある体育館の女子更衣室に隠れている‥‥‥‥‥女子更衣室っ!?おいおいマジかよ」
コウもこんなだが男子高校生。男子禁制の場所にはそれなりに興味はある。女子トイレや女風呂。そして問題の女子更衣室。聞くだけで鼓動が速くなり、しかも合法的に入れるとなるとテンションが上がる。
※これはコウの考えであり、実際の男子高校生の総意ではありません。
「ヨシッ!待ってろよ女子更衣室ッ!!‥‥じゃなくて、待ってろよ女子更衣室ッ!!!」
間違えたまま、誰かに聞かれたら通報されそうな事を叫びながらスキップみたいな走りで体育館を目指す。
一方その頃、コウが走って行ったのを見届けて急いで戻ろうとしていた朝部が洩らした一言。
『ヨシッ!待ってろよ女子更衣室ッ!!‥‥じゃなくて、待ってろよ女子更衣室ッ!!』
「‥‥‥‥‥‥‥フッ」