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そこからは、おかしな義務感に支配されたライブとなった。
実習生のファン仲間はアタシの存在に驚きつつも、やけ酒をしようと誘ってくれたが、実習生はそれを断り、地元に戻ってから、下宿近くの定食屋にアタシを連れて行った。
きっと、アタシがいなければ深酒して泊まって、翌日帰宅する事も出来ただろう。こんな時にまた気を使わせてしまった。
「分かってるんだよ……本来は喜ぶべきなんだよなぁ……」
何とも言えない空気だった。
気持ちは分かりかねるが。
「あのな、俺な、中学の頃、無気力でさぁ、でもあの声優知ってさぁ。同じ中学出身でさぁ、すげー頑張る子なんだよぉ。それ見て出来る男になろうって思ってよぉ、あの子が通ってた県立……俺達の高校、死ぬ気で勉強して受かったんだよぉ……分かってんだよぉ……もうあの子も十七歳だけど三十過ぎてるしさぁ……」
「は? どっち?」
いや、あの肌ツヤは女子高生ではないか。十七歳までが芸名みたいなものと受け取るべきなんだろう。
三十過ぎで二つ結びをしているってのはなかなかに凄い度胸だ。ちょっと見直してしまう。
「でもよぅ、せっかくレベル高い県立入ったのにお前と同じ苗字の輩どもにいじめられて学校いけなくてよぉ。先生に助けてもらってよぉ……」
「え? あ、ごめん……え? 泣いてるの?」
これがいわゆる泣き上戸なのか。
実習生はアタシの意味不明な謝罪には何の反応も示さず、ただ涙を流し続けていた。
「寒い……寒い」
「氷いっぱい入ったお酒ばっかり飲むからでしょ」
カウンターのポットから熱い緑茶を汲んで差し出したが実習生はそれに手を付けてはくれなかった。
「お腹痛い……お腹痛いよぉ」
そして急に立ち上がると、会計し、ふらふらと店の外へと出ていくので、なんとか追いつく。
「ちょ、っちょっと! 置いて行かないでよ! アタシの事そんなに嫌いなら言えよ!」
「……違うんだよぉ……違うんだよぉ」
だったらなんだと言うんだ。ここまで泣いて突然店を後にして。
「なんでも違うって言うのは女子高生語なんだよ! 何が違うんだか聞いてんの! ……あ」
もう、言われなくても分かってしまった。酷い匂いが立ち込めてきた。まったくもう。
「だって、だってぇ……」
「何してんの! ほら! 座り込んでないで風呂入るよ! キリキリ歩け!」
普通に考えたら酷いもんだけど、アタシは何故か、今だと思った。この人の役に立てると。