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 長沙城の地下は囚人でごった返していた。


 一つの檻に複数名収監されているので、政治、重犯罪フロアの住人である彼等は、通常過疎気味の平素と比べて、一層過酷な状況に置かれていたと想像できた。


 この度、正式に王粛が位を娘に譲り、晴れて王韙政権が樹立される運びとなったので、当然の帰結として大粛清が行われたのである。

 一応、この親子の和解と感動の対面などもあるにはあったのだが、娘のほうの異常な行動が過ぎたのでここは割愛する。


 非戦論者で尚かつ、この度の反乱に万庶側を指示した重臣などは捕らえられ、地下牢の住人となった。


 処断するにはまだしばらくかかる。一応それぞれの罪状を明らかにしなければならないからだ。


 私の意見を述べさせて頂くと、そんなものはすっ飛ばして全員打ち首にしてやればよいと考えているが、意外な事に新太守の方ではそんな手続きを重視した。


「たしかに妾や民を売りおった奴らには恨み骨髄ではあるが、国が法を守らなければ、誰が守るというのじゃ。各々の行いを反省させつつ、首切るなり放逐するなりせんといかん」


 正論ではあるが、それは、法治国家の場合だ。


 この国はまだとてもそんな域ではない。勝てば官軍、負ければ賊軍、戦での勝者が法である戦国の世にも近い状態なのである。


 なので、この場合彼女の言いたかった事は、『法』というよりもむしろ『道徳』に近いのかもしれない。

 曖昧模糊とした秩序の中では、気持ちとか欲望とかそういった本能的なものが優先されがちである。

 太守となった事で彼女の中で少しは、民を守る者の責任感とか人の上に立つものの度量というものが芽生えたのであればこれは私にとっても誇らしいことではないか。


「ばか者、恩はいつだって売っておくものじゃ。奴らに罰を与えるのもよいが、それは罪の軽微な者への見せしめであらねばならんのだぞ」


「それがお前の本心ならば、私はお前を見直すと同時に見下げ果てなければならないな」


「それは間をとって中庸ということか」


「見直すという表現がプラス一ならば、見下げ果てるという表現はマイナス無限大だと思うぞ」


「お主の評価など欲しておらぬので、やはりプラスもマイナスも無い」


 ともあれ、地下牢は裁きを待つ戦犯で溢れている。そしてその中には私が古城で斬った甘悸も含まれていた。夫人の方は古城の爆音の中に置き去りにしていたので、あの牢で生涯を閉じたと思われる。

 私はそう思っていた。

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