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数日前までの戦勝気分はすぐに萎えてしまって、城内には沈滞した諦めムードが漂っていた。
河川の流れは古来から一定ではなく、大雨による氾濫や干ばつによる日照りなどで少しずつ変化する。
近くを流れていた河も時と共に離れてしまう事がある。
もともと、水場の遠い山上にあり、さらに水利が悪くなって打ち捨てられていた城だったので、包囲されて三日目には飲水が不安になってきた。
食料はまだ十日は軽く持つだけあったが、水が無くなれば、米を炊くことも洗うこともできない。生で口にするしかないのだ。
それよりも水分自体を摂れない事の方が深刻だ。このままでは四日と持たずに干からびる。
「もうあとニ、三日で水が無くなる。地下水もまだ掘り当てられんようじゃ。この状況をどう打開する?」
「水はきっと出る。心配するな。もう少しの辛抱だ。と、兵士達にはそれで通すしかないな」
実際には不確かだった。
「では、逃げていく兵士達についてはどう対処する? 夜間の見回りを厳重にするか。それとも、見せしめに捕まえた者を張り付けの刑にでも処するか」
自分に味方するものには甘いくせに、敵や見限ろうとする者には厳格なのだ。彼女なりの勧善懲悪がそこに垣間見える。
「逃げる奴には逃げさせておけばいい」
「放っておく。というのか?」
「そうだな、いっそのこと兵士達を集めて言ってやろうか。逃げたい奴はさっさと逃げろ、ってな。やる気の無い無駄飯喰らいを置いていても仕方がないだろう」
本当にそんな事をすれば、残る者はほとんどいないだろう。そうでなくとも脱走兵は芋づる式に増えている。
「そうか。では、あの、山を埋め尽くして数える気も起きない敵はどう料理してくれるのじゃ?」
長沙で徴兵して十万を超える大軍になっていた。そして、桂陽と零陵の援軍がさらに接近中だという。
「どうにもならん」
「なんじゃと?」
「どうにもできないって言うんだ。打つ手無し。投了。終了。アーメン。家宝は寝て待とうじゃないか」
ごろんとベッドに寝転ぶ私に怒って叱り飛ばそうと口を開きかけた時、報告の者が入ってきた。
「長沙からの使者が参りました」




