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 翌日には万庶が率いる数万の兵が城外を埋め尽くすであろう。

 そんな報告が届いた。

 我らの工作はどうにか間に合ったという訳だ。


 そんな緊迫した状況で、最初で最後の事前軍議が開かれた。


 無官の相談役から軍師に抜擢された私も無論出席したが、これはという意見は見つけられなかった。


 結局は桂陽の援軍を待つ、という消極的な結論に達しただけだった。


「これから出かければ今夜夜襲が仕掛けられるじゃろう。ダラダラと進軍してくる奴らなんぞ一戦で蹴散らせる。やれる。やれるぞ。今すぐに馬を引け。出陣じゃ」


 王韙に関しては出かけて一戦する事を主張したが、多数決で負けたので、珍しく引き下がった。

 賛成者は本人を含め二人だけであった。


 替りに採用されたのは私の策だった。


 一軍を南の古城に埋伏させ、長沙では籠城する。

 桂陽からの援軍を待つ一方、古城からの出撃で糧道を絶つ。それができなければ敵同士の連絡を絶つように働く。


 拠点を悟られると各個撃破される恐れがあるので、極力古城には戻らず、野営をして転戦する。


 そして桂陽の援軍が到来したら城内からも出撃して三方から挟撃する。


 順当にいけばこういったシナリオになる。


 群臣の合意は得られたので、あとは軍の編成である。


 そのへんに関してはほとんど部外者でぽっと出の私があまりしゃしゃり出て口出しする訳にもいかないので、ニ、三注文を付けて将軍職に任せる事にした。


 緊急に徴兵して、一応は全部で一万三千人程の兵が集まった。


 各地から集める暇もなかったのでこの程度である。そして質も非常に良くない。

 まともに槍を握ったこともない者が半数に登ったのだ。

 ならず者や食いつめ者などはまだいい方で、老人や子供も混じっている。


 彼らには集団行動の基本と鐘や太鼓の合図を今日一日で教え込むだけで精一杯だろう。


 夕方には古城に潜む一軍が城から姿を消した。

 こちらには、かなり厚めの人員を割いた。


 兵数は全体の半分近い六千で、なるべく新兵は避けた。

 機動力が必要なので騎馬はほとんどこちらに編成している。


 籠城にはさほど精鋭を必要とはしないからだし、また、小勢で大軍を防ぐ事も容易であるからだ。

 幸い、元々頑丈にできてもいるし長沙の城は長年戦火に晒されなかった事もあり、脆くなっている所も無い。


 嘩蓮は古城組に副官として回した。これも私の注文である。


「どうして、ご主人様と離ればなれにならなくちゃいけないのー。私はご主人様ともう永遠に離れないって誓ったのにー」


 いやいやをする嘩蓮をどうにかなだめすかして送り出した。


 城内では籠城の準備が進んでいる。


 朝から大急ぎで城外の畑を収穫し、糧秣庫に運ばせている。


「いよいよ来るの」


 城壁から騒がしい城内の様子を視察する王韙がやや緊張を含んだ声で漏らす。


 そりゃあ無理もない。


 明日、我々は戦力数倍の敵と対峙しなければならないのだ。

 そして、我らの頂点に立つのが王韙なのだ。

 いつだって威勢はいいが、彼女には戦の経験などこれっぽっちも無い。


 よくぞ小娘がああも堂々としていられるものだと逆に関心しなければならないだろう。


 堀が枯れても一週間は持つように水を貯蔵させた。

 矢と守城兵器も急造で作らせている。大小の石を拾ってきては城壁に積み上げた。

 これは、上から投げつける為で、新兵で組織した投擲部隊を編成した。投石部隊というのは古代ギリシャから記録もある、歴とした兵科である。

 スリングという投石用の紐も開発されている。日本でも、戦国の武田信玄は投石部隊を常時編成していたという。


 敵は十倍以上だが、これで数日は持ちこたえるだろう。あとは城内の士気だけだ。


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