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 翌日は朝から雨もよいで、午後からは酷い降りになった。


 我が庵は頑丈に作っているので倒壊の恐れはないが、下の村ではいくつか家が流されたと英江に聞いた。


 面会の準備をして待っていたが、もう来ないのではないかと考えた。


 しかし、三人は訪れた。


 蓑笠を被ったスタイルで濡れそぼっていたので、挨拶もそこそこに居間に通して暖炉に火を入れてやった。


「なんじゃ。火事になっておるぞ。早く消さんか」


 王韙の言葉に動き出そうとする小柄な少女を手で制した。室内に設けた暖炉がどういう物か分からないのだ。火を消すつもりだったのだろう。


「大丈夫だ。燃えないように作ってある。ええと……」


「徐稚由です」


 緊張しているのか、目つきは鋭く表情は硬い。


「稚由ちゃんか。いい名前だ」


 私は普段、こんなお世辞を言うような男ではない。


 だが、目の前の少女は明らかに私を警戒している。警戒を通り越してすでに敵意を持っているようにも見える。

 このような小さな子に恨まれる謂われはないので、少し気持ちを和らげようといつもに合わない事を言ったのが良くなかった。


「初対面でおべっか遣う男はだいたい変態です。変態とは話したくありませんし、見られたくもありません。同じ空気を吸っているだけで、体調が悪くなってきました」


「いきなりなんて事言うんだちびっこ。私をロリコン扱いするんじゃない」


 この時代にロリコンは通じないだろうが、興奮のあまりつい出てしまった。


「誰がちびっこですか。誰が。こう見えてももう十四なんです。立派な淑女です。ちびっこ扱いは許しません。貴方は敵です。いや、変態的な敵です」


 くそっ。わざわざ相手の嫌がる単語を挿入してきやがって。嫌らしいローティーンだ。

 なぜ初めて会った女の子にこうまで言われなきゃならないんだ。


「変態じゃない。紳士だ。これ以上ないぐらい紳士なんだぞ。私は。裸で君が寝そべっていても、優しく布団をかけてやるぐらい紳士だ」


「もう例えが変態そのものです。間違いありません。貴方は紳士という名の変態です。気持ち悪いです。口と鼻を閉じて自害してください」


 しまった。言い返す余地がない。確かに例えとしては最悪の変態さ加減だ。彼女に対するセクハラ混じりでもある。残念ながら答えに窮するしかなかった。


「稚由。もうよい。下がりなさい」


 王韙が諭すとむくれた顔で部屋の隅に下がった。


 ところで、もう一方の従者であるカレンは、私を一目見るなり抱きついてきて離れない。


 今も腰蓑のようにぶら下がっていて、動くのに障害になっている。


「ああ、ご主人様。やっとお会いできたよー」「この日を待ちわびていたんだよ」などと歓喜の歌を歌っている。


これは私としても大変嬉しい。彼女と再び会うことがあるとは夢にも思っていなかったからである。

 もうかれこれ何年ぶりだろうか。思い出せないほど昔である。


「初めてお目にかかるのに、随分と無礼をした。許せ」


「ああ、別に構わない。それより、そのままじゃあ風邪ひくぞ。風呂を沸かしておいたから順番に入るといい。適当に着替えを用意しておいたが、私の物だ。大きさは不満だろうが諦めてくれ」


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