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「隠者のくせに生意気に結構いいところに住んでいますね。私はてっきり貧乏学生みたいなのを想像していたのですが、どうも違うようです。厩舎があるし、鶏小屋もある。おまけに犬も飼っているみたいです。こんな所に使用人も雇わず一人で住んでいるなんて、きっと対人恐怖症か、極端な根暗に違いありません」
畑仕事から家路を辿ると、我が家の玄関前に三人の少女が立っていた。
彼女達からは距離があり、私にはまだ気がつかないようだったので、茂みに隠れてひとまず様子を見る事にした。
得体の知れない相手に丸腰で会う事はできれば避けたい。
私は大金持ちなのだからこれは当然の用心だ。
相手が年端のいかぬ少女たちであったとしてもだ。
それにしても勝手な事をほざいている。全国の隠者の皆さんが聞いたら、憤怒を禁じえないところだぞ。
「親が大豪族で金持ちなのかもしれませんわ」
「ああ、だから自堕落な放蕩生活を送っているんですね」
「私、そこまでは言ってませんよ。だって、中に本人がいたなら、きっと気分を害してしまうんだよ」
「それはなによりなのです。実は気分を害する為に言っているのですから」
小柄な少女に銀色の西洋鎧を来た異形の少女が答える。何者だあれは。距離があって彼女達の顔貌までは見て取れない。
「そのような身の上じゃとは聞いておらんが、情報に間違いがあるのかもしれんの」
偉そうなリーダー格の少女が腕組みして言う。
どういったグループなのだろう。ちょっと想像がつかない。
このご時勢にある程度の地位がありそうな身なりの少女が三人、こんな夕刻に人里離れた山野にいるなんて、野党やならず者からすれば垂涎の獲物であり、攫って下さいとでも誘っているようなものである。
「まあ、これだけ待っても梨の礫なんです。留守なんですから仕方ありません。帰りましょう帰りましょう。さっさと帰りましょう。お腹もすきました」
一番小さな少女が、他を急かすように帰ろうとする。
「まだそんなに経ってないよ、ここ来てから」
「待ってたって帰ってきませんって、きっと。第一、待つ価値なんてきっと無いんですから」
「そうじゃな。今日のところは襄陽に戻るか。明日また来る事にしよう」
留守宅だと知っておとなしく帰るならば、野党の類ではないだろう。
「ええー。また来るんですかー? ダルいですー。こんな親の脛齧り野郎に会っても楽しいことなんてないですよー」
どうでもいいが、勝手に親の出資で自侭に生きる学生のような人物像にされている。
「嫌ならば、来なくていいぞ」
偉そうな少女は我が家の玄関に手紙を置くと木に繋いでいた馬に乗ってさっさと山を降りようとする。二人はそれに続く。
「嫌なんて言ってないですよー。待ってください、姫様ー」
結局私は彼女達をやり過ごした。
扉に挟まった手紙には、彼女の素性と日付、面会に来たが不在に虚しく帰る事が記されていた。明日も来ると言うので、会う事にした。




