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突き合おう

 お互いの秘密を知っても、二人の生活は変わらない。

 薫は男子グループの中で、休み時間はサッカーやバスケなどで駆け回り、優は女子グループの中でファッションの話に花を咲かせる。二人がどうなったのだろうかというクラスメイト達の興味の視線は向けられたままだが、本人達は気にしていない。


「薫、ボタン取れてるよ?付けてあげる。」

「あぁ、悪い。ユウは女の子らしいな。」

「はいはい、薫は男らしいわよね?」


 ふふっと笑って裁縫道具を取り出す優。

 素直にシャツを脱いで渡す薫。

 周りから見る二人は中々、良い雰囲気なのだ。


「あぁもう!擦り剥いてるじゃない!」

「舐めておけば治る。」

「そんな訳無いでしょ?おバカなんだから。」


 体育で手の甲を擦り剥いた薫を見て、怒る優。保健室へと連行される薫の後ろ姿を眺めながら、クラスメイト達はもう、気になって仕方が無い。二人が戻ったら聞いてしまおうと決意して、教室でそわそわ二人の戻りを待つ事になった。



 養護教諭が不在だった為、優は薫を座らせて勝手に手当をする事にした。消毒して絆創膏を張りながら、薫へと話し掛ける。


「薫ってさ、恋愛対象どっち?」

「え?どっちって?」

「いや、そんな(なり)してるからどっちなのかなって。両方とか?」

「両方?」


 きょとんと首を傾げる薫は本当にわかっていないらしいと見てとって、優は小さな溜息を吐いた。座っている薫の前に腕を組んで仁王立ちして、単刀直入に言う事にする。


「女の子に恋愛感情持つのかって事。」

「え?……………いやいやいや!」


 理解した薫が激しく狼狽え否定する姿に、優は小さく噴き出す。くしゃりと短い黒髪を撫で、ベッドに腰掛けている彼女の隣に座った。


「男と、今、恋愛する気ある?」


 真っ赤な顔で、薫は首を横に振る。


「女の子に告られまくってるでしょ?」


 今度は縦に動く頭。


「アタシもなの。恋愛対象は女の子。野郎に告られてもキモいんだよね。だからさ」


 すっと身を寄せ、優は薫の手を取る。綺麗な手だなと心の中で感想を呟き、至近距離で、薫の澄んだ瞳を覗き込んだ。


「アタシ達、付き合わない?」


 思考停止したらしき薫が復帰するのを待ちながら、優は思う。勉強が出来る薫ではあるが、彼女は実は天然なのかもしれないなと。突然の事や予想外の出来事に弱いようだ。そんな彼女はきっと、いつかボロが出て困る日が来るだろう。


「突き合う?」

「それさ、漢字どっちで言ってる?」


 立てた人差し指で頬を突つかれ、優は喉の奥でくつくつと笑う。赤い顔で動揺する薫は中々に可愛いらしい。


「恋人って事。フリで良いよ?アタシ達がくっついちゃえば、お互い煩わしい告白から逃れられるんじゃないかしら?」

「な、なるほど…一理、ありますね。」

「なら決定で良いかしら?」

「は、はい…よろ、よろしく、お願いします。」

「ん。よろしくね。これからは登下校一緒にする?」

「そ、そうした方が、良いのでしょうか?」

「まぁ、その方が自然よね?」

「わ、わかりました。では明日より、お迎えに上がります。」


 動揺すると何故か敬語になってしまうらしい薫は赤い顔で、視線をウロウロ彷徨わせている。そんな姿を見てしまうと、優の中の何かが刺激され、うずうずしてしまう。


「あんまり教室で赤い顔してたらバレちゃうわよ?その顔、まんま女の子。」

「そ、それは、困ります。」

「なら、アタシに慣れてちょうだい?」


 するりと頬を撫でれば、益々薫の顔は赤く染まり、瞳が潤む。


「女の子同士なんだから、恥ずかしがる必要無いわよね?」

「そ、それは、確かにそうだ。」

「こっち見て?アタシ、美少女でしょう?」


 薫の瞳が向けられて、じっと優の顔を観察している。優が静かにその視線を受け止めていると、薫がふっと、微笑んだ。


「女の子だ。可愛い。」


 その笑顔がまるで向日葵のように明るく可憐で、優の頬がほんのり赤く染まる。誤魔化すように咳払いして立ち上がり、優は手を伸ばす。


「戻ろっか。そろそろ予鈴が鳴るわ。」

「うん。戻ろう。」


 手を繋いで歩く二人は、周りからの注目を浴びた。教室へ戻るとクラスメイト達から一気に質問を浴びせられ、上手く答えられないだろう薫に代わり優が答える。

 付き合っているのかという質問に頷くと、教室の中が大騒ぎとなった。

 優に想いを寄せていた男子生徒は薫には勝てないと放心し、薫に想いを寄せていた女子生徒は泣き崩れた。美少女は得よねと、嫉妬と怒りの視線が優へと注がれるが、彼はそんなものを気にする男ではない。


「ユウ、帰ろう。」


 授業が終わり、ホームルームも終わると薫が優の席まで迎えに来た。それに頷き、優は友人の女の子達にまた明日と手を振る。


「やだ、ラブラブ?」

「見せつけるわね。」


 茶化してくる友人達をいなし、優は薫と連れ立って学校を後にした。

 自転車を押して歩く薫の隣に並ぶ優。周りから見れば二人はどう見ても美男美女カップル。だが、本当の性別は逆なのだ。


「薫、北南中だって言ってたわよね?自転車通学って遠くなぁい?」

「遠い。本当は電車で通学しないといけないんだ。」


 北南中の学区ならば二人が通っている高校から駅八つ分離れている。自転車で通うとなると一時間以上掛かる道程だ。

 何故電車通学にしないのか。出かけた質問を優は飲み込んだ。

 薫の表情が暗く陰り、辛そうに歪められたからだ。きっとこれだけの美少年。女の子の格好をしていたら嫌な思いをしたのだろうと考え、優は手を伸ばして彼女の髪をくしゃりと撫でる。視線で問い掛けて来た薫に、にこりと微笑み掛けた。


「それだけ遠いなら大変よね?登下校、無理しなくても良いわよ?」

「いや、大丈夫だよ。通り道だし…ユウと話すの、楽しい。」

「そ?あんたがそう言うなら良いわ。うち寄ってく?」

「うん。お邪魔して良い?」

「良いわよ。でも夜道は危ないから、暗くなる前に追い出すわよ。」

「わかった。でも俺、暴漢ぐらい倒せるよ?」

「女の子なんだから、危ない事は無しよ。」


 女の子扱いすると陰る表情。自分と違い、彼女の問題は複雑なのかもしれないと、優は悟った。

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