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優の友達

 次の日学校に行くと、薫はクラスメイト達にとても心配されてしまった。練習は無理をしないよう友人達に言い含められ、薫は素直に頷いた。

 優は昨日の事は無かったかのように、いつもと変わらないように振る舞おうといる。だけど何処か不安げで、薫が気にしていないだろうかと心配しているのか自分が不安なのか、やたらと薫にくっつこうとする。だから薫は、勇気を出す事にしてみたのだ。昨日は化粧をしていたし髪型も違っていた。きっと大丈夫だと自分に言い聞かせて、まだ具合が悪いのだという言い訳を利用して練習をサボってみた。幸い優とは出る種目が違って練習が別々だから、すぐにはバレない。


「田畑くん。少し、良い?」


 一年生が練習で使える場所を探し回って見つけた男の子に手招きすると、驚いた表情を浮かべながらも彼は来てくれた。


「何?優の事?」


 察しが良いなと苦笑して、薫は頷く。


「良いよ。俺も野口くんから話し、聞いてみたかったし。」


 二人は人目を避けて空き教室に入った。小声で、薫は話を切り出してみる。


「あの…優は俺の事、君になんて?」


 まずは探らない事にはどう進めたら良いかがわからない。修も何かを探ろうとしているのか、薫の表情をじっと観察しながら口を開いた。


「告白除けで付き合うフリしてるって。詳しい事は野口くんの方に事情があるから話せないって言われてる。」

「彼の方の事情、君は知ってるんだよな?」

「本当は男で女装癖のある変態だって?知ってる。野口くんも知ってるんだろ?」


 そう言われてしまうと優は確かに変態で、薫は苦笑するしかない。薫が首肯すると、変態だよなと同意を求められて返事に困った。


「それで、聞きたいのは結花さんって子の事なんだけど…彼女って、優の事好きなのか?」

「うん。好きだね。なんか言われた?」


 あまりにもあっさり肯定されて、薫は拍子抜けしてしまう。


「俺の事、良く思っていないみたいだったからさ。…告白とか、しないの?」

「なんでそれを野口くんに言わないとなの?」


 確かにそうだよなと薫も思う。だけれど聞きたいのだ。敵を知らなければ何も出来ない。


「実はさ、優の彼女は俺の知り合いで、昨日の事を聞いたんだ。不安そうだったから、何か聞けないかなって。」


 嘘を吐いている為に心臓がバクバクした。だけれど悟られてはいけないと、薫は必死で平静を装う。


「なーるほどね!心配しないでって伝えてよ。結花は告白する前に振られてるし。だから友達ポジション取ろうとしてるだけだから。」

「好きな人と、友達になれるのか?」

「どうだろうな?俺は馬鹿だなって思うよ。…でさ、優の彼女って、野口くんの親戚とか?似てるよな?優とは違う系の高身長美少女だった。」


 不味いと、薫は咄嗟に思った。

 修は笑っている。だけど目が、何かを探ろうとしている。そして薫は、不味いと思った事を一瞬、顔に出してしまった。


「双子なんだ。双子の妹。」

「へぇ?学校どこ?」

「……北南。」

「遠いね?中学そっち?」

「そう。俺はこっちに来た。」

「ふーん。で、やっぱり野口くん経由で会ったの?」

「そうだよ」


 ふーんと呟きながら、修はスマホを取り出して弄り始める。興味が逸れたかと、薫はほっとした。


「ところでさぁ…女装男子がいれば男装女子もいると思わない?」


 スマホを体操着のポケットに滑り込ませたと思ったら顔を上げ、修がにやりと笑った。その表情は流石優の友人だと思える意地悪な物。だが薫は、しらを切り通す為に眉間に皺を寄せて心底わからないという顔をする。


「何が言いたいの?」

「ね、野口くん。脱いでみよっか?」

「は?」


 一瞬頭が真っ白になったが、薫は逃げようと決めた。


「田畑くんって、変態なんだね。」


 捨て台詞を吐いて扉へと向かえば道を阻まれた。負ける気はしない。だけど優の友人を痛め付ける事は悩んでしまう。


「男同士なら問題無いよね?」

「あると思う。どうして脱げと言われて脱がないといけない?」

「まぁそれもそっか。」


 納得してくれて少し安堵する。修がいるのとは逆のドアから出ようと向かうが、何故かまだ邪魔される。


「もうちょっと待ってよ。多分そろそろ、来るんじゃないかな?」

「誰が?」


 ふと足音に気が付いた。走っている。しかも速い。


(おさむ)、殺すっ」


 勢い良く駆け込んで来たのは優で、何故か修に殴り掛かろうとした。

 優が怒りの勢いで殴ったら相手が死んでしまうと薫は焦り、急いで優を羽交い締めにして止める。


「優?何?何事?」

「薫……お前、ここで何してんの?」

「へ?」


 突然怒りの矛先が向けられて、薫は驚き、焦る。そんな二人は、修の笑い声で我に返った。


「優、速!来るのめちゃ速!やっぱお姫様?」

「おい修。わかるように説明しねぇと俺、殺人犯になるかもしんねぇ…」


 薫ももう何がなんだかわからず、とりあえず優が汗だくで、とても怒っているという事は理解した。


「こんなメール来た。で、薫は何してる?」


 優がスマホに表示したメールの差出人は田畑修。


『優のお姫様、脱がしまーす。昼飯食った空き教室ね!』


 いつの間に、と一瞬考えて、修がスマホを弄っていた事を思い出した。だがそれにしては、優が来るのが速いような気もする。


「で?どっちから俺の鉄拳制裁喰らうの?」

「な、なんで優、そんな怒って…?」

「薫は良いや。取り敢えず黙ってて?修、さっさと話せ。」

「美少女こわーい!」

「おいこら、さっさと話せ。」


 びゅんと音がして、優の右足が修の顔の真横で止まった。それには流石に顔面蒼白になって、唐突に修は、土下座した。


「怒りをお納め下さい優様。悪ふざけが過ぎました!」

「わかれば良い」


 優の目が素早く薫の状態を確かめてから、修に向き直る。


「まず聞きたい。気付いた?」

「おぅ!気付いちった。野口ちゃん(・・・)だろ?男装女子?」

「で?触った?こいつに?」

「触って…ない!ないよな?!のぐっちゃん!!」


 何故だかとても必死に同意を求められて、薫は首肯した。話していただけで触られた覚えはない。


「だけど脱げって言われた…」

「ひぃっ!言ったらダメっしょ!!」

「とりあえずさぁ…」


 優が地を這うような声を出し、修を見やる。


「修、テンションたけぇ。人来る。声おさえろ。」


 優の右手が薫の頭に伸びて来て、髪をくしゃりと撫でられた。どうやら自分の行動で心配と迷惑を掛けたらしいと悟り、薫はしゅんとする。

 廊下から隠れるように三人は床に座り、状況を纏める事にした。優もだが、薫もまだ混乱しているのだ。


「俺さ、ガキん時から優のそれ見てるじゃん?あと優にそっくりで本物女子の凛花さん。だから昨日会った時になんかピンと来て、野口くんと話してみてやっぱなと思った訳よ。」


 優が隠した野口薫の秘密が男装女子ならば、昨日会った女の子の存在にも納得出来るからだと修は説明した。

 高校に入るまで優は、自分の女装の方が可愛いから彼女はまだいらないと言っていたのだ。それなのに突然現れた告白除け目的の彼氏と、昨日出会った本命彼女。修の頭の中で、彼氏と彼女が繋がった。


「実際会ったらまぁ男の子にしか見えない。けどさ、よく見りゃ喉仏ないし、首も腕も細い。手も綺麗だからやっぱなと。で、優を呼んだ。」

「それで、なんで脱がすになんだよ?」

「その方が飛んで来るかなってさ。のぐっちゃんに逃げられた後じゃ意味ないし。」


 結花の方は何も気付いておらず、優の本命彼女の出現に泣いていたと修は笑う。


「結花って馬鹿だよな。一途ってか、馬鹿。残念。」


 意地悪な顔でそう告げた修の笑顔は何処か、愛を感じる物だった。

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