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秘密の共有

 気が付いたのは、同類だからだ。

 (ゆう)は面白い物を見つけたとニヤリ笑う。誰にでも優しいがガードの固い野口薫。彼の弱みを、優は見つけてしまった。


「のーぐちくん!ちょっと良いかな?」

「どうしたの、藤林さん?」

「ここではちょっと。放課後、良い?」

「わかった。良いよ。」


 約束を取り付け、席に戻る。

 話を聞いていたクラスメイト達は、優が告白でもするのだろうかと息を呑んだ。入学以来、誰に告白されても断り続けていた藤林優。その想い人が野口薫なら誰も叶わないと男子は肩を落とし、女子は野口薫の返事を想像してヤキモキする。


「何処が良い?」


 放課後、律儀に声を掛けて来た野口薫へ、優はにっこりと笑い掛ける。

 クラスメイトがそわそわしているのは気付いていた。話をするにはまず野次馬を巻く必要があるなと考え、立ち上がる。


「学校の外が良いかなぁ。」


 優より少しだけ背の高い野口薫の耳元で囁けば、首を傾げながらも頷きが返って来た。

 靴を履き替え、自転車通学であるという野口薫が自転車を取りに行くのを待ってから、二人並んで校門を出る。そして優は自分の家へと誘う。不思議そうながらも頷いた野口薫を見た優は、自分の仮定が正しいのならば当然の反応だなと一人納得した。間違っていたとしても、なんら問題は無い。


「どうぞ、あがって?」

「お邪魔します。……お家の人は?」

「うち共働きだから。こっち。」


 部屋へと通せば、野口薫はファンシーな室内を興味津々の様子で眺めている。その瞳が少し輝いているように見え、これは黒かと、優は心の中で思った。

 飲み物とお菓子を用意して、二人黙って手を伸ばす。一息ついた所で、優が口を開いた。


「野口くんってさ、女だろ?」


 本来の男の声で問えば、目の前の美少年の目と口が驚愕により見開かれる。思考も何もかも停止してしまったらしきクラスメイトを前に、優は手っ取り早い方法を取る事にした。


「え?あの?え?何?え?」


 距離を詰め抱き締めてみると、やはり彼は彼女のようだとわかった。

 筋肉は付いている。だが、細い。


「あー、やっぱな。俺の事は声でわかる?それとも脱ごうか?」

「え?声…ふ、藤林さん…風邪?」


 混乱の極みの彼女は取り繕うのを忘れてしまったのか年相応の少女に見え、優はふっと笑った。

 手っ取り早く見せる事に決め、上半身だけ服を取り去る。制服の時に付けているパッド入りブラジャーも取って男の体を晒すと、野口薫は、倒れた。


「おいマジか!初心か!」


 咄嗟に抱きとめ、優は少し迷ってから彼女のネクタイを緩め、シャツのボタンを二つ外す。Tシャツを着てるにしても余りの平っぷりに首を傾げ、襟元から覗いて見えた物に顔を顰めた。


「これ、苦しいだろ?倒れたはこれの所為か?」


 彼女の胸の膨らみを押し潰しているサラシ。苦しいだろうが、これは流石に自分が外す訳には行かないなと、優は思う。ならばとペチペチ頬を叩けば、彼女は薄っすら目を開けた。


「そんなショックだった?俺、お前と同じ。ってか、お前の逆なんだよね。」

「逆…………なるほど、ぺったんこです。」


 彼女の両手がペタリと裸の胸に当てられて、優の心臓が跳ねる。


「あ、俺も、脱ぐべき、なのでしょうか?」

「なんでだよ?でもサラシは取れば?苦しいだろ?」

「え?あ、はい。では……」


 背を向けごそごそと動いた野口薫は、素直にサラシを取るようだ。それを見守っているのも如何な物かと思い至り、優は制服を脱いで男物の普段の部屋着に着替える事にする。着替えを終えて振り向くと、彼女の方も終わったようだ。


「髪は本物ですか?」

「これはヅラ。でも取るの大変なんだよな。」

「そうなのですか。大変ですね。」


 何故か急に敬語になってしまった彼女と会話をしながらも、優の視線は彼女の胸元に注がれている。制服のシャツを押し上げるそれは大きいという程でも無いが細やかでもなく、確かにサラシは必要なのだなと一人納得した。


「教師がなんも突っ込んでこねぇからおかしいって思ってたんだよな。二人いりゃあ、深刻に受け取られてたのかもなぁ…」

「深刻、ですか?」

「俺はただの趣味だけど、そういうので苦しんでる人もいるだろ?野口はどうなんだ?」

「俺も、違い、ます…。」

「ならなんでそんな格好してんの?」


 尋ねて見れば、彼女は俯き口を噤む。何か理由があるのだろうと判断して、優は彼女の目の前に移動してにっこり笑う。


「可愛くしてやるよ。」

「へ?」

「身長同じくらいだし、俺ので良いだろ。制服、女の着てみろよ。ウィッグもあるし、化粧もしてやる。下着、サイズいくつ?」

「し、下着?!」

「そ。サイズ合うなら俺の付けろよ。新品もあるぜ?」

「け、けけ結構です!」


 思いの外激しい拒絶に合い、優は首を傾げる。


「なんで?お前絶対可愛い。」


 途端真っ赤になった彼女はやはりもう女にしか見えなくて、優は彼女のサラサラな黒髪をくしゃりと撫でる。


「その格好も事情ありそうだし、無理強いは良くねぇよな。悪かった。」

「いえ…あの………すみません。」

「謝るなよ。ただの俺の趣味だし。」

「趣味?」

「うん。俺、可愛い物大好き。」


 満面の笑みで告げ、優は黒髪を掻き上げて現れた薫の額に口付けた。


「秘密共有したんだから、よろしくな、薫?」

「え?あの…」

「俺は優で良いよ。困った事あったら言えよ。協力してやる。」

「あ、ありがとう……ユウ………」


 頬を染めて目を伏せて、薫は優の言葉を素直に受け入れた。それを見て、こんなに素直で大丈夫だろうかと、こっそり心の中で心配した優なのであった。

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