クラス担任の憂鬱
四月。ホームルームで自己紹介をしている生徒達を眺めながら、一年一組のクラス担任である林将は頭痛を覚えていた。
任されたのは、入試の成績一位と二位がいる秀才クラス。の、はずなのだ。
「野口薫です。北南中から来ました。特技は身体を動かす事。家が道場なので、護身術を学びたい方は是非声を掛けて下さい。これからよろしくお願いします。」
何度も、名簿と顔を往復してしまう。
野口薫は入試トップの成績をおさめた、女生徒のはずだ。はずなのに何故、男子の制服なんだろうか。そしてどう見ても男子高校生にしか見えない。しかもイケメンだ。学年主任から頑張れよと肩を叩かれたのはこの為か?そうだ、そうに違いないと心の中で林は嘆く。
「藤林優です。南中出身です。趣味はぬいぐるみを作ったりです。仲良くして下さい!」
あぁもう一人。こいつもおかしいぞと頭を抱えた。
彼女は彼だ。完璧美少女だが、男だ。しかも彼が二位。何故難しい問題を抱えた生徒を二人纏めたんだとクラス編成を呪いたくなる。
この一年、教師人生で恐らく一番苦労する年になるのだろうなと、林は遠い目をして溜息を吐き出したのだった。
クラス担任の憂鬱などお構い無しに、彼と彼女はそれぞれに真逆の性別でクラスに馴染んでしまった。
林は、その手の問題に関する色々な本を読み漁った。教師仲間にも相談した。学校の方針としては、学年一位と二位である二人だから、とりあえず見守りましょうという事になった。
林の憂鬱は晴れない。
性別が逆転している以外、二人にはこれといった問題は無かった。友人関係も良好そうだし、勉学も真面目に励んでいる。教師達も気を使って、男子グループ、女子グループで分ける授業の時に彼と彼女が真逆に参加する事は特に咎めない。
下手に口出しをする事によって巻き起こるかもしれない批判を恐れた結果であるとも言えた。
野口薫は文武両道、性格も穏和で紳士的。男女両方に慕われ、昼休みには男子達と仲良く駆け回る姿が見られる。
藤林優も優秀で、スポーツも得意なようだ。男子生徒からは高嶺の花として見られ、女子からはちょっとした嫉妬をされているようだがどこ吹く風。飄々と受け流している。
大きな問題を抱えてはいるが、問題の無い生徒である二人。
二人の間で何かが変わり始める事を、この時はまだ誰も、想像すらしていなかった。