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試着会

 優が追い出された優の部屋で、薫は服を脱がされていた。


「まずこれね、着てみてちょ。」

「は、はい…」


 冴子という女性は凛花の大学の友人で、薫にある物を持って来てくれたらしい。今はその試着会をしている。


「サラシ程潰れないけど、制服のシャツならこれでイケるっしょ?どうよ、かおかお?」

「すごい。普通のタンクトップに見えます…」


 冴子が持って来たのは黒のタンクトップ。内側に細工がされていて、胸が潰され男性の体のように見えるのだ。


「お古で嫌じゃなければもらってくんしゃい。リアル男装女子のお役に立ちたい。」

「いえ、悪いです。買います!」

「ええってええって。萌えの為っす。替え用にナベシャツ三枚と、こっちはバストホルダーね。こっちは二枚。卒業したレイヤー仲間からもらったもんだから気にせんで。」

「あ、あり、ありがとうございます…」


 見ず知らずの自分の為に優しくしてくれる感動に、薫の目には涙が滲む。


「かおかおは良い子やねぇ?そのままこれ着てみよっか?」

「これは?」

「ええからええから、ちょこーっとお写真撮りましょねー?」

「はい!お礼となるのなら喜んで!」


 ニヤリ歪んだ冴子の表情に、純粋な薫は気付かない。

 渡された服は、装飾の凝った詰襟の軍服だった。本格的で凄いなと薫が感動していると、ノックが聞こえて凛花が顔を出す。


「あら!やっぱり素敵!似合うわね!」


 ニコニコ笑う凛花の腕には、首をホールドされて引き摺られている、男の格好の優の姿。しかも薫が着ている服とお揃いだ。


「ね、ねえさ、ん…おち、る」

「逃げたらダメよ?」


 部屋の中に放り込まれ、優は薫の足下に転がった。ゲホゲホ咽せている優は涙目で、薫は優の背中を摩る。優が心配だが、薫の胸はときめいてしまう。

 軍服姿の優は、とてつもなく、格好良かった。


「ゆ、優…格好良い……」

「お前これ、わかって着てる?わかってないよな?」

「頂き物のお礼?」


 こてんと首を傾げたら、優はがっくり項垂れる。


「待て冴子、写真撮るなら薫がちゃんと理解してからだ。」

「あいあーい。それまで視姦しちょるね?」

「目潰ししてぇ…」


 吐き捨てるように呟いてから、優は薫に向き合った。優が真剣な表情をしている為、薫も真剣に聞こうと姿勢を正す。

 優の説明によると、どうやらこれは凛花と冴子の趣味の写真撮影らしい。何かの真似の服を着て、それを撮って楽しむ物だと言われ、納得した。


「写真はダメなの?」

「俺はよく撮られっけど、そういうのが嫌なやつもいるだろ?しかも多分、不特定多数に見られる。」

「知り合いの人も?」

「どうだろ?知らない人ばっかだとは思う。」

「なら良いよ?」

「待て。もう一つ問題が…これは多分、その……」

「その?」

「なんつうか、抱き合ったりとか、すんだよ。」

「優が相手なら嬉しい!」


 満面の笑みの薫の発言に、優の顔はこれ以上ないくらいに赤く染まった。それを、凛花と冴子がニマニマ笑って眺めている。


「話は纏まったかね?ゆーゆーのそのお顔も写真におさめたいのだがね?」

「俺だけ照れて馬鹿みてぇ。もう好きにしろよ。」

「やったねぇ!撮影会じゃ!ではまずそこに並んでー」


 カメラを持った冴子は真剣で、指示が細かかった。手の位置、首の角度、目線の向きなど、薫と優は黙ってそれに従う。薫は楽しんでいたが、優は黙って従った方が早く終わる事を知っているから何も言わないだけだ。


「んじゃ次ー、ゆーゆー、前肌蹴ましょ?」

「変態女め。」

「イケメンの腹筋、ハスハス。」


 素直に従う優を薫はまじまじと眺める。


「おい、あんま見るな。」

「優のはあんまり見るチャンス無いし…門下生達で見慣れてるから平気だよ?」

「なんか腹立つ。」


 優の体は綺麗だった。うっすら割れた腹筋に白い肌。少年から青年に移り変わる、危うい色気が漂っている。


「美少女からは想像が付かないね?学校のみんなもびっくりだよ。」

「親父に鍛えられたらこんなんなった。困る。」

「えー?羨ましいよ!私中々割れないよ?」

「やめろ。お前はそれ以上筋肉付けるな。」

「はいはーい!ではゆーゆーは襲われましょ?」

「は?!」


 優は抵抗したが、薫が乗り気で優をベッドの上に押し倒した。冴子に指示されるまま、薫の手が優の肌を滑る。


「すべすべー」

「や、やめ…」


 真っ赤な顔でプルプル震え、耐えられなくなった優は薫の手首を掴んで上下を入れ替えた。そのまま立ち上がって、服を脱ぎ始める。無言で軍服を脱いで、引き出しから自分の服を出して着て、何も言わずに部屋を出て行ってしまった。


「あちゃー、調子乗り過ぎちまいましたかい?」

「見た?真っ赤な顔で怒っちゃって、もう!可愛過ぎるからあの子虐めるのやめられないのよねぇ。」

「かおかおも中々にノリノリ乗り気でしたなぁ?」


 ベッドの上で放心していた薫は、話を振られて起き上がる。

 途中から写真の事を忘れていた。あまりにも優の体が綺麗でドキドキして、触ってみたいと思って手を伸ばしていた。自分は変態になってしまったのだと考え、薫の顔は真っ赤に染まる。


「薫ちゃん、今度は優のご褒美に付き合ってもらっても良いかしら?」

「ご褒美したら優、許してくれますか?」

「あら、怒ったのは私達に対してだから薫ちゃんにじゃないわ。でもきっと、とっても喜ぶ事よ?」

「優が喜ぶなら、やります。」

「薫ちゃんもとっても可愛い!遊びに付き合ってくれてありがとう。大好きよ!」


 頬にキスされて、薫は照れる。

 美少女の優とそっくりな凛花だけれど、やっぱり優とは違っていて、女性らしく柔らかい。こういう風に違うのなら、学校で体に触られる事は危険なんだなと、薫はなんとなくだが理解したのだった。


 ***


 優は台所に立って夕飯の支度をしていた。包丁の音が乱暴で、やはり怒っているんだと不安になって薫は振り返る。振り向いた先にいる二人は、扉の隙間から優しく微笑みゴーサインを出す。それに勇気をもらって深呼吸して、薫は優の背中に近付いた。


「ゆ、優?あの…ごめんなさい…」

「……何が?」


 振り向かずに聞かれ、薫は困ってしまう。


「え、えと…ベタベタ触って…嫌だったよね?」

「………嫌じゃないよ。怒ってもない。でも困った。薫は気にしなくて良いよ。」

「なら、こっち向いて?」

「やだ。顔見れない。恥ずい。」

「い、いいから!見て、欲しい、な?」


 もじもじと自分の手を弄りながら頼むと、優は包丁を置き火を止めて、振り向いた。

 二人の目が合って、薫の姿を上から下まで見た優は、片手で口元を隠して真っ赤になる。


「可愛過ぎ…」


 薫の髪は黒髪のウィッグで胸元まで伸びていた。

 開襟の白シャツに、白地にブルーの花柄の膝上丈スカート。化粧も、凛花がほんのりしてくれた。


「機嫌直る?」

「なお…んない。俺が、やりたかった。」

「何を?」

「薫を、そうやって可愛くすんの。」

「そなの?」

「うん。だからさ、今度のデートで俺が選んだ服着てくれる?」

「うん!可愛くして下さい!」

「とびきり可愛くしてやる。」


 優の嬉しそうな笑顔を前に、薫は初めて、女の子に生まれて良かったなと思えた。

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