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続女子会

 夕飯の後、優は父親に呼ばれた。

 薫には風呂に入ると告げ、次女の部屋から拝借した少女漫画を渡して優の部屋で待ってもらっている。リビングへ入ると、腕を組んで眉間に皺を寄せた父が仁王立ちで待っていた。薫の父が熊ならば、自分の父は虎でヤクザのようだなと優は呑気に考える。


「呼ばれた理由はわかるな?」

「わかってる。薫の事だろ?」


 見た目は美少女だが、声は男。普段家では男の格好をしている為に、息子の姿の違和感に父親の眉間の皺が深くなった。

 仁王立ちの父親に見下ろされるようにして、優は正座で姿勢を正す。


「変な事するつもりで泊める訳じゃない。女友達としてだ。だから俺はこの格好してる。」

「………薫ちゃんのご両親は?」

「俺を女だと思ってる。」


 勢い良く伸びて来た手に胸倉を掴まれたが優は顔色を変えず、至近距離で父の目を見返した。


「向こうのご両親に殴られるのも覚悟の上だ。薫は、なんか抱えてる。俺はあいつの力になりたい。」

「お前が彼女に何かすれば、俺はお前をぶちのめす。」

「良いよ。でも今は、信じて欲しい。」


 鋭い眼光を真っ直ぐに受け止める息子をじっと観察してから、優の父は大きな溜息を吐き出す。突き飛ばすように解放され、少し伸びた襟元に優は顔を顰めた。


「中身は男のくせにその格好、父ちゃん悲しい。」

「今だけだ。その内やめる。ありがと、親父。」

「おう。半端な事はすんなよ?」

「わかってる。二人に殴り掛かられたら俺、死ぬし。」


 熊と虎は恐ろしい。優は笑って風呂場に向かう。

 家が遠いのに、薫が電車を使わず自転車通学している事は両親に話してある。だから本当は、父親に頼んで車を出してもらえば事は簡単だったのだ。だけどなんとなく、優は今日、薫をあの家に帰らせるのは良く無いのではないかと感じた。きっと彼女はあの家に帰れば一人で泣く。そんな気がした。


 風呂の後はまたウィッグを被る。化粧無しでも長女に似た顔立ちだから問題は無さそうだなと、優は鏡を見て頷いた。

 優の部屋で、薫は少女漫画を熱心に読んでいた。今の薫は、優の少女趣味の部屋にマッチしている。


「おかえり!これ面白いね!ドキドキする!」


 ドレッサーの前でスキンケアを始めた優に薫が興奮した様子で話し掛けた。よっぽど漫画が気に入ったのか、瞳がキラキラ輝いている。


「スポ根とどっちが面白い?」

「えー?種類が違うから…どっちも!」

「まぁ面白さの種類が違うわよね。あの漫画は誰のだったの?」

「兄さん!兄さんはね、とっても強くて格好良かったんだよ!」

「あの熊の父親に似てたら強そうね。」

「父さんとは似てないかな。私とそっくり!」

「へー、なら美少年ね?」

「うん!……大好き…」


 にこにこしていた薫の顔が暗く陰ったのを鏡越しに見て、優は振り向き、にっこり微笑む。


「ね、お菓子どれ開ける?女子会といえば可愛いパジャマにお菓子よね!」

「そうなの?やった事ないからわかんない。」

「アタシもないわよ。ただのイメージ。」


 小さな机を出して、その上にお菓子を広げた。甘い物は薫が食べて、優は乾き物を開ける。スルメを咥えている優を見て、薫はお腹を抱えて笑った。


「び、美少女なのに…オヤジ臭い!」

「うるっさいわね!美少女が甘い物好きだなんて思わないでちょうだい!」

「でもお菓子作れるんでしょ?」

「作ってもね、三人の姉達が食べるのよ。あいつらが食べたいからって作らされるだけ。」

「尻に敷かれてるの?」

「そりゃね、末っ子って悲しい存在なのよ。」

「………でも、羨ましいなぁ。」

「そうだ!美少女の歴史を見せてあげる!」


 スルメを咥えたまま膝立ちで歩いて、優はアルバムを取り出した。可愛らしいピンクのハート柄。


「超絶美少女だから、心して見なさい?」

「自分で言っちゃうの?」

「だって、それが許される程アタシ、美少女だもの。」

「……美少女がスルメイカ。」

「うるっさい。良いわよ、チーズ鱈食べる。」

「オヤジく」

「チーズ鱈馬鹿にすんじゃないわよ!」


 優の赤ん坊の時から順番に写真を見て、幼稚園生の可愛い男の子ではなく美少女の優を見ている所で、部屋のドアが勢い良く開けられた。立っていたのは次女の夏菜と三女の静音。


「何これ、女子会?」

「お姉様にもお菓子寄越しな!」


 夏菜が勢い良く入って来てお菓子に飛び付く。静音は薫に挨拶してから、アルバムを覗いた。


「懐かしい。薫ちゃん、優ってば小学校入るまで指しゃぶりしてたんだよ。あ、優には内緒ね。」

「丸聞こえだ、(しず)。」

「あらおかしいわ。ここには女子しかいないのに男の声が…不審者かしら、怖いわぁ。」


 下手な静音の演技に優は舌打ちする。薫はというと、突然の姉二人の登場に面食らっていた。


「薫、そこでお菓子漁ってる派手女が次女の夏菜。そこの陰険眼鏡は三女の静音。」

「誰が派手女だ!エセ美少女!」

「陰険って誰の事〜、ゆ・う・こ・ちゃん?」

「いってぇ!静、爪立てんな!夏菜は重い!どけ、デブ!」


 静音は優の頬に人差し指を突き立て、夏菜はスルメを咥えながら優にのし掛かっている。すっかり男の声になってしまってる優は、姉二人に遊ばれていた。


「薫ちゃん、優の辱めネタいっぱいあるわよ?」


 エピソードを披露しようと静音は戸惑う薫に擦り寄り、その隣では女子プロレスが繰り広げられている。


「あたし達も薫ちゃんと女子会したーい。」

夏菜(なつな)、締まってる…」

「スリーパーホールド!」

「っざけんな…てめ、殺すっ」


 優は両手で夏菜の左腕を掴み、思い切り下に引く。締め付けが緩んだ隙を突いて素早く抜け出した。抜け出すだけで反撃しないのは、弟の優しさと姉に植え付けられた恐怖故。


「やっぱりユウ、素人じゃない?」


 薫が感心して見つめる先では、優と夏菜が向かい合い、攻撃しようと狙う夏菜の手を優が弾いて逃げている。


「優はお父さんに鍛えられてるから、色々出来るわよ。」

「そうなんですか?」

「大会は本人が面倒がって出てないけど…教えてるお父さんが有段者だし、強いんじゃないかな?」

「ユウ、万能人間だ…」

「あとねー、優ってば…」

「いい加減、うぜぇっ!!」


 吼えた優が姉二人を抱えて、部屋から放り出した。そのまま鍵を閉め、肩で息をして蹲る。


「お、お疲れ様?」

「わり、切り替えらんねぇ。ちょっと待って?」

「はい…」


 ウィッグは取られてしまっているが、被り直すのが面倒なのか優はそのままベッドに倒れ込む。薫はそれを、なんとなく正座で見守った。


「なんで正座?」

「な、なんか…なんとなく?」

「薫には酷い事しない。」

「わかってるよ?」

「………ダメだ、スイッチ切れた。歯、磨く?」

「うん。磨く。」


 食べかけのお菓子は纏めて片付けて、机も畳んで仕舞う。

 優が警戒しながら開けた先に夏菜と静音はおらず、弟で遊んで満足したのか、それぞれの部屋に引っ込んだようだ。

 洗面所で歯を磨いてから、優が客用布団を持って来てベッドの隣に敷く。


「どっちが良い?ベッド?」

「お布団が良い。普段お布団だし…」

「ん。俺疲れた。美少女もう無理だから、漫画読んでる?」

「そうする。」


 優はドサリとベッドに横になって、目を瞑る。薫はベッドを背もたれにして、少女漫画の続きを読む。漫画に集中して、ふと気付くと背後から寝息が聞こえて振り向いた。


「…………ユウ、ありがと。」


 そろり手を伸ばし、すべすべの頬を指先で撫でてみる。起きないのを確認して、薫は真っ赤な顔を優の頬に近付けた。

 微かに、頬に唇を触れさせる。

 赤い顔に潤んだ瞳で優を見つめた薫は、自分の大胆さに叫びそうになるのを堪えて、電気を消して布団に潜り込む。

 その夜薫は、中々寝付く事が出来なかった。

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