ジャスティス・オン・ザ・マヨネーズ
マヨネーズをご存知だろうか。
油と酢と卵を混ぜた一般的な調味料であり、知らない人はいないだろう。そしてこの調味料は私の大嫌いな調味料である。全く食えないわけではないが口に入った時はとても気分が悪くなり、明日マヨネーズが世界中から消えますと言われたら一万円ぐらいする酒を買い五千円分のビーフジャーキーを購入し薄暗い部屋で映画かアニメでも見ながら一人で祝いの宴を開催するぐらいは大嫌いである。
まず断っておきたいのは、どんな食べ物にでも個々人の好き嫌いはあり味覚は人それぞれ違うのでそこにいいも悪いもなく、マヨネーズ大好きな人やマヨネーズ工場の人について文句を言いたいという訳ではない。目の前でマヨチュッチュをされたとしても、私はにっこりと微笑むぐらいの人格を有しているつもりだ。
なら何を言いたいのか。
こと現代社会に置いて、マヨネーズは正義である。気がつけばたこ焼きとお好み焼きにはマヨネーズを網目状に垂らすことがお洒落スタンダードとなり、ツナはいつの間にかマヨネーズの奴隷に成り下がる。ブロッコリーという健康的な野菜にはなぜかマヨネーズ油をぶちまける事が正解という誤った認識が広まり、はてはからしマヨネーズや味噌マヨネーズだと他の調味料を吸収し一大マヨネーズリーグを開催できるぐらいにまで成長している。
そこまではまだいい。別にマヨネーズが何かと融合した所で誰が困るわけでもない。そんなに嫌いならマヨネーズ買わなきゃいいだろうという意見も言うまでもなく実践している。
だから何が不満なのか。
それがもう最近は何でもマヨネーズが混入されておりことコンビニにおいては焼きそばパンの間とかメンチカツ何とかの何とかって書いてない部分にマヨネーズが挟まっていたり弁当の唐揚げに吐瀉物のようにマヨネーズがぶちまけられている事である。
マヨネーズが好きな方々は、この状況に何一つ疑問を抱かないだろう。それどころかやったあここの焼きそばパンはマヨネーズ入りだぁ! と諸手を上げて喜ぶのかもしれない。ここのコンビニのマヨネーズは絶品! なんて声も地球の裏側辺りで上がっているかもしれない。
だが考えてみて欲しい。いったいどうしてマヨネーズが苦手な人間はマヨネーズ無しを選ぶという選択肢が奪われているのか。なぜ不意打ちでサイレントマヨネーズでヘッドショットを喰らわなければならないのか。マヨありとマヨなしを二種類置くべきじゃないのかとか、とにかくもう何でもいいからマヨネーズは調味料なんだから小袋か何かに入れて必要ない人は他の人にあげられるように出来ないのか、という事である。
まさに正義の鉄槌で苦しめられるマイノリティ。我々マヨネーズ苦手新人類はコンビニでこれマヨネーズ入ってる? ねえ入ってる? と聞いた所でわかりませんという店員の苦笑いしか返してもらえず仮にマヨネーズが入っていたからとクレームを入れようものならあの人たかがマヨネーズに文句をいうため電話料金支払ったのよと末代まで馬鹿にされるのだ。
さて、これを読んでいる人には二種類の人がいると考えている。
まずはマヨネーズが嫌いな人。つまり同志である。恐らく諸君は私の言いたいことを百パーセント理解してくれているはずだ。人生で二人ほど同志と出会ったことがあるが、この話をすれば無言で握手を求められた事は私がマヨネーズについて抗議する事の原動力となっている。
次にマヨネーズが好きな人。敵という訳ではないが、恐らくこう思っているだろう。別にいいじゃん、そんなの普通じゃん、と。そういう思いあがりこそがジャスティス・オン・ザ・マヨネーズを暴走させている事に是非気付いて欲しい。何言ってんだと思った人の為に、マヨネーズを別のものに例えてみようと思う。
まず、醤油である。私にとってコンビニのお好み焼きにマヨネーズがかかっているという事は生寿司の上に醤油がじゃぶじゃぶかかっている事と何一つ変わりはない。醤油が既にかかっている寿司とかかっていないで小袋に入っている寿司、あなたはどちらを選びたいだろうか。むしろかかっている寿司しか並んでいなくてもあなたはまだマヨネーズが勝手にぶちまけられている事に疑問を抱かないのだろうか。
次にレモンである。レモンとくれば唐揚げである。となると例えば居酒屋でもファミレスでも唐揚げを注文して、お待たせしましたと笑顔でやって来た店員が目の前でレモンをしぼりこっちのほうが美味しいと言い出したらどう思うか。ブログやSNSで文句を書き散らしたとしても、責められることは殆ど無いだろう。そして擁護の大半が、客に選ぶ権利があると主張するはずだ。
そう、まさしくこれなのだ。我々マヨネーズ苦手メンは選択の余地が無いのだ。中一英語ではチキンオアビーフと尋ねられ、お煙草吸いますかと聞かれるご時世であってもマヨネーズに対する選択肢だけは社会から欠落しているのだ。
だから私は、マヨネーズが大嫌いである。
マヨネーズそのものではなく、無言で振り下ろされるジャスティスが憎いのだ。




