色々です。
どうしてこうなってしまったのでしょう。
「レ、レイラ様……?」
「なんだい? ララ」
「これは、いったいどう言うことで?」
私は、目の前にある水色を見ながら首を傾げました。
「昨日、色々アドバイスをくれたお礼さ」
「え、や、それにしても、これは……」
「この国の人々の服飾や芸術のセンスや技術は素晴らしいね。これも既製品に少し装飾を頼んだだけとは言え、今日の昼にはもう出来上がっているなんて」
「あ、そ、そうですね。えーっと、これ、サイズとか……」
「私が知らないとでも?」
「知らないのが普通です!」
何とかしてどうして知っているのか問いただそうとしたのですが、レイラ様はニコニコ笑ってごまかすばかり。
私ははあと息を吐いてから例の物に近づきました。
ふんわりと柔らかそうな釣り鐘のシルエット。
胸元から始まる淡い水色は、下へと向かうに連れて段々と青くなっていきます。
薄手の白い布で作られた花が所々に散りばめられ、その中心では透明な石が輝いていて。
「……いつの間にこんな物を……」
「昨日の夜、城の大広間に仕立屋が来ているのを見かけてね」
私は笑って言うレイラ様をジトっと睨んでから、もう一つ、別のある物を掬いました。
「それにネックレスまで」
「昨日の店で買った」
「あの時ですか? 私は、てっきり赤いのを買ったのかと思っていました」
「元々、あそこに赤は無かったんだ。けど、ブレスレットはあったから、誰かが先に買っていったんだろうね」
「言われてみれば……」
あのお店の様子を思い浮かべてみると、確かにネックレスの側には同じデザインのブレスレットが置かれていました。
何となく、あそこに赤を見たような気も……。
「……だとしても、どうして水色なのですか?」
私は普段レモン色など黄色系統の物を身につけることが多いです。
今着ているワンピースだって、淡い黄色ですし。
「そう言えば、ララは良く黄色い物を身につけているね。どうしてだい?」
あの時魔法で出した小鳥も黄色だったね。とレイラ様が首を傾げます。
「ユトリスでは、重要視されている色の系統が4種類あります。
それのうち2つが、太陽の光を表す黄と、森の植物を表す緑系の色。どちらも植物を共生することを選んだ私たちの先祖から受け継がれている、我が国発展の象徴なのです」
この2色は、どちらかと言えば王家や貴族の色とされ、ユトリスの王家と歴史の古い家柄の人間は、瞳が緑や黄緑色で、黄色いものを身につけます。
それは森と植物を守り続ける番人の瞳であり、森とユトリスの人々を照らす太陽のカケラである。
そう、昔から言い聞かされていました。
「なるほど。なら、これはあまり良くなかったかな」
ポリポリと頬を掻きながらレイラ様が言いました。
私はすぐにフルフルと首を横に振ります。
「そんなことはありません」
重要視されるあと2つの系統。
それが、
「青と茶です」
青は植物を育み、まっすぐに立ち上がらせる水の色。
茶は森や人を支える土の色。
一般に国民を表す色と言われていますが、
「私は、そんな部類分け関係無いと思うのです。どちらも、ユトリスに無くてはならない存在ですから」
両親も、色の話をする度にそう言っていました。
幼い頃だって熱心に聞いていたつもりですが、一人で立ちその言葉を思い出す今、その本当の意味をひしひしと感じています。
私は、ユトリスの女王である前に、一人の国民なのです。
「レイラ様、本当に、このドレスをいただいてもよろしいんですか?」
改めて向き直り尋ねると、話を聞いていた真剣な表情をふっとゆるめ、レイラ様は頷きました。
「ああ、是非、貰ってくれ」
「ありがとうございます。喜んで着させていただきます」
「ところで、どうしてドレスは水色なのです? その理由を、結局聞いていません」
話し込んでいるうちに、舞踏会の準備を始める時間になりました。
別室で着替えるため部屋を出ていこうとするレイラ様を呼び止めて、逸れていた話をようやく元に戻します。
レイラ様も思いだしたように、ああ、と頷いてから、じっと私を見つめました。
「?」
「……ふふっ」
ゆっくりと、レイラ様の口の端がつり上がります。
「ユウが、好きな色だから。ね」
「え?」
「楽しみだな。さらに自分好みになった君を見て慌てふためくあいつの姿が」
「……え?」
心底楽しそうな笑みを残して、レイラ様はパタンと扉を閉めました。
「………………え?」