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夏至祭です。

 皆様、どうもこんにちは。ラタリーです。ララです。覚えていらっしゃるでしょうか。

 先の窮地を脱し、早数ヶ月。

 傷も完治し、幸いなことに痕も残らず、すっかり元気で忙しくも充実した毎日を送っています。


 本日は南国ローラントの夏至祭の日。

 ローラント国王の招待を受けやって参りました。

 ローラントの夏至祭は、世界中で行われている夏至祭の中でも最大級と言われています。

 期間は夏至の日を真ん中に挟んで七日間。

 前半は、城下町中カラフルなライトや花々で彩られ、露店が数多く並び、城門前の広場では昼夜様々なイベントが催されます。

 夏至当日は城下町でのイベントはもちろん、場内では世界各国の王族や貴族のダンスパーティーが行われ、大きな花火も打ち上がるのです。

 後半になると、それ以前よりはゆったりと落ち着いた雰囲気になり、主体の時間は夜。

 今までの熱が少しずつ風に流れていくような空気の中、そっと祭りが終わります。

 本日はその初日。

 テレストからローラントにやってきているのは、テレスト王国第三王子のユウ・アルト・テレスト様と、妻の私。それから、護衛として騎士団副団長のギルさん。

 国王と女王陛下、第一、第二王子様たちは夏至の当日にお越しになります。

 確かに七日間という長い期間、城を開けるわけにもいかないですよね。

 それはどの国も同じで、初日から参加する国はそれほど多くありません。

 今回は、私が初めての長旅であるため、慌てないようにと国王が計らってくれたため、初日からの参加となりました。

 

 目の前でこんがりと焼かれたお肉が薄く切られていきます。

 それが野菜と一緒にパンと挟まれ、さっとソースをかけたら出来上がり。

 紙にくるまれたそれを、屋台の中で調理してくれたお兄さんから受け取ります。

 「ありがとうございます」

 普段食べているサンドイッチと言うよりはハンバーガーでしょうか。

 濃い匂いが漂ってきます。

 「いただきます」

 かぶりつくと甘辛いソースと肉汁が相まって濃い味が口いっぱいに広がります。

 ですが野菜がとても瑞々しく、決してくどくはありません。

 「とても美味しいです」

 思わず声に出すと、屋台のお兄さんが親指を立ててパチンとウィンクをしました。

 何だか照れくさいような嬉しいような感じがして、自然と笑顔になった、その時でした。

 突然、後ろからにゅっと手が伸びてきたのです。

 驚いて動けないでいると、その手は私の頬をするりと撫でて。

 「ソースが付いているよ。姫」

 聞き覚えのある声でした。

 慌てて振り返ると、そこにあったのは赤。

 顔を上げると、やはりこの人でした。

 「レイラ様」

 「やあ、一際輝くレモン色だと思ったが、やはり君だったか。ララ」

 そう言って、私の頭に乗るレモン色の花飾りをつついた、レイゼルの勇ましき姫は微笑みました。

 レイラ・フォン・レイゼル様。

 テレストと私の故郷ユトリスと同盟を結ぶレイゼル王国の第一皇女様です。

 赤がお気に入りで、今日も赤いワンピースに身を包んでいて、正面からでは見えませんが、艶やかな黒髪を結い上げる髪飾りも赤です。

 普段はきりりとした目尻が今は少しだけ下がって、黒い瞳は私を映しています。

 そんな彼女はしかし、すぐに少し困ったように眉を下げてしまいました。

 どうしたのだろうと思っていると、レイラ様は私が手に持っていた包み紙をそっと取り上げ、近くにあったテーブルに置きました。

 それからすぐに、パシッと軽い音がして両手が掴まれます。

 「レ、レイラ様?」

 「つれないなあ。ララ。私は君のことをこう呼んでいるのに、君はいつまで様付けなんだい?」

 「だ、だって、レイラ様は大国レイゼルの姫君で……」

 「君だって、かの戦争を終わらせた国、テレストの姫君であり、魔術界を牽引する魔法国家ユトリスの女王だ」

 「う……。で、ですが……」

 「ララ」

 ぐっとレイラ様の顔が近づき、私は上半身をぐぐっと後ろに引きます。

 初めてお会いしたときは同い年とは思えないほど大人っぽく、勇ましく、美しい方だと思いましたが、最近になってお茶目で年相応の可愛らしい面もある方だと言うことが分かってきました。

 「!?」

 急に強く腰を引き寄せられ、整った顔立ちがとても近くにあります。

 「何をそんなに壁を作る必要があるんだ。私たちは一夜を共にした仲だというのに」

 「そ、その言い方は多少……いや、かなり語弊があると思うのですが!?」

 「だが事実だ。あの暗く寒い部屋の中、私たちは身を寄せ合って眠った」

 「ですから!」

 楽しんでます。この人楽しんでます……!

 

 確かに、私とレイラ様は共に一夜を過ごしました。

 ですがそれは、やむを得ないものであったわけで、決してふしだらな意味では無いのです。

 数ヶ月前、私とレイラ様、それから、ギルさんとテレストの城下町に住む人たちは、当時、突如として世界侵略を始めたジグイスという国の兵士に連れ去られました。

 その時、古い館のすきま風の入る部屋で、身を寄せ合って眠ったのです。

 それだけなのです!

 

 「ララ」

 また、呼ばれます。

 「呼んでおくれ。私の、ありのままの名を……」

 顔がより一層近づいて、自分の顔がぐぐっと熱くなるのを感じます。

 「っ……!」


 「その辺にしといてくれや。レイラ様」


 そんな声と共に、私の顔とレイラ様の顔の間に、大きくてごつごつした手が差し入れられました。

 この手は……。

 「ギルさん」

 「ギル殿」

 声を揃えた私たちを見て、ギルさんは苦笑しました。

 「レイラ様。申し訳ないんだが、今回は引いてくれねえか。……ほら」

 「……おっと」

 「?」

 すっとレイラ様の体が離れます。

 私は、何だかわざとらしく視線を虚空に向けている二人を交互に見てから、後ろを振り返りました。

 そこには、

 「…………………………」

 「ユウ、様……?」

 元々鋭い目つきをさらに鋭くして、こちらを睨むユウ様がいました。

 しかしどうやら、その目は私ではなく私の後ろにいるレイラ様に向けられているようです。

 「…………」

 なにやら背後にゴウゴウと黒いオーラを漂わせたまま、彼は早足にこちらへやってきます。

 ちょうど真正面に立ったとき、目線が私に向けられました。

 そして、

 「お前は何を勝手にいなくなっているのだ!」

 ぴしゃん! と雷が落ちます。

 「ひゃ……。で、ですが、昔話に花が咲いていたので、お邪魔かと……。ユウ様だって、許可なされたじゃないですか……」

 つい先ほどまで、私とユウ様はローラント城前の広場で、祭りに初日から参加している各国王家の方々に挨拶をしていました。

 その途中、古くからテレストと親交のある国の方々とユウ様とギルさんがお話を始めたので、私は一言断ってその場を離れたのです。

 が。

 「目の届く範囲に居るのが当たり前だろう! 話し終わって見渡たしてみれば何処にもいない。どれだけ肝を冷やしたか!」

 「う……。申し訳ありません……」

 考えてみれば、いや、考えなくとも、そんなことは当たり前なのです。

 当たり前のことが分からないなんて、お祭りという物がずいぶんと久しぶりで、浮かれているのでしょうか。

 「しかも、食事までした上こんなヤツに捕まりおって」

 「こんなヤツとは失礼な!」

 「とにかく、広場に戻るぞ。挨拶回りの続きだ」

 そう言ったユウ様が、私の手を掴みました。

 と思ったら、もう片方の手をレイラ様に掴まれてしまいます。

 「ララ、忘れ物だ」

 差し出されたのは、一口食べただけのハンバーガー。

 「え、うええ?」

 「お前は……。もう良い、歩きながら食べろ!」

 「よ、よろしいんですか?」

 「祭りだから許す。ほら行くぞ!」

 「は、はい!」

 私はユウ様に手を引かれながら、なんとかハンバーガーを口に運びつつ歩き出します。

 後ろから、レイラ様が、

 「また後で」

 と言うと、ユウ様が、

 「二度と来るな!」

 と返しました。

 

 「……本当に、心配したのだからな」

 しばらく歩いたところでスピードを落とし、並んでゆっくり歩いていると、手を握ったままユウ様が言いました。

 私はユウ様を見上げましたが、差し込む夕日の加減で、まっすぐ前を見る顔は、よく見えません。

 「今回は、レイラだったから良かったものの、男だったらどうしていたのだ」

 「…………」

 「お前は語学が堪能であるし、知恵もある。身を守る魔法も知っているだろう。だがそれでも、急に居なくなるのは、心配なのだ」

 「ユウ様……」

 「っ……とにかく、今後勝手な行動は慎むように!」

 「は、はい!」

 私が強く頷くと、ユウ様は私の手元を指さしました。

 「分かったなら、それを一口寄越せ。何だか腹が減った」

 「あ、はい」

 どうぞ、もう半分以上食べてしまったハンバーガーを差し出すと、ユウ様の顔がぐっと下がってきました。

 これは、と思ったときにはもう遅く、ユウ様は私の持っているハンバーガーをそのまま食べてしまいました。

 横顔が、かなりの至近距離にあります。

 「ふむ、まあ、これはこれでなかなか……」

 もぐもぐと咀嚼しながら何か呟くユウ様の声も、いまいち聞き取れません。

 ふと、彼がこちらを見ました。

 その途端、彼の顔が真っ赤に染まります。

 「な、何だ、その顔は!」

 「へ?」

 そう言われ、私は自分の頬がまた熱くなっていることに気付きました。

 ですが、気付いたところでその火照りを取り除くことは出来ず。

 「ああ……。俺も、大概浮かれているのかもしれないな……」

 通行の邪魔だと分かっていながらも、西日の射し込む道で動けなくなっている私たちを、温かい南国の風が、緩く撫でていきました。

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