正体
まさか 母さんに 何かあったんじゃ……
俺はゴクリと息を飲み込むと ガラスの
引き戸に当てると 勢いよく開けたのでした
夕陽の差し込むキッチンに 母の姿は
見当たらず 居間や寝室をも捜したが何処にも
母の姿はなかった
そして あの子の姿さえも・・・
どうなってる⁉ どうして誰も居ないんだ?
その時だった 玄関から母の声が 響いてきた
「ただいま〜」
「母さん⁈ 何処行ってたんだよ!」
玄関に走って行くと あの子が荷物を両脇に
抱えて 母の隣に立っていた
「や やあ 君も一緒だったんだね」
「悪かったな 一緒で」
俺の方をジロッと睨むと母に耳元でボソボソ
と何かを告げ 大きな紙袋を一つ抱えたまま
小走りで 部屋に戻って行った
俺は その後ろ姿を見送って 部屋の扉が
閉まる音を聞いてから 母に耳元で囁いた
「母さん あの子と何処行ってたんだよ?」
「ほら翔太 荷物持って〜」
「あ うん ぢゃなくて 何処行ってたの?」
「これから 一緒に住むんだから〜 あの子の
身の回りの物を 買いに行ってたのよ〜」
「え⁇ 一緒に住むって?」
「あの子がに 決まってるぢゃない〜」
「ちょ ちょっと待ってよ」
「何か 不都合な事でも あるの〜」
「だって あの子普通ぢゃないよ 俺の事を
人間とか 言ってるし おかしいよ 絶対に」
「あの子を家に連れて来たのは 誰〜?」
「俺だけど・・・」
「行かなくてもいい 屋敷に行って
開けなくてもいい 棺を開けたのは 誰〜?」
「……俺 だけど」
「屋敷に行ったとしても 棺を開けなかったら
あの子は 今ここには居なかったわよね〜?」
母に言われて 初めて気付いた 全ての元凶が
俺にあった事に・・・
「そうか 俺があの子を目覚めさせたんだね
だから 俺が責任をとらないとだね」
「責任って ひょっとして あの子をお嫁さん
にもらうとか〜? いいわね〜」
「違うよ!何でそうなるんだよ!それに
あの子 吸血鬼かもしれないんだよ⁈ 」
「あら あら〜 貴女の事 吸血鬼だって
言ってるわよ〜」
母の言った方に 顔を向けると あの子が
俺を見ながら ニヤリと笑ったその口元からは
鋭い牙の様な歯が 現れたのでした