別れ
「人狼……」
俺はゴクリと息を飲むと 覚悟を決めて
ゆっくりと 振り向いたのでした
振り向いた俺の目に映ったのは 人狼じゃなく
人間の男性が 柔かに笑っている姿だった
「え? あ あの 貴方が人狼ですか?」
拍子抜けした感じの 俺に気付いた男性が
「ああ これは仮の姿だよ 狼の格好では
人間達の前に 現れる訳にはいかないからね」
「ああ そ そりゃあそうですよね」
そして 弱ってる美亜に 目を向けると
顔から笑みが消えて 冷たい目で俺を見て
「ラミアをこちらに 引き渡してもらおうか」
「い 嫌だ 今から一緒に家へ帰るんだ」
睨み返して言ったつもりだったが 怖くて
体中は ガクガクと 震えていた・・・
「お前な ラミアの体を見てみろ」
男性に そう言われ 美亜を見ると さっき迄は
無かった 黒い斑点が体中に浮かんでいた
「こ これは?大丈夫か!?美亜!」
「だ 大丈 夫 よ」
息も絶え絶えで 綺麗な筈の 蒼い瞳は
色褪せて そして 濁っていた
その様子を見て 美亜が 危険な状態に
陥っている それだけは 分った・・・
「そのままだと 黒い斑点が体中を蝕んで
最後には 灰になってしまうぞ」
「でも 離れたくないんだ」
「じゃあ ラミアが灰になってもいいんだな」
美亜を抱いてる 俺の腕は小刻みに震えた
「嫌だ そんなのは嫌だ!」
「俺達の村に帰れば治せるんだ 手遅れに
なる前に ラミアを渡すんだ」
「お 俺が 治す! どんな事をしても絶対に
美亜は 渡さない」
人狼と名乗った男性を 睨み返した時
俺は美亜に 腕を掴まれた 驚いて美亜に
目をやると その斑点は美亜の顔にまで・・・
それを見て 俺の目には涙が溢れ出した
「あ・・あ・りがと・・ね」
その言葉に 涙は一気に零れ落ちた
ボロボロ ボロボロ 涙は 流れ出して
俺は 子供の様に 声を上げて 泣き出した
人狼に抱きかかえられて 去っていく
美亜の後ろ姿を 俺はただ某然と 見ていた
誰も居なくなった橋の下で 座り込むと
俺の腕にはまだ 美亜の感触が残っていた
「美亜……」
そして 顔を上げて ボンヤリと景色を眺めた
当然の事だが もうそこには 美亜の姿は無く
何時の間にか 辺りは夕陽で赤く染まっていた
「もう 逢えないのかな?」
声にするつもりは 無かったのに
そう 呟いていた
そして自分が とてつも無く 嫌になった
情けなくて……
あ〜 もう ウジウジと考えるのは ヤメよう
俺は すくっと立ち上がると 家に向かい
歩き出したのでした