記憶
「さ さぁ それじゃ〜 帰ろうぜ」
「そうだな」
二人を 誤魔化す事は 出来たんだろうか?
不安が残る中 学校を後にしたのでした
家に帰ると キッチンから母の声が響いてきた
「翔太〜 ご飯出来てるわよ〜」
キッチンの テーブルには既に食事が並び
美亜がエプロン姿で 母の手伝いをしていた
その 美亜のエプロン姿に 一瞬目を奪われた
そんな俺に気付いたのか 母がニヤリと笑うと
「翔太〜 どうよ〜 美亜ちゃんのエプロン姿
とっても 可愛いでしょう〜」
「な 何言ってんだよ バカバカしい」
母の言葉に動揺した俺は 美亜から 慌てて
目を逸らし 椅子に腰掛けた
「い いただきます」
「どう〜 美味しいでしょう〜 今 食べたのは
美亜ちゃんが 作ったのよ〜」
「叔母様 そんな事言わなくていいですから」
「え〜どうして〜 だって 本当だし〜」
吸血鬼である彼女と普通に会話を交わす
母さんを見て 凄いな そう思った
俺はきっとまだ心の何処かで・・・
食事を終えて部屋に戻り ベッドに横たわった
母さんは 美亜が怖くないのだろうか?
美亜が何時 吸血鬼の本性を現して
俺達を襲ってくるか 分らないんだぞ!?
そして目を閉じた時 エプロン姿の美亜が
浮かび上がり ドクンッと胸が高鳴った・・・
あ〜 俺は一体 何なんだよ〜
どうして エプロン姿なんだよ〜
吸血鬼なんだぞ〜
頭を両手でかきながら ベッドの上で転がった
分らね〜 枕に頬を埋めて 仰向けになると
何時の間にか 俺は眠りに就いていた
ふと 目を覚ますと 夜中の二時過ぎだった
風呂も入らないで 寝ちゃったのか
俺は ベッドから降ると 風呂場に向かった
そして シャワーを浴び 寝間着に着替えて
部屋に戻ろうとした時 美亜の部屋の扉が
少し開いてるのに 気付いた
まだ 起きてるのかな?
隙間から部屋を覗くと 美亜がベランダに座り
夜空を見上げていた
満月の光を浴びている 美亜の姿は 眩しく
そして 神々しく 俺の目には映った
「綺・・麗・・・だ」
無意識の内に口から その言葉がこぼれていた
「誰? そこに居るのは?」
美亜の声で 俺はハッと正気に戻った
「あ ゴ ゴメン 覗くつもりは無かったんだ」
慌てながら言った俺を 蒼い瞳でキッと睨むと
直ぐに 目を逸らして再び夜空を見上げた
「あのさ ちょっと聞いていいかな?」
言葉に反応せず 美亜は夜空を見続けていた
俺はゴクリと息を飲み 勝手に話し始めた
「実は昨日 こんな夢を見たんだけど……」
大勢の人間が吸血鬼達を襲っている
あの 悍ましい夢を 語り始めると
美亜はゆっくりとこちらを向いた
話が進み 核心(父と二人の話し)に触れた時
美亜の体は小刻みに震え始め 凛とした綺麗な
蒼い瞳が 恐怖の色に染まった
その様子を見て やはり あれは夢では無く
美亜の記憶の一部なのかも・・・そう思った
そして話が終っても まだ美亜の体の震えが
止まる事は無く 拳を握り締めたまま
立ち上がると 俺を見て 呟いた
「何故お前が 知ってるんだ」
「いや だ だから夢の話だよ」
「夢じゃない あれは 私の過去だ」
やっぱり 美亜の記憶を夢に・・・
「でも 人間を嫌うのが 良く分ったよ」
すると美亜は 一瞬驚き そして笑いながら
「お前は 本当に変わった奴だな」
「そ そうかな?」
「そろそろ夜が明けるから 寝たいのだが」
「あ ゴメン邪魔して そ それじゃ」
俺は慌てて美亜の部屋から 飛び出して自分の
部屋に戻り 眠りに就いたのでした




