和解
母の言った方に 顔を向けると あの子が
俺を見ながら ニヤリと笑ったその口元からは
鋭い牙の様な歯が 現れたのでした
「や やっぱり 吸血鬼だったのか!」
「それが 何か?」
キッと俺を睨む彼女の瞳は 緋色に染まって
ゆっくりとこちらに 近づいて来た
に 逃げなきゃ・・・
分ってはいたが 緋色の瞳に魅入られて
俺の体は 身動き一つ 出来きなくなった
立ち尽くしている俺に 歩み寄って来て
両肩を鷲掴みにすると 大きく口を開いた
その時 尖った牙を目の当たりに見た俺は
恐ろしさのあまり 気を失った……
このまま 俺はこの若さで 死ぬのか
まあ元はと言えば 棺を開けた俺の所為なんだ
だから自業自得だよな・・・
その時だった 叫び声と悲鳴が混じった様な
声が何処からか 聞こえてきた
さっきの声は何だ?
そう思った瞬間 目の前に景色が広がった
それは まるで地獄絵図の様な 景色が・・・
「吸血鬼を滅ぼせ〜」
そう叫びながら大勢の村人達が
吸血鬼を火あぶりにしたり 大きな杭を身体に
打ち込んだりしている姿だったからだ
それは 女子供だろうと容赦無く行われていた
中には それを楽しんでいる者の姿も見えた
その光景に 俺は 唖然とした
「ひ 酷い これが人間のやる事か」
その時突然 父親に手を引かれながら
必死に走る 女の子の姿が 映し出された
「あの子は 俺が屋敷から連れ帰った・・・」
走っていた女の子は 急に立ち止まると
ヘナヘナと その場に座り込んだ
「父上 私達は人里離れた場所で 静かに
暮らしていただけなのに 何故こんな酷い
仕打ちを 受けるんですか?」
空を見上げた 女の子の瞳からは
ボロボロと涙が溢れ出した
父親がそんな女の子を抱きしめて 言った
「お前だけは 私が絶対に守ってやる」
そして 古ぼけた屋敷に 二人は姿を消した
そこで 俺は目が覚めた
「ハァハァ さっきのは夢だったのか?」
あれ?俺って寝てたのか?
寝起きで ボンヤリしてる頭を 手で押さえた
その時 牙を剥き出しにした 彼女の顔が
浮かび上がった
そ そうだ 俺 吸血鬼の彼女に!
慌てて 壁に立て掛けてある鏡で 首元を
調べたが 噛まれた形跡は無く
俺は ホッと胸を撫で下ろした
その時 いい匂いが漂ってきて グゥゥ〜ッと
お腹が 悲鳴を上げた
「そういえば 晩飯 まだだったな」
キッチンに行くと 既に食事が準備されていた
「翔太 待ってたのよ〜さぁ食べましょう〜」
母の隣で彼女は 俯いたまま座っていた
「何だ まだ 居たのかよ」
俺の言葉に彼女の体が ビクッと反応した
「翔太!そんな言い方ないでしょう」
「いえ やっぱり私は ここに居ては・・・」
「別に 俺を待たないで 先に食べれば
よかったのに」
「え?」
彼女は 不思議そうな顔で 俺を見て
母は ニヤリと笑うと椅子に座った
「そ それでさ 名前 教えてくれよ」
「名前? 私の?」
「名前分らないと 呼ぶ時に 困るだろう
これから 一緒に暮らすんだしさ」
「そうよね〜 一緒に暮らすんだから〜
名前が分らないと 困るわよね〜」
母は立ち上がり 両手を合わせて
キラキラと 目を輝かせていた
「わ 私 ここに居ても いいのか?」
俺は さっき見たのが 夢では無く彼女の記憶
だとしか 思えなかった
だから……
「行くとこも 無いんだし 居ればいいよ」
頭をかきながら 横を向いて言うと 彼女は
俯いたまま ボソッと呟いた
「有難う…」
その日から 吸血鬼との奇妙な
同居生活が始まったのでした




