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約束の蒼紅石  作者: 夢宝
魂の傀儡子編
6/29

囚われの蓮華

こんばんは!夢宝むほうです! まず最初に更新が遅れてしまったことを

読者のみなさまにこの場を借りて謝罪しようと思います。本当に申し訳ありませんでした。えっとですね、今回、更新が遅れてしまったのにはそれなりの理由がありましてm原稿自体は3日ほど前に完成していたのですが、が! なぜかインターネットが繋がらないという事態が発生いたしまして、ここ数日はインターネットを繋げるために試行錯誤していたらこれだけ遅れてしまったという結果になってしまいました……

きっと理解ある読者だということでこの場の謝罪で勘弁していただけるとものすごく助かります!


では、まえがきが謝罪文だけとなってしまいましたが、気を取り直して「約束の蒼紅石」第6話をお楽しみください!


(もう二度と真理に涙は流させない。)

 卓の心には静かに燃え上がる何か熱い炎のようなものが灯っていた。

 「卓~、次シャワーいいわよ!」

 シャワー室からバスローブを着た真理が出てきた。

 「ああ、ってうぉあ!?」 

 ふいに振り返ってバスローブ姿の真理が視線に飛び込んできた卓は慌てて顔を反らした。

 「なにうろたえているのよ?」

 「何って……」

 卓は真理の顔を見ることなく答えた。卓のその反応の理由を理解した真理はニヤリと笑ってゆっくり卓に近づいた。

 「私のバスローブ姿に発情しちゃった?」

 「ばっ!? ふざけんな!」

 真理は卓の背中に密着した。卓は背中に当った少しふっくらした真理の胸の感触に心臓の鼓動を早めた。

 「心臓の音、聞こえるよ?」

 卓の背中に耳を当てながら真理が呟いた。

 「……」

 当の本人はあまりの緊張に言葉すら出なかった。それを真理は気にした様子もなくふっと息を吐いて続けた。

 「私ね、嬉しかったんだよ?」

 「……えっ?」

 背中に真理の体温を感じ続けていた卓はたった一言それだけを返すので精いっぱいだった。

 「また卓と一緒にいられるようになって嬉しかったの。まあ戦わなくちゃいけないんだけど、それでも卓と一緒なら頑張れるから。」

 真理が喋るたびに背中に当る吐息に卓はどんどん心臓の鼓動を早めた。

 「卓は私との約束守ってくれたし、満足してるわよ。」

 「……まだだ。」

 「えっ?」

 卓は振り返ることなく言葉を続けた。真理はその言葉を一文字たりとも聞き逃すまいと耳を傾けた。

 「俺はまだ真理を守れるほど強くなっていない。だからこそこの訓練でもっともっと強くなる。だからまだ俺はお前との約束を守っていないんだ。」

 「……卓。」

 「もう少し待たせちゃうけど、まだ待っててくれるか?」

 「うん。」

 卓は背中から真理の声しか聞こえなかったが、それでもはっきり真理が笑ったのだけは感じ取ることができた。

 「さて、シャワー浴びてくるよ。」

 「うん。」

 真理は卓の背中から離れて、卓も赤面した顔を真理に向けることなく真っすぐシャワー室に入って行った。

 (卓、たくましくなったね。)

 シャワー室に入って行く卓の背中を見て真理は心の中でそんなことを思いながらほほ笑んだ。

 (第2関門、何が何でもクリアしないと……)

 真理はそのままベッドにうつ伏せで飛び乗った。

 それから十数分後、真理と同様にバスローブに身を包んだ卓が出てきた。

 「あれ、真理寝ちまったのか?」

 真理はベッドでバスローブのまま小さな寝息を立てていた。

 (お疲れ様、真理。)

 卓はそんな真理の様子を微笑ましく思いながらそっと掛け布団を掛けた。卓もその後バスローブで体を拭いてから用意されていた寝巻に着替えてそのまま眠りについた。

 

 「さて、俺達もそろそろ帰るとするか。」

 灯台の一階にいた謙介が要と小鉄に提案した。

 「そうね、ここならそう簡単に見つかる心配もないし、そうしましょうか。」

 「はい。」

 要と小鉄もそれを承諾した。

 「あ、そうだ小鉄。」

 「はい?」

 灯台から出て行こうとした小鉄を謙介は背後から呼びとめた。

 「一つ頼みがある。」

 「なんでしょう?」

 小鉄だけでなく要も興味に満ちた表情で謙介を見ていた。

 「赤桐蓮華という人物をしばらく見守っていてほしい。」

 「赤桐蓮華?」

 小鉄は謙介の口から出た一人の女の名前を復唱した。要は少し驚いた表情に変っていた。

 「ああ。彼女は討伐者ではない。だからこそこの戦いに巻き込むわけにはいかない。」

 「分かりました。ですがなぜその方なのですか? 何か巻き込まれるような要素があるのですか?」

 「いや、俺も直感でこのことを言っている部分が多くてな。はっきりこれという例は挙げられない。だからこそ俺の最も信頼している小鉄に頼みたい。」

 「あなたらしいですね。分かりました。」

 小鉄はそれ以上突っ込んだことを聞かずに頭を下げて謙介の依頼を受諾した。だがその隣で要は少しいぶかしげな表情を浮かべていた。

 「では、私はこれで失礼します。」

 「ああ。お疲れ。」

 小鉄は謙介と要に一礼してから灯台を出た。

 「……謙介、本当に直感なの?」

 灯台に残された要は同じく残った謙介に訊ねた。

 「どういう意味だ?」

 謙介は振り返って要の瞳を見据えた。

 「何か確信があってあんなこと言ったんじゃないの?」

 「……確信か。本当にそんなものがあったのなら俺自身がそうしているよ。ただ直感というもの語弊があったのかもな。」

 謙介はふっと笑ったがその顔は難しかった。

 「教えてよ。どうしてあの子なの?」

 「……気がつかなかったか? 今日、プールで断絶したときにあの蓮華という少女は一瞬だったが断絶を跳ね返した。まあ本当に一瞬だったからすぐに断絶された世界から追い出されたんだけどな。」

 「嘘でしょ……?」

 要は謙介の言葉の意味を理解出来てはいたが、その事実を理解は出来ずに動揺していた。

 「俺もあの時は驚いたよ。彼女は贈与の石を持っていなければ、あの時その力の影響を受けていたわけでもない。それなのに断絶の力を受けないというのはいかがなものかってね。」

 「じゃあ彼女は一体……」

 「それは分からない。だから小鉄に頼んだ。小鉄には見守れと言ったが、実質監視だな。」

 「……そう。」

 要は謙介に告げられた納得いかない事実に寂しげな表情を浮かべ謙介と共に灯台から出た。


 二日後、謙介と要は再び灯台の一階に集まっていた。小鉄は謙介の頼みによって蓮華の監視のため不在だった。

 「いよいよだな。」

 「謙介がそんなに力んでどうするのよ?」

 要の言葉に謙介は握っていた拳をほどいた。

 「はは、そうだな。」

 謙介の笑いはどこかぎこちなさが見え隠れしていた。そしてそれを見逃す要ではなかった。

 「あの2人なら大丈夫だと思うよ? 理屈じゃないけど、そんな気がするの。」

 「不思議なものだな。お前が言うと本当に大丈夫な気がするよ。」

 「あら、私の言葉の魔術も馬鹿にしたものじゃないでしょ?」

 「……だな。」

 

 灯台地下、休憩室。

 二日間しっかり休んだ卓と真理の身体の痛みはすっかり消え万全の状態となっていた。

 「いよいよね。」

 寝巻から洗濯した訓練時に来ていた私服に着替えた真理は紅の石をぎゅっと握りしめながら言った。

 「ああ。」

 真理と同様に着替えた卓の瞳にはどこか力強さが秘められていた。

 「絶対に2人でクリアしよう。」

 「うん。」

 卓の言葉に真理は深く頷いた。その時の真理の表情はこれから厳しい試練が待ち受けていると分かっている人間の表情ではなく、むしろ何が起こるのか分からず、期待に胸を膨らませた無邪気な子供のような表情だった。

 卓と真理がお互いの気合いを確認し合っているところで、休憩室の壁の一部がゆっくりと静かに音をたてながら左右に開き、新しい扉が現れた。

 「……今度は2人一緒なのか?」

 「うん。みたいね。」

 卓と真理は他に扉がないかあたりを見回して確認したが見つからなかったため、二人で同じ扉を開けた。

 「行こう。」

 卓は一言それだけを真理に言って、真理も無言で、けれどしっかり頷いて同時に一歩、扉の向こう側に踏み出した。扉を超えるとそこには先に小さく次の部屋へと続く扉が見える40メートルほどの真っすぐな廊下があった。

 「ねえ、卓……」

 卓の一歩後ろで廊下を歩いていた真理が小声で言った。

 「……何だ?」

 卓は歩く足を止めることなく聞き返した。それに少し間を開けて真理は再び口を開いた。

 「卓は私がパートナーで良かった?」

 「えっ?」

 「ねえ、どうなの?」

 卓は別に真理に振り返ることはなかったが、それでもはっきりと真理は不安そうな表情を浮かべているのだということだけは声だけではっきり分かった。

 「……俺は真理以外のやつとパートナーと組んだことないからよく分からないな。」

 「……」

 卓の言葉に真理は沈黙を続けた。その後で卓はふっと息を漏らして言葉を続けた。

 「でも、俺は真理とパートナーだったからこの訓練も受けようって思えたんだと思う。」

 「えっ!?」

 真理は卓のその一言にばっと顔を上げ、卓の背中を見た。

 「真理は一度俺の命を救ってくれた恩人だからな。だからこそ俺は真理のパートナーでいたいと思う。そうすれば次は俺が真理を守れるからな。まあ真理は俺がパートナーだと頼りないかもしれないけど。」

 卓は正面を向いたまま少し頬を赤らめた。

 「ううん。そんなことない。私も卓とパートナーで良かったよ。」

 真理の言葉が卓の耳に届いたそのときにちょうど次の部屋への扉の前に辿り着いた。

 「なら次も二人でクリアするしかないな!」

 「だね!」

 卓と真理はそれぞれ片手を扉に押しつけて同時に奥に扉を押した。すると木製の扉はギギギと軋んだ音をたてながら開いた。

 「これって……」

 「……嘘でしょ……」

 扉を開いたところで卓と真理は目を見開いて唖然とした。

 二人の目の前には地下都市が広がっていた。それも小規模なものではなく半径10キロメートルはあるであろう巨大なドームのような中に広がっている都市で、高層ビルなどが立ち並んだ都会のような風景だった。そして天井には大型の蛍光灯が無数に設置されていて明るい空間となっていた。

 「ここ、灯台の地下だよな……?」

 「多分……」

 あまりの規模の大きさに卓と真理の二人は一瞬自分が今どこにいるのかさえ分からなくなるほど動揺していた。そんな時、二人の目の前にそびえ立っていた巨大なビルの一つにあったスクリーンに映像が流れた。

 「何だ!?」

 突然ビルのスクリーンが映ったことに警戒心を奮い立たせた卓と真理はすぐさま贈与の石を握った。

 「ようこそ、灯台地下第2訓練室にして最終訓練室へ。」

 スクリーンの中に一人のスーツ姿の女性が映ってスクリーンの中で一礼した。

 「申し遅れました、私、榎本冬音と申します。」

 「冬音……」

 スクリーンの中で自己紹介した冬音の名前を聞いた真理が何か記憶を探るように考え込んだ。

 「どうした、真理?」

 「思い出した。この人総帥の直属の秘書よ。」

 「総帥?」

 「よく御存じなのですね。」

 卓と真理の会話に割って入るようにスクリーンの中の冬音はクスリと笑った。

 「では、早速ですが、最終訓練の内容をお伝えしたいと思います。」

 冬音の言葉を合図にスクリーンの画面が切り替わって冬音の代わりにスクリーンにはこの地下都市の見取り図が映し出された。

 「今から4日間、あなたたち2人はこの地下都市で過ごしてもらいます。この町は無人ですが宿泊するには十分な施設が至る所に設置してあります。」

 「なんだ、それだけなのか。」

 卓の一言に冬音がすぐに反応した。

 「端的に言えばそうです。しかし、この地下都市には説明が終わった直後から10分後に全部で五〇〇〇体の人間型兵器ヒューマノイド・アームズを放ちます。あなた方2人のこの訓練のクリア条件はそれら全ての人間型兵器と殲滅、および4日間生き延びることです。」

 「5000……」

 真理はそのすさまじい数字に圧巻されていた。

 「ちなみにこの訓練での負傷、および死についてはこちら側では責任を取りかねますのであしからず。最後に、この訓練に他にルールはありません。この地下都市にある物を利用していただいても構いませんし、地形を利用することも構いません。もちろん石の力を使うことも許可します。質問は?」

 スクリーンの中から質疑応答の場を設けた冬音に対して真理と卓は顔を見合わせるだけで何も質問しなかった。

 「では、質問は無しということで。ではお気をつけてください。」

 冬音の言葉の後にすぐにスクリーンは切れた。

 「真理、大丈夫か?」

 「ええ。だって今度は卓と一緒だし。」

 真理は卓の顔を見て笑顔を見せた。卓もそれを見て真理の頭の上にポンと手を置いた。

 「2人で頑張ろうな。」

 「うん!」

 「「具現せよ! 我が剣!」」

 卓と真理の詠唱は完全に重なり、地下都市に紅と蒼の光が輝きそれぞれの刀が具現した。

 「人間型兵器だかなんだか知らないが、全部ぶった斬る!」

 「そうね。」

 卓と真理が刀を構えるのとほぼ同時に地下都市のあちこしにそびえ立っていた高層ビルのモニターに大きく《5000》という数字が表示された。

 「今、人間型兵器が放たれたってことかしら。」

 「みたいだな。」

 卓は少し口元を緩めると二人の目の前に3機の人間型兵器が飛び降りてきた。その衝撃でその場の床に亀裂が生じて勢いのある風が卓と真理を直撃した。

 「早速おでましか。」

 「行くわよ!」

 3機の人間型兵器はそれぞれ少し型が違っていた。まず先頭で構えるのは片手が短刀になっていて、後ろに構える2機はそれぞれ機関銃と小型の大砲を装備していた。

 「契約の蒼、我の刃となって具現せよ!」

 卓の詠唱に反応した贈与の石が再び光輝き、その蒼の光は卓の手に握られた長刀の刀身に纏わりついた。

 「契約の紅、秘めたるその境地への扉を開門せよ!」

 真理は今までに唱えたことのない詠唱を唱えた。すると真理の腰にあった紅の石は今までに見せたことのないほどの輝きを纏い、深紅の光は激しく渦巻くように荒れ狂い、そのまま真理と真理の手に握られた日本刀を包み込むように移動した。

 「真理……それって。」

 「今までは私自身の力が足りなくて発動出来なかったんだけど、第一関門をクリアしたことによって発動できるようになったみたい。」

 真理と卓は敵の人間型兵器から目を反らすことなく会話をした。

 「俺も負けてられねーな!」 

 卓は3機の人間型兵器に向けて蒼の光を纏った長刀を構えた。それに即座に反応したに後ろに構えていた人間型兵器2機はとても機械とは思えないほど俊敏な動きで左右に分かれてそれぞれ機関銃と大砲を発砲した。機関銃から放たれた無数の銃弾と砲弾一発は真っすぐ卓と真理を目がけて飛んできた。

 「はあああああ!」

 真理は飛んでくる銃弾と砲弾には目もくれず全身に力を込めた。すると真理の周りで渦巻いていた深紅の光は突如巨大化して、渦巻く範囲が広くなった。

 「うおっと!」

 危うくそれに巻き込まれそうになった卓は急いで避け、避けながら短刀を構える人間型兵器との距離を詰めた。

 「一気に決めさせてもらうぜ!」

 卓は避けたときの勢いのまま短刀を持った人間型兵器に向けて蒼の光を纏った長刀を振り抜いた。いや振り抜こうとしたが、それは人間型兵器の短刀によって止められてしまった。

 「なっ!? 動かない……」

 卓は止められてもなお力を込めて無理矢理振り抜こうとしたが、人間型兵器の短刀に止められた長刀はピクリとも動かなかった。信じられないというような表情とは裏腹に人間型兵器はただ無言で機械の間接音だけを立てながら卓の一撃を止めていた。

 「ちっ!」

 これ以上振り抜くことは出来ないと悟った卓は長刀を一旦引いて、自身も一歩後退し距離を取ってから長刀を槍のように突き出してもう一度人間型兵器に突っ込んだ。それに対して人間型兵器は右手に握っていた短刀とは別に瞬時に左手からも同じ短刀を出現させ、その2本の短刀をクロスさせ、突き出してきた卓の一撃をまたしても完全に止めた。

 「そんな……」

 少しながらでも自信のあった一撃を止められた卓は動揺を隠しきれなかった。そんな卓に向って人間型兵器は無情に手に持った短刀2本を投げつけた。

 (俺は真理を守れるくらい強くならなくちゃいけないのに……!)

 卓は顔を上げ、自分に向って飛んでくる短刀を見据えて長刀を握る手に力を込めなおした。

 「お前なんかに負けられねえんだよ!」

 卓は十分な気迫を纏いつつ、蒼の光で包まれた長刀を振り抜いて飛んできた短刀を2本とも弾き飛ばした。だが人間型兵器もそれで引き下がるわけもなく、再び両手に新しい短刀を出現させ、またしても機械とは思えないほどの速い動きで卓に突っ込んできた。

 「……」

 突っ込んでくる短刀の人間型兵器に構わず、卓は一回深呼吸をして長刀を頭上で縦に構えた。

 「……俺は負けない!」

 卓は鋭い目つきで突っ込んでくる人間型兵器を見据えたまま長刀を勢いよく振り切った。すると蒼く光輝く斬撃が放たれ、その斬撃は人間型兵器をスパッと真っ二つに切り裂いた。

 「……勝った。」

 卓はふっと長刀を握っていた手から力を抜いた。

 一方で、卓とは10メートルほど距離を取ったところで真理は機関銃と大砲を持った2機の人間型兵器の相手をしていた。真理の周りには相変わらず巨大な深紅の光が渦巻いていて、全ての銃弾と砲弾を完全に打ち落としていた。

 「さっさと終わらせるわよ!」

 真理の一言に光りの渦は反応するようにさらに巨大化し、そのまま2機の人間型兵器を飲み込んだ。機関銃を持った1機はすぐさま崩壊したが、大砲をもったもう1機は自身が崩壊する寸前に一発だけ砲弾を発射した。砲弾は渦に流され、渦から飛び出たときには卓のほうへ向かっていた。

 「卓! 危ない!」

 真理は卓に叫んで忠告した。

 「大丈夫だよ。」

 卓は飛んでくる砲弾に眉ひとつ動かさず、蒼の光を纏った長刀を振り抜き、放たれた蒼の斬撃は飛んで来る砲弾を一刀両断し、砲弾は卓の元に届く前に爆発した。

 「真理の方も終わったみたいだな。」

 「ええ。」

 卓と真理は近づいて軽くハイタッチを決めた。すると地下都市のあちこちあったスクリーンに映し出されていた数字が《5000》から《4997》に変わった。

 「やっぱりあれは敵の数だったのか。」

 「あと、4997機も。こんな調子だったら間違いなく持たないわね。」

 卓と真理は体に直接的なダメージこそ受けていないものの、2人とも最初から全開の力を出してしまったためすでに肩で呼吸をしていた。

 「もっと最小限の力で勝てるようにならないとな。」

 「うん、でも一つだけ分かったことがあるわ。この訓練は1機の敵を倒すごとに確実に力が増してくるのよ。その証拠に卓は2機目の攻撃は安定した斬撃で対抗することができた。」

 「確かに。」

 真理の言葉に卓は納得したように握っていた長刀を見た。だが、その長刀にはすでに蒼の光は纏っていなかった。それは真理も同様で、敵を倒したのと同時に深紅の光の渦は消えていた。

 「石の力は無限に使い続けられるわけじゃないから、これからはよく考えて使わないと。」

 「確かにそうだけど、相手の機械も相当強かったぜ? 正直手加減しながら戦ってたらあと4997機なんてとてもじゃないけど相手できないと思うんだが。」

 「う~ん。それもそうなんだけど。私のさっきの力って今初めて使ったんだけど、予想以上に力の消費が激しくってもうあと何回も使えないし……」

 卓と真理は困り果て二人して悩みこんだ。

 「じゃあこういうのはどうだ? 真理の力が回復するまで俺が一人で戦う。そして真理の力が回復したらさっきの力で一気に敵を減らすんだ。この繰り返しで進んでいくのはどうかな?」

 卓の提案にばっと顔を上げた真理は首を横に振った。

 「それは駄目。そんなことしたら卓にばっかり負担がかかるし、そんなところを敵に突かれたら卓の安全の保証だってないんだから。」

 真理の表情は不安で満ち溢れていた。

 「……」

 卓はでも、と続けようとしたが、真理のその表情を見てしまい言葉に詰まった。


 同時刻、鳴咲市極北部灯台前。

 「あの2人うまくやってるかしらね。」

 要は日差しを手で影を作りながら遮る風にしながら隣にいた謙介に訊ねた。

 「うまくやっていなければ困るな。何せ第2訓練、いや最終訓練は一人一人の実力を向上させるのはもちろんだが、2人一組みというこのシステムを最大限活用し、その力を大幅にアップさせるためのものだ。その2人がうまくやれないのなら残された道は敗北。ただそれだけになってしまうからな。」

 淡々と答える謙介の横顔を見ていた要はプッと笑った。

 「本当に素直じゃないわね。そうやって冷静を装ってても不安でしょうがないって顔に出てるわよ?」

 「なっ!?」

 要の一言に顔を赤らめた謙介はすぐに要とは反対に顔を背けた。

 「でも、謙介じゃないけど私も不安なのよね。だって本来あの子たちにこの訓練は早すぎるもの。いくら時間が無いからって本来この方法だけは使っちゃいけないような気がするのよね。それは謙介も分かってるでしょ?」

 「分かっている。」

 謙介は要に背を向けたまま答えた。

 「なら、どうしてあの子たちをこの戦いから外さなかったの? あの子たちの覚悟を尊重したかったの? そんなことして死んでしまったら元も子もないじゃない!」

 要は少し興奮気味に声を荒げた。謙介はそれに対して無言だったので要は続けた。

 「もし死んじゃっても覚悟があってのことだって諦められるの!? またあなたの前で戦いの犠牲者を出してもいいの!?」

 「要!」

 要の最後の言葉にピクリと体を反応させた謙介は大声で怒鳴った。

 「……ごめんなさい。」

 はっと我に返った要は少し俯いて頭を下げた。

 「……俺だって本当はこんな戦いにあの2人を参加させたくはなかった! なんの皮肉かは分からないが、アイツの意思を継いだ男をまた俺の目の前で危険な戦場に送りださないといけないなんてな。」

 謙介はぎゅっと自分の唇を噛みしめた。

 「謙介……」

 そんな謙介の背中に要はふっと体を密着させた。

 「でも、本部が動いてくれないんだ。九鬼とかを動員してくれればいいのに、そうすればあの2人をこんな目に合わせなくて済んだのに!」

 「分かったわ。ごめんなさい。一番辛いのは謙介だったのにね。」

 要は謙介の背中に密着したまま後ろから優しく謙介の頭を撫でた。


 灯台地下でも地上と同じく、深刻な状況に包まれていた。

 とりあえず考えがまとまらなかった卓と真理は地下都市で安全を確保できそうな場所を探すために奥へと進んでいたが、二人の目の前にはまたしても5体の人間型兵器が立ち塞がっていた。武器はそれぞれ銃や剣など持っていて、陣を取っていた。

 「どうする真理? ここでまた本気出したりしたらいよいよ体力が持たない気もするけど。」

 長刀を構えた卓は自分の一歩後ろで日本刀を構えていた真理に訊いた。

 「まずいわね……どうしてこう次から次へと……」

 これと言っていい案が浮かび上がってこないもどかしさに真理は歯ぎしりした。

 「じゃあ今回は俺が本気で瞬殺するってことで。」

 「えっ!?」

 真理の反応を完全に無視して卓は詠唱を唱えた。

 「契約の蒼、我の刃となって具現せよ!」

 「ちょっと!」

 真理の言葉は虚しく、石から出現した蒼の光は再び卓の長刀を纏った。

 「はああああああ!」

 光を纏った長刀を卓は大振りで振ると大き目の斬撃がビルとビルの間の道路に陣を取っていた5機の人間型兵器に直撃した。すると人間型兵器がいたところは爆風に包まれ、中の様子は外からは見れなかった。

 「……やったか?」

 卓が気を抜いて長刀を降ろすと、爆風の中から拳ほどの大きさの鉄球が卓目がけて飛んできた。

 「うおっ!?」

 即座に卓はその鉄球を長刀で弾いたが、勢いのあった鉄球に卓は少し後ろに飛ばされた。

 「卓!」

 真理はすぐに飛ばされた卓を起こしに近寄った。しかし卓を気にしつつも爆風の方から視線は外さなかった。すると爆風が晴れてくるとたった1機、卓に鉄球を投げつた人間型兵器が立っていたがそれもすぐにその場に崩れ去った。

 地下都市のスクリーンの数字は《4992》を表示していた。

 「へへ、どうだ。」

 卓はよろよろと起き上がった。真理は起き上がった卓の頬に一発ビンタを浴びせた。

 「!?」

 突然の出来事に卓はただただ驚くだけだった。けれども、ビンタした真理の目には少し涙が溜まっていた。

 「どうしてそんな無茶するのよ……」

 「……真理。」

 卓は涙目の真理になんて言葉をかけていいのか分からず、その後の言葉は全く出てこなかった。

 「お願いだからもうこんな無茶は止めて……もし卓の身に何かあったら……」

 「……ごめん。」

 今にも泣きだしそうな真理を見て卓は一言それだけが口から出てきた。

 「もう私を一人にしないで……」

 卓はこんな弱弱しい真理の声を久しぶりに聞いた気がした。そう、5年前に炎越しに聞いた真理の声とどこか似ていた。

 「!?」

 そんな真理を見ていた卓は無言でそっと真理を抱いた。急に抱きしめられた真理は動揺したがしばらくして自分の身体を卓に委ねた。

 「ごめんな真理。もう無茶はしないよ。許してくれるか?」

 卓は抱き寄せた真理を少し体から離した。

 「……うん。」

 真理も目に溜まっていた涙を手で拭ってから卓に笑顔を見せた。

 「とえあえずこれから残りのやつをどう倒して行くかが問題だよな。」

 「ええ。あっ……」

 何かを考え込んでいた真理はふと顔を上げ地下都市のあちこちに聳え立っているビルを見渡した。

 「どうした真理?」

 真理の様子が変わったことに気がついた卓は真理と同じように辺りを見回した。

 「ねえ卓、もしかしたらいけるかもしれないよ。」

 「本当か!?」

 「うん、気がつかない? この地下都市にある高層ビルってビルとビルの間隔が狭いと思うの。」

 「……確かに。」

 真理に言われて卓は実際に見たが、確かに間隔はとても狭かった。人が一人通ったら横からは通れないほどの間隔だった。

 「これって実際に人が住んでいない訓練室だからこういう設計になっていると思うの。」

 「どういう意味だ?」

 「だってこんなの地上の人が住んでいる街で造ったら住みづらくてしょうがないでしょ? でもここは戦うためだけの街なの。つまり戦いに生かすためにわざとこういう設計に造られてると思うんだけど。」

 「戦いに生かす……」

 卓は今まで真理が言ったことを頭の中で整理し、街の構造を最大限生かす戦い方を模索した。

 「……あっ! もしかして!」

 考え込んだ卓は何かひらめいたように顔をばっと上げた。それに対して真理も卓の顔を見てにっと笑った。

 「そう、昔日本で実際に戦のときに使われた戦術で人一人が通れるくらいの狭い場所で戦う戦法よ。」

 「確かにそれなら相手が何体だろうと実際に戦えるのは一番前の1体だけだもんな。」

 「そういうこと!」

 「ならすぐに陣とる場所をすぐに探さないと!」

 「ええ!」

 卓と真理は周りを警戒しつつあまり音を立てないように、それでも走りながらいい具合の間隔のビルを探した。

 「ここなんてどう?」

 真理はオフィスビルと思しき二つのビルとビルの間を指差した。

 「いいな! ここなら人間型兵器でも1機しか通れないだろうし。」

 「じゃあここで決まりね!」

 真理が先にビルとビルの間に入った。横に並んで入ることは出来なかったので真理の後に卓も入った。

 「しばらくここで待とう。」

 そう言って真理はふっと構えていた日本刀を降ろした。

 それから数十分真理と卓はその場を動かずに待ったが一向に人間型兵器は来なかった。

 「なあ、あまりに来なさすぎじゃないか?」

 さすがに待ちきれなくなった卓は後ろにいた真理に顔を正面に向けたまま訊ねた。

 「確かに……時間も限られているわけだし、これはまずいかも。」

 「……だったら」

 「駄目よ。」

 「えっ?」

 卓がまだ言い終えていないときに卓の言葉を遮るように真理は言葉を重ねた。

 「どうせ自分が敵をここまで誘導してくるなんて言うつもりだったんでしょ?」

 「うっ……」

 真理に図星を突かれた卓は言葉に詰まってその後の言葉が出てこなかった。

 「もう卓ばかりに危険な目は遭わせられないの。」

 「でも……」

 それでも反論しようと卓が口を開くと真理ははあっとため息をついた。

 「じゃあ私がその役をやるわ。」

 「駄目だ!」

 真理の一言に卓は強く言い放った。

 「私ならある程度戦えるし、卓より成功率は高いわ!」

 真理も負けずと言い返した。

 「成功率とかそういう問題じゃねえよ。もう俺の目の前で真理を危険な状況にさらしたくねえんだ。」

 「卓……」

 真理はそれ以上何も言わなかった。いや言えなかった。自分のことをここまで考えていてくれてるということに嬉しさを感じていた。

 「だからやっぱり俺が行く。」

 「えっ? だからそれは駄目だって」

 卓は真理の言葉を遮るように後ろにいた真理に振り返って真剣なまなざしで真理の目を見た。

 「大丈夫、絶対に無茶はしない。真理にこれ以上心配をかけたくないしな。まだ5年前の約束はまだ果たせてないけど、この約束はすぐに果たすよ。」

 卓はそう言って真理に向けて小指を立てて突きだした。

 「……本当に頑固なんだから。絶対に約束守ってよね。」

 真理は口ではそう言うものの表情は柔らかく、卓の突き出した小指に自分の小指を絡めた。

 「「指きった!」」

 卓と真理の声が重なり、絡まっていた指を離した。

 「じゃあ行ってくる。」

 すぐにまた正面を向いた卓はそのまま駆け足でビルとビルの間から出て地下都市の表通りに出た。

 (気をつけてね……)

 去ってゆく卓の背中を見て真理はぎゅっと胸の前で両手を握りしめた。

 地下都市の表通りに出た卓は右と左を交互に見渡して、人間型兵器がいそうな右の繁華街のような場所へ向かった。

 「たっく、こっちから探してるときに限ってなかなか見つからないな。」

 長刀を持ったままで走りながら卓は呟いた。しかし、卓の言うとおり、目の前には人間型兵器が1機も見当たらなかった。すると突然卓の前方空中から突然小型ミサイルが飛んできた。

 「何!?」

 卓が反応したときにはすでにほぼ目の前までミサイルは接近していた。そしてそのミサイルはそのまま卓の足元の地面に直撃し、そこで爆発した。

 「ぐああああ!」

 卓はその爆風をもろに直撃し、その勢いで5メートルほど飛ばされた。

 「くっそ!」

 卓は額から流れる血を手で拭いとりながらよろよろと立ち上がった。

 「どこから……」

 卓が前方を見回しているとまたしてもミサイルが飛んできた。

 「あそこか!」

 今度はミサイルを早く発見した卓はそのミサイルが飛んできた場所を確定することができ、前方の高層ビルの屋上に1機の人間型兵器がいることを確認した。

 「契約の蒼、我の刃となって具現せよ!」

 卓の詠唱の後に瞬時に蒼の光が卓の手に握られていた長刀を纏った。

 「うおおおおおお!」

 卓は蒼の光を纏った長刀を思いっきりミサイルに向けて振り抜くと、長刀から大き目の蒼の斬撃が放たれ、ミサイルに直撃し、ミサイルは卓に当るずいぶん手前で爆発した。斬撃はそれだけでは止まることなく、そのままビルの屋上にいた人間型兵器に直撃した。

 「はあ……はあ……」

 今日だけで何回も斬撃を連発した卓の息は上がっていた。

 地下都市のあちこちのスクリーンに映し出されていたカウンターの数字がまた一つ減った。

 「また力を使っちまったな。こりゃ戻ったら真理に怒られそうだ……」

 卓は呼吸を整えながらため息をついた。

 「とにかく、少しでも多くの敵を誘導しないとな。」

 そう言って卓がまた走り出そうとした瞬間、空中から数十機の人間型兵器が円を描くようにして卓を囲んだ。

 「なっに!?」

 予想だにしなかった事態が起きた卓の手は震えていた。

 「……こりゃさすがにまずいな……」

 卓は強がって笑って見せたが、顔からは嫌な汗と額から流れる血が混じって地面に滴り落ちた。

 「こういう状況になったら逃げられないってこと考えてなかったぜ……」

 卓が長刀を構えると、人間型兵器もそれぞれの持つ武器を卓に向けて構えた。

 (俺、また真理との約束守れないのかよ……)

 卓は自分の無力さに唇を強く噛んだ。すると卓の頭の中にふと5年前の真理の言葉が過った。

 『もっと強くなって』

 卓の頭をよぎったこの言葉に半ば諦めていた卓ははっと我に返った。

 「そうだよな。男が約束を守るって言ったら絶対に守らないとな。」

 卓の表情に力強さが現れ、長刀を強く握りしめた。

 「はああああああ!」

 卓は両手で長刀を握ると、相手にそれを向けるわけでもなく地面に刃を向けた。そしてそのまま地面に長刀を突き刺すと、長刀に纏っていた蒼の光はその場で激しく光輝き、その光は卓と数十機の人間型兵器を包み込んだ。その光は卓を狙う敵の目くらましとなり、卓はその光の中で詠唱を唱えた。

 「契約の蒼、我に躍進の力を与えよ!」

 すると目くらましの役割をしていたのとは別の光が卓の腰に括りつけられていた贈与の石から卓を包み込んだ。

 「続いて! 我が命が下るまでその刃隠匿せよ!」

 卓は走りやすくするために長刀を石の中にしまうと、目くらましの光も次第に消えていった。

 「うおりゃああ!」

 卓は少し助走をつけて走り出し、卓は自分を囲んでいた敵の頭上を飛び越えて行った。そしてそのまま止まることなく真理の待つビルとビルの間を目指して石の力を借りて肉体強化したまま全速力で走りだした。それに気がついた人間型兵器も陣形を崩して逃げて行く卓を追った。遠距離武器である銃などをもった人間型兵器は走りながら逃げて行く卓に発砲した。

 「うおっと! 危ねー!」

 長刀をしまって逃げることに専念した卓に飛んでくる銃弾に立ち向かう術もなく、ただ石の力で肉体を人間離れしたほどに強化した運動神経で避けて行った。それでも人間型兵器も攻撃を止めることなく打ち続けた。

 「はあ、はあ! あと少し!」

 卓は息を切らしながらも決して速度を落とすことなく走り続けた。そして卓の視界に真理の待つ隙間が飛びこんできた。

 「卓! 飛んで!」

 数十機の人間型兵器を引きつれて走ってきた卓を見つけた真理は叫んだ。

 「!! 分かった!」

 真理の考えていることを一瞬で理解した卓は助走をつけて隙間に入るよう高く跳ねあがった。

 「捉えた!」

 卓が飛び上がったことで真理の構える日本刀の刃の先には2列ほどで向ってくる人間型兵器の軍勢が現れた。

 「紅蓮槍風!!」

 真理がそう言って日本刀を突きだすと、それまで真理の周りを渦巻いていた紅の竜巻は巨大な槍の形となって人間型兵器に向って飛んで行った。そして人間型兵器の軍勢に直撃すると大爆発を起こし、敵は一瞬のうちに全滅した。

 「すげっ!」

 卓はその一部始終を見終えて真理の後ろに着地した。

 「卓、その血!?」

 着地した卓に振り返った真理は卓の額から流れる血を見て駆け寄った。

 「あ、ああ。ちょっと油断しちまって。」

 卓はすぐに真理に余計な心配をかけまいと手の甲で血を拭った。

 「無茶はしないでって言ったのに。」

 真理はそれ以上に卓を咎めることもなく、ポケットから取り出したハンカチで卓の血を拭きとった。

 「あ、ありがとう。」

 卓は自分の目の前に真理の顔が接近してきて顔を赤らめ、すぐに顔を真理から背けた。

 「やっぱりこの作戦は囮役に負担が掛かり過ぎるわね。」

 「……」

 真理の言葉に卓は何も言い返せなかった。事実、卓は数十機連れてくるだけでも相当なダメージを受けていたためこれから何度も同じことを繰り返すのは不可能だった。

 「卓が出て行ってる間にこの裏から寝床の役割を果たしてくれそうな場所を見つけたの。すぐ近くにコンビニもあったわ。だからここを私たちの拠点にしよう。」

 「そっか。助かるよ。」

 「でもまだ休むわけにはいかないわよ? 何せ敵は5000もいるんだから。4日間しかないから一日に約1300機倒さないと駄目だからね。」

 「1300機か……。いや、分かっていたんだけどな。実際に数字を聞くと辛いな。」

 「なら諦める?」

 真理の一言に卓はすぐに首を横に振った。

 「やり遂げるさ。これで強くなれるんだったらな。」

 「うん。そう言うと思ってた。」

 卓の返答に真理はにっこり笑った。そしてそのまま卓の手を引いて地下都市の大通りに勢いよく出た。

 「来るよ!」

 真理の掛け声で卓は即座に長刀を構えた。真理も卓の手を離して日本刀を構えた。するとそのすぐ後に卓と真理の周りに無数の人間型兵器の軍勢が姿を現した。

 「なっ!? どこからこんな数!?」

 卓は予想外の敵の数の大きさに目を見開いた。真理も同様に驚きを露わにしていた。

 「そんな……!? これ1000機以上は確実にいるわよ!?」

 「……今からでも戻るか?」

 「無理よ。完全に囲まれてる。」

 「……分かってる。」

 卓と真理はいつ攻撃を仕掛けられるかもしれない状況に神経を研ぎ澄ました。

 「どうする? 卓。」

 「悔しいが、本気で行くしかないんじゃないか? まあそれで勝てる保証もないんだけどな。」

 卓は場違いのように笑って答えた。それに一瞬真理は驚いたが、すぐに表情を戻し真理も笑って答えた。

 「そうね。ここをなんとしても生き伸びないと先はないもんね。」

 「そういうこと!」

 卓と真理は自分の胸の高さまでそれぞれ刀を構えた。

 「「はあああああああ!!!!」」

 卓と真理は背中合わせに敵の軍勢に突っ込んだ。



 

 3日後、卓と真理の訓練の最終日となったこの日は暑さも厳しくなり、今にもセミの鳴き声が聞こえてきそうな日だった。

 「今日はたっくんと真理ちゃんの特訓最終日よね。きっと疲れてるだろうからお弁当くらい持って行っても変じゃないよね……?」

 蓮華は自分の家のキッチンでぶつぶつ呟きながら卓と真理、2人分の弁当箱にお手製のおかずを綺麗に敷き詰めていた。

 「2人とも強くなったのかな。なんかこういうときって2人が遠くに感じちゃうな。」

 蓮華は最後に卵焼きを弁当箱に入れながら少し寂しそうな表情を浮かべた。

 蓮華の家の向い側の民家の屋根に謙介から蓮華の監視の命を受けた小鉄がコンビニのおにぎりを頬張りながら構えていた。

 (ここ3日間見てたけど、これといって何かあったわけじゃないんですけどね。謙介さんは何を知りたかったのでしょうか?)

 小鉄は直接自分に振りかかる直射日光を手で遮りながらおにぎりを続けて食べた。

 「んっ?」

 小鉄がおにぎりを食べていると蓮華が家から弁当を2つ手提げかばんに入れて出てきた。灯台に向かうためにバス停の方に歩き出した蓮華を小鉄は後ろから気付かれないようについて行った。

 (これってやっぱり傍からみたらストーカーに見えるんでしょうね……)

 小鉄は自分の行動に少し恥じらいを感じつつ、蓮華の後についた。

 「きゃっ!」

 「えっ?」

 不意に蓮華の小さな悲鳴が聞こえた小鉄はすぐに物影から顔を出して、蓮華の方をしっかりと見た。すると蓮華の前に黒い靄が存在していた。

 (あれは……)

 少し離れてその様子をみていた小鉄はすぐにズボンのポケットから小さなスイッチを取りだした。このスイッチは緊急連絡用のもので、このスイッチを押せばすぐに謙介のケータイ電話に連絡が行く仕組みになっていた。

 小鉄は迷いなく、取り出したスイッチを押した。

 

 灯台の前にいた謙介のケータイ電話は小鉄がスイッチを押した後すぐに鳴った。

 「!?」

 「どうしたの謙介?」

 「緊急事態だ。すぐに小鉄の元に向かうぞ!」

 「分かったわ!」

 要は謙介の雰囲気から事情を聞く時間すらないのだと悟るとただ卓の言葉に頷いてすぐに駈け出した。


 所変わって蓮華の卓の住む住宅街。

 「あの、どちらさま……ですか?」

 突然目の前に現れた黒い靄の中から姿を見せたいつもと同じ姿の魂の傀儡子に蓮華はひどく動揺していた。

 「ようやく見つけましたよ。」

 魂の傀儡子は特に蓮華の質問に答えることもせず、ただ不敵に笑っていた。

 「あの、それじゃ私はこれで失礼します……」

 蓮華は魂の傀儡子と目を合わせないように顔を下に向けながらその場を立ち去ろうとしたが魂の傀儡子は蓮華の腕を掴んだ。

 「!?」

 突然腕を掴まれた蓮華は手から弁当が入ったカバンをその場に落とした。

 「何するんですか!」

 蓮華は魂の傀儡子の腕を振りほどくためにじたばたしたがその腕を振り払うことは出来なかった。

 「やっとの思いで見つけたんですから、そう簡単に逃がしはしませんよ?」

 魂の傀儡子は笑顔を崩さないまま言い放った。

 「私はあなたみたいな人知りません! 誰なんで……」

 蓮華は言葉を言い切る前に意識を失った。

 (!?)

 物影から様子を見ていた小鉄は何が起きたのか理解できずに困惑していた。

 「ふふ、すみませんね。あまり女性に乱暴はしたくないので催眠術を少々施させていただきましたよ。」

 意識を失った蓮華は体を魂の傀儡子に預けるような形でもたれかかった。

 (まずい! このままだと彼女は連れて行かれる!)

 とっさに蓮華の危険を感じ取った小鉄は物影から飛び出た。

 「おや? こんなところにネズミが潜り込んでいましたか。」

 背後から出てきた小鉄に気がついた魂の傀儡子はそれでも表情を変えることなく向き合った。

 「その子をどうするつもりですか!?」

 小鉄の問いに魂の傀儡子はふっと笑ってから口を開いた。

 「この人間は私の計画に必要不可欠なのですよ。それ以上はここで死ぬあなたに言っても無駄だと思いますがね?」

 「僕も一人で貴様に勝とうなんて無謀なことは思っていませんよ。ただ少し時間は稼がせてもらいますよ!」

 「いいでしょう。少しだけお遊びにお付き合いいたしましょう。」

 魂の傀儡子は道路の脇に意識を失った蓮華を寝かせ、上着の内側から先端が刃物になった杖を取りだした。

 「我、この世界との断絶を命ずる!」

 小鉄の詠唱の後に辺りの雑音は消え、小鉄と魂の傀儡子は静寂に包まれた。

 「人間はわざわざこの世界を壊すまいと面倒なことをしますね。」

 魂の傀儡子は断絶された世界を見渡してふっと笑った。

 「慣れればそれほど苦にもなりませんがね。具現せよ! 我が双剣!」

 断絶された世界に小鉄の声が響くと、腕のブレスレッドにしてあった水色の贈与の石が光って、小鉄の両手に2本の対になる短刀が現れた。

 「双剣ですか。少しくらいは楽しませてくださいね。」

 「はあああああ!」

 小鉄はその場で双剣を何度も振りまわした。すると無数の斬撃が魂の傀儡子に向って飛んだ。無数の斬撃は魂の傀儡子を直撃し、魂の傀儡子が立っていた場所は爆風と爆煙に包まれた。

 「双剣の特徴はその攻撃数の多さですかね。全てを見切るのは不可能でしたよ。」

 爆煙の中から魂の傀儡子のどこか冷たさを感じさせる声が聞こえ、その後に小鉄に向って炎の球が飛んできた。

 「!?」

 ものすごい速さで飛んできた炎の球は小鉄のいるところで爆発した。すると小鉄の放った斬撃が起こした爆煙の中から無傷の魂の傀儡子が現れた。

 「全てを見切るのは不可能でしたから、いくつかは私の攻撃で撃ち落とさせていただきました。まああなたはそんなことをせずとも私の攻撃をかわせたようですが。」

 魂の傀儡子は自分の向い側の爆煙に向って不敵な笑みを浮かべた。爆煙が晴れてくると、薄い水色の球に包まれた小鉄が姿を現した。

 「吸収球体アブス・スフィア……」

 「お見事です。」

 魂の傀儡子はわざとらしく驚いたような表情を見せてパチパチと手を叩いた。

 「契約の薄蒼、我が対となる意思に希望の光を与えよ!」

 小鉄の詠唱に反応した贈与の石は銀色と金色の光をそれぞれの短刀に纏わせた。

 「なんと……」

 その神秘的な光景に魂の傀儡子は感嘆の息を漏らした。

 「神器、フィン即座バロン!」

 小鉄は銀と金の光を纏い、刀身が元々の3倍ほどになった双剣を魂の傀儡子に向けて構えた。

 「神器。面白いじゃないですか!」

 魂の傀儡子は取り乱したような笑顔を見せて、自分も杖の刃を構えた。

 「うおおおおおお!」

 小鉄はそれぞれ神々しく輝く刀を大きく一度だけ自分の前で交差させるように振り抜いた。すると銀と金の斬撃は途中で合わさり、目を開けられないほど明るい光を放ちながら、魂の傀儡子へと向かって行った。

 「冷徹クール獄炎フレイム!」

 魂の傀儡子は向ってくる斬撃に対して、杖の先の刃で空に円を描き、そこから放出された巨大な青い炎の球で太刀打ちした。しかし、小鉄の放った斬撃を撃ち落とすことはできず、勢いが減少しない斬撃はそのまま魂の傀儡子に向って一直線に迫る。

 「やはり神器の力にこの程度の力じゃ敵うはずもありませんか。」

 魂の傀儡子は迫りくる斬撃を空中に高く跳び上がることですれすれで回避した。

 「口で言う割にずいぶんと余裕そうですがね。」

 小鉄は自分の攻撃が当らなかったことに少しむきになって再び眩い光を纏った二本の双剣を振るった。さっきと同様に金と銀の斬撃が放たれ、空中に跳んで身動きが取れない魂の傀儡子に向って行った。

 「これは……」

 魂の傀儡子は言葉を言い終える前に小鉄の放った斬撃に直撃した。空中で爆音と共に煙が立ち登り、煙とは逆に魂の傀儡子は下に落下した。

 「やったのですかね……?」

 小鉄は恐る恐る地面に倒れ込んだ魂の傀儡子に近づいた。するとあと5歩というところで見た目が少しボロボロになった魂の傀儡子がよろよろと起き上がった。

 「何……? これでも倒れないのですか!?」

 最大出力の斬撃を受けてもまだなお起き上がる魂の傀儡子に小鉄は驚愕した。

 「何が、時間稼ぎですか……。決着着ける気満々じゃないですか……」

 魂の傀儡子は咳込みながら苦しそうに小鉄を睨みつけた。

 「人間とはつくづく欲深いものですよ。自己嫌悪に陥りそうですよ。ですが、ここは素直に自分の欲望に従っておきたいところでしてね。出来れば謙介さんたちの手を煩わせるまでもなく済ませたいのですよ。」

 小鉄は顔の輪郭に沿って汗を垂らしながらそれでも笑顔を作り続け、双剣を構えた。

 「なめられたものです。私はこれでもイザイとヴァーグナーを同時にお相手して殺したのですよ? それなのに彼らの足元にも及ばない実力のあなたがどうやって私を倒すのです?」

 「じゃあ、やってみましょうか。」

 小鉄はそう言って、魂の傀儡子の反応を見ることもせず、地面を軽く蹴って、跳び上がり、そのまま空中から2本の斬撃を放った。

 「何度も馬鹿の一つ覚えの技では勝てませんよ!」

 上空から迫りくる金と銀の斬撃を魂の傀儡子は睨みつけるように見て、右手の掌を前に差し出した。

 「虚無ゼロ失力ノース!」

 魂の傀儡子がそう呟くと、前に差し出した掌から、黒く、どこかに繋がっているような空気を吸い込みながら渦巻く小さな穴が現れた。

 「ついに虚無界のを使いましたね。」

 「ええ。少しは本気を出さないと失礼でしょう?」

 魂の傀儡子は悠長に会話を続けながら、迫りくる斬撃を迎え撃った。すると目の前まできた斬撃は掌から出た黒い穴に吸い込まれた。斬撃を完全に吸い込むと穴は段々と小さくなって次第には消えた。

 「これが虚無の技……」

 「いかがですか?」

 呆気に取られていた小鉄を見た魂の傀儡子は得意げな表情を浮かべた。

 「確かに、神器の奥義をものともせず消滅させるその力はさすがです。……が、私の武器は何も神器だけではないですよ?」

 「!?」

 小鉄がにっこりほほ笑んで魂の傀儡子の方を指差すと、魂の傀儡子は自身の身体を見た。

 すると、魂の傀儡子の身体は地面から飛び出た水色の光の縄で縛られていた。

 「いつの間に!?」

 「さっきの神器の一撃は囮に使わせていただきました。まあ何度も通用するとも思っていませんでしたし。そっちに気を取られている間に地面から石の力、捕縛ほばく光縄こうじょうを発動したのですよ。」

 魂の傀儡子を括りつけていた光の縄は彼が少し動こうとしたところでビクともせず、完全に動きを封じ込めていた。

 「……一つ聞いても?」

 縄が解けないと確信した魂の傀儡子は足掻くのを止めて、小鉄を見据えた。

 「……」

 魂の傀儡子の態度が急変したことに小鉄は無言で見据え返した。それを確認した魂の傀儡子は再び口を開いた。

 「あなた、本当にイザイとヴァーグナーより弱いのですか? 私が実際に相手してみて思うに、あなたの方が、彼らより断然強いと思うのですが……」

 魂の傀儡子の質問に小鉄はふっと笑った。

 「いつですかね、僕が最後に公式記録を登録したのは。」

 小鉄のその一言に魂の傀儡子は質問を重ねた。

 「公式記録……?」

 「討伐者は自分の実力を知るために一般的には定期的に本部にて公式記録を残すのですよ。ただ、僕はそんなこと面倒なのでほとんど公式記録を取っていないんですよね。」

 小鉄がクスリと笑うと、魂の傀儡子も納得したように口元を緩めた。

 「なるほど、私が知っていた情報は古すぎたといことですか……」

 「そういうことです。」

 小鉄はそのまま笑顔を崩さないまま、金と銀の光を纏った双剣を上段に構えた。

 「命乞いしたら助けてくれます?」

 「結果から言えばノーです。」

 小鉄の笑顔に魂の傀儡子の顔からは汗が一滴地面に落ちた。

 「フィナーレです。」

 そう言って小鉄は上から双剣を振り下ろすと、今までよりもさらに大きな斬撃が放たれた。

 斬撃はみるみる魂の傀儡子に迫って行き、それにつれ、魂の傀儡子の顔も斬撃の光を浴びて、明るく光った。

 最終的に斬撃は魂の傀儡子に直撃し、彼が立っていた道周辺は爆煙に包まれた。

 「言い忘れていましたが、今の僕はヴァーグナーさんとイザイさんを同時に相手出来るくらいには強いですよ?」

 小鉄は爆煙に包まれた魂の傀儡子に向って言った。

 自分の勝利を信じて疑わなかった小鉄の表情には余裕が現れていたが、それはすぐに崩された。

 「くくく。猿芝居が過ぎたかと思いましたが、案外騙せるものですね。」

 爆煙の中から聞こえたこの声は小鉄を希望から絶望に叩き落とすのには十分過ぎるほどだった。

 「な……」

 煙の中から現れた魂の傀儡子を見て、小鉄は言葉を失った。

 「確かに、あなたはイザイとヴァーグナーより遥かに強い。それは認めましょう。しかし、ただ力を得ただけの人間風情が一人で私を倒すなど、思い上がりも甚だしい。」

 立場が完全に逆となった今、額から汗を流すのは小鉄で、余裕の笑みを見せているのは魂の傀儡子だった。

 「どうしました? さっきまでの自信に満ち満ちた表情をまた見せてくださいよ。」

 魂の傀儡子は出来るだけ皮肉を込めるように言った。

 しかし、今の小鉄にはこんな皮肉にすら言い返すほどの余裕は残されていなかった。

 先ほど巨大な斬撃を放った後の双剣からはすでに金と銀の光は消え去り、元に戻っていた。

 「いいですね、その絶望に満ちた顔。そそりますよ。」

 魂の傀儡子は悪戯っぽく微笑んで、舌舐めずりした。そしてその後で先端が刃になっている杖を構えた。

 「あの世で自分の無力さを悔みなさい。」

 魂の傀儡子のその一言に小鉄は唇を噛みしめ、そして同時に双剣から手を離した。

 (謙介さん……。すみません。お役に立てませんでした。)

 小鉄は迫りくる魂の傀儡子の刃を最後に視界に入れ、目をゆっくりと閉じた。

 すると、目を閉じた直後にすぐ前方で大きな爆発音が聞こえた。

 「!?」

 「無事か、小鉄?」

 驚いた小鉄が目を開くと、そこには迫り来ていた魂の傀儡子をたった一撃で後退させた謙介が、黄金に輝く西洋風の剣を構えて立っていた。そしてそのすぐ隣に鎖を持った要も魂の傀儡子と対峙していた。

 「謙介さん……。要さん……。」

 小鉄は力なく、けれど2人にははっきりと聞こえるように言った。

 「遅れてすまなかった。よく耐えてくれた。」

 「……はい。」

 小鉄は謙介の力強い言葉に危うく涙を零すところだったが、首を横にブンブン振って、涙を流すことに耐え、地面に落した双剣を拾い上げ、再び構えた。

 「形勢は逆転だな、魂の傀儡子!」

 謙介を筆頭に陣を構える要と小鉄に対して、魂の傀儡子はため息にも似た息を吐いた。

 「さすがにこの3人を同時に相手するのは骨が折れそうです。私も本来の目的を手早く済ませる必要がありますので、これにて失礼させていただくとしましょう。」

 魂の傀儡子はそう言って、道路の脇で意識を失っている蓮華を片腕で抱き上げた。

 「待て! その子を連れて行かせるわけにはいかない!」

 謙介は間を開けることもなく、黄金の光を纏った剣を振るった。そこから放たれた眩いほどの斬撃は地面を抉りながら、蓮華を抱きかかえた魂の傀儡子に向った。

 「私も、彼女を取り返されるわけにもいかないのですよ。」

 斬撃に対して、特に焦りを見せることもしない魂の傀儡子は蓮華を抱きかかえているのとは反対の手を前に差し出した。

 すると、さっき小鉄の時に使用したのと同じ、黒い穴が現れ、謙介の放った黄金の斬撃もみるみる穴に吸い込まれて行った。

 「虚無の技!?」

 瞬時の出来事に驚きを隠しきれなかった謙介を見て、魂の傀儡子はクスリと笑って、口を開いた。

 「では、私はこれにて失礼させていただきます。」

 蓮華を抱きかかえたまま魂の傀儡子は黒い靄に包まれ、姿は見えなくなった。

 「あ、それともう一つ言っておきますね。」

 黒い靄に包まれ、姿が見えなくなった魂の傀儡子だったが、彼の声だけが、道路に響き渡った。

 「あなたたちでは私を葬ることは不可能ですよ。冥府の使者と人間とではそもそも同じ戦場で剣を交えることすら不可能なほど実力差があるのですから。」

 魂の傀儡子のこの言葉を最後に、黒い靄も完全に消え、断絶されたこの空間には再び静寂が訪れた。

 「そんな……」

 蓮華が連れて行かれた様子を目の当たりにした要は両手で口元を押さえていた。

 「すみません謙介さん……。言いつけられたこともできませんでした。」

 蓮華を連れて行かれたことに対して罪悪感を覚えた小鉄は目線を地面に伏せた。

 「小鉄のせいじゃないだろ? それより今はどうやって彼女を助け出すかが大切なんじゃないか?」

 謙介が小鉄の肩にポンと手を奥と、目線を伏せていた小鉄の顔はばっと上がった。

 「そうですね! なんとしても蓮華さんを救出しましょう!」

 「ああ、その意気だ。」

 謙介はそう言って小鉄から顔を背けた。小鉄を励ました謙介だったが、このときの彼の表情も不安で満ちていた。

 


「約束の蒼紅石」第6話いかがでしたでしょうか?この「魂の傀儡子編」も折り返し地点を突破し、いよいよクライマックスに向けて話も進んできています!第6話でもう折り返し地点?と思う方もいると思いますが、この作品は1話1話が比較的長めなので第6話でもう折り返し地点なのです(笑)もともとこの「魂の傀儡子編」はこれくらいの長さで考案していたので、順調な執筆状況かと思います!ですので、これからラストスパートに向けての話も楽しんで読んでいただけると幸いです。

では、今回はこの辺で。寒さに負けずに頑張りましょう!


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