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約束の蒼紅石  作者: 夢宝
魂の傀儡子編
5/29

二人の決意

こんにちは夢宝むほうです。いよいよ寒さも本格的になりましたね~。なんと実は今日、作者の住んでいるところでこの冬初雪が降りました!もおびっくりですよ!ちょっと今日は朝からそんな調子でテンションが上がっております(笑)

さて、ここで余談なのですが、この作品「約束の蒼紅石」は一話一話が長いと感じている読者が多いと思うのですが、実は毎回、文字の大きさは10.5でワードで25ページ分ずつ書いているのです!そりゃ長くもなりますよね(笑)ただこれも結構毎回書いていくのが大変なのですが、実際に読んでみると結構すぐ読み終わってしまうんですよね~。だから!できればゆっくり味わって読んでいただけると嬉しいな~というのが作者の希望でございます(笑)そんなわけで「約束の蒼紅石」第5話ごゆっくりどうぞ~

卓は一人無人の男子更衣室まで来て、手首に下げていたロッカーのカギで扉を開けた。

 「あった!」

 卓は脱いだズボンのベルトに結んであった贈与の石を手に取った。

 「急いで戻らないと! うわっ!」

 すぐにプールの方に戻ろうと振り返った卓の目の前に一人の女性が立っていた。女性は細身で長い漆黒の髪だった。

 「驚かせてしまいましたか? 私のこと覚えていますか?」

 女性は柔らかな笑顔を見せた。

 「えっと、すみません……」

 卓は少し気まずそうに女性から視線を反らした。

 「先日、ショッピングモールでお会いしたと思いますが。」

 女性はくすりと笑った。

 「ショッピングモール……?」

 卓は少し考え込んでこの前ショッピングモールに行った時のことを思い出していた。

 「……あっ!」

 「思い出していただけたようですね。」

 女性は満足そうにほほ笑んだ。この女性は卓と蓮華が一緒にショッピングモールに行ったときに服屋で卓とぶつかった女性である。

 「は、はい。……あれ、なんで動けてる……」

 卓は断絶された中で普通に動けている女性に疑念を抱いた。

 「ふふ、それはいずれ分かりますよ。それより今はあの暴れん坊の竜を何とかしなくてはいけないのですよね?」

 女性は卓の目の前で人差し指をピッと立てて得意げな表情をした。

 「えっ、ま、まあ。」

 「ですが、今のままでは勝てませんよ?」

 「なっ!?」

 卓は女性の全てを見透かしたような瞳に瞬時に一歩距離を取った。今の女性に以前に会った時のような頼りなさは全くと言っていいほど見当たらなかった。

 「でも安心してください。私はあなたに力を与えに来たのですから。」

 女性はそこで話しを一旦止めて卓の手から贈与の石をひょいと持ち上げて軽く口づけした。

 「何を……」

 卓はすぐに手に戻された石と女性を見比べた。

 「いつまでもというわけにはいきませんが今回の戦いくらいなら力を与えてくれるはずですよ。これは私からのお礼です。」

 「お礼……?」

 「ええ。近いうちにあなたは私の願いを叶えてくれるはずです。だからこれはそれの前払いです。」

 「それってどういう意味……」

 卓が次に女性の方に視線をやるとすでに女性はいなかった。卓は更衣室を探し回ったがどこにも女性は見当たらなかった。

 「一体どこに……って今はそれどころじゃなかった!」

 プール側から聞こえてきた戦闘音に我を取り戻した卓は全速力で更衣室の出口からプールサイドに出た。そこで丁度女子更衣室から出てきた真理と鉢合わせした。

 「卓! 石はある?」

 「ああ!」

 そう言って卓と真理はお互いに石を確認した。その後目と目でアイコンタクトを取って頷いた。

 「「具現せよ! 我が剣!」」

 2人の声は完全に重なり、石はそれぞれ蒼と紅に光り出し、卓の手には長刀を、真理の手には日本刀が現れた。

 「卓、それ……」

 真理は具現された卓の長刀の異変にすぐ気がついた。

 「えっ……」

 卓は自分の長刀を見るとそれは薄い白桃色の光で包まれていた。

 「どうしたのそれ……?」

 (もしかして、さっきの人が言ってた力なのか?)

 卓はさっきのやりとりを思い出しながら自分の長刀を眺めた。

 「真理! 弟くん! まだか!?」

 すると奥の方のプールから3体の水の竜を相手にしている謙介の声が聞こえてきた。

 「卓! とにかく急ごう!」

 「ああ!」

 真理と卓はそれぞれ刀を構えて水の竜に近づいた。水の竜はすぐに2人に気がついて3体のうち2体が囲むように構えた。

 「真理は右のやつを頼む!」

 「分かった!」

 真理と卓は背中合わせにそれぞれ竜に向いあった。

 「気をつけてね二人とも! そいつら想像以上に強いわよ!」

 謙介と2人がかりで残りの一体を相手にしていた要の忠告が飛んできた。要も謙介もさっきまで3体の竜を同時に相手にしていたため息が切れてとても援護に入れるような余裕はなかった。

 「分かってますよ!」

 卓は腰を少し降ろして脚にふんばる力を込めて、自分の身体の正面に白桃の光を纏った長刀を構えた。

 「きしゃああああ!」

 卓と向き合っていた水の竜は咆哮と共に口から巨大な水鉄砲と放った。

 「卓!」

 背中合わせに立っていた真理はすかさず振りかえった。

 「うおおおお!」

 卓は水鉄砲に勢いよく飛び込んで長刀でそれを切り裂いた。すると次の瞬間に水鉄砲は歪な形で崩れ始め、卓の長刀に吸い込まれていった。最後は水の一滴も残さず長刀に吸い込まれた。

 「「えっ!?」」

 真理はおろか、卓自身も驚きを隠せなかった。その様子を横目で見ていた謙介と要も一瞬の間動きを止めて驚愕した。

 「今のって……」

 卓は水を吸い込んでも全く変化のない光に包まれた日本刀を見た。

 「謙介、あれって……」

 「ああ。間違いない。贈与の石でも最高峰の力の一つ、ホーリーなる加護プロテクターだ。」

 謙介はそれを見て勝ちを確信したように口元を緩めた。

 「弟くん! その刀で竜自身を切りつけるんだ!」

 卓からは30メートルくらい離れた場所から謙介は施設内に響き渡るほどの声で叫んだ。

 「……分かりました!」

 卓は大きく頷いて再び竜に向き直って長刀を構え直した。

 「契約の蒼! 我に躍進の力を与えよ!」

 卓の詠唱と共に贈与の石は輝きだし、卓の全身を蒼の光で包んだ。その後で卓はプールサイドを力強く蹴りあげ、そのまま勢いに乗って竜の半分ほどの高さまで跳んだ。

 「これで最後だ!」

 卓はそのまま落下の勢いを利用して長刀を水の竜に突き刺した。水の竜は長刀の突き刺さったところの纏っていた水から吸い込まれ始めすぐに青白く光る魂玉本体が剥き出しで宙に浮いていた。

 「要!」

 その瞬間を見逃すことなく見ていた謙介の合図と同時に要は先端が刃物になっている鎖を投げ、それは見事に剥き出しで宙に浮いていた魂玉を貫通した。魂玉は鎖に突き刺さったままプールサイドに堕ちて静かに炎上して消滅した。

 「卓、すごい……」

 真理も自分の相手の竜のことを一瞬忘れてしまうほど卓の攻撃に見とれていた。

 「真理! 次行くぞ!」

 一度プールサイドに着地した卓はそのまま真理の方に体の向きを変えてそのまま勢いをつけて真理と対峙していた水の竜に突っ込んだ。

 「魂玉本体は任せて!」

 跳び上がった卓の下で真理も日本刀を構えた。

 「契約の紅! 我に躍進の力を与えよ!」

 真理も卓と同様、光に包まれた。

 「2体目!」

 卓はさっきよりスムーズな手つきで2体目の竜にも長刀を突き刺した。やはりさっきと同じく、白桃の光に包まれた長刀に水はみるみる吸い込まれ水に包まれていた球体の魂玉は剥き出しになった。

 「はああああ!」

 卓が下に着地するのと入れ違いで卓が跳んだ高さと同じくらいの高さに今度は真理が跳んで空中で魂玉に向けて日本刀を構えた。

 「いっけええ真理!」

 卓の叫び声と真理の振り下ろした日本刀のタイミングは見事なまでに重なり、宙に浮いていた魂玉は真理の振り下ろした日本刀の刃で一刀両断された。

 「よっし!」

 卓は下でガッツポーズを取り、真理もプールサイドに着地すると静かに炎上していく魂玉を背に卓と軽くハイタッチをした。

 「あらあら、あんなルーキーが2体も倒しているのに私たちはまだなんていいのかしらね?」

 卓と真理の勝利の様子を竜と戦いながらチラ見していた要が謙介を煽るように言った。

 「いいわけないだろ。」

 謙介は水の竜の攻撃をかわし続けるために動き回っていたが急に動きを止めて黄金の光を纏った剣を前方に構え、目を閉じた。

 「はあああああああ!」

 謙介は目を閉じたまま剣に精神力を注ぎこむように力を込めた。すると黄金の光は次第に剣と同じ刃の形となっていって刃の部分のみに纏った。その大きさはもともとの剣の約3倍ほどにまでなった。

 「聖なる加護ほどではないけどな。1対ならこれで十分だ!」

 謙介はそう言い放って光で巨大化した西洋風の剣を勢いよく振り切った。すると黄金の光は刃の形のまま放たれ、ものすごい暴風と共に水の竜に直撃した。あまりの暴風に周りのプールの水もほとんどあちこちに飛び散って、直撃を受けた水の竜が纏っていた水も一瞬だけ魂玉が剥き出し状態となった。

 「はあはあ……要!」

 巨大な一撃を放った後の謙介の息は上がっていた。

 「了解! 連鎖一貫!」

 要はその一瞬を見逃すこともなく華麗な鎖裁きで魂玉に向けて鎖を投げた。鎖は一寸のずれもなく球体の魂玉のど真ん中をすぱっと貫通し、そのまま魂玉は鎖に貫かれたまま炎上して消滅した。

 最後の竜の消滅に伴って、周りのプールで発生していた竜巻もいつの間にか消えていた。

 「……苦戦したな。」

 謙介はあからさまに疲れ切った表情をしていた。

 「あら? 最強の討伐者ももう引退かしら?」

 そんな謙介の様子を見て鎖を石に隠匿した要がいたずらっぽく笑った。

 「馬鹿を言うな。まだまだ現役だ!」

 からかわれた謙介も負けじと剣を振り回し、一通り終わったところで剣をしまった。

 「謙介さん!」

 謙介と要の元に卓と真理も駆け寄ってきた。

 「真理、弟くん。いや、助かったよ。ありがとう。」

 謙介はさっきまでの疲れきった表情を完全に隠して、笑顔で卓に手を指し伸ばした。 

 「いえ、こちらこそ。」

 卓も握手に応じた。

 「ところで弟くん、さっきの力は一体どこで手に入れたんだ? この前会った時にはなかったと思うんだが?」

 謙介の質問に真理も要も卓の答えを気になっているようで興味の眼差しで見ていた。

 「あの、俺もよくわからないんですけど、さっき更衣室で女の人に会って、その人が少しだけ力を与えてくれるって言ってくれて、それで……」

 「女の人? この断絶の中でかい?」

 卓の言葉に謙介と真理、そして要も怪訝そうな表情を浮かべていた。

 「はい……なんかこう黒髪で大和撫子風の人でした。もしかして討伐者なんですかね。」

 謙介は手を顎にあてて少し考え込んだ。

 「どうだろうな。ただ、断絶の中で動けるということは石の力が何かしら関与しているか、もしくは冥府の住民か。」

 「でももし冥府の住民なら彼に力を与えたりするかしら?」

 今まで黙って話しを聞いていた要が口を開いた。

 「まあ普通はそんなことしないだろうな。だが、冥府の住民についての情報はあまりに少なすぎる現状では断定もできないだろう? あくまで可能性の一つとしてだ。そういうこともありえるということを考えに入れておいて損はないだろ。」

 「ねえ卓、その人他に何か言ってなかったの?」

 「う~ん。他には特には言ってなかったような。」

 「そう。やっぱり手掛かりが少ないわね。」

 4人は行き詰ったようにその場で考え込んだ。

 「弟くん、実は君のさっきの力は贈与の石が与える力でも最強クラスのものでね、名は聖なる加護。その実態はその光に触れた冥府の力を吸収するというものだ。つまりさっき冥府の力で操られていた水は光を纏ったその長刀に吸い込まれたというわけだ。」

 謙介の言葉に卓は自らの長刀を見た。

 「あれ? 光が消えている……」

 卓が長刀を見たときにはすでに白桃の光は消えていた。それに謙介と要も興味深そうに卓の長刀を見つめた。

 「一時的に発動したのか。弟くんの意思で発動できるわけではないんだね?」

 「たぶん……」

 「そうか、いやそれが当然だ。俺でさえ未だに聖なる加護は発動できないんだからね。まだルーキーの君が本来使える力でもないんだ。だからこそ他人から力の受け渡しが可能ということを証明してしまった今回の件は思いのほか深刻な事態でね。」

 「深刻?」

 卓はなぜだろうという表情で首を傾げた。

 「真理から聞いているとは思うが、贈与の石はその所有者の得た経験値に比例してそれに見合っただけの力を与えてくれるものだ。けれど、さっきの聖なる加護は100年以上戦い続けても得られるかどうか分からないという代物だ。それをここ数日戦っただけの弟くんが使うなんてことは深刻というには十分すぎる。」

 「ホント、何者なのかしらねその女の人。」

 要は少し楽しげに言った。基本的に不思議な怪奇などを好む要はこう言った類の話は好きなのだ。

 「その女が何者のしてもあまり時間はないな。もう今日から始めるしかないか。」

 「始めるって、訓練を?」

 真理が謙介の前に出て聞いた。

 「もちろんだ。もう時間が無い。今日から1週間は掛かるんだ。それでも間に合うかどうか保障は出来ない。」

 「……そう。」

 真理はすぐに謙介から卓の顔に目線を変えた。真理は確かに卓の瞳に覚悟が見えたのを確信した。

 「じゃあ断絶を解くぞ、二人とも武器はしまうんだ。」

 謙介の命令に卓と真理もすぐに刀を隠匿した。その後謙介は目を閉じて首から下げていた贈与の石を握るとプール施設内に再び騒音が戻った。

 「あれ? さっきの水の塊は!?」

 断絶される前まで蓮華の近くまで避難していた春奈がさっきの水の竜を探してキョロキョロしていた。他の客も逃げるのを止めて事態が治まったのを確認してパニックはなんとか治まった。

 「たっくん! 真理ちゃん!」

 少し離れたところから蓮華と春奈が駆け寄ってきた。

 「2人とも大丈夫だったか?」

 卓の質問に2人とも元気よく頷いた。

 「なら良かった。あ、それでこの後なんだけど俺と真理はちょっと用事が出来て帰らなくちゃいけないんだ。」

 「え~!? 何よそれ。」

 卓の言葉に春奈は不満そうな表情を浮かべた。

 「何かあったの?」

 蓮華の質問に卓はああ、とだけ答えた。それでも蓮華は大体のことを悟った。その上で静かに、それでも深く頷いた。

 「じゃあ春奈、私たちも帰ろうか。」

 蓮華はそれだけ言い残して春奈の手を握ってそそくさと更衣室に向った。春奈だけは状況が分からずに戸惑いながら蓮華に引っ張られて行った。

 (悪いな蓮華……)

 卓は心の中で蓮華に感謝しつつ謙介たちに向き直った。

 「じゃあ俺達もこれから北にある灯台に向おう。」

 謙介の言葉に要と真理は頷いて女子更衣室に行った。プールサイドに残った謙介は動かなかったので卓も様子を見ていた。

 「弟くん、もしこの戦いが終わっても君は真理のパートナーとして討伐者であり続けるのかい?」

 「えっ?」

 卓は突然の質問に呆気に取られた表情をした。

 「別に強制はしないよ。君が討伐者でなくなったとしても俺は君を責めたりはしない。むしろ君だって普通の高校生なんだ。こちら側にいつまでもいる義理は無いと思うしね。」

 「…………」

 卓は考え込むように黙り込んだ。

 「この戦いだって本来なら君は参加しなくてもいいんだ。言っておくが命の保証はないよ? これからやる特訓だって生半可なものでもない。引き返すなら真理のいない今がチャンスだと思うけどね。」

 謙介の口調は段々子供を諭す様なものになっていた。

 「謙介さん……」

 「何だい?」

 「俺は5年前に真理にこの命を救われたんです。あの魂の傀儡子から。既に討伐者だったとしても小学生だった真理は俺と同じくらい怖かったはずなんです。それでも俺の命だけは助けてくれた。それからの5年間、俺は自分の無力さに悔しさを感じながら生きてきました。今だって真理を守れるほど強くなったなんて言えませんけど、それでも5年前よりは強くなったと思います。」

 謙介は卓の言葉に静かに耳を傾けていた。卓はそれを確認して続けた。

 「そして、この前真理と再会出来た。今度はもう離れ離れになんてなりたくないんです。だからこそ一緒に強くなっていきたいんですよ。真理の後ろで守られてばかりじゃなく、今度は俺が真理の前でアイツを守ってやりたい。それが俺の願いですから。」

 卓はそこで口を閉じた。卓が顔を上げて謙介を見ると、彼は嬉しそうに何度も頷いていた。

 「いや、素晴らしいよ。真理はとてもいいパートナーに巡り合えた。君になら安心して妹を任せられる。頑張ってくれ、これからの1週間、君と真理なら耐え抜けるはずだ。」

 「はい!」

 卓は拳に力を込め、謙介の目をしっかり見て返事をした。話しを終えた2人も真理たちと同様に男子更衣室に入って行った。

 それから数十分後、卓、真理、謙介、要の4人は灯台近くのバス停にいた。

 「この町はこんな外れにある灯台までバスが通っていて便利だね。」

 謙介はふむふむと顎に手を添えながら満足げな表情を浮かべていた。

 「まあここの灯台の周りにはちょっと前までは自然公園があったんですよ。それの名残ですかね。」

 卓は謙介の隣まで歩いて来て説明した。そんな話をしている間にすぐに灯台まで着いた。

 「ここの地下に訓練用施設があるんだよ。」

 謙介はズボンのポケットからカードーキーを取り出し、灯台の入り口である高さ3メートル以上の鉄の扉の横にある機械にスライドさせた。すると機械に埋め込まれた液晶パネルに黄色い文字で《ロック解除》と表示され、ピッという電子音の後に重い鉄の扉がギギギと音を立ててゆっくり開いた。

 「さ、入って。」

 先に謙介と要が入ってその後から真理と卓が入った。4人が入ると鉄の扉は勝手に閉まって最後はガチャンとロックの掛かった音が灯台の中に響き渡った。

 「要、照明を。」

 「はいはい。」

 要がパチンと指を鳴らすと、暗闇だった灯台の中に一瞬にして蛍光灯のような明るい光で包まれた。

 「まぶしっ!」

 急に明るくなったので真理は手で顔の部分に陰を作った。

 光に照らされてよく分かるが、灯台の中は意外と広く、円柱型の灯台の中は真ん中にエレベーターが埋め込まれた太い柱が一本と、周りには上の階へと続く幅の広い螺旋階段が取り付けてあった。最上階には一応巨大なライトが取り付けてあった。それ以外はこれといって何の変哲もない灯台だった。

 「この中央のエレベーターから地下に降りられるんだ。」 

 謙介はそう言って灯台の中心にあるエレベーターの扉の前まで歩いた。

 「あの、でもこのエレベーターにはボタンが無いんですけど……」

 卓はエレベーターの周りを確認したが、確かにボタンもなく、それどころか階の表示パネルすらなかった。代わりに扉の近くに卓の背丈の半分ほどの高さの台の上に0から9までの数字が書かれた液晶パネルがあった。

 「このエレベーターは地下のみの直通でね、ここの数字パネルに決められたパスワードを入力しないと作動しないんだ。」

 謙介は喋りながらぱぱっと素早い手つきで10桁の数字を入力した。するとピピという電子音の後にエレベーターの扉が開いた。

 「真理、弟くん。あとはこのエレベーターに乗るだけなんだが、もう一度聞く。覚悟は出来ているのかい? 言っておくが本当にこの訓練は辛いものだ。でも2人とも強制されているわけじゃないんだ。エレベーターに乗ったらいよいよ引き返せないよ?」

 謙介の質問に卓と真理は一瞬目を合わせてから再び謙介に向いあって頷いた。

 「……覚悟は出来ている見たいだね。分かった。ならこのエレベーターに乗るといい。」

 「卓。」

 「ああ。」

 卓と真理は同時にエレベーターの中に足を踏み入れた。

 「頑張ってね、2人とも。」

 要は片手で小さくガッツポーズを取った。卓と真理も振り返って同じポーズを取るとエレベーターの扉は静かに閉まって、それから間もなく下に動き出した。

 「行ってしまったわね。いいの? 妹さんのこと心配なんでしょ?」

 灯台の一階に残された要は隣の謙介に訊ねた。

 「心配じゃないわけないだろ。けど、止めたところであの2人は聞かないだろ。それにもし覚悟が足りないならすぐにここに戻されるだろうさ。」

 「見定めの扉だったかしら。」

 要は何かを思い出すように頭を指でちょんちょんと叩いた。

 「ああ、少しでも自らの覚悟に疑念を抱いたら訓練を受けることすら出来ないからな。」

 「謙介はすぐに戻ってきてほしいの?」

 「……さあな。」

 謙介は一言だけそう言って螺旋階段の一番下の段に座りこんだ。

 「素直じゃないんだから。」

 要はクスリと笑って灯台の壁にもたれかかった。

  

 同時刻、エレベーター内部。

 「卓」

 卓はそのまましばらく待ったが真理は何も言わなかったので逆に質問した。

 「何だ?」

 「絶対……」

 真理が言いたいことをなんとなく察した卓はふうっと息を吐いて言った。

 「大丈夫だ。絶対に強くなるから。死んでも諦めたりなんてしねーよ。」

 「……うん。」

 真理は卓の言葉に頬を赤らめて顔を地面に向けた。そんなやりとりの中、エレベーターの稼働音は止まった。

 「いよいよね。」

 「ああ。」

 エレベーターの扉が開くと同時に卓と真理は同時に一歩を踏み出した。

 「これって……」

 エレベーターから降りるや否や真理が口を開いた。卓も口をあんぐり開けていた。2人の目の前には灯台と同じ円状のフロアの壁に合計10個の扉が埋め込まれていた。エレベーターの扉が閉じると、扉に張られていた張り紙が現れた。

 「何か書いてあるぞ。」

 その張り紙を見つけた卓は顔を近づけてそこに書いてある文字を読み上げた。

 「えーっと。これらの扉からそれぞれ一つ選べ。苦難の道、安楽の道、選ぶのはおのれ自身、だってよ。」

 「ここからは別行動になるってわけね。」

 真理はすぐに10個のうちの1つの扉の前に立った。それを見た卓はフッと笑った。

 「だな、迷うことなんかねえよな。俺達は強くなりにきたんだから。」

 卓も真理の選らんだ扉の3つ隣の扉の前に立った。

 「じゃあ、次会うときは強くなってからね。」

 「ああ、次会うときには真理を守れるくらい強くなってやるぜ!」

 卓と真理はぐっと拳を突き出して、それを確認してから同時にそれぞれの選んだ扉の中に入って行った。

 そのころ灯台一階にいた謙介と要はさっきから一歩も動いていなかった。

 「もう一〇秒以上経ったわね。あの子たちなんなくクリアしたみたいよ?」

 要はいたすらッぽく笑って見せた。

 「みたいだな。あの扉はエレベーターの扉が閉じてから一〇秒以上経つとどれも開かなくなる仕組みだからな。それにどの扉を選んでも楽な道なんてのはない。あれはただ挑戦者の覚悟を確かめるための物だから。あの2人の言葉に偽りはなかった。それだけのことだ。」

 「本当に素直じゃないわね、嬉しいくせに。」

 「うるせ~。」

 謙介はプイと要から顔を背けた。

 同じ時、地下で一つの扉を選んだ卓はある一定の間隔で小さな灯りが灯った薄暗くて長い廊下を歩いていた。

 「こんな長い廊下、どうやって作ったんだよ。てかこの道合ってるのか?」

 卓は廊下をキョロキョロ見渡しながら歩き続けていた。

 「真理もこんな道だったのかな。」

 卓がぶつぶつ呟きながら歩いていると突然大きく開いた広間に出た。その広間も廊下と同じく、周りに灯りがポツポツとあるだけで決して明るいとは言えなかった。ただ他にも今までの部屋とは違って円状ではなく正方形だった。

 「あれ、行き止まりなのか?」

 卓は広間を見渡したがどこにも先に続く道は無かった。

 「いいや、ここで合っているよ。」

 「えっ?」

 突然広間に男の声が響き渡り、卓は瞬間的に一歩跳び退いた。

 「はは、そんなに警戒することはないよ。」

 弾むような声はまたしても広間に響いた次の瞬間、広間の灯りが強くなり、すごく明るく照らされた。するとさっきまでオレンジ色に染まっていた広間は一転純白色に変わった。

 「はじめまして、僕は三浦小鉄と申します。」

 いつの間にか広間にいた少年は深深とお辞儀をした。少年は見た目は一五歳から一七歳くらいでカジュアルな感じの黒髪で、制服のような格好に身を包んでいた。

 「あ、こちからこそはじめまして。」

 卓も反射的に頭を下げた。 

 「僕はあなたの選んだ扉の第一関門を担当するものです。短いお時間になると思いますがなにとぞよろしくお願いしますね。」

 小鉄はにこりと笑った。

 「担当……?」

 「はい、僕をここで見事倒すことが出来ればこの先の道が開かれるのです。」

 「……なるほどね。で普通に戦えばいいのか?」

 卓は挑発するように言い放った。

 「そう慌てないでください。今回の内容はこれです。」

 小鉄は悠長な喋り方ですっと水風船を取りだした。

 「……」

 卓は水風船を出した意味が分からず口を紡いだ。

 「これから僕の持つこの水風船を制限時間内に割ることができればあなたの勝ちです。割れなかった場合は負けとなりますのですぐに地上に戻っていただきます。どうです? 簡単でしょう?」

 小鉄の問いに卓は口元を緩めた。

 「なんだ、どれだけきつい特訓かと思ったら案外楽じゃねーか。いいね分かりやすくて。」

 「気に入ってもらえたようでなによりです。制限時間内ならどんな手を使っても大丈夫です。もちろん持ち前の刀を使っていただいても構いませんよ。ああ、安心してください、僕は決して武器を使ったりしませんから。」

 小鉄は余裕に満ち溢れた笑顔を見せた。

 「なめられたもんだな。まあいいや。でも俺もお前が武器を使っても何も言わないからキツイときは遠慮なく使ってくれていいぜ。」

 「そうですか? ならもしそんなときが来たときには考えさせていただきます。」

 「じゃあ行くぜ! 具現せよ! 我が剣!」

 卓の勢いある詠唱と共にベルトに括り付けられた蒼の贈与の石が輝き、広間はその光に包まれた。

 「綺麗ですね。」

 蒼の光に小鉄は完全に見とれていたが、卓の手に長刀が握られたのを確認すると長めの紐を通した水風船を首から下げた。

 「行くぜ!」

 「いざ!」

 卓と小鉄はそれぞれ力強く広間の床を蹴りあげ距離を詰めた。

 時刻は少し戻り、卓が薄暗い廊下を歩き続けている同時刻。真理は卓とは違った、金網で出来た、一歩歩くたびに軋む橋を渡っていた。橋の下はそれほど深くなく10メートルくらいだった。

 「卓はどんな道を進んでるかな。」

 真理は卓のことを考えながらただひたすら金網の橋を渡り続けた。すると卓同様開けた場所に出た。

 「ここって……」

 真理が出た場所は壁にたくさんの機械類がはびこっていて時々機械音が響く空間だった。

 「先に続く道は無いのね。」

 機械に囲まれた空間にはその先へと続く道は見当たらなかった。そんなとき、真理の正面にあった巨大なスクリーンに突然文字が映し出された。そこには『己の石をここへ封印せよ』と書かれていた。

 「なるほどね。石の力を使わずに私自身の能力向上を目的とした訓練といったところかしらね。」

 真理は納得したように頷いてスクリーンの下にちょうど贈与の石がはまるくらいの溝が掘られた台に自分の石を置いた。すると次の瞬間、台から小さなドーム型のプラスチックが現れて贈与の石をカバーした。

 「そんなことしなくても取らないわよ。」

 真理は鼻で笑うように言った。

 「で私の相手はこれなわけ?」

 真理が振り返るとそこには2メートル程の高さの人間型のロボットが立ちかまえていた。

 「アナタノアイテヲツトメサセテイタダク《ミニア》トモウシマス。イゴヨシナニ。」

 ミニアという名のロボットはぎこちない動きで頷いた。

 「このロボットは壊しても問題ないのかしら?」

 真理は勝ちを確信したように笑みを浮かべた。

 「ハイ。ワタシノヨビハイクラデモアリマスノデ。タダソウカンタンナコトデハアリマセンヨ。」

 「どうかしら?」

 真理はそう言って勢いよくロボットとの距離を縮めた。

 「デハ、ワタシモマイリマス。」

 ミニアはさっきまでのぎこちないお辞儀からは想像も出来ないほどスムーズな動きで突っ込んでくる真理に自分から近づいた。

 「はああああ!」

 真理は一瞬止まって地面を力強く蹴りあげ、ミニアの目線の高さまで跳んだ。そしてそのまま空中でミニアに向って回し蹴りを繰り出した。

 「アナタノソノウゴキハヨソウズミデス。」

 ミニアは機械音のような声でそう言うと、顔面部分のパネルに顔文字を表示させた。そして上半身を後ろに垂直になるように倒し、真理の回し蹴りは空振りに終わった。体制を崩した真理はそのまま床に尻持ちをついた。

 「いったああ。」

 真理はすぐに立ちあがってぶつけた部分をさすった。

 「ソノテイドデハワタシハタオセマセンヨ?」

 ミニアは倒した上半身を勢いよく起こし、その勢いを利用して真理に体当たりした。

 「かはっ!」

 ミニアは真理に直撃し、一瞬呼吸すら出来なかった真理はそのまま機械だらけの壁に激突した。

 「けほっ! けほっ!」

 真理は咳込みながらよろよろと起き上がった。

 「コレハヨダンニナリマスガ、ツウジョウイシノショユウシャガソレヲテバナストセンリョクは100ブンノ1マデテイカスルトイワレテイマス。」

 「……」

 真理はまだ苦しそうに、しかしミニアを完全に睨みつけていた。

 「マダツヅケマスカ?」

 「当たり前でしょ!」

 返事と共に真理は再びミニアに突っ込んで行った。さっきよりも早い速度でミニアとの間合いを詰めると、ぶつかる直前に片足を軸にして体を回転させて一瞬にしてミニアの後ろに回り込んだ。

 「これならどう!?」

 後ろに回り込んだ真理は片足でしっかり体を支えて、もう片方の足をミニアの頭部まで上げ回し蹴りのモーションに入った。

 「カンガエハワルクアリマセン。デスガ……」

 ミニアは首から下の部分だけを一八〇度回転させて、体だけ真理の方を向くという人間なら間違いなく死に至る状態となって真理の蹴りを両手で受け止めた。

 「なっ!? ロボットならなんでもありってわけ!?」

 真理はすぐに足を引っ込めミニアから少し距離を取って構えなおした。

 「イッタデショウ? ワタシヲタオスノハカンタンデハナイノデスヨ。」

 ミニアの顔部分のパネルには勝ち誇ったような表情の顔文字が映し出された。

 「むかつくわね、その顔文字。」

 真理の握った拳には一層力が込められた。

 「サアエンリョナクキテクダサイ」

 ミニアは真理を挑発するように金属で出来た指をくいくいと動かした。

 「ぶっ壊す!」

 真理は勢いよくミニアに突っ込むと今度はミニアがいつの間にか真理の後ろに回り込んでいた。

 「……!?」

 気がついて真理が振り返った時にはすでに真理の腹部にミニアの拳が入っていて、真理は再び壁に打ち付けられた。

 「かっはっ!」

 真理は一瞬意識が飛びそうになったがなんとか持ちこたえ、床に膝をついた。

 「……全く、どこの科学技術が生み出したのよ、この生意気なロボット……」

 真理は悔しそうに立ちあがった。

 「キギョウヒミツデス」

 「あっそ!」

 苛立ちを隠しきれずに真理は拳が入った腹部をさすりながらミニアを見据えていた。

 同時刻、純白色の広間では卓と小鉄が激しい攻防を繰り広げていた。

 「はあ……はあ……」

 風船割りが始まって三〇分が経過したところで卓の息は完全に上がっていた。

 「意外と難しいでしょう? 水風船割るの。」

 小鉄は卓とは正反対に余裕の表情を見せていた。

 「ああ……正直なめてたよ。」

 卓は乱れた呼吸を整えながら長刀を構えなおした。

 「制限時間は三時間ですからあと二時間半くらいですよ?」

 「まだまだ!」

 卓は長刀を構えたまま小鉄に向って駆けだした。

 「いいですね、そういう一生懸命な人嫌いじゃないです。」

 小鉄は笑顔のまま卓の一撃をひょいっと後ろに軽く跳び退いて完全に避けた。

 「追撃!」

 卓はそのまま地面を短く、それでいて力強く蹴り、跳び退いた小鉄との距離を長刀が届くまで縮めて、再び横から長刀を振り抜いた。

 「おっと!」

 小鉄は言葉とは裏腹に余裕の表情は崩さないまま瞬時に逆立ちの格好を取り、靴の裏側で卓の長刀の一撃を止めた。

 「なんつー動きしやがるんだ!」

 卓はそのまま長刀を振り抜いて小鉄を無理矢理後退させた。

 「あはは、あなたこそなかなかの力じゃないですか。」

 小鉄は楽しげに笑って両腕で床をポンと弾いて空中で一回転した後に見事に着地した。

 「時間はどんどん減っていますよ~?」

 「言われなくても分かってるよ!」

 小鉄が着地するのと同時に卓はすでに小鉄の懐まで潜り込んでいた。

 「はああああ!」

 卓は長刀の攻撃範囲に入った小鉄に向けて本気で刀を振り抜いた。小鉄はそのまま卓とは反対側の白い壁まで飛ばされた。

 「はあ……はあ……。……やったか?」

 卓は呼吸を整えながら小鉄が飛んで行った方に顔を上げた。

 「今のはちょっと危なかったです。つい石の力を使ってしまいました。」

 吹っ飛ばされた小鉄はけろっとした表情で壁の前に立っていた。小鉄は薄い水色の球体の膜のようなものに包まれていた。

 「な、なんだそれ……」

 「ルール違反ではないですよ? 武器は使わないと言いましたけど、石の力を使わないとは言っていませんから。」

 小鉄はくすりと笑った。

 「……石の力?」

 「はい。これは吸収球体アブス・スフィアというものです。外部からの攻撃などを無力化する球体なんです。」

 「……なるほど、だから今のでも水風船が割れなかったのか。」

 「そういうことです。」

 小鉄は笑みを絶やすことなく、その場で軽く何度も跳ねはじめた。

 「じゃあ次はこっちからいきます。」

 「!?」

 小鉄の言葉が聞こえたときにはすでに目の前に小鉄の姿は無かった。

 「ぐはっ!?」

 気がついたときには卓はすでに壁に激突していた。卓の鳩尾に意識が飛んでしまいそうなほど強烈な一撃が入っていた。

 「反応が遅すぎます。」

 卓が崩れ落ちて行くのと反対に卓から少し離れたところにすたっと小鉄が着地した。

 「全然……見えなかった。」

 卓は腹部を押さえながらなんとかその場に立ちあがった。

 「石の力を纏っただけですよ。あなたもこれくらいならすでに出来ているんでしょう?」

 (確かに、石の力で肉体を強化させることは出来るけど、あそこまで変わるものなのか……?)

 卓が考え込んでいると、それに気がついた小鉄がまたしてもくすりと笑った。

 「まあ同じ力でもやはり経験値の差で変わってくるものです。これが今あなたが求めていた答えじゃないですか?」

 「なっ……!?」

 卓は自分の心の中を完全に読みとられたことに同様を隠し切れていなかった。

 「さて、おしゃべりが過ぎましたね。もうあと2時間10分しかありません。……!?」

 「もらった……!」

 小鉄が喋っている間に後ろに回り込んでいた卓はすでに長刀を構えていた。

 「不意打ち、ですか。」

 小鉄は卓の方を振り返ることなく再び吸収球体を発動させた。卓の一撃はまたしても吸収球体に弾かれ、今度は小鉄を動かすことすらできなかった。

 「くっそ!」

 卓は吸収球体を勢いよく蹴って後ろに跳び退いた。

 「吸収球体を発動させれればたとえ後ろからでも上からでも下からでも、360度どこからの攻撃でも防ぐことが出来るんです。」

 小鉄はようやく振り返って得意げな表情を浮かべた。

 「外部からの攻撃が効かない……。……外部から……?」

 卓は何かを確かめるように小鉄を見据えた。

 「おや? どうかしましたか?」

 (……試してみるか。)

 卓はまたしても長刀を構えたが、それと同時にこっそりポケットに手を入れた。

 「契約の蒼、我の刃となって具現せよ!」

 詠唱に呼応したベルトに括り付けられた贈与の石が光り出し、その光は卓の手に握られた長刀の刃の部分を纏った。

 「本気になったようですね。」

 小鉄も少し腰を落として迎え撃つように構えた。

 「これで決める!」

 卓は蒼の光を纏った長刀を構えながら一直線に突っ込んだ。そしてある程度の距離を詰めると長刀を勢いよく振り抜いた。すると長刀から巨大な蒼の斬撃が放たれた。

 「ふふ、確かに斬撃なら威力は高まりますが、それも同じことです。吸収球体発動。」

 小鉄の言葉のすぐ後に小鉄を覆い尽くす薄い水色の球体が現れた。

 「ああ。だろうな、だからこそ俺はこの斬撃を囮にしたかったんだ。」

 「囮……? いたっ!」

 斬撃は吸収球体にぶつかった瞬間に消滅したが、球体に包まれた小鉄に何かが当った。

 「何ですか!?」

 小鉄は急いで吸収球体を解除すると、小鉄にぶつかった何かが勢いよく飛び出た。

 「……あれは、スーパーボール……?」

 小鉄を襲った正体は掌に治まるくらいのサイズのただのスーパーボールだった。

 「やっぱりな。」

 その様子を見ていた卓はどこか勝ち誇った表情を浮かべた。小鉄はそれとは反対にスーパーボールの当った腕をさすっていた。

 「確かにその吸収球体は外部からの攻撃は全く効かないみたいだな。でも逆に内部からの攻撃はちゃんと受けるんだ。」

 「まさか、それを確かめるために今の斬撃を?」

 「ああ。でも、普通の攻撃なら間違いなくスーパーボールに気付かれるだろ? だから見栄えの派手な斬撃ならそっちに目がいくだろ? 俺は斬撃のちょっと前にスーパーボールをお前に向けて投げたんだ。」

 「……今のは一本取られました。ですが、なら話は簡単です。常に吸収球体を発動させるまでです。」

 小鉄は再び余裕の笑みを浮かべ吸収球体を発動させた。

 「まあそうなるだろうな。けど、今のでもう一つ分かったことがある。」

 「と、言うと?」

 「球体の中に入ったスーパーボールは外に飛び出すことなく球体の中で弾んでいた。つまり、球体の中からの攻撃は外に出ることは無いんだ。それってお前も俺には攻撃が出来ないってことなんだろ?」

 「……驚きました。まさかあれだけでそこまで観察しているとは。ですが、結局現状は変わらないですよ? なぜなら私は残り2時間この水風船を守るだけでいいんですから。あなたを倒す必要は全くないんですから。」

 小鉄は首から下げていた水風船を手に取ってコロコロと掌の上で転がし始めた。

 「そうなんだよな。そこが問題なんだよ。」

 卓は頭をポリポリと掻いて困ったような表情を見せた。

 「おや? てっきり解決策を用意してあると思っていたのですが。」

 「はは、ないよそんなもの。ただその球体の性質を知りたかっただけだからな。」

 「何を考えているんですか?」

 小鉄は開き直ったような卓の態度に納得いかずに怪訝そうな表情を浮かべた。

 「だから、何も考えてないって。だってもう俺の勝ちなんだから。」

 「えっ……?」

 卓はニッと笑って手首に巻き付けてあったタコ糸をくいっと引っ張った。それと同時に小鉄の掌の上で転がっていた水風船はパンッという音を響かせて割れた。

 「なっ……!?」

 小鉄は驚愕して、割れた水風船と卓を見比べた。小鉄の掌の上には水風船の代わりにタコ糸に括りつけられていた裁縫用の針があった。

 「これは……」

 「へへ、さっきスーパーボールだけじゃなくてその針も水風船に投げつけておいたんだよ。ただ、針が勢いよく風船の中に入っちゃうと風船は割れないから、いつでも引き出せるように糸を括りつけておいたんだ。」

 「なぜ、こんなものを持っていたんですか……?」

 小鉄は本当に不思議そうな表情をしていた。

 「あ~。それは、俺って裁縫が本当に苦手でさ、実はこの服一度破れちゃって自分で縫ったことがあるんだけど、糸が無かったから代わりにタコ糸を使ったんだけど、針を抜き忘れてたみたいなんだよね。それがそのままになっているのさっきお前に飛ばされたときに気がついて、これならいけるんじゃないかって思ったわけ。」

 卓は自分の苦手なことを暴露することに少し恥ずかしさを感じて小鉄から顔を背けた。

 「……ふふ。あなたは本当に面白い人だ。」

 最初は目を丸くして驚いていた小鉄もついに笑い出し、吸収球体を解除した。

 「うるせ~。っでこれは俺の勝ちなんだろ?」

 「ええ。もちろんです。」

 小鉄は清々しいほどの笑顔を浮かべた。

 「次の訓練への道を示しましょう。」

 小鉄の指鳴らしと共に、卓の向い側の壁が重い音を立てながら持ちあがって大きな扉が現れた。

 「こんなところに扉が?」

 「ええ。ここから下の階に行けます。」

 「おう、サンキューな。」

 卓は何のためらいもなくその扉を潜りぬけようとした。

 「ちょっと待ってください。」

 「ん? 何だ?」

 卓は小鉄の方に振り返った。そこにはさっきまでの悠長な雰囲気の小鉄ではなくどこか重々しい感じの小鉄がいた。

 「次の階は正直言って厳しいですよ。内容は言えませんが、この階なんて比べ物にならないくらい辛い、いえ命の保証すら出来ないんですよ? ここからでも引き返せます。考え直す気はありませんか?」

 「……忠告サンキューな。でも引き返す気はないよ。俺の連れも絶対にそんなことしないだろうし。だから俺だけ逃げ出すわけには行かないんだよね、困ったことに。」

 卓はニッと笑顔を見せた。

 「……そうですか。野暮なことを言ってしまったようですね。」

 「いいよ。じゃあな。」

 卓はすぐに小鉄に背を向けて扉の奥に姿をくらました。

 (本当に面白い人だ。全然困ったような表情してませんよ?)

 卓の背中が見えなくなるまで小鉄はその姿を見届けた。

 一方、別の部屋でミニアと戦っていた真理も息絶え絶えになっていた。

 「こんなロボットにも勝てないなんて……」

 「ワタシハツヨイデスカラ、アマリキニシナクテモイイノデスヨ?」

 「なめるな!」

 真理はプチンと聞こえるほどに頭に血が上ってミニアに単調に突っ込んだ。

 「ソンナウゴキデハダメダトオモイマスヨ」

 ミニアの顔部分のパネルにまたしても顔文字を表示させ鉄の塊の両腕を振り上げ、真理の両肩を押さえつけた。

 「!? 動かない!」

 真理の背より高い位置から押さえつけられたために体を全く動かすことが出来なかった。

 「ウエカラオサエツケルトツウジョウヨリイリョクヲハッキスルモノデス」

 「だからなんだっていうのよ!」

 真理は勢いよくその場に屈みこんで、肩からミニアの手を振り払うとミニアの腹部に蹴りを一発入れて後退しながら距離を取った。

 「こんなところでぐずぐずしてる時間はないのよ! 卓だって待ってるかもしれないんだから!」

 しかし、真理の身体はすでにボロボロでもうあと何発かミニアの攻撃をまともに受ければ立ち上がることすら困難な状態だった。

 「タク? シロネタクノコトデスカ?」

 「えっ?」

 ミニアから卓の名前が聞こえてきて真理はばっと顔を上げた。

 「カレナラスデニダイ1カンモンヲクリアシタヨウデスヨ。」

 「……卓が第1関門を突破した……」

 真理はそう呟きながら嬉しそうに口元を緩めた。

 「だったら私もさっさとクリアしないとね。」

 「テカゲンハシマセンヨ?」

 「余計なお世話よ!」

 真理は残りの体力を振り絞ってミニアとの距離をどんどん縮めた。

 「デスカラソノウゴキデハワタシハタオセマセンヨ」

 「どうかしらね!」

 勢いに乗った真理はミニアの足と足の間にスライディングで潜り込んだ。

 「はあああ!」

 ミニアの股の下に潜り込んだ真理はそのまま勢いよく下からミニアを蹴りあげた。

 「ヨソクフノウノウゴキデス!」

 真理に蹴りあげられたミニアは空中に放り出された。

 「!! 案外重いのね、でも私だって基礎トレーニングは嫌気がさすほど積んできてるのよ!」

 真理はミニアを蹴りあげた状態からすぐに立ちあがって金網の床を思いっきり蹴りあげ空中に放り出されたミニアより高く跳び上がった。

 「ロボットにここまで苦戦するとは思ってなかったわよ。」

 真理はニッと笑って、そのまま空中でミニアに強烈なかかと落としを決めた。かかと落としを顔面に受けたミニアのパネルは割れて、そのまま床に叩きつけられた。金網の床に叩きつけられた音はその部屋中に響き渡ったが、床が突き抜けることは無かった。

 「グギギギ……サイキドウフカノウ……」

 それからミニアが言葉を発することは無く、それっきり動かなくなった。

 「はあ……はあ……。やっと倒した。」

 ミニアの後から床に着地した真理は息を整えていると、突然ガチャンという大きな音が響いた。

 「えっ? 何!?」

 真理が驚いてフロアを見渡していると、急に床がエレベーターのように下に降り始めた。

 「えっ? えっ?」

 事態を飲み込めていない真理を無視して床は止まることなく下に下降し続け、しばらく下に向ってから再びガチャンという音とともに停止した。

 「止まった……」

 真理が床がまた動きださないか確認するために見回していると降りてきたところの壁に一つの大き目の扉があった。

 「……第1関門クリアってことね。」

 真理はようやく事態を把握し、台の上に置いてあった自分の贈与の石を手に取った後でゆっくり扉を開いて、そのままその中へと入って行った。

 そのころ、灯台1階では謙介と要の他にさっきまで卓と対峙していた小鉄も交えていた。

 「小鉄、お疲れ。」

 エレベーターで地上まで戻ってきた小鉄の肩に謙介はポンと手を置いた。

 「いえいえ。僕もいい経験が出来ましたから。」

 「どうだった、弟くんは?」

 謙介の質問に小鉄はくすりと笑った。

 「実にユニークな人でした。あんな同業者もいるんだなと思いましたね。」

 「同感ね。私も初めて見たときはそんな印象だったわ。」

 要も初めて卓と会った時のことを思い出して笑った。

 「小鉄がそこまで褒めるなんて珍しいな。」

 「ええ、だからこそ僕に勝った時点で引き返してもらいたかったのですが。」

 小鉄はため息交じりに笑った。

 「本当に弟くんのことを気に入ったんだな。まあ確かに小鉄ではないけど、俺も次の訓練は少し不安なんだがな。」

 「僕が言うのもなんなんですけど、アレは訓練というより拷問に近いですよね。」

 「確かにね。謙介、大丈夫?」

 要も小鉄と同じく不安そうな表情を浮かべた。

 「それでもあの2人ならやってくれると信じている。」

 謙介は目を閉じて何かを祈るように言った。

 


 同時刻、日本の東京、討伐者総本部。

 天井に巨大なシャンデリアが吊るされ、床は赤い絨毯で、漆が光る木製の机とそれとセットとなっている肘掛付きの椅子に一人の老人が座っていた。老人の横には秘書のような格好でスーツがその細身をより一層引き立てるような美人系のショートヘアの女性が立っていた。

 「今日からだったかな、鳴咲市の訓練施設の使用開始日は。」

 老人は自分の長い顎鬚を手で撫でながら隣にいた秘書に訊ねた。

 「はい、本日からでございます。総帥殿。」

 「ほっほっほ。その呼び方はどこかよそよそしいから止めてほしいのだがね、冬音くん。」

 「善処します。」

 この老人はこの日本討伐者総本部の最高責任者兼総帥である。そしてその隣の女性は総帥専属の秘書である榎本冬音えのもとふゆね

 「君がそう言うときはいつも改善されたことがないような気がするがの。まあよいわ。」

 「はい。」

 「しかし、今日からということは二日後からかの。アレが始まるのは。」

 「……そうですね。」

 冬音は少し険しい顔つきで答えた。

 「冬音くんが気にすることはない。そうじゃろ?」

 「はい。」

 「ふむ、君はどう思うかね?」

 総帥は部屋の出口付近の壁に腕を組みながらもたれかかっていた青年に問うた。

 「……あん? そいつらザコなんだろ? だったら死ぬんじゃねーか?」

 青年は不敵に笑いながら答えた。

 「これ、そのような言い方はよさんか。彼らもお主の仲間なのじゃからな。」

 「仲間ぁ? 笑えない冗談は止めておいた方がいいぜ、爺さん。」

 青年は急に不快そうな表情に一変した。

 「そう機嫌を損ねるでない、九鬼くんよ。」

 総帥が九鬼と呼んだ青年はあからさまにつまらなそうな表情を浮かべて無言でその部屋を出て行った。

 「総帥、お言葉ですがなぜあの男を討伐者として迎え入れたのですか?」

 冬音は九鬼が出て行ったことを確認すると耳打ちをするように総帥に問いかけた。

 「奴は確かに他の討伐者にはない狂気に満ちておる。しかし、今の我々には何より力がいるのじゃよ。奴にはそれがある。性格には難ありじゃが実力は間違いなく討伐者の中で一番じゃ。」

 「……」

 冬音が黙っていると総帥は静かに笑って続けた。

 「冬音くん、世の中には納得できないことでも受け入れなくてはいけないときがあるのじゃ。」

 「ええ。全くそうですね。」

 「ありゃま、冬音くんが拗ねてしまった。」

 「拗ねてません。」

 冬音も九鬼と同じようにその部屋から立ち去った。

 総帥の部屋から出ると、そこは総帥の部屋と同様に一定間隔で天井にシャンデリアが吊るされた長い廊下になっていた。総帥室から出て来た冬音は廊下で先に出た九鬼と再び顔を合わせた。

 「あれ? 美人秘書さんじゃねーか。爺さんに何かやられたのかよ?」

 九鬼は挑発するように冬音に向って言い放った。

 「言っておきますが、私はあなたを討伐者として認めてはいませんよ?」

 冬音は調子を変えることなく狂気に満ちた九鬼を見据えた。

 「俺に喧嘩売ってるのか? かつての最強討伐者だかなんだか知らねーが、今の最強は俺なんだよ!」

 「誰が最強かなど興味ありませんよ。ただあなたには討伐者としての資格がないということです。」

 「……黙れ。殺すぞ。」

 九鬼はチェーンのネックレスにしてある漆黒の贈与の石を光らせた。

 「あなたは異常です。」

 「……ちっ。」

 冬音が動じることなく言葉を続けたのに納得のいかなかった九鬼は贈与の石を光らせるのを止めた。

 「あんたみたいな生真面目な最強にはなりたくないもんだね。」

 九鬼はそのまま冬音に背を向けて、長い廊下を歩き始めた。

 (やはり、あの男はまずいですね。)

 冬音も九鬼の姿が見えなくなるまで目線を反らすことは無かった。


 一方、灯台の地下にある訓練室で第1関門を突破した卓と真理はそれぞれの道を進んでいた。

 「相変わらず長い廊下だな。てかどういう造りになってるんだ?」

 小鉄の関門をクリアした卓は疲れきった体を引きずるようにして廊下を歩いていた。

 「真理も第1関門クリアしたのかな。まあ俺がクリア出来たんだもんな。あいつなら問題なくクリアしたはずだよな。」

 しばらく廊下を歩いていると一つの扉が卓の目に飛び込んできた。さっき通った廊下とは違ってしっかりと灯りが確保されていたこの廊下ではその扉がはっきり見えた。卓はその扉に近づくと張り紙が貼ってあるのに気がついた。

 「休息の間……?」

 卓はポツリと張り紙に書いてあった文字を読み上げた。

 「休息の間ってなんだ? 休めるのかな?」

 卓はこの訓練施設にあまりに似合わない部屋の名前に疑念を抱きつつもその扉をゆっくり開けた。

 「なっ!? これは……」

 扉を開くと同時に卓の視界に入ってきた光景は信じられないものだった。卓の目の前にはさっきと同様に開いた部屋だったが、そこにはオープンキッチンやシャワー室、テレビにシングルベッドが2つと生活する上で十分すぎるほどのものが揃っていた。

 「なんだよこれ……」

 卓はより一層警戒心を強めて部屋を見回しながらゆっくりと入って行った。

 「卓……?」

 卓が部屋に入るとほぼ同時に卓の入ってきたのと反対側のドアから真理が入ってきた。

 「真理!」

 卓も突然目の前に現れた真理を見て目を見開いた。

 「やっぱり第1関門をクリアしたか!」

 「当たり前でしょ!」

 真理は得意げに腰に手を当てて言った。

 「だな。ところでこの部屋は……」

 卓はまたしても訓練室に似つかわしくないこの部屋を見回した。

 「休憩室みたいね。どうやら次の訓練が始まるのは二日後みたい。」

 真理は入ってきた扉の横に張ってあった張り紙を見て答えた。

 「二日後!?」

 「ええ。でもそれはありがたいわよ。認めたくないけど、私も卓ももう体はぼろぼろだし、このまま続けて訓練しても意味が無いわよ。」

 「……確かにな。」

 卓はため息交じりにベッドに腰掛けた。

 「とりあえず今は体を休めることだけを考えないと。」

 真理も卓と同じようにもう1つのベッドに腰掛けた。

 「でも二日も一緒の部屋にいるのはいろいろまずいよな。」

 気まずそうに卓は真理に背を向けた。

 「……何で?」

 「何でって年頃の男女が同じ部屋で一緒に過ごすなんて……」

 「何をいまさら。同じ家に住んでるのに。」

 真理はきょとんとした顔で卓を見た。

 「お前が気にしないならいいけど……」

 卓は決して真理に向いあわずに赤面した顔を隠した。

 「とりあえずお腹空いたから何か食べたいわね。」

 「……」

 卓は背中に真理の視線を感じつつも黙っていた。

 「卓。」

 真理の一言に観念した卓はため息をついた。

 「分かったよ。何か冷蔵庫に入ってるもので作ってやるよ。」

 そう言って重い体を起き上がらせてオープンキッチンに入った。

 「へえ、意外と材料は揃ってるんだな。」

 冷蔵庫を開けると中には豚肉、牛肉、鶏肉の他に多数の魚介類や野菜、そして何種類もの飲み物も入っていた。

 「何作れそう?」

 ベッドに寝転んでテレビを見ていた真理が聞いた。

 「スタミナ定食みたいなものでいいか?」

 卓は冷蔵庫から肉や野菜を取り出しながら答えた。

 「うん!」

 卓の質問に真理は元気よく返事した。

 「じゃあちょっと待ってろ。」

 それから卓がスタミナ定食を作るのにそれほどの時間はかからなかった。30分もするとテーブルの上には2人分の定食が並べられた。

 「「いただきます!」」

 卓と真理は声を合わせて挨拶をすると2人ともすぐに料理にありついた。

 「ところで、真理はどんな関門だったんだ?」

 卓が聞くと真理は肉と野菜の炒め物をつまみながら答えた。

 「今は終わったことより次の関門を気にしないと。」

 「……そうだな。」

 卓は一言そう言うと再び料理を口に運んだ。

 「私は信じてたよ。卓なら絶対にクリアするって。」

 真理の言葉に一瞬きょとんとした卓だったがすぐにふっと笑った。

 「俺も真理のことは心配してなかったよ。まあ俺が心配するのも失礼かな。」

 「そんなことないよ。ありがとう。」

 真理は少し頬を赤らめて嬉しそうにほほ笑んだ。

 「次も2人で頑張ろうな。」

 「もちろん。」

 それから卓は食べ終わった食器を洗い、真理は先にシャワーを浴びていた。

 「絶対に強くなるんだ。」

 食器を洗い終わった卓はタオルで手を拭きながら自分に言い聞かせるように呟いた。

 


「約束の蒼紅石」第5話いかがでしたでしょうか?ちょっと今回は新しい登場人物?として≪ミニア≫というのが出てきたと思うのですが、多くの読者はきっとこのミニアのセリフがすべてカタカナなのに読みずらさを感じたのではないでしょうか?(笑)実は作者も読み直してみて思ったことなんですが、なぜ訂正しなかったかというと、別に面倒だったからとかではないですよ?(汗)ミニアはあまりに少ない出番だったので、これくらいの癖があってもいいかなという作者なりの愛情なわけですよ。なので読者の皆様も読みずらいなと思っても、ミニアに対する愛情でカバーしていただけると幸いです!

では次の第6話も楽しみに待っててくださいね!

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