使者降臨
こんにちは! 夢宝です!
さて、今回はまずお知らせです。今週は作者が旅行に行くので、次話の更新が数日ほど遅れてしまうかもしれません。毎回読んでくださっている読者の皆様にご迷惑をおかけすることをお詫び申し上げます。できるだけ早く更新できるように頑張りたいのでどうかご理解のほうをお願いいたします。
そして、前回から本格的に始まった戦いの続きです!
今回の戦いは今までよりもスケールを大きくしようと考えているので、そこらへんも楽しんでいただけると幸いです!
それでは、「約束の蒼紅石」第26話、お楽しみください!!
私立光陵学園の敷地内で、雪穂とくずりは轟音に反応していた。
「今の音……何!?」
全長三メートルほどの三つ叉の槍を手にした少女、雪穂は言う。隣にいるくずりも、どうやら音の方が気になるらしく、こちらも自分の身長の二倍ほどある大剣を手の中でくるくると転がしながら、
「音の反響範囲から考えても、通常ではない威力と見ていいかもねー」
「やっぱり、『冥府の使者』なのかなっ!?」
喰いつき気味の雪穂に、くずりはじっと、音源の方を見据えながら、
「断言は出来ないわねー。何せ、この世界は私たちの知らないことで満ち満ちているんだしー? 正直、考えたくはないけど、『絶対強者』や『頂』なんて呼ばれている身内の存在だってあるわけだしー」
「そんなっ……」
雪穂は少し、三つ叉の槍を握る手から力が抜けていくのを感じた。あと少しで、地面に投げ捨てそうになるほどに。
くずりはそんな雪穂を横目で見ながら、
「でも絶対に私たちは自分たちの居場所を守るんでしょー? そのためなら、どんなに辛い戦いでも乗り越える、それしかないんじゃないー?」
くずりのその言葉に、雪穂はハッとする。
そして、自分の背後にある、断絶された世界にある学生寮。厳密に言えば、世界から隔離された中にあるこの建造物は実際のものではないのだが、やはり、見た目が同じであるだけで、思いが重なるのだろう。
再び。
三つ叉の槍を握る手に力が宿る。
「うん。くずりの言うとおりだよ。私、絶対に守り抜くって決めたんだからっ!」
「それでこそ、雪穂―。それに、この街には私たち以外にも『同業者』がいるわけだしー? しかも、仮にこの騒ぎが、『冥府の使者』によるものなんだとしたらー、それこそ彼らの出番でしょー? 一度は『冥府の使者』を倒しているペアなんだし、頼ってもいいんじゃないー?」
「そう、かもだけど。…………でも、やっぱり私たちも戦わなくちゃ! またその人たちだけで勝てるなんて保証はないわけだしっ」
雪穂のその言葉に、くずりは何かを考えるように人差し指をこめかみに当てて、
「それなら、もう少しだけ様子を見るってのはどうー? ぶっちゃけ、現状を把握しきれていない私たちが今から戦場の渦中に飛び込んでも、あまり適切な行動は取れないんじゃないかしらー? それなら、もう少し今の状況を把握して、その上で行動に移すのが得策だと思うよー」
仮に、今の状況が『冥府の使者』の影響だったとする。もしそうだとして、その中心に自分たちが飛び込んでも、状況を覆すような第1手にはなれないだろう。もちろん、やってみなければ分からないと言われればその通りだが、これは何度もチャンスが訪れるようなものではない。失敗はそのまま『死』を意味する場合だってあるのだ。
やり直しはない。
ならば、今は多少心苦しくも、耐えて現状を把握するほうに徹するべきなのだ。
少なくともくずりはそう判断した。
どうやら、それには雪穂も賛成のようで、
「うん。くずりの言うとおりかもっ。こういうときこそ冷静に動かないとねっ」
直後。
ゴパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! という轟音が響いたと思えば、その次の瞬間、いや音とほぼ同時に空はまるで雲の中にいるように真っ白に染まった。
耳を劈くような音。そして、それとは違う音もあった。
ベリベリィ!
街が剥がされていく音。正確には、路上のアスファルト、だが。私立光陵学園の周りにも同じ影響が及んでいる。
天使の真下の位置から目測でも数十キロは離れているはずだ。それなのに、距離という概念そのものを無視した一撃の余波はここまで届く。
二人の華奢な身体なら簡単に吹き飛んでしまいそうな突風。
しかし、そうならなかったのは、二人とも三メートルほどの武器を地面に突き刺し、それに掴まっていたから。さすがにそうでもしないと、後ろに吹き飛ばされてしまう。
「本当に、一体何なのっ!?」
向い風の中で、雪穂はやっとの思いで真っ白の空を見据えた。
数十秒の間、鳴咲市は雲の中に放り込まれたような白に包まれていた。だが、それも次第に治まり、今では元の無人の街の光景が視界に飛び込んでくる。しかし、付け加えて、『ほぼ壊滅状態の』という言葉もある。
だが、周りの建造物もある程度大きかったのか、あと一撃喰らえば完全崩壊しそうなマンションは地面に垂直に建っていた。もちろん、人が住める状態かどうかはさておいてだが。
そして、そのマンションの屋上には、卓と美奈、そして屋上の床に貼られた円状の四枚のお札の中心に、日本刀を乱雑に手に持った真理が半ば意識が無い状態で横たわっている。
「真理! 真理!?」
卓は真理の上半身だけを軽く持ち上げながら呼びかける。
すると、
「う、ううん――」
真理がうっすらと瞳を開ける。
思わず卓と美奈は真理の顔を覗きこんだが、すぐに美奈が、
「とりあえず真理は助かったから、あとは蓮華をここに呼びだすわ! 幸い、今は蓮華もさっきのあの光の攻撃を警戒して動いていないみたいだし」
卓は頷くと、真理をかついで陣から少し離れる。
それが終わると美奈は、陣の中心に両手を置き、
「術式・七星、躍動!」
すると、四枚のお札は光り出し、その中心に次第に人影を形成していく。数秒後、そこに蓮華が現れる。
「え? ここは……」
事態を把握できていない蓮華は突然の景色の変化にキョロキョロと辺りを見回すが、卓たちの姿を見つけるなり、ふっと胸を撫で下ろした。
「蓮華! 無事か!?」
卓が言うと、蓮華は少し自分の身体を見て、
「うん。何ともないよ」
「そっか、良かった」
そこで、真理が意識を取り戻した。
「あれ……私……」
まだ真理の視界はぼやけていたが、それでも卓の姿を視界に捉えた。自分を庇って天使の攻撃を真正面から受けたはずの卓が。
「卓!? えっ!? あの攻撃を受けて生きてたの……?」
「人を勝手に殺すんじゃない」
卓は軽く真理の頭にチョップする。真理はそれでもやはり状況が掴めずにいると、ふいに美奈が真理と蓮華の背中に張り付けてあったお札を剥がした。
「私の術式・七星でここに呼びだしたのよ。正直、この術は時空に直接干渉しなくちゃいけないから、他の術式に比べて力の消費量が大きいからなるべく温存しておきたかったんだけどね。でも、敵が敵だし、そうも言ってられないから」
卓はその様子を見ながら、
「じゃあそう何度も使えるわけじゃないんだな」
卓が訊ねると美奈は頷き、
「うん。既にもう三回も使っているから、あとは使えても一回ってところね。それも他の術式を極力使わないで、っていう制約付きだけど」
そこまで聞くと、卓は空に君臨する天使を見据える。すると、ふと背中に何かが当たる感触が走る。
振り返ると、後ろから真理が抱き付いてた。
「ま、真理!?」
突然のことで、卓はもちろん、蓮華も美奈も意表を突かれたような表情をした。ただ真理だけが、どこか安心しきったような表情で、
「良かった……卓が生きててくれて本当に良かったよ……」
「……ごめんな、心配かけて」
卓はそっと真理の頭に手を乗せ、優しく撫でる。いつもは戦いで指揮を取ってくれる真理だが、この時は異様にその身体が小さく感じられた。細い身体は強く抱きしめただけで折れそうなほど。
普通の女の子。
いくら戦いに慣れているからと言って、それが屈強であるというわけではない。むしろ、こんな小さな身体で、今までの激戦を乗り越えてきた方が奇跡的にも感じられた。
ただ純粋に、真理を守りたい。真理だけじゃない。蓮華も美奈も。もちろん自分が死んでもいいなどとは思わない。そんなあっさりと死ねる勇気などない。卓もそこらへんにいる高校生。アニメや漫画の世界にいる、死ぬことを恐れない主人公ではないのだ。
それに、自分が死んで真理たちが守られても、彼女たちは苦しむはずだ。その証拠に、真理は先ほど暴走した。
卓が死んだと思いこんで。
もうそんな自分勝手なことは出来ない。これ以上皆に心配かけないためにも。
だが、天使にはそんな事情は関係ない。
敵対する者に同情する必要などない。
ズンッ! という見えない重圧のようなものが、頭から降り注いだ気がした。最初は気のせいかとも思ったが、真理も蓮華も同じく怪訝な表情を浮かべている。ただ、美奈だけは案外表情の変化がない。
すかさず天使の方を見ると、しかし。
先ほどまでの特有の攻撃、光はない。天使自体が光に包まれているだけで、特別、光が攻撃形状となっているわけではなさそうだ。
「何だ……これ!?」
卓が叫ぶ。そして、真理も何かを言おうと口を開いた瞬間、
キィイイイイイイイイイイインン!! という甲高い音が響いた。だが、その後に続くと思われた轟音はない。
単純に耳を塞ぎたくなるような音が響いただけだった。それも数秒で収まる。
「何? 今の?」
美奈が首を傾げる。どうやら重圧は感じなくても、今の音は聞こえたようだ。
そして、決定的な変化が生じた。
グォン! と。
天使が風を斬りながら急降下してくる。それも真っすぐに卓たちのところへ。
「ッ!! 来るぞ!」
すかさずそれぞれ武器を構える一行。だが、天使の動きはあまりに速かった。
肉眼で捉えるとか、反射神経とかのレベルではない。
天使が動いた、という認識をしたときにはすでに天使は目の前にいるのだ。
「「「「――!!」」」」
四人とも動くことは出来ない。武器を構えたところで、指一本動かせない。たった数分で街をほぼ壊滅状態にしてしまうような化け物が今まさに目と鼻の先にいるのだ。
嫌な汗が全身から噴き出す。声も出ない。パクパクと口を動かすだけで精いっぱいだ。
すっ、と。
天使が軽く片腕を横に伸ばす。
同時に卓たちも武器を構える手に力を込めたが、そこに攻撃は生じない。それどころか、卓たちに被害はなかった。
パリィン! とガラスの割れたような音が鳴り、次の瞬間、天使を覆っていた光が弾け飛んだ。
そこに現れたのは。
白と青の布地に身を包み、片手には全長約二メートルほどの黄金のリピタが握られている。リピタの先端部分は円状で、中心には天使の羽を模した模様が彫られている。
肝心の天使は、長く腰まであるストレートの金髪ヘアで、身長は真理とほぼ変わらないし、見た目も普通の女の子のようだった。翼は光で出来ていたのか、今はなくなった。
天使が口を開いた。
「すなわち、質問。貴方達は『冥府の使者』ではない?」
天使の言葉は日本語に聞こえた。それは四人に共通してだ。
だが、誰一人として答えられない。それは質問の意味が分からないからではない。ただ単純に、目の前での出来事が飲みこめていないのだ。
だが、天使は再び口を開く。
「すなわち、確認。今さっき私は『洗礼』を行いましたが、貴方達には負の反応が見られませんでした。もし、『冥府の使者』ならば、間違いなく『洗礼』に反応するはずなのです」
淡々と、いかにも事務的に話を進める天使。
そこでようやく、干上がった喉に違和感を覚えつつも卓が口を開いた。
「お前は一体……、何だ?」
すると天使は少し首を傾げ、
「すなわち、愚問。貴方達の想像通り、『神の使い』ですが。それとも、こちらの世界では『天使』という呼び方が浸透しているのでしたっけ? まあ、どちらにしても意味はさほど変わらないので。ちなみに『神の使い』としての名前は『ケルビム』、私個人としての存在名称はエマ=ニューズベリですが、どちらでも好きな方で呼んでください」
天使の言葉に唖然とする四人。それを気にしたのか、天使、いや、エマは、
「すなわち、謝罪。すみません。先ほどはよく確認もせずに貴方達を『冥府の使者』として攻撃してしまいました。最初から『洗礼』を用いて確認すれば良かったのですが、何分、『冥府の使者』以外に『方舟』の中にいられる存在を知らなかったものですから」
次々と、日常生活では絶対に聞かないであろう単語がエマの口から飛び出す。さすがの真理も話についていけていないようで、かなり困惑した表情を浮かべている。
「ちょ、ちょっとストップ! 全然話が分からないんだけど、『洗礼』って? 『方舟』って何よ? それに貴女、天使って」
真理が言うと、エマは表情を変えずに、
「すなわち、回答。しかし、一度にその質問に答えるのは案外大変そうなので、順を追って説明いたします」
エマの口調は至って落ち着いたものだ。今さっきまでの戦いのやりとりが無かったように。
「すなわち、説明。まず、私の存在、『神の使い』というのは貴方達のイメージとそれほどの差異は無いでしょう。よく話にも出てくる天使そのものと捉えてもらって構いません。もちろん、厳密に言えばその役職や階級などに違いはありますが。それは話を進める上では今は必要ないでしょう。さて、まず確認ですが、貴方達は『天国』と『地獄』……、いわゆる死後の世界を信じますか?」
その言葉に、蓮華と美奈は顔を見合わせる。だが、卓と真理だけは違う。頷きはしないが、かといって動揺もしない。
卓は以前、五年ぶりに真理と再会した日に聞いていた。『虚無界』と平行して、死後の世界が存在することを。
それがエマの言う世界と同じものだという確証はないが、おそらくそれほど大きくずれたものでもないのだろう。
黙っていることを肯定と捉えたエマは続ける。
「すなわち、続行。私たちは、その死後の世界を統一して、『神の国』と呼んでいます。これはつまり、『天国』と『地獄』の総称ですね。おおざっぱに言ってしまえば、この、貴方達が生きている世界も『神の国』の一部ではあります。これは意味で言えば、神が意図的に造り、管理している世界ということです」
「ちょっと待って。今普通に聞いていたけど、天使とか、死後の世界なんて実在するの!? っていうか、どう見ても普通の人にしか……」
『妖霊の巫女』という特殊な力を持っていても、『虚無界』やらの異世界にそれほど関与していない美奈は訊ねる。
「すなわち、補足。私たちが『神の使い』、そちらでいう『天使』という存在を語るにはまず、『原罪』について説明します。」
「『原罪』……?」
美奈が呟く。しかし、エマは気にした様子もなく、
「すなわち、続行。『原罪』とは、人間が人間として生まれた瞬間から持つ罪のことです。もちろん、罪を犯さない人間はいません。赤子として生まれた瞬間に、『原罪』は付きまとうのです。罪の大小に違いはありますが、罪の有無については違いはありません。これはアダムとエバが罪を犯してしまったために起きた現象と言っていいでしょう。しかし、何事にも例外はあるのです。そうですね。分かりやすい例を言えば、貴方達でも名前くらいは聞いたことがあるでしょう。『聖母マリア』です。彼女は生まれながらにして持つはずの『原罪』を持っていなかった。つまり、罪を知らない人間、いえ、厳密には『選ばれた存在』なのですよ」
「「「「……」」」」
四人は黙ってエマの話を聞く。正直、所々分からない単語というか、おそらくは聖書の話なのだろうが、知らない部分が入っているが、大体の話の内容は分かる。と言っても、『討伐者』なんていう非日常な立場にいなければ、どれだけ分かりやすく説明されても理解できなかっただろうが。
「この『選ばれた存在』、これこそが『神の使い』、あるいは『天使』と呼ばれる存在なのです。まあ、『聖母マリア』はそれにすら属さない、さらなる特殊な存在だったのですが。そして、これは余談ですが、私は日本語で話しているわけではありません。そもそも、言語が違うというのは、『原罪』を持った人間だからこそ必要なものであり、それがない私たちには『言語』という概念そのものが不要なのです。とは言っても、おそらく理解できないでしょう。簡単に言ってしまえば、私たちは『誰にでも通じる言葉』で話しているのです。例えば、この場に日本人とアメリカ人と中国人がいたとして、私が口を開けば、日本人には日本語に、アメリカ人には英語に、中国人には中国語にそれぞれ聞こえているのです。まあ、本当の意味での世界共通語、とでも思っていて下されば問題ありません」
そこでエマは一旦息を吸って、
「すなわち、迂回。話が少々ずれてしまいましたが、私たちは『神の国』の均衡を保つための存在なのです。しかし、唯一、神の意思とは関係なく存在してしまった世界があります。それが、『虚無界』。これは神にすら予想できなかったこと。そして同時に、世界の均衡を崩しかねない危険因子でもあるのです。そこで今回、私がこの世界に来た、ということで大まかな説明は終わりです。何か質問があれば承りますが?」
「じゃ、じゃあ質問」
卓が慎重に手を上げる。
「すなわち、承諾。質問をどうぞ」
「えっと、まあ大体、君が何者で、どういう存在なのかは分かった。もちろん、それが具体的にどういう位置づけなのかは分からないけど。そこで一つ確認。君は俺たちの『敵』ではないんだよな……? 聞く限りだと、俺たちを『冥府の使者』と間違えて襲撃したらしいから」
「すなわち、回答。ええ。私としても貴方達の存在が何かは分かりませんが、おそらくは敵にはなり得ないでしょう。しかし、それはあくまでも三人に限ります。一人、『洗礼』の効果を打ち消した、そこの赤髪の少女については何とも言えませんが。そこで今度はこちらからの質問です。そこの赤髪の少女は一体何者なのですか?」
エマは人差し指で美奈を指す。突然、指名された美奈は動揺して、
「えっと、何者って言われても困るんですけど……一応、『妖霊の巫女』っていうものをやらせてもらっています……」
おどおどとした態度で、その証拠品であるお札を見せる。すると、エマは何か納得したように頷き、
「すなわち、理解。そうですか。異教徒の力の持ち主でしたか、なるほど。大体は理解しました。宗派の具体性までは把握できませんが、おそらく貴女の宗派には『神の使い』という概念が存在しないのでしょう」
「どういう意味……?」
訊ねたのは真理。どうやら、真理にも引っ掛かる部分があったようだ。なぜ美奈が断絶された世界にいるのかという点。
「すなわち、説明。この世界にはいくつもの宗教が存在します。そして、昔からの伝承により、それぞれの宗教には特有の力があるのです。正確には、宗教としての教えの中にですが。つまり、宗教を信じている、信じていないに関わらず、その力を手にすることは出来るのです。そして、そこの赤髪の少女は、そのお札から察するに、私たちの力とは別の物。別々の宗教同士が干渉出来ないのと同じで、特有の力もある一線において干渉できないものと思われます。その証拠に、彼女だけは『洗礼』も『方舟』も影響しないのです」
思えば、九月三日の事件、『月下通行陣』の時も、街全体に美奈は結界が張られていると言っていた。それは美奈たちの使う術式で、卓たちのものとは根本的に異なるもの。そのせいで、卓たちは戦闘の際に『断絶』が使えなかったのだ。今回はその逆。つまり、『断絶』を使ったところで、美奈にはその力は干渉せず、本来の目的である世界の切り離しの効果を受けなかったのだ。
「……なるほど、私たちは『贈与の石』の力そのものを理解していなかったから分からなかったけど、そういう考え方をすればあるいは」
真理は納得したように呟く。すると、今度は蓮華が、
「あ、あの。さっきから言っている『方舟』っていうのは……?」
エマはその質問に、一瞬首を傾げたが、
「すなわち、回答。『方舟』というのはこの世界から切り離された空間のことを指示します。てっきり、この空間に慣れているので知っているものだと思っていましたが?」
「え、つまり、『方舟』っていうのは、『断絶』のことですか?」
蓮華が再び訊ねると、エマはどこまで理解しているのか分からないといった調子で、
「すなわち、確認。貴方達がこの空間を別の呼び方をしているということは把握しました。これは断言できませんが、おそらく貴方達の認識しているものと同一のものと考えてもらえれば結構です。私たちがこの空間を『方舟』と呼ぶのは、単に旧約聖書からの引用です。これは少し込み入った話ですが、実を言えばこの世界は一度、神によってリセットされています。一つの大洪水によって。しかし、唯一、その大洪水の影響を受けない場所がありました。後に、『ノアの方舟』と呼ばれる船のことです。つまり、この『方舟』というのは、元の世界に影響を及ぼさないという効果から私たちが勝手に呼んでいるにすぎません。国の違いによって同じ物でも呼び方が違うのと同じ理由ですよ」
卓たちは呆然とエマの話を聞く。
あまりにも突拍子のない話に加え、今まで自分たちの命を預けていた力の正体、その影が見え隠れしていることに気がついたからだ。
だが、エマ本人は、どうやら深刻な顔つきで、
「すなわち、転換。さて、私について、及びこの力の現象についての説明はこのくらいということにしておきましょう。それよりも、もっと今回の一件の本質、核心についてそろそろ触れておきたいのです」
「核心……?」
卓が首を傾げる。するとエマは軽く頷き、
「すなわち、的中。はい、私が何故、この『神の国』から来たのか、その理由です。何も、貴方達がいたから、という理由ではないのです。それはあくまで結果論で、元を辿れば、理由は別にあるのですよ。私が勘違いしてしまった、本当の『冥府の使者』という大きな災厄という、一つにして数百にも成り得る巨大な目的が」
三浦小鉄は、半壊状態の街に立っていた。
先ほどまで上空で対峙していたはずの真理と、天使のような存在が姿を消し、今度は不気味なほどに街は静寂に包まれ、困惑している。
「一体、どうなったんです……? 謙介さんの妹さんは無事なんでしょうか……」
だが、一体どこに向かえばいいのか。
天使は一瞬のうちに空から消えてしまい、どこに向かったのか分からない。まだそれだけでも分かれば、その先に卓たちがいる可能性は高いだろうから、手の打ちようはあったのだが。
(こんな事態、今まで見たことも聞いたこともありません! どうやって対処するかが分からないとここまで行動出来ないなんて、情けない!)
小鉄は、両手に握られた双剣を握り直す。
一歩、足を踏み出した。
(でも! 何をすべきか分からないと動けない、そんな男にはなりたくないものです! 分からないなら、分からないなりに動くまで! とりあえず、今は城根君たちを信じて、『もう一組』のペアとコンタクトを取ることを先決しなければ!)
再び、小鉄は当初の目的地である鳴咲市の中心街へと駆けだした。
中心街の一角にある私立光陵学園の敷地内に、雪穂とくずりはいた。
「静か……」
雪穂が半ば無意識に呟く。
先ほどまで十数キロは離れているであろう場所からの轟音が鳴り響いていたが、今度は本来の『断絶』の中、つまり静寂に包まれている。
「でも、油断しない方が得策よねー」
隣にいたくずりはそんなことを言いながら、片手で身長の二倍ほどはあるであろう大剣を振りまわす。
「だ、だよねっ! 敵が何者なのか分からない以上は、気を抜けないもん!」
「敵かどうかを決めつけるのはまだいいとして、それにしても、さっきの光の物体とやりあったらさすがに無傷では済まなさそうよねー」
そういって周りを見回す。
中心街自体はそこまでの損傷はないが、それでもその周りの被害は想像も出来ない。少なくとも、数日前に起こったとある事件と同じか、あるいはそれ以上の被害はあるだろうと予測するくずり。
「無傷どころか、生きていられるかだって怪しいよ!? 様子は見えないけど、さっきから放たれる攻撃の破壊力は多分、人間業じゃないと思うし……」
「まあ、私たちも正直、人間離れしているんだけどねー。でもそれを踏まえても、あれは普通じゃないよー。私の武器は『斬る』というよりは『壊す』ためのものだから、破壊力には多少自信があったんだけどー、あれを見せられたらさすがに自信喪失みたいなー?」
「私の槍でもどうにもならなさそう……」
雪穂は言いながら、矛先を地面に突き刺した三つ叉の槍に目をやる。こちらも全長三メートルほどの巨大な一品。だが、それでも天使の攻撃に真っ向から立ち向かうことは出来ないだろう。
「かと言って、『冥府の使者』をまともに相手出来るかって言われても微妙なんだけどねー」
「……うん」
自信なさそうに俯く雪穂。それに気が付いているのか、いないのか、しかしくずりは続ける。
「私たち『討伐者』って一応、『冥府の使者』とかと戦うための存在じゃないー? でもだからって、それに必要なだけの力が与えられているわけじゃないしねー。いくら特殊な力を得たと言っても、それを使用するのが人間なら、当然そこに限界があるわけだしー、それを超えるなんてことは普通は出来ないわよねー。いかに筋力を増強するための機具があったとしても、実際に筋力自体が先に崩壊したら意味がないのと同じよねー」
「だからこそ、だよね……。この街にいる『もう一組』の人たち。その人たちはすごいよ。だって、二人で『冥府の使者』を倒しちゃうんだもんっ」
「まあ、どこまでが正しいか分からないけど。その時の状況も詳しくは伝わっていないみたいだし? でも、それを差し引いてでも、同じことが私たちにも出来るかって言われても、すぐに『イエス』とは答えられないわよねー」
くずりは言いながら、手に持つ大剣を地面に突き刺そうとした。
その瞬間。
ゾンッッッッ!!!!
背筋が凍りつくような、異様な殺気がその場を一瞬のうちに支配した。
「「ッ!!」」
二人は反射的にそれぞれの武器を手にする。
先ほどの天使からは感じ取れなかった、明らかに、彼女たちに『個人的』に向けられた殺気。
これに似た殺気は彼女たちも何度か経験したことがある。
『魂玉』。
この世界とは別の、『虚無界』の住人である存在。
彼らと対峙するときにも、今のような殺気を感じることがある。だが、今回のは段階が違う。
いくら感じると言っても、ここまで全身が反応するほどではない。『魂玉』の殺気は、『威嚇』のようなもの。つまり、敵を近づけさせないためのある種の自己防衛反応なのだ。
しかし、この殺気は、自分を守るためのものではない。むしろ、積極的に危険なことを仕出かそうとしているような。
((まさか……! 『冥府の使者』!?))
卓と真理、蓮華、美奈と、『神の使い』であるエマはマンションの屋上にいた。
「大きな目的って……」
蓮華が言う。
エマは一度息を吸ってから、ゆっくりと唇を動かす。
「すなわち、説明。私がこの世界に来た目的。単刀直入に言いましょう。それは『神の意思にそぐわない存在』、貴方達の言う、『冥府の使者』の対処です」
「「「ッ!!」」」
美奈を除く、討伐者組は絶句した。
美奈に至っては、名前くらいは聞いたことがあっても、それが何なのかは具体的には分からないので、少々困惑した表情を浮かべていた。
だが、エマは構わずに続ける。
「すなわち、補足。彼らの目的はこちらでも把握しています。この世界と、彼らの住まう世界を入れ替える。それが何を意味していて、具体的にどのような方法を用いるのかまでは分かりませんが、今回、幸か不幸か彼らが動くという情報を得たのです。こちらは世界と世界の狭間の歪みを利用して得ました。それで私が急いでこちらの世界に送り込まれたというわけです。貴方達のような、私と酷似した力を持つ存在がいたことまでは聞かされていませんでした。ですが、これは嬉しい誤算と言っていいでしょう。もし、私と貴方達の目的が一緒ならば、共闘を断る理由もないでしょう?」
「そりゃ、さっきみたいな、めちゃくちゃな力を持った奴が味方なら頼もしいけど」
卓が言うと、エマは少し悪びれた表情で、
「すなわち、謝罪。重ねてしまいますが、先ほどの無礼はお許しください。しっかりと確認もせずに『神の使い』としての力を行使してしまったことはこちらに非がありました。ですから、お詫びというわけではありませんが、今回は私も全面的に貴方達に力添えをいたします。それから、これでも一応、『神の使い』です。神が用いた『癒しの奇跡』のいくつかは私たちにも代行として使えますので」
「それって治癒みたいなもの?」
蓮華が訊ねると、エマはそれを頷いて肯定する。
「すなわち、回答。そういうことになります。治癒と言っても、単純に表面上の傷を癒すことも出来ますし、内、つまり精神的なものを癒すことも出来ます。もちろん、神自身の奇跡に比べれば、効果はたかが知れていますが」
「なら、真理を先に癒してやってくれないか? 一番傷を負っているし……」
「え、でも!」
真理が反論するのを、卓は片手で制し、エマに視線でお願いする。それを察したエマは頷いて、リピタを真理の前に突き出す。
フォン、という静かな音と共に、色という色では表せない、柔らかな光が真理を包む。
「……優しい光……」
真理が呟く。
これが、実際に『癒しの奇跡』を受けた真理の率直な感想なのだろう。
そうでなくても、卓たちも同じようなことを考えている。
「すなわち、説明。これは『肉体の癒し』です。精神的なところまでの癒しを同時に行使することは、『神の使い』程度である私には不可能なのです。とりあえず、私との無意味な戦闘においての肉体的回復だけ応急処置という形でさせてもらいます」
「すごい……、みるみる全身の痛みが消えていく」
肉眼でもはっきりと見える。
真理の全身にある擦り傷などがどんどん治っていく。破けた制服もだ。まるで、時間軸そのものが巻き戻されているように。
瞬間。
ゾンッッ!!!! と、殺気がその場を支配する。
初めて、エマが動揺の表情を浮かべ、真理を包む光が消えた。
「「「「!!??」」」」
美奈を含め、四人もその凄まじい殺気に当てられ、額から嫌な汗を流す。
「すなわち、襲撃。奴らが来ます!!」
同時だった。
エマの言葉を、半ば掻き消すように轟音が響く。そして、轟音と共に放たれた正体不明の一撃が卓たちのいるマンションのすぐ横を抉り取る。
ゴバッ! と、その場に粉塵が舞う。さらには、攻撃の振動がマンションを地震のように揺らす。
「すなわち、戦闘。どうやら、全員に『癒しの奇跡』を行使させてくれるつもりはないみたいです。申し訳ありませんが、すぐに戦闘態勢に入ってください!」
エマの言葉を聞くまでもなかった。
卓は長刀を。
真理は日本刀を。
蓮華は『守護の弐席』を。
美奈は『術式・七星』に必要なお札を。
それぞれが武器を構えていた。
「今のを挨拶代わりってことにしちゃっていいのかなァ? まあ、俺たちが律儀に挨拶をする必要があるかどうかがまず疑問だけどなァ」
声が聞こえた。
男の声だ。それも声だけで判断するなら若い。
「って、おいおい。なんか人間だけかと思ったら、『天敵』までいるぜェ!? これは俺たちもマズイんじゃないィ?」
すると、今度は、
「問題は、ないわ。既に、私の方で、力の抑制をかけているから」
少女の声が聞こえる。
卓たちはすかさず声の方向へと視線を移す。
空。
先ほどのエマのように、空に二人の男女が立っていた。
一人は長身の男で、サラサラの黒髪、服はデニムパンツに長めのファーが着いた上着に身を包んでいる。
そして、もう一人は身長は一五〇センチほどで、碧の髪を両サイドで縛っている少女だ。しかも、頭には大き目の黒のベレー帽がちょこんと乗っていて、服装は若干、ゴスロリっぽい印象を受けるが、そこまでヒラヒラではない。
だが、一番の問題はそこではない。
エマが口を開く。
「『冥府の使者』……」
すると、今度は空に立つ男が、
「おいおい、そんな大雑把な分類はやめてくれよォ! 仕方ないなァ! 軽く自己紹介と行きますかァ! 俺は『冷淡の策士』、そして、こっちの可憐なのが、『無垢の理』さァ! 以後、お見知りおきを! って、ここで死んじまうんだから、以後なんてねーかァ!」
一人、異様に高いテンションで話を進める冷淡の策士。
そんな彼をエマたちは鋭い視線で見据える。
「こいつらが、『魂の傀儡子』と同じ……」
卓が無意識のうちに呟いた、その一言をどうやら冷淡の策士を聞きとったようで、
「んん? もしかして、お前らが『魂の傀儡子』を殺ったって人間たちかァ!? うひょォ! これはこれはァ! ウチの者がお世話になったようでェ!」
卓たちは警戒心を奮い立たせ、それぞれの武器を握る手に力を込める。
が。
冷淡の策士が、手を動かしたと認識したときには、卓のすぐ足元が無くなっていた。
「ッ!!??」
卓が絶句すると、冷淡の策士は嘲るように、
「確かに、『魂の傀儡子』は倒せたみたいだけどォ、だからって俺たちにも勝てるなんて思ってるわけじゃねーよなァ!? そもそも、アイツが倒された時には、アイツ自身本来の力の半分も使えていなかったんじゃないかァ?」
「「!!??」」
今度は卓と真理が目を剥く。
あれだけの激戦。
『ヨーロッパ支部弐〇騎士』と、それに匹敵するほどの討伐者を相手にした後で、連戦といった形でようやく勝てたあの相手が、それでも実力の半分も出していなかったという。
どれだけ血まみれになって戦ったか。
卓に至っては、自分で自分を傷つけてまで、そこまでしてようやく勝利を掴んだのだ。決して、擦り傷程度で勝てる相手ではない。
なのに。
あれで半分以下の実力。
冷淡の策士はさらに続ける。
「あの時、アイツは精密作業を要する『儀式』を同時進行させながらお前らと戦っていたんだよなァ! だったら、それだけでも実力はかなり制限されちまうよなァ! それに加えて、あの馬鹿野郎、何を考えたか、お前ら人間相手に一度も本気を出したことがないんだよなァ。つまり、それが何を意味するか、分からないわけじゃないだろゥ?」
直感で分かる。
分かってしまう。
それが何を意味するか。『魂の傀儡子』を倒すことが出来たのが、決して自分たちだけの実力ではないということ。もし、『魂の傀儡子』が全力で戦っていたら、自分たちは勝てていただろうか。
もちろん、今はもういない存在で考えても正確な答えは導けないだろう。
だが、事実。
今さっきの冷淡の策士の一撃。
反応することさえ出来なかった。瞬きをするよりも遥かに短い一瞬での攻撃。とても人間の肉眼で捉えることの出来ない境地。
「すなわち、速攻。わざわざ敵の言葉に耳を貸す必要はありません。今度はこちらから攻撃を仕掛ける番です!」
すると、エマの言葉が終わるのと同時に、彼女の背中から翼が現れた。先ほどと同じ、光に包まれた天使の翼。
「!! そうだ、コイツらはさっさと倒さないと!」
卓も、それに連動して真理たちも身構える。
ブォン! と風を斬る音と共にエマは空へ飛ぶ。
「すなわち、全力。『神の使い』としての力を最大限に行使することはすでに許可をもらっています」
それだけ言うと、エマは翼を羽ばたかせ、そしてリピタを構える。リピタの先端部分に光が集約していく。
「……無駄よ」
静かに、無垢の理が告げる。
「ッ!?」
そして、ほぼ同時にエマは異変に気がついた。
いや、正確には攻撃を放った瞬間に気がついてしまった。
光の塊はまっすぐに『冥府の使者』たちに向っていく。だが、鳴咲市をものの数分で壊滅状態まで追い込んだ天使の力が、冷淡の策士によって片手で消滅させられたのだ。
「ッッ!? 嘘……」
つい声を漏らしたのは真理だった。
それはそうだろう。
自分たちじゃどう足掻いても勝てない、ましてや真理は理性を失い、本来得られるはずの無い強大な力を行使してもなお勝てなかった相手の攻撃。その圧巻の一撃を片手で止めたのだから。
「……すなわち、解析。私自身の攻撃が弱まっている……?」
エマが目を見開いていると、無垢の理は下目で彼女を見据え、口を開く。
「言ったでしょう? 無駄なの。既に、この街全体は、私によって、力の制約が、かけられているの。これが、私の、虚無の具の力。名は『審判の決議』。今、この空間の中は、『神の使い』の、力を、制約、している」
「……、」
エマが沈黙すると、今度は冷淡の策士が、
「おいおい、あまりこっちの手を明かすことはないだろォ? こんな奴ら、俺たちが本気を出すまでもねーってェ! 一番の問題要素である『神の使い』も封じたわけだしよォ! こっからは俺たちの独壇場じゃないかァ!」
手を前に差し出す。そして、その先には、力の制約をかけられてしまったエマがいる。
「てことで、まずお前には退場してもらうぜェ!」
ボンッ!
空中で爆発が生じた。
冷淡の策士が攻撃を仕掛けたのだ。先ほどと同じ、肉眼で捉えきれないほどの速さの攻撃だ。
だがしかし。
エマが墜落することは無かった。
それどころか、爆発の余波を受ける程度で、傷一つついていない。エマの仕業ではない。むしろ、エマはその状況に困惑していた。
冷淡の策士と、無垢の理は顔をしかめる。
「勝手に話を進めてるんじゃねーよ。俺たちだって少しは警戒しろよ?」
下から声が聞こえてきた。
二人の『冥府の使者』はそちらに視線を移す。
蒼の光を纏った長刀を構える少年、紅の光を纏った日本刀を構える少女、不思議な模様が刻まれた銃を構える少女、見慣れないお札に火を纏わせ宙を舞わせている少女がいた。
そう。
たった今、冷淡の策士の一撃は四人によって食い止められたのだ。
(けど、『冥府の使者』一人の攻撃に対して四人がかりでやっとって言うのも、認めたくない事実なんだけど……)
真理は口の中で呟いた。
今回はタイミングも合い、なおかつ四人の力を集約してやっと互角に渡り合えたが、今のが冷淡の策士の本気とは思えない。もしさらに力を出してきたら、四人でも止められるかどうか。ましてや、『冥府の使者』は一人ではない。
「マジかァ。なんかうざいなァ、こんなカスが俺の攻撃を止めたなんてよォ!」
「これくらいで、苛々(いらいら)、しないで。私たちは、当初の目的、『世界移転計画』の、実行のための、下見を、遂行するだけ」
無垢の理が話し終える前に、エマは彼女の目の前まで飛び上がった。そして、間を開けずにすぐに攻撃体勢に入る。
「すなわち、排除。貴方達は『世界の均衡』を崩しかねない存在。そして、今まさに、積極的に世界を崩そうとしているのです。それを『神の使い』がみすみす見逃すはずもないのです」
ゴバッ!! と、轟音が炸裂する。
二人の『冥府の使者』と一人の『神の使い』が滞空していた空は一瞬のついに爆煙で曇り、まるで煙幕のように視界を閉ざす。
マンションの屋上でそれを見ていた討伐者組と美奈は。
「卓! 攻撃を打ち込むわよ!」
「了解!」
卓と真理は足に力を込め、それぞれ刀を構える。
大量の光が刀身に集まり、一つの塊となって形を形成していく。そして、ある程度、光が形になってきたところで同時に刀を振り抜いた。
「蒼波滅陣!!」
「紅蓮槍風!!」
卓の刀からはまるで津波のような蒼の斬撃が。
真理の刀からは巨大な槍の形をした深紅の斬撃が放たれる。それらは空中で交錯しながら、エマの起こした爆発の中へと飛び込んで行く。
さらに。
「射出準備完了!」
神器、『守護の弐席』を構えている蓮華。
グッと引き金を引く指に力を加え、
「射出!!」
銃口の先に造られていたハンドボールサイズの光の球が勢いよく射出された。
美奈も。
「私だって、守られてばかりじゃないんだから!」
美奈の周りには『術式・七星』で使われる七枚のお札が宙を舞う。重力を完全に無視した現象で、不可解にフワフワと浮かんでいた。
「術式・七星、巻水!!」
美奈が叫ぶと、それまでフワフワと浮いていた七枚のお札は宙で円状になり、勢いよくプロペラのように回りだす。
その円の中心に次第に竜巻が作り出され、最後は卓たち同様に『冥府の使者』へと向ける。
四人の攻撃が空中で交わり、一つの大きな一撃として強大な敵へと向かう。
美奈に至っては出会ってからそれほど時間が経っていないが、それでもこれまで大きな戦いを乗り越えてきた仲間だ。
攻撃のタイミングは申し分ない。
まるで今まで練習してきたかのような完璧なタイミングで交わった攻撃は迷うことなく空を駆ける。
すると、空に舞う煙の中からエマが飛び出してきた。
四人の攻撃に気が着いたのだろう。光の翼を羽ばたかせて少しでも多くの距離を稼ぐ。
その二秒後。
ゴパァアアアアアアアアアアアアアア!!
四人の力の結集体が空で炸裂した。
攻撃の影響で崩壊寸前のマンションが悲鳴を上げる。それだけ強烈な一撃。
卓たち自身、今までこれほどの攻撃を仕掛けたことがない。というより、力を合わせてこんな強烈な一撃が生み出されるという事実を知らなかったのだ。
戦いの中で直感で悟り、生みだされた一撃。
真理と二人の力を合わせて生みだした『光の剣』とは別のもの。
以前はその『光の剣』で『魂の傀儡子』も、強力な『魂玉』も倒した。だが、今回の敵はそれだけでは倒せない。
けれど、何となくだが。根拠はないが今の一撃は何かしらの活路を見出した気がした。卓だけではない。真理も蓮華も、美奈でさえもそう思えた。
漫画ではないが、力を合わせて乗りきれそう、そんな気がしていた。
だが。
「一瞬でもいい夢が見れたかァ? アアッ!?」
空から聞きたくない声が聞こえてきた。
天使の攻撃を受け、討伐者三人と、『妖霊の巫女』の力を合わせた一撃を受けた上で、その声は止むことなく聞こえてくる。
「だからァ、言っただろうがァ! 元々、お前らみたいな人間ごときが、『冥府の使者』に勝てるわけはねーんだよォ!!」
冷淡の策士に続いて、今度は無垢の理の声が聞こえてくる。
「誰も、力の、制約の、対象が、同時に、一つまでとは、言っていない」
そこで真理は一つの結論に辿り着いた。
(まさか、今の攻撃をも制約したって言うの!?)
無垢の理の言う、『力の制約』と言うものが具体的にどういうものなのかは分からない。『力』という概念そのものを制限するものなのか、それとも、放たれた『力』を弱めるものなのか。
しかし、そのどちらにしても彼女たちに自分たちの本気の攻撃が通じないという事実は変わりない。
さらには、自分たちを圧倒していたはずの『神の使い』の攻撃さえも。
「すなわち、危機。正直、私の『神の使い』としての力を無力化されるとは考えていませんでした。これは完全に想定外の事。さらには、特別な力を持った人間ですら無力化してしまう。どうやら、先に倒すべきは力を制約する少女のほう」
エマが言う。
しかし、冷淡の策士は人差し指を左右に振り、
「それは間違いだぜェ? 何も、この場を支配しているのは無垢の理だけじゃねーっつってんだァ。というか、ぶっちゃけ、俺の方が単純な強さで言えば上なわけだしよォ!」
ゾワリッ!
冷たい空気が漂う。
そして、目に見えないはずの空気が、しかしハッキリと見える形で冷淡の策士の手の中に集まっていく。
「ご覧あれェ! 俺の虚無の具をよォ!」
瞬間的に彼の手の中に現れたのは。
全長二メートル程の棒に、その先端部分には無数の鋭い三角形の刃が取り付けられている。
見方によっては、鋸にも、巨大な剣にも、ギロチンにも見える武器。
冷淡の策士は口元を吊り上げ、そして告げる。
虚無の具の名を。
「『砲滅の楔』、これが俺の虚無の具の名前だよォ! 覚えておきなァ!!」
鳴咲市中心街の一角にある私立光陵学園の敷地内。
そこは全身が逆立つような殺気に包まれていた。
「雪穂、来るわよー!」
「……うん」
雪穂は三つ叉の槍を、くずりは大剣をそれぞれ構えている。未だに殺気を放出している根源は彼女たちの目の前にはいないが、それでも近くまで来ていることは肌で感じ取れてしまう。
すると。
ブォン! と空に黒い大き目の穴が空いた。そして、次の瞬間、その穴から何かが放り出され、隕石のようにこちらへと落下してくる。
「「ッ!!」」
二人が反応するのとほぼ同時、それは光陵学園の敷地内に落下した。
落下の衝撃で轟音と爆発が生じ、少女たちの髪を靡かせる。だが、問題は。
「殺気の正体っ!!」
雪穂が言う。
先ほどまでピリピリと針を刺すような痛みを与えてくる殺気が突然、それまでとは比べ物にならないほどに膨張したのだ。
粉塵が舞う中、ゆらりと一つの影が動く。
「この感じ、『魂玉』っていうレベルではないわねー」
影に矛先を向け、くずりはより一層警戒心を高める。そこに油断は許されない。
敵の正体が分からい以上、常に最良の選択を選び続けるのは難しい。だが、それでも取らなくてはいけない行動くらいは分かる。それは今までの人生で彼女たちが得てきたものだ。
「くずり、もう戦いを避け続けるのは無理みたい」
「そうみたいねー」
いつもは少し弱気な雰囲気の雪穂。しかし、今の彼女には何かの決意を秘めた力強い眼差しがある。
確かな原動力。
人は何かを守りたい時に力を振るう。それが自分の地位であったり、金であったり、命であったり、はたまた、自分ではなく、大切な人だったり、居場所だったりと。そんなものは人によって千差万別だが、そのために戦うということは同じだろう。
彼女たちも例外ではない。
それぞれの『相棒』を、そして、『居場所』を守りたいために武器を取る。そのために世界を守るための力を得たのだ。
一瞬。
雪穂とくずりはお互いに視線を合わせ、小さく頷き、すぐに敵の方へと視線を戻す。
ゆらり。
また影が動いた。そして、今度はこちらへと歩み寄ってきているように見えた。一歩ずつ、ゆっくりとした動作だが、確かに距離を詰めよってくる。
そして、風に流されるように粉塵が除ける。今度こそ、影ではなく、ハッキリと敵の姿が二人の目の前に現れたのだ。
現れたのは、艶の全くないボサボサの茶髪で、全身まるで骨と皮だけのように痩せこけた男。顔色も青ざめていてまるで生気が感じられない雰囲気。その上身に纏っているのはストリートチルドレンが来ているような破けた服。
正直、武器どころかバッグすらも持たせてはいけないような不健康そうな外見だ。
かといって、敵の姿が弱々しいから武器を引く彼女たちではない。
「アンタ、『冥府の使者』ってことでいいのかしらー?」
くずりが問う。
雪穂も横で慎重に相手の出方を伺っていたが、当の『冥府の使者』は何ともやる気が無さそうに、ガリガリの腕で艶の無い髪を掻きながら、
「ええ、そういうことで間違いないですよ。いかにも、私は『冥府の使者』。そうですね、名前は『最弱の常勝者』と呼ばれています」
名乗った名前。それも、生気のない声で。
『最弱の常勝者』。『冥府の使者』という大きなカテゴリーに分類され、その中でも人間の名前と同じように区別するための字。
くずりはそれを聞いて、敵から視線を外すことのないように、それでも少し口元を吊り上げて言う。
「『最弱の常勝者』、何かの言葉遊びかしらー? 『最弱』なのに『常勝者』って矛盾しているじゃないー?」
「ええ、そうですね。しかし、別に私が自ら名付けたわけではないので、名前に関する文句を言われても困ります。先に言っておきます。私は『弱い』です。正直、今こうやって立っているだけでも疲れますし、今すぐベッドで寝たいところです。お風呂に入る体力もないですから」
「ついでに、着替える体力もないって言いたいのかしらー?」
「ご名答」
最弱の常勝者が言うと、くずりはゴバッ! と地面を蹴りあげ一瞬で敵との距離を縮める。
雪穂が何か言っていたが、あまりの速さに耳に届かない。
くずりは全長三メートルほどの巨大な剣を横薙ぎに振るう。まるで空間そのものを切り裂いたように、空気が発火した。
バォ!! という轟音が炸裂し、すぐ後から発火した空気に包まれた最弱の常勝者は後ろへと飛ばされた。
そのまま最弱の常勝者は手入れされた光陵学園の敷地内を四,五回ほどバウンドして動きを止める。
彼は防御の体勢を取ることさえ出来なかった。まともに正面からくずりの一撃を受けたのだ。
その証拠に、もともとボロボロだった服は半分ほど焼け落ち、見るに堪えないガリガリの肉体が覗いている。
「私の武器は『斬る』ではなく、『壊す』もの。主な使い方としては大剣の切り口を発火させたり、爆発させたりするのよー。だから、今のでもかなり効果はあるでしょー?」
くずりはまるでテニスラケットを扱うような軽い素振りで大剣を肩に担ぐ。
そして、その横に雪穂が駆け寄ってきた。
「大丈夫!? 怪我はない!?」
「大丈夫よー。今のは私が攻撃を仕掛けたんだからねー」
二人は地面を転がる最弱の常勝者を見た。
ピクリとも動く様子がない。発火のせいか、彼の身体から煙が立ち上っていた。
(間違いなく、今の攻撃は入った。ガードされたような感触もないし、ましてやかわされてもいないしー)
くずりは確信していた。
今のは効いていた、と。隙を突いたからかもしれない。けれど、理由などどうでもいい。何でもいいから、この敵を倒せさえすれば。
「雪穂、止めを刺すわよー!」
「う、うん!」
今度は雪穂も大きな三つ叉の槍を構える。
二人は矛先でじっと敵を捉え、タイミングを合わせる。呼吸は合っている。このパートナーとは何年もの付き合いなのだ。自然と、意識をしなくても合わさってしまう。
そして。
二人が同時に床を蹴りあげ、地面に転がる最弱の常勝者の頭上へと跳び上がった。
完全に攻撃範囲内に捉えている。
もう何があっても攻撃が外れることはないだろう、というレベルまでに。
「「はぁあああああああああああああああああああ!!」」
雪穂は全力で槍を突き出し、くずりは全力で大剣を振るう。
ゴパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンン!!
大規模爆発が生じた。
攻撃を仕掛けた雪穂とくずりですら、その余波に後退させられる。だが、それで良かった。
それほどの攻撃を今、仕掛けられたのだから。
光陵学園の敷地内に植えられた芝生も、赤茶のレンガも剥がされて行く。レンガの破片が校舎に直撃し、まるで砲弾のように破壊していく。
そんな攻撃の中心に最弱の常勝者はいたのだ。
自らを最弱と名乗る男が。
無事なはずはない。二人はそう思っていた。第一手で、くずりの攻撃をまともに受け、それから動かなくなってしまったような敵だ。
死んでいても不思議はない。
不思議はないはずなのに。
コツン、コツン。
足音が、爆発の中から聞こえてきた。爆発の轟音には負けているはずのなのに、確かな存在感が二人の耳に届く。
「嘘、でしょ……?」
くずりはゴクリと唾を呑みこんだ。その横で、雪穂も目を見開いて、汗を顔の輪郭に沿って垂らしている。
声が聞こえてきた。
「私の字、『最弱の常勝者』。そう、先ほど貴女が言ったように矛盾している名前ではあります。ですが、こう考えてみてはどうです? 『最弱』と『常勝者』、その二つの言葉は同時には成り立たない、と」
「「!?」」
二人は、『冥府の使者』の言葉にビクゥと肩を震わせた。
その言葉の意味が何を意味しているのかは分からない。けれど、本能が言ってくる。
この敵は、決して簡単に倒せる者ではない、と。
それを知ってか知らずか、爆発の中から出てきた最弱の常勝者は淡々と告げる。まだ生気が十分には感じられないが、先ほどよりはいくらか払拭された印象を受ける声で。
「別に隠しても意味がないので、教えましょう。私の本質を」
そこで最弱の常勝者は歩みを止める。雪穂とくずりとの距離は十数メートル。だが、それでも目の前にいるような圧力を感じながらも、彼女たちは敵の言葉を聞く。
「普通は、ダメージを受け、身体に負荷がかかれば弱ります。それが生物の本質。が、私はその本質を覆してしまったのです。つまり、ダメージの無い、身体に負荷の無い状態であれば、いつでも瀕死となり、逆にダメージを受け、身体に負荷がかかれば健康の状態となる。故に『最弱の常勝者』。私は誰よりも弱く、そして誰にも負けないのです」
「「ッ!!??」」
雪穂とくずりは絶句した。
一瞬で、この状況がいかにマズイかを理解したからだ。
つまり、こう言われたようなもの。
『攻撃してくれば、俺は無敵に近い存在になる』と。だが、ならばどうする。
少なくとも、彼女たちは知らない。敵を痛めつけること以外で倒す手段を。剣を握ったら、敵を破壊し、槍を手にすれば敵を貫く。それが彼女たちの戦いのスタイル。けれど、今それを否定されたのだ。
そのスタイルでは自分たちに勝機はやってこないと。
『戦い』という概念そのものが崩れ落ちて行く。
頭の中が真っ白になっていくのを感じる。
くずりはちらりと、横目で雪穂を見る。だが、やはりと言うべきか、彼女も動揺したように身体を震わせている。
静かに、三つ叉の槍がカチャカチャと音を立てている。いや、槍だけではない。自分も大剣を震わせている。
(つまり、さっきから私たちがやってたのは、わざわざ敵を強化させていたっていうのー?)
くずりは理解しつつも、認めたくない現実を繰り返し頭の中で呟く。
自分が先制し、なおかつ雪穂と合わせて攻撃し、戦闘の流れを完全に掴んだと思っていたはずなのに。
敵の口から、自身の本質を聞かされただけでそんなものはあまりにも呆気なく崩れ落ちて行く。
これが、『冥府の使者』。
世界の均衡という大きな流れそのものを変えようとしてしまう存在。
そこに人間の常識など意味を為さない。そんなものに縛られていては生きてはいけない。
くずりも雪穂もある程度、常識を超えた考えを持っていたつもりだった。そうでなくては『討伐者』などやっていけるはずもない。
その力はすでに常識の範囲を飛び越えているもののはずだから。
だが、しかし。
どうやら、それすらもある『常識』の中のことだったのかもしれない。
本当の意味で常識を飛び越えているというのは、目の前の敵のような存在のことを言うのだろう。
彼女たちは他の『冥府の使者』を知らない。
少し前にはこの街にもいたらしいが、それは彼女たちがそれほど関与することなく『もう一組』の討伐者たちによって討伐されていた。
つまり、これが『冥府の使者』との初対戦になるのだが。
いきなり、ものの数分でここまで心の根源的な部分が壊されるとは思ってもいなかった。何のために力を得たのか。
このままでは自分たちの守りたいものを全て失ってしまうのではないか。
そこで、最弱の常勝者は口を開いた。
「さて、戦いを続けましょうか。もう一度、言っておきます。私は『弱い』、と」
第6回ぶっちゃけトーク!~ヒロインのポジション
エマ「……すなわち、困惑。前回から登場して、しかも名前とかは今回で明かされたというのに、まさかいきなりこんなコーナーに呼ばれるとは」
美奈「しかも! 相手はまさかの私! 一体、どういうセレクトでこうなったんでしょうねー?」
エマ「すなわち、詮索。貴女はその意図を理解しているのでは?」
美奈「……そりゃ知ってるけど! ここはほら、知らない設定で行こうよ! まあいいですけど。それじゃさっそく! 私たちが今回選ばれた理由!」
エマ「すなわち、興味。大変気になります」
美奈「実は! 当初の設定では今の私のポジションはエマがやることになっていたんだって!」
エマ「すなわち、驚愕。そうなんですか!? それは初耳です!」
美奈「そうなんです! 最初の設定では私はテレビを見る描写でチラっと登場するくらいだったらしいんですけど、なんか『アイドル』っていうポジションでなおかつ戦いにも関与できる設定にすれば面白いんじゃないかって急きょ変わったらしいです!」
エマ「すなわち、理不尽。つまり、そんな発想のせいで、私の出番はこんなにも遅れたうえに、本来のヒロインポジションも取られたのですか」
美奈「……まあ、そういうことになるかな。なんか、作者的には天使と人間だとそこまで馴染んだ日常が書けなくね? ってことになって、でもある程度立場の違いは欲しいから、『アイドル』の私を選んだんじゃないかなー」
エマ「すなわち、反論。私にだって、こう、青春的な日常は送れます!! 今すぐに設定の改変を!!」
美奈「それはさすがに無理なんじゃ……」
エマ「すなわち、強行。こうなったら、どんな手段を使ってでも、私を元のポジションを奪い取ります!!」
美奈「……、なんかエマが怖いことを言い出してきたので、今回はこの辺で! また次回!」