対談
こんにちは! 夢宝です!!
もうすぐ冬も終わりを迎えるこの季節、作者は花粉症と格闘する毎日を過ごしております(汗)
いやー、鼻詰まりや咳がつらいつらい。春は好きなんですけど花粉症は勘弁してもらいたいものですよね~
あ、ここで一つお知らせです!
今回から後書きが新コーナーになりました!!
登場キャラによるぶっちゃけ本音トークや本編に関する裏設定なんかを公開していくので、そちらのほうも読んでいただけたら幸いです!
では、「約束の蒼紅石」第20話お楽しみください!!
わざわざご足労ありがとうございます。それで早速本題なんですがね? いや、実はお宅の息子さんが、クラスメートの持つパソコンのデータを無断でネット上に掲載してしまったようなのですよ。
本人に確認したところによりますと、どうやら本当のようで、クラスで口論になった腹いせと言っていました。
お母様、これは大変申し上げにくいことですが、学校としてもこれを黙認するわけにはいきません。
悪戯というレベルを超えていますよ? 無断でデータを掲載するにあたって、ハッキングという犯罪行為にも手を出していることを、息子さんは認めました。
これはもう立派な犯罪です。ですが、校長もこれは警察沙汰にするほどではないとの意見を申し上げてくれました。つまりこの一件が世間に公となることはないでしょう。
でもそれで全てが済んだとは思わないでください。少なくとも停学処分は最低限覚悟していただく必要がありますので、今日こうしてわざわざ足を運んでもらいました。
……あの、先ほどから黙っていらっしゃりますけど、事の重大さを理解していただけているのでしょうか?
お宅の息子さんは犯罪行為に手を染めたのですよ?
えっ? 息子が勝手にやったことなので私には関係ありませんって?
ちょっと、無責任なことを言わないでください。仮にもあなたは彼の親御さんでしょう? 関係ありませんなんてことがありますか!
え、彼と関わるとロクな目に遭わないですって?
ええ、そうでしょうとも。私もお宅の息子さんの担任になったが故にこうやって面倒な責任を押し付けられて、私の立場も危ういのですよ! なら、親であるあなたに責任を取ってもらうというのが普通なのでは?
ちょっと、どこに行こうとしてるんです?
えっ!? 帰る? いい加減にしてくださいよ! ちゃんと息子さんと話し合って、今後のことを考えてください!
これは社会的にも大問題な事件ですよ!? 校長が世間に公表しないといっても、すでに学内に知れ渡っていますし、そこから情報が漏洩する危険性だってあるんです。ここはあなたたちと私たち、学校側で一度しっかり話し合う必要があるんです!
ちょ、待ってくださいって!
…………本当に帰ってしまった……
息子に無関心な親め!
9月8日。
夏休みも終わってから早一週間が経とうとしている街はどこか活気づいていた。そしてそんな街の一角、鳴咲市の中心街から少し東に外れたところに、それはあった。
鳴咲市少年院。
広い敷地は、外から覗けない高さの鉄の塀に囲まれていて、未成年たちの自由を拘束していることを主張しているような建物。
そんな鉄の塀も二つだけ扉があり、その前には電話ボックスを大きくしたような簡易建造物に一人から二人の監視役が配置されている。
そして、
ギギギギィ、とドアが鈍い音を立てて開いた。
中から、監修と思われる男と一緒に、茶髪で跳ね髪の青年が出てきた。
青年は半袖のTシャツにジーンズといたって簡単な服装で、とくに荷物も持たず尻ポケットに財布と、横のポケットに携帯電話を入れているくらいで、近くを散歩していますよといった感じの装備。
この青年の名前は柳将也。二年前にハッキングで大手企業の機密事項を盗み、その上裏組織にそれを高値で売買しようとしたことによって逮捕されていた青年だ。
「出所おめでとうさん」
少年院から出てきた将也に真っ先に声をかけたのは、少年院の外側で待っていた顎鬚に白髪混じりの髪の男。
夏も終わって秋になったとはいえ、まだまだ残暑が残る中、その男は黒いスーツに全身を包んでいた。
「わざわざ見送りに来てくれたんですか、ありがとうございます城根さん」
将也のその挨拶はとても犯罪を犯した者のそれとは思えなかった。
別に自分を捕まえた相手に皮肉を込めて言っているわけでもなく、本当に心からそう思っていたように見える。
「これからはあまり馬鹿なことはするなよ?」
城根も威圧感のあるようではなく、普通に息子と接するような感じで将也に笑いかけた。
将也をここまで連れてきた監修は、この二人はどういう関係なのだろう、と疑問に首を傾げていたが、城根から目で合図を受け取ったのか、速やかに少年院に戻って行った。
「そうですね。本当に感謝してますよ。だからもう城根さんに迷惑はかけるつもりもありませんから」
「はは、それは頼もしい限りだな。だがまあ、また何か困ったことがあったらいつでも私に会いに来なさい。君はこれからもこの街で生きてくんだろう?」
城根のその言葉を聞いて、将也は自分の遥か上空に広がる雲ひとつない晴天を見上げて、
「もちろんですよ。俺にはこの街しか居場所がありませんからね」
どこか寂しげなその台詞も、将也本人は本当に清々しく言うものだから、城根も笑顔を浮かべた。
「居場所が増えるといいな」
城根はそれだけ言うと、少年院の前に停車させてあった覆面パトカーに乗り込み、その場を去った。
(これからも俺を叱ってくれたりしてくれるかな)
去ってゆく覆面パトカーを見ながら、将也はふいにそんなことを思った。あるいは呟いていたのかもしれない。
柳将也という男はそもそも鳴咲市に住んでいた者ではない。逮捕される直前までは神奈川に住んでいて、そこには家族もいた。
将也は一人っ子で、父と母の三人家族。
戸籍上はそうなっているが、将也は両親を家族とは思いたくなかった。
よく、ニュースで子供に対する虐待や、またそれの反対の例も挙げられる。それはすでに社会的問題に発展しているし、許されるようなものでもない。
けれど、将也はまだ自分の親が自分に虐待してくれる人なら良かったと本気で思っていた。
無関心。
自分の親は自分にどこまでも無関心だった。
どんなに悪い成績を取っても、どんなに良い成績をとっても、どんなに他人に迷惑をかけるようなことをしても、どんなに人の役に立つことをしても、自分の親は何も干渉してこなかった。
他から見れば放任主義に見えたのかもしれない。
しかし、これは決して放任主義なんてものではなかった。
自分に関して何も思ってくれないだけだったのだから。
食卓には自分の分の食事が並べられることもなく、自分の分の食器すらも満足になかった。
いつもコンビニでカップ麺を買って、近くの公園でそれを食べて、家に帰って寝る。
将也にとって、家とは安らぎではなく、ただ、寒さをしのいで眠る場所でしかなかった。
(けど、そんな俺にも初めて怒ってくれる人がいた。悪いことをしたら本気で怒ってくれて、いいことをしたら褒めてくれた)
将也は少し口元を緩めた。
実の親よりも、自分のことを気にしてくれる人。
それがさきほど見送りに来てくれた城根だ。
親元にいることに耐えられなくなり、中学を卒業するのと同時に、ここ、鳴咲市にやってきた。
もちろん、親戚や知り合いがいたわけではない。彼は孤独だった。
それでも、無関心な親の元にいるより幾分もマシだ。そんな気持ちで将也は鳴咲市に済んだ。
親の仕送りなどあるわけもなかったが、得意分野のパソコンで、法的にはアウトな仕事をこなし、生活資金は確保できたし、鳴咲市に来てから、この街にはびこる不良集団、『落第巣窟』に所属し、その頭脳明晰な彼の犯罪手口から、あっという間にリーダー格まで昇格した。
そして、彼が『落第巣窟』に入ってしばらくしたところで、城根と出会った。
基本的に不良の集団である『落第巣窟』は違法な手口で金を集めていた。それもあり、将也のハッキング技術を使えば、ガッポリと大金が手に入るということを知った彼らは、大手企業の秘密裏に進めていたプロジェクトの情報をハッキングにより入手し、それをライバル企業他、海外にまで売ろうとしたところを城根たち、つまり警察に見つかったのだ。
しかし、実際に逮捕されたのは、ハッキングを実行した将也だけで、他の『落第巣窟』のメンバーは証拠が無かったため起訴されることはなかった。
まだ未成年だった将也は少年院に入れられ、それからは城根にこっぴどく怒られたり、しかし、院内でいいことをすれば、心から褒めてくれた。
将也は、自由が束縛されるはずの少年院に、どこか心地よさすら感じていた。
(ま、いつまでも城根さんに甘えてばかりってわけにもいかねーし、久しぶりに『落第巣窟』の奴らにも顔出しとくかな)
将也は自分の自宅であるアパートに向けて、のんびり晴天の下を歩いていた。
とりあえず、二年間も空けっぱなしにした家を見てから、昔の仲間のところに行こうと考えていたのだが、
プルルルル……
将也のジーンズポケットに入っていた携帯電話が鳴った。
「?」
将也は出所したばかりなので、誰からだろうと思いつつ、携帯電話を取りだした。
どこにでもあるようなデザインの携帯電話のサブディスプレイには、見覚えのない番号の羅列が表示されていた。
「日本国外から、か?」
そう、その番号は決して日本で使われることの無いもの。
不信に思いつつも、将也は携帯電話の通話ボタンを押し、それを耳に当てた。
すると、
『柳将也さん、ということで間違いありませんか?』
電話の向こうから、自分とあまり年が変わらないのではないかと思えるほど、予想以上に若々しい声が聞こえてきた。
しかも、海外からの着信なのに、日本語だった。
「誰だ?」
『おっと、これは失礼しましたね。本来ならば、ここで本名を名乗るのが最低限の礼儀なのですが、すみませんね。こちらの立場上、本名を名乗ることは出来ません』
その言葉に、将也は怪訝そうな表情を浮かべた。
裏の世界を知っている彼だからこそ、分かる。
こういうタイプの人間はただの一般人ではない、ということを。
『そうですね、しかし全く自己紹介もないというのも、私の人間の在り方を疑われそうなので、一応言っておくと、『アメリカ現大統領と直接的に交渉が出来る程度』には立場が上の人間です』
その言葉の意味を将也が理解するのに、それほど時間はいらなかった。
元々、彼が頭がいいというのもあるのだが。
「……そんなお偉いさんが、今出所したばかりの子供の犯罪者に何の用でしょうかね?」
皮肉を込めたつもりだった。
しかし、電話の相手である男は変わらない調子で、
『ええ。貴方が今日出所するということは、勝手ながらこちらで調べさせてもらいました。そして、貴方が優秀なハッカーであるということも』
それを聞いて、将也は確信した。
『仕事』の依頼だと。
そして、確信した上で、
「お断りだ。俺はもうそんなつまらないことで俺を思ってくれる人に迷惑をかけないと決めたばかりなんだからな。その件は他をあたってくれ」
『鳴咲市の存亡に関わっている、といっても断られるのでしょうかね?』
対して、電話の向こうからは笑みを含んだ返答が帰ってきた。
「な、に……?」
『ですから、貴方の手によって、鳴咲市の存亡がかかっていると言っても、過言ではないということですよ』
「……内容を聞かせてくれ」
『そうこなくっては。……いいですか、今日の正午より、この通話が終わり次第貴方の携帯電話に転送する住所で、とある対談が行われます』
「対談……?」
将也は眉をひそめた。話の筋道がよく見えてこなかったからだ。
しかし、電話の相手は構わず続けた。
『ええ。この対談はとても重要な意味を持ちます。事によっては、世界を揺れ動かすほどに。簡単に言ってしまえば、戦争の引き金というところですかね』
「……戦争、俺をからかっているのか?」
将也の反応は当然だ。
戦争なんて単語をいきなり聞かされても、ピンと来る方がおかしい。
現代でも内戦やら抗争が絶えないのは事実だが、今の日本にはほとんど関与していないものばかり。
そんな戦争を知らない将也が聞いたところで、夢物語。
『からかってはいませんよ。そんなことでわざわざ国外から電話なんてしませんよ。それで、貴方にお願いしたいことは至って単純。その対談を盗聴してほしいのですよ』
「……なるほど、それで元ハッカーである俺にその依頼を、か。だが、一つ聞くが、なぜ俺なんだ? ハッカーなら他にもたくさんいるだろうが」
『それに関しては、こちら側の事情なので明かすことは出来ません。それで、この件は引き受けてくれるのですか?』
問い、というよりは答えを分かっていてわざと確認しているように聞こえた。
少なくとも将也はそう感じていた。
いつの間にか歩いていた足は止まって、路上に立ちすくむ将也。そして、ゆっくり口を開いて、
「本当に、この街の存亡に関わるんだな?」
最後の確認を取った。相手の返事は、
『本当です』
それを聞いて、将也が断る理由が今、完全に無くなった。
(ごめん、城根さん。俺、また闇に足を突っ込むことになった)
「引き受けた」
心の中で、自分を思ってくれる人に謝罪し、そして、『仕事』を承諾した。
『助かります』
電話はそこで切れ、直後、すぐ将也の携帯電話に添付ファイルが送られてきた。
それを開くと、東京のとある住所が書かれていた。
(これは、外交対談施設……?)
住所は住宅街のものではなく、将也の思った通り、外交対談施設のものだった。
しかし、外交対談施設、というのは表向きの名前であり、本当は『討伐者日本総本部』というのが正しい。
無論、討伐者とは縁の無い将也がその事実を知るはずもないのだが。
そして、もう一つ、添付されていたファイルを開くと、そこには次の指示が書かれていた。
「まずは、中心街にあるネットカフェからハッキング、そしてこの施設内にある録音機器を統括するメインコンピュータを乗っ取って、盗聴、及び録音、ね」
ネットカフェというのは、個人のアカウントが作れない分、誰がどういう使用方法をしたかということが特定されにくい。
その点は、仕事を引き受けた時点で、将也も考えてきたこと。
だが、施設内のあちこちに設置されている録音機器を一カ所で統括しているというのは嬉しい誤算だった。
(一カ所で統括するということは、その分セキュリティが厳重になるが、それさえ突破出来ればあとは手に取るように遠隔操作ができちまう。腕の見せどころだよな)
将也は携帯電話をズボンのポケットの仕舞い、再び足を動かす。
(城根さんとの約束は破っちまうけど、それでも俺はこの街を失いたくはないんだ。許してくれなんて言わないけど、今は誰も止めないでくれよ。俺はこの街を守るために、闇に堕ちることを決めたんだから!)
再び、自分は平穏な日々を捨て、しかし自分を受け入れてくれた街を救うために、中心街へと向かうために――
東京都某所。
東京ドームの五倍はあるであろう敷地に、轟々と聳え立つ純白の建造物。それは敷地内の半分ほどを占めていて、残り部分は手入れされた黄緑色の綺麗な芝生に、その間にレンガで造られた歩道がある。
敷地内にはいくつかの噴水が奏でる涼しげな音が響き、夏の残暑すらも忘れさせてくれるほどに心地よい。
表向きは外交対談施設となっているこの建造物は、『討伐者日本総本部』。
討伐者全体を統括する『総帥』の居住地でもあるこの建物の一室、客間に二人の男女がいた。
軽く体育館ほどの大きさの客間には、とてつもなく長い机と、そのサイドに二〇脚ほどの椅子が置かれていた。
そして、二人の男女は一番前の椅子に向いあうように座っていた。
片方は長い顎鬚を蓄えた、浴衣に身を包んだ老人、討伐者のトップ、『総帥』。
そして、その向い側に座るのは、夏を思わせる薄手の純白のドレスに身を包み、長いピンク色の髪は白とマッチさせている女性。
ドレスに負けないくらい白い肌の持ち主は、討伐者ヨーロッパ支部のトップ、『先導者』の二つ名を持つ、本名はフィアルミ=ロレンツィティ。
フィアの前にはティーカップに注がれた紅茶が、総帥の前には湯のみに入れられた抹茶が置かれていて、服装もさることながらどこにも統一感はなかった。
フィアは紅茶を一口飲んでから、総帥の顔を一瞥して、口を開いた。
「私が今回、来日した理由はわざわざ口にしなくても分かっていただけていますよね?」
どこか棘のある言い方だった。
普段、物静かなイメージがある分、謙介や要が今のフィアを見たら少しは震えるだろう。
しかし、総帥は動じる様子もなく、湯のみに手をやると、
「『頂』の件についてじゃろうか。それとも、わしの考えに異論を唱えるためじゃろうか」
「両方ですよ。まず、『頂』に関して、先日私の管轄であるドイツのフランクフルトで勝手に暴れられ、その上、二〇騎士に負傷させたことに関して、何か言うことがあるのではないですか?」
総帥は抹茶を一口飲み、味わうと、湯のみを静かにテーブルに置いて、
「それに関してはわしにも不備があったと言えよう。しかし、それほど大ごとにすることかね? そもそも、そちらが『頂』の邪魔をするようなことをしなければ、お互いに傷つくことはなかったと思うがね?」
「……では、総帥は『頂』の計画を後押ししているということで解釈していいのですね?」
「始めからそう言っておるじゃろうが」
「それがどういう意味か分かっていますか? 『頂』そして、『絶対強者』である九鬼はこの世界を、滅ぼすかもしれない危険因子。それを野放しにするどころか、公認するなんて私には理解できません」
「世界を滅ぼす、ということまで認めたつもりはないんだがの。ただ、彼奴らの力は、討伐者という一大組織において必要不可欠、というだけのことじゃ」
「ですが、事実、『頂』は討伐者という組織を内部から破壊しているよういに思えますが? どうして討伐者同士で争うという構図が出来あがっているのか。そもそもそんな愚かしい構図が出来あがっていること自体おかしいではありませんか」
フィアのいつものフンワリとした雰囲気はすでになくなっている。
客間を包むのは、全身逆立つようなピリピリとした空気。
「ほう、確かに違和感のある構図ではありますな、先導者。しかし、先ほども言った通り、討伐者として必要なものは力なのですよ。逆を言えば、力の無い討伐者は不要、とうことになりますな」
「――ッ!!」
フィアは椅子から跳びあがりそうになる身体を必死に押さえつけた。
そうしなければ、目の前にいる老人を本気で殴り飛ばそうとしてしまうから。
しかし、当の総帥は動じる様子もなく、淡々と続けた。
「今のは極論になってしまったが、つまりはそういうことなのじゃよ。討伐者を倒すことで、石を覚醒させられるのなら、それもまた討伐者としての運命ということで理解してもうほかあるまいて」
「そして、選び抜かれた最強の討伐者たちを使って、表の世界を蹂躙する、と」
フィアの声は震えていた。
恐怖からではない。目の前にいる老人に対する怒りから。
なんとかいつもの表情を保つだけで、顔中の筋肉が疲れていた。それだけで顔を吊りそうなほどだ。
対して、総帥の方は至って余裕。
湯のみを回しながら抹茶を飲んだりしている。
「蹂躙、という表現はずいぶん乱暴じゃのお。言ってみれば、わしが成し遂げようとしているのは世界の統括じゃよ。今は討伐者という世界を守るための組織が表立っていないがために、世界が表と裏に区別されてしまっておる。ただその世界を隔てる壁を取り払おうという話じゃろうて。そのためには多少の犠牲はいたし方あるまい? 人は何かを犠牲にして生きて行く術しか知り得なのじゃからな」
「……私はあなたと似た人間を知っていますよ」
「ほう」
総帥はそこで初めて表情を動かした。といっても、目を細めて、フィアを見据えただけだが。
フィアは椅子に座ったまま、
「ナチス=ヒトラー。独裁者の異名を持つ悪魔の申し子ですの。自分の嫌った人種を、それこそ人と認めすに一方的に虐殺した非道の男。私はヨーロッパ支部の人間です。だからこそ、そのような歴史を繰り返すことには、他の国の人たち以上に嫌悪感を抱いていますの。あなたはそれと似たようなことをするつもりなのでしょう? いきなり討伐者なんて人間離れした存在が一般の方々に認められるはずもない。だからこそ、圧倒的な力で物理的に制圧する。それがあなたのしようとしていることでしょう。何が世界の統括ですか。そんなのは忌まわしき歴史を繰り返すだけの愚行に過ぎません。もしそれでも止める気がないとおっしゃるのでしたら、ここで私と総帥の個人的戦争を勃発させることに成り得ますよ」
フィアの言葉にはどこか重みがあった。まるで見えない重鎮を押し付けられているような。
しかし、その程度の重鎮で圧殺される総帥ではない。
「若いの。しかし、若さゆえに世界の本質が見えておらん」
「……世界の本質……?」
「そうじゃ。虐殺、惨殺を否定することは、今生きる世界そのものを否定することに他ならないのじゃからな」
「……それは、今の科学は戦争の上に成り立っているから、と言いたいのですか?」
「それもある。今の世界から科学技術を無くして、果たして機能するかね? 答えは言わずとも分かるだろう。現代から車を、電車を、電話を、冷蔵庫を無くして生活できるか? 出来るはずがない。しかし、それは同時に戦争によって形成された生活に依存していることを意味する。さて、そんな今の楽な生活を作りあげてくれた戦争を真っ向から否定することができるかね?」
「……ですが、それがまた戦争を繰り返していいという理由にはなり得ないでしょう。そんなことをして、次は何が手に入るというのですか」
「我々討伐者が表立つということには大きな意味があるのじゃよ。そのための犠牲と考えれば在る程度は妥協してもらえるじゃろう」
「そんな、そんなものが世界の本質だとでも言うのですか」
そこで総帥は湯のみに手をかけて、
「もう一つある。しかしこれは世界の、というよりは人間の本質なのだがね。しかし、人間によって構成されている世界の本質といってもあながち的外れでもあるまい」
フィアは今度は大人しく総帥の言葉に耳を傾ける。
もちろん、その言葉に納得して引くつもりはない。ただ、自分と総帥とでどこまで見解が違うのか見極めたかったのだ。
「人間、という生き物は常に競い合うことを止めずに生きる。そして、何に足しても優先順位を付けたがるのじゃよ。勝ち負けをハッキリさせないと納得できん生き物なのじゃよ。世界の教育システムもそうじゃろう。受験など、本人の意欲に関係なく、成績の良い者から選んでいく。そうやって順位をハッキリさせないと人を判別することさえできないんじゃよ」
「……」
フィアは黙って、そして紅茶を一口含んだ。
総帥はそこで一旦区切って、虚空を見つめて再び口を開いた。
「しかし、今さら人間の本質を変えることなど不可能なのじゃよ。ならば、その本質に乗っ取って我々は自分たちの活路を切り開くしか方法もあるまいて。世界のシステムを変えることが出来ないのなら、今までと同じ方法で変革する必要があるのじゃよ」
「……総帥の意見は大体理解しました。が、それを認めるとなるとやはり話は変わってきますね。私はどうしても貴方の意見に賛同することは出来ませんし、するつもりもありません。それに第一、戦争を勃発させるとして、貴方の手駒として動いてくれる組織などありますか? 世界各国の軍隊も、日本にある自衛隊も当然ながら貴方に手を貸すことはないでしょう。むしろ、自分たちの住まう世界を守るために立ちあがり、貴方に牙をむくことでしょう。それなら、貴方はどうやって戦争を起こすつもりで?」
確かに大きな問題だ。
戦争というのは、国同士の世界規模の喧嘩。言ってみればその喧嘩にはそれ相応の人数が必要となる。
しかし、討伐者側はただでさえ人数が少ないのに、それに加えて総帥の考えに反対するものがほとんどだ。
口では戦争を起こすと言っても、実際にそれを実行するにはあまりにも役不足。
だが、総帥はそれをあまり深刻に考えてはいないようで、ゆったりと抹茶を味わいつつ、口を動かした。
「それなら、既に考えておるよ。まずは、我々が戦争の引き金を用意するのじゃよ。そうすれば、我々が戦の渦中に入るより先に、表の世界同士で戦争を起こすじゃろうて」
「何を、言ってるのです?」
「簡単なことじゃ。例えば、今回はわしら日本側の討伐者、今回の事例で言えば『頂』がそちら、ヨーロッパの連中に手を出した。まあ、先導者は平和主義者なのだろうて、話し合いで解決するためにわざわざ来日したのじゃろう。が、全ての国が話し合いで解決するという方法を取ると思うかね?」
「――ッ!!」
フィアはそこまでを聞いて、絶句した。
総帥は唇を片方だけ吊り上げて、続ける。
「現時点で、核兵器を保持する国ならば、あるいは戦争の引き金となり得るのじゃないかね? 今回のように、きっかけは討伐者同士の争いとなっても、政府側はそれを大した問題視には取り入れんじゃろう。問題なのは、『討伐者同士の争い』ではなく、他国の人間が喧嘩をふっかけたことにあるのじゃからな。つまり、討伐者という駒を使い、他国を襲わせ、表の世界同士で戦争が勃発すれば、あとは期が熟すのを水面下で見物するだけなのじゃよ」
「……そして、戦争で弱体化した表の世界を仕上げに討伐者側で鎮圧する、そういう解釈をしてよろしいのですね?」
「さよう。数で負けているのならば、身内同士で殺し合ってもらうほかあるまいて。いくら『贈与の石』の恩恵を受けている我々でも、核爆弾などを投下されては一たまりもあるまい? それに、戦争の際にほとんどの核兵器を使ってもらえれば一石二鳥。未だかつてない世界大戦に発展すればするほど、我々としては美味しい話となるのじゃよ」
「呆れましたね。それでは、乗っ取るはずの世界そのもの、地球が消滅しますよ。総帥としてもそれでは本末転倒でしょう?」
計算上、今地球内にある核兵器が同時に使われれば、地球は文字通り消滅すると言われている。
総帥は今まさにそれを実行に移そうとしているのだが、
「確かに、本当に核兵器を次から次へと使われればそうなるのも必然。しかし、それも可能性の話じゃよ。実際に手榴弾や機関銃のように気楽に使えるものでもあるまい? そして、万が一にも核兵器を継続的に使われるようなことがあれば、そのための保険じゃよ。『世界移転計画』を我々の都合のよい方向に利用させてもらうだけじゃ」
「まさか! それはむしろ止めるべき計画! それは先ほど総帥もおっしゃっていたではありませんか!」
思わず身を乗り出すフィア。
対して、総帥はずっしりと椅子に座ったまま、
「それは最悪の場合じゃよ。主の言うとおり、この世界が潰れては元も子もあるまい。ならば、虚無界側の計画を利用させてもらうだけじゃよ。しかし、わしとしてもこれは本当に最悪の場合を考慮したときだけじゃ。そもそも、『世界移転計画』などという実態の分からぬ計画を考慮して進められるほど、この策は容易いものでもあるまい。こんな不確定要素を取り入れなくてはいけないのは心苦しいが、地球そのものがなくなってしまうのでは、それに頼るのも仕方あるまい」
「何が、何が仕方ないのですか……どちらにしても、今普通に暮らしている人たちの日常を壊すつもりじゃありませんの。貴方は何様のつもりですか! 普通の人たちより、少し優れた力を持った私たちがそんな権利を持てるとでも言うのですか! 私は知っています。ヨーロッパは第二次世界大戦を終え、今まさに平穏を手に入れたのです。それを、貴方はまたしても奪おうと言うのですか。どうしてそんなことが平然と言える方がいらっしゃるのか、理解できません」
フィアはその小さな拳を握った。
人を差別したり、国の違いで偏見を持ったりすることを何より嫌う彼女にとって、そういった考えで、大勢の人の命を奪おうとする目の前の男は許せないのだろう。
「今は理解できずとも、いずれわしの選んだ選択が正しいと分かるときが来るじゃろう。まあそれを受け入れられるかは保証できんが」
「……私がそれを理解することはないでしょう」
「?」
フィアの言葉に、総帥はわずかに首を傾げた。
フィアは完全に椅子から立ち上がり、キッと総帥を睨みつけた。
「私は必ず貴方の計画を阻止してみせます。戦争などと馬鹿げたことを繰り返すわけにはいかないので!」
「ほう、ならばどうするというのかね? 『頂』と、九鬼を直接的に潰すとでも?」
「いえ、私にそれほどの力はありません。それに彼らとて私からすれば出来れば傷つけたくない対象ですから」
「となると、わしを直接的に殺すか?」
しかし、総帥の顔に恐怖は見られない。それはフィアがその質問を肯定しないと分かっていたからだろうか。
「それもいたしません。もっと根本的な解決方法です。そもそも、この計画は貴方の言う、『戦争の引き金役』を買って出る討伐者の存在が無ければ成立しません。ならば、そんな役を引き受けないように、説得するまでです」
一瞬、総帥はキョトンとした表情になったが、次の瞬間、客間に響き渡るくらいに高笑いした。
「説得じゃと? 阿呆か。討伐者の数は少ないとは言っても、それでも世界的人口と比較しての話じゃ。それだけの大人数一人一人にどうやって説得すると?」
「いえ、そのための四大支部じゃありませんか。それぞれ『総帥』、『先導者』、『指揮者』、『代弁者』が統括しているのなら、彼らから伝達してもらえるだけでかなりの効力を発揮すると思いますが?」
「なるほど、少しは考えてあるようじゃが? この計画の実行犯あるわしが、日本におる討伐者に、自分の計画を邪魔するように、などと寝ぼけたことを言うとでも思っておるのかいな?」
今度は、フィアがどこか余裕のある笑みを見せ、
「その点についてもある程度には考えておりますよ。ご心配なさらずとも。この国には、自分の信念を貫いて戦う討伐者がいるそうじゃないですか。彼らならその信念のもとに立ちあがってくれると思いますので」
総帥が一瞬、訝しげな表情を見せた。
しかし、すぐに元の表情に戻り、
「ならば勝手にするがよい。しかし、決してわしの計画を止められると思わないことじゃ。この世界はそういう風に出来あがっているのじゃからな」
「それなら、こちらから言えることは一つです。自分だけしか可愛がれない、自分の欲求に支配された人間ほど、脆く弱い者はいないのですよ」
フィアはそれだけ言うと、紅茶が残っているのも構わず客間から出て行った。
総帥は湯のみを掴む手に力を込める。
ピシィ! と。
湯のみに若干亀裂が走った。
フィアと共に、ドイツから来日したヨーロッパ支部弐〇騎士である篠崎謙介、そして彼のパートナーである東条要と、『総帥』の専属秘書の黒髪ショートヘアの出来る女の貫禄を醸し出す美女、榎本冬音は、総本部の一室、談話室にいた。
談話室といっても、やはり豪奢な造りで、床には高級そうな絨毯、その上に皮製のソファとガラス製のテーブル、談話室の端にはキッチンまで設置されていた。
謙介と要が隣同士で座り、向い側のソファに冬音が座り、それぞれクッキーや紅茶を飲んだり食べたりしている。
「今回は密入国という形にはなってしまいましたが、それでも『先導者』を連れて来てくださりありがとうございました」
冬音は飲んでいた紅茶をテーブルに置き、座ったまま軽く頭を下げた。
「いえ。でもまさか総帥があんな考えを持っていたとは」
謙介はクッキーをつまみながら言う。
実は、冬音にこの部屋に通してもらってから、大体の話、というのは総帥がこれから何をするのかということを聞いていた。
そして、今、戦争を止めるために総帥とフィアが交渉しているということも。
「けど、交渉が上手くいくんですかね?」
要はクッキーをはむはむ食べながらそんな事を言う。それに対して、冬音は静かに首を横に振った。
「可能性は低いと思いますよ? 今の総帥はこれからも永劫、討伐者という世界規模の組織を継続して成立させることに必死です。確かにこのままでは金銭的な面で討伐者という組織を維持させるのは不可能でしょう。それを知った総帥は何が何でも戦争を成立させたい、というのが本音でしょうから……ですが、今回あなたたちが『先導者』を連れて来てくださったのは決して無駄にはなりません」
「というと?」
謙介はすぐに続きを催促した。
冬音もそれに応えるように、
「討伐者という組織のトップである彼女ならば、何とか『指揮者』と『代弁者』に現状を伝えることはできるでしょう。そして、事がうまく進めば、その三人が統括する支部が連合を組み、この日本総本部を壊滅させる、ということもあり得ます」
「冬音さんはそれでいいんですか?」
要の質問に、冬音は少し笑みを浮かべて頷いた。
「はい。もし日本総本部が潰れて世界戦争が食い止められるのなら、それはとても安い代償でしょう。仮に日本総本部が潰されても、実際に殺される可能性があるのは、首謀者である総帥、そしてその側室である私、あとは『頂』と九鬼といったところです」
さりげなく、殺される対象に自分を含める冬音。
しかし、その表情は清々しいほどに笑顔だった。
「どうして冬音さんまで……」
要の声の方が震えていた。
「仕方ありませんよ。私は一番傍にいたのに、その計画を止めることができなかったのですから」
謙介は無言だった。
確かに、現実的に考えればそれが一番手っ取り早い。
そして、冬音が殺される可能線も高い、ということも。
自分たちのトップであるフィアルミ=ロレンツィティは決して冬音を殺すことはしない、というよりはもしかしたら誰も殺すことはしないだろう。
しかし、アメリカ支部の『指揮者』、そしてロシア支部の『代弁者』についても同じように言えるだろうか。
答えはノーだ。
二人のことはよく分からないが、『代弁者』に至っては、フィアから自分の国以外のことには関心を持たないと聞いていた。
それはつまり裏を返せば、自分の国に対する執着は凄まじいということだろう。
そんな人間が、自分の国を危険に陥れようとした人間を素直に許せるだろうか。殺してもその殺意が治まることを知らないのではないか。
もしそうなれば、その計画を知りながら止められなかった冬音にも間違いなく矛先が向けられる。
最悪、無関係の、日本に配置されたというだけの討伐者たちだって殺されかねない。
そうなると、仮に総帥の思惑である戦争が食い止められたとしても、また別の形で、しかも今度は利益とはではなく、人間が抱く憎悪の赴くままに戦争が繰り広げられてしまう。
もしかしたら、もうすでに誰かを殺して解決できるところを過ぎてしまったのかもしれない。
そして、それを分かった上でフィアは今回の対談を申し出たのかもしれない。
彼女なら、別の観点からの解決策を導き出しているかもしれない。
誰も犠牲にならずに平和的に解決できる方法が。
もちろん、確証はない。仮にそんな方法があったとして、それが成功する可能性だってそんなに高くはないだろう。
戦争を止めるなんてことはそんな簡単なことではない。そんなことができるのなら、二度も世界大戦なんて起こってはいないはずだ。
けど、それでも自分たちを人種に関係なく向い入れてくれた先導者を信じてみようと、謙介は心から思えた。
人が人を思う力というは時に奇跡すら生み出す。
正直、少し前まではほとんどそんなことを信じはなかった。だが、それもとある少年と少女が打ち破ったのだ。
その言葉が本当であると証明してくれた。
ヨーロッパ弐〇騎士であるはずの自分が勝てなかった相手に、その少年と少女は勝った。実力的に見れば、間違いなくその少年と少女よりも自分の方が遥かに上だ。
しかし、自分に成し遂げられなかったことを成し遂げた彼らにあったもの。
想いの力。
誰かを救いたい。誰かを守りたい。そんな想いが実際に力となったのだろう。
そして、それが結果的に奇跡と呼ばれるようになるのだと。
人が一人で発揮できる力なんて本当に微々たるものだ。
いかに弐〇騎士などと、ヨーロッパの兵に与えられる地位を手に入れても、いかに『聖者』なんていう称号をもらっても、所詮自分だけで出来ることなんてことは本当に限られてきてしまうのだ。
そんな地位や称号を手に入れても、戦争を止めることさえできないし、異世界から襲撃してきた敵を満足に倒すこともできない。
しかし、それは謙介に限ったことではない。人間皆そうなのだ。
だからこそ、人を信じて、その人を本気で守りたいという気持ちが、自分ひとりでは発揮できないような力を引き出すのだと。
ならば、今度は自分の力を過信することなく、自分たちのために動いてくれる先導者を信じよう。
そして、先導者のために自分に出来る限りのことをしようと。
実際に役に立つかどうかではなかった。
そうすることに、自分の新しい意味を見出すことができるのだと。
謙介はそんなことを考えていた。
その間にも、冬音と要は何かを話していたらしい。しかし、そんな話はほとんど謙介に耳に入ってこなかった。
コンコン。
廊下と談話室を隔てる木製のドアがそこで二回ノックされた。
そして、こちらから出る前に、ドアがガチャ、と開いた。
ドアから入ってきたのは、純白のドレスに身を包んだピンクのロングへア―の女性。件のヨーロッパ支部のトップ、『先導者』の二つ名を持つ、フィアルミ=ロレンツィティだ。
ぶっすーっとした表情で入ってくるものだから、談話室にいた三人は皆が、
あ、対談失敗したんだ。
と思った。
しかし、ここで何も尋ねないのは失礼だろう。そういった礼儀を弁えた要は、恐る恐る口を開き、
「あの、対談はどうなりました……?」
その言葉に、フィアは一瞬眉をピクッ! と動かすも、本人は平然を保とうとしているのだろうが、とても引きつった笑顔で、
「い、良いところまではいったのですよ? しかし、あれです。そもそも老人と若者では生きた時代から来る違いと言いましょうか、話がなかなか噛みあわないものなのですね」
何とも見苦しい言い訳を並べるフィアを目を細めて見る謙介だが、その向いでは、フィアの言うことに賛同できるのか、冬音が何度も大きく頷いていた。
フィアは談話室のドアを閉めるなり、ドスンと冬音の隣に座ると、まるで子供のやけ食いのように、次々とクッキーを口の中に放り込んだ。
「それで、フィア様はどうするつもりなんです?」
謙介は極めて淡々と尋ねた。
対して、フィアは口の中にリスのようにクッキーを頬ぼっていたため、それを全て飲みこんでから、紅茶を一口(フィアの分はなかったので、謙介の紅茶だが)を飲んでようやく口を開いた。
自分の紅茶を勝手に飲まれた謙介は一瞬、苛立ちからこめかみに血管を浮かべるも、いつものことなので怒りを抑え込んだ。
「ええ、そのことなのですが、とりあえず私の考えを話す前に鳴咲市に向おうと思いますの」
「鳴咲市?」
謙介と要は互いに顔を見合わせて首を傾げた。冬音もよく意味が分からないといった感じの表情を浮かべていた。
しかし、フィアは構わず続ける。
「そこで、一度『魂の傀儡子』を倒したという新人の、ええっと、」
「城根卓、ですか?」
謙介がフォローを入れると、フィアは人差し指を突き立て、
「そうです、その城根卓さんにお会いしようと思いますのよ! それと彼のパートナーで謙介の妹さんにもですよ」
「まあ、それは当初の予定にも入っていたから別に構いませんが、それが何かフィア様の考えに関係あるのですか?」
謙介の質問に、フィアは得意げにフフンと鼻を鳴らし、可愛らしいウィンク(しかし謙介にとっては苛立ちを増幅させるものでしかないが)を飛ばし、
「大いに関係あるんですよ。ということで、いざ鳴咲市へ!」
「はあ……まあそれはいいですけど、どちらにせよ着くのは明日ですけどね」
謙介はため息交じりに言う。
変にテンションの高いフィアの隣で、要の向いあっている冬音も珍しく苦笑いを浮かべていた。
もちろん、この後フィアは談話室にあったクッキーを食べつくしたのは言うまでもない。
鳴咲市の中心街の一角にあるネットカフェ。ビルの二階が全部ネットカフェとなっていて、比較的広いのか、個室が他の店よりも広めに設計されている。
もちろん、プライバシーを守るために、部屋には窓もないし、防音設備も完璧だった。つまりこれだけの環境はハッカーにとってはまさに天国だった。
そんなネットカフェで、コーヒーだけを注文し、デスクトップ型のパソコンと睨めっこしている青年、柳将也がいた。
そして、彼がたった今聞いていたのは、
「な、何言ってるんだよ……戦争……? いやいや、え。なんかのドラマの撮影とかじゃなくて……?」
将也は、海外から電話をかけてきた男の指示で、東京にある外交対談施設で行われる対談を盗聴していた。
多数ある部屋の各所に設置された録音機器を制御するメインコンピュータをハッキングで乗っ取り、先ほどまで行われていた対談を盗聴、録音していたのだが。
もちろん、その対談というのは討伐者である『総帥』と『先導者』のものだが、その辺の話は討伐者という概念を知らない将也は半ば聞き流していた。
しかし、そんな彼でも敏感に聞きとってしまう単語。
戦争。
幼稚園児でも知っているそんな単語に、将也は全身を震わせていた。
正直に言えば、実感は湧かない。いきなりそんな非日常なことを言われても受け入れられるはずがない。
それでも、これがとてもまずい状況にあるということくらいは理解できた。
戦争が具体的にどういうものなのかは知らないが、先ほど自分の電話してきた男の言った言葉、『鳴咲市の存亡に関わる』ということ。
つまり、この二人が話していた戦争に鳴咲市は何らかの形で巻きこまれてしまう可能性があるということだ。
いや、鳴咲市だけではない。
日本という国そのものが関連してしまえば、それこそ逃げ場なんてものはなくなってしまう。街を救うとかそんな次元ではなくなってしまうのだ。
「無茶言うなよ……どうやって戦争を止めるってんだ」
将也の声は震えていた。
いかに優秀なハッカーだろうと、国を救えるなんてことは出来ない。そもそも、街一つ救うことだって難しいのだ。
それなのに、電話の男は自分の腕に街の存亡がかかっているなんて言うのだ。
冗談じゃない。
すぐに自分から堕ちた闇から這い上がりたい気分だった。
けれど、今聞いたことはそんなことすらも許さない、それほどとんでもない話だったのではないか。
そんなことを考えていると、将也の全身から嫌な汗が噴き出てきた。マウスを握る手はすでに汗ばんでいた。
ズボンで手汗を拭ったりしていると、パソコンの横に置いてあった携帯電話が鳴った。
サブディスプレイに表示されているのは、自分をこの対談を盗聴させるように仕向けた男のものだった。
将也はゴクリと生唾を飲み込み、そして震える手で、携帯電話の通話ボタンを押した。
しかし、すぐに携帯電話を耳に当てることはせず、向こうから声が聞こえてきてからそれをゆっくり耳の横まで持ってきた。
『盗聴御苦労さま。そちらで録音した音源は逐一こちらで聞かせてもらったから、改めて報告する必要はないですよ』
ということは、今まさに世界規模の戦争が勃発する危険状態にあるということを、電話の向こうの男は知っているはずだ。
なのに、男の態度はあまりにも呆気らかんとしていた。
まるで、ゲーム世界の出来事を観賞しているように。
「おい、これはどういうことだよ」
将也は震える声を押し殺して、いつもより少し低いトーンで尋ねた。対して電話の相手は変わらない調子で、
『君が聞いた通りですよ。どうやら、今は世界大戦が起きる寸前の状態らしいですね。そして、片やそれを阻止すべく対談を持ちだしたようですが、それも失敗に終わってしまったようで』
「どういうつもりだ……?」
『と、言いますと?』
そこで、将也は少し間を空けて、息を吸い直してから口を開いた。
「どういうつもりで俺にこの話を聞かせたかって聞いているんだ! こんな話を盗聴したところで、俺に出来ることなんて何一つないじゃないか! 不良と集まってハッキングしていただけの俺が戦争なんて止められるはずがない!」
思わず声を荒げる将也。
防音設計になっているとはいえ、カフェで大声を出したことに一瞬、躊躇いを感じたが、それでも抑えつけられなかった。
しかし、電話の相手から返ってきた返事は意外なものだった。
『確かに戦争を止めることは出来ずとも、貴方には戦争を迂回させることは出来るのですよ。まあ、正確に言えば、戦争をある形で遅らせるというところでしょうかね』
「なん、だと……?」
『考えてみてください。もし、戦争を企てる人物が、その人物の組織を内側から破壊されてしまったら、計画を予定通りに実行することは難しくなるでしょう?』
「……」
電話の声を、将也は無言で聞く。と、同時に、男が言うことを頭の中で整理していく。
『つまり、こういうことですよ。戦争を企て、それを実行に移すものなら、その組織に関連する者にも不幸が訪れるということを思い知らせてやればいいのです。そうすれば、戦争を起こせば自分たちも被害を受けると思い、阻止に強力してくれるでしょう』
一見、男の言うことは的を射ているように思えた。
しかし、それと自分がどう関連しているのか、未だに話が見えてこない。
そんなことを考えていると、ふいにパソコンの画面が切り替わった。
『勝手ながらこちらで遠隔操作させてもらいました。どうぞ、画面に映し出された写真をご覧ください』
電話の指示通りに、将也はパソコンの画面に映し出された写真に視線を移した。
そこに写っていたのは自分の知らない少女。
外見だけ見れば小学生、それも低学年といったところだろうか。
写真では、キャミソールにショートパンツ、そして特徴と言えば、茶髪のセミロングのてっぺんにアンテナのように生えるアホ毛だろうか。
しかし、いよいよもって分からなくなってきた。
このどこにでもいそうな幼い少女が、この件にどう関連しているのかということがだ。
だが、次の瞬間。電話の男の一言は完全に将也の思考回路を停止させた。
『その写真の子を誘拐してほしいのです』
「…………え?」
一瞬、頭が真っ白になった。
男が何を言っているのか理解できなかった。この少女を誘拐? 馬鹿な。
しかし、男はもう一度、
『その写真の少女を誘拐するのですよ』
繰り返す。そして、今度は将也が沈黙していると、電話の声は構わず続けた。
『その少女を誘拐すれば、戦争を企てる首謀者の組織に所属する者は間違いなく困る。そして、その子の命を脅かせば、こちらの要求を呑んでくれるはずですよ。そうすれば、少なからず、戦争を企てる首謀者に何らかの反逆をしてくれるという寸法です』
そこまで聞いて、将也はようやく口を開く。
「……けんな……」
しかし、あまりに小さい声で、電話の向こうには聞こえなかった。
『はい?』
電話の男が聞き返すと、今度は、
「ふざけんなって言ったんだよ! こんなことで、こんな小さな子を誘拐なんて出来るわけないだろうが! この子に何か罪でもあんのか!? ねーだろうが! そんな子にどうしてそんなことができる!?」
『なら、そのせいで、大勢の人が死んでもいいと? ご心配せずとも、貴方が誘拐をしても警察に逮捕されることはありません。そこらへんの隠蔽工作はこちらにお任せください』
「そんなことを言ってるんじゃねえよ! 誰も死んでいい人がいるなんて言ってないだろうが! けど、戦争を止めるためだからって、関係ない小さな子を巻き込むのは認めねぇってんだ!」
それだけ言うと、将也は通話を切ろうとボタンに指を伸ばした。しかし、それは電話から聞こえてきた声に制止される。
『どの道、貴方はすでに盗聴して機密事項を知ってしまった。そんな人がこの先自由に生きていけると思いますか? 言ってみれば、貴方の今後は私が握っていると言っても過言ではないのですよ』
「!! ふざけん――」
将也の言葉は途中で遮られ、
『そうですね、もしこの件を断るというのであれば、彼らを殺すことにしましょうか。えーっと名前はなんでしたっけ? ドロップアウト?』
「ッ!!」
将也は言葉を失った。
電話の向こうから聞こえた名前は、かつて自分が所属していた不良集団の名前。
もし自分がこのパソコンの画面に映し出された少女を誘拐しないのなら、今度はかつての仲間を殺すと言うのだ。
(畜生がっ! どうしたらいいんだ!!)
将也は握る拳にさらに力を込める。
爪が皮膚を抉り、一滴の血が流れた。
その時、不意に個室のドアが開けられた。
「!?」
すぐさま将也はドアの方に振り返ると、そこには黒のスーツに身を包み、サングラスをかけた見るからに怪しいごつい体つきの男が立っていた。
(まさか、ハッキングがばれた!?)
そんな不安が頭を過るがそれはすぐに払拭された。
スーツの男は無言で、片手に持っていたステンレス製のアタッシュケースを将也に手渡した。
「何だよ、これ……」
将也はスーツの男に尋ねようと顔を上げたが、すでに男はいなかった。
個室から顔だけ出して辺りを見回すも、普通の大学生のような客しか見当たらず、スーツの男の姿はない。
代わりに、電話から再び声が聞こえてきた。
『ちょうど、次の仕事に必要な道具が届いたようですね』
一応、周りの客に聞かれたはまずいだろうということで、将也は個室のドアを閉めて、再び椅子に座った。
「どういう意味だ。今の男はアンタの差し金かなんかか?」
『ええ。ただ、今受け取ったケースはそこでは開けないでください。貴方としてもこれ以上面倒事を起こすのも本望ではないでしょう? それは、次の仕事を有利に進めたいときに使ってください』
その言葉は間接的にこのケースの中に入っているものが無難な物ではないということを指示していた。
下手をすれば、法に触れるようなものかもしれない。
「……この仕事を断れば、俺の仲間を殺すってのは本気なのか?」
『ええ。もちろんですよ。私としては、あなたの落ちこぼれの仲間よりも、世界の方が何千倍も大切ですからね。その大切なものを守るために手段を選ぶつもりはありません。まあもっとも、今回の対談が成功していれば、こんな強行に出なくても済んだのですが』
将也はガンッ、と荒々しく床にアタッシュケースを置き、忌々しそうに舌打ちした。
そして、吐き捨てるように、
「いいだろう、この仕事は引き受けた。俺はアンタが何者かは分からないし、別に知りたいとも思わねーよ。ただな、一つだけ覚えておけ。俺は絶対に関係のない小さな子供と、俺の仲間を巻き込んだアンタを許しはしないってな。今回アンタの言うとおりにするのは別に協力するってわけじゃねーよ。俺は俺の守りたいもののために動くだけだ。たまたまそれがアンタに操られちまったってだけの話さ」
『それはそれは、何とも頼もしい限りです。それではお願いしますね。ご安心を。こちらで頼んだことです。貴方に断られても、証拠隠滅くらいはしておきますので』
将也は、自分の目の前のコンピュータの電源を落とし、ハッキングに必要なツールが記憶されているUSBメモリをポケットにしまうと、アタッシュケースを片手に、部屋を出ようとした。
まるでそれを見計らったように、
『迎えはカフェの外に待機させています。さすがに、徒歩での移動では都合が悪いでしょう? こちらもある程度は気を遣っていますよ? それに、貴方の時間を潰してしまったことのお詫びに、迎えの人間も貴方がきっと喜ぶようなのを選んでおきましたから』
そこで電話は切れた。
「迎え、だと……」
将也は、耳元で聞こえる電子音を聞き流しながら、口の中で呟いた。
迎え、という言葉にある種の違和感を感じていたからだ。ついさきほどまで少年院の中にいた自分が、また犯罪を犯そうとしていて、しかもそれに協力してくれるような人物がいるだろうか。
嫌な予感がした。
電話の相手を自分は知らない。
それなのに、電話の相手は自分のことを手に取るように把握している。電話のタイミングもそうだ。
まるで自分の動きを近くで見張っているかのような完璧なタイミング。
将也は背筋に何か寒いものを感じた。
得体の知れない人間から、犯罪を唆され、自分の大切なものを盾に、交渉を有利に進めてくる。
ただものであるはずがない。
もっとも、『アメリカ現大統領と直接的に交渉できる』という時点でただものであるはずもないのだが。
そんな不安を抱えて、将也はレジで手早く会計を済ませ、すぐにネットカフェを出た。
出来るだけアタッシュケースの存在に気づかれないように、自分の身体を上手く使って隠しつつ、会計を済ませるというのは、想像以上に気疲れするものだった。
エレベーターでなく、階段を使って一階に下りたのは、万が一エレベーターに設置されている防犯カメラに記録されると、後後、面倒なことになるかもしれないから。
そういった判断がすぐに出来る自分は、案外こちらの世界の方が向いているのかもしれないなんて一瞬でも思った自分を悔いた。
階段を下って一階まで下りると、迷うことなくビルの外に出た。
そして、将也の視界に入ってきたのは、路上の端に止められた白のワンボックスカーだった。
後部座席の窓は、外から見えないようにスモークガラスになっていて、一応法律上の問題からか、前の座席の窓は通常使用になっている。
そして、ワンボックスカーの運転席に座っていた男が、ビルから出てきた将也に気がついたらしく、助手席の窓を開けた。
「おーい、柳! 久しぶり!」
「まさか……」
自分に手を振ってくる男を確認し、将也は声を震わせた。
運転席に座る男は、身長は一八〇センチほどで、スポーツ刈りの頭の青年。
将也はすぐさま車に乗り込むと、青年は笑みを浮かべて、
「まさかまた柳とこんな仕事ができるなんてな!」
「三上……、どうしてお前が」
青年は、不良グループ、『落第巣窟』のメンバーで、かつて将也と共にいろいろな悪さをした悪友だった。
「はは、水臭いじゃねーか。またポリ公とカーチェイスするんだろ?」
三上はハンドルを適当に回しながら言う。
「何を言っているんだ? というか、お前はどうしてここに」
「なんか知らない奴から電話があったんだよ。今夜お前が良い仕事をするから手伝えってな」
まさか、さっきの電話の相手か。
そんな確信を得た瞬間だった。
これほどまでに不良グループの一角を手玉に取るなんて芸当ができる奴を他に知らなかったからかもしれないが。
今さら、何か言ってどうなるものでもない。
将也は覚悟を決めて、
「車を出してくれ。今からすることはカーチェイスなんて遊びじゃねーんだ。誘拐っていう、立派な犯罪だよ」
その言葉を聞いて、三上は一瞬唖然としたが、すぐに笑みを浮かべて、
「でも、お前にとっては意味のあることなんだろう?」
それだけ言って、アクセルを踏むと、ワンボックスカーを走らせた。
「ああ。助かるよ」
車窓から流れて行くビルを見ながら将也は呟くように言った。そして、すぐに何かを思い出したように、手に持っていたアタッシュケースを膝の上に置いた。
「何だよ、それ?」
少し興味があったのか、三上はチラリと横目でそれを見た。
「なんか、今回の仕事で必要なものらしいけど」
そんなことを言いながら、アタッシュケースを開ける将也。
直後。
「――!?」
言葉を失った。
「ゲッ!? それって、おいおいマジかよ!」
三上も動揺したのか、ワンボックスカーが不自然に横滑りした。しかし、すぐにハンドルを握り直し体裁を立て直す。
アタッシュケースに入っていたのは、拳銃。
エアガンでもなく、実弾を放つ本物の拳銃だった。
黒光りするそれは、日本では普通に見かけるようなことはまずない代物。『落第巣窟』に所属していたときですら、こんなものを見たことはなかった。
(俺に人殺しまでさせようってのか!)
気が付けば、将也の手は汗ばみ、小刻みに全身が震えていた。
誘拐するだけだと思っていが、いよいよこんな物騒な人殺しの道具が出てきたのだ。当然だろう。
男は必要なときに拳銃を使えと言っていた。ということは、つまり必要があれば人を殺すまではいかなくとも、最低限傷つけろということなのだ。
ハッカーとして捕まった将也だが、彼にも自分で作ったルールがあった。
それは、決して暴力で人を傷つけないというものだ。
どんなに、電子的に人に被害を与えても、拳で人を殴ったり、刃物で血を流させたりとはしなかった。もちろん、これは『落第巣窟』としてのルールではなく、あくまで将也個人のもの。
しかし、今まさに、そのルール違反を犯そうというのだ。
自分を受け入れてくれた街を、自分を認めてくれる仲間を守るために。
将也は拳を握って、
(ここまで来たら、絶対に救ってやるよ! 何もかも。何もかもだ!!)
第一回ぶっちゃけトーク!~わたしたちって……~
真理「ねえ、蓮華。もうこの小説も二〇話にもなっていよいよ話も本筋が見えてきたじゃない?」
蓮華「え? う、うん。そうだね」
真理「そこで一つ改めて確認したいんだけどさ、私たちって一応『メインヒロイン』よね?」
蓮華「……うん」
真理「最近、私たちの立ち位置って危うい気がするのよね」
蓮華「それは……私も思ってた、かも」
真理「特に! 『妖霊の巫女』編からは美奈が登場して、一気に私たちのポジションを取られたって感じがどうも捨てきれないのよね」
蓮華「うん、確かに……それに今の『使者降臨』編なんか最初の二話は全く出番なかったし、今回だって……」
真理「納得いかないわよね! やっぱり最初が私たちの黄金期だったのよ! そう! また『魂の傀儡子』編をやるってのはどうかしら!?」
蓮華「それは多分、読者に怒られちゃうんじゃなかなー」
真理「えー、よくあるじゃない? リメイク!」
蓮華「そうかもだけど……」
真理「とりあえず! 私たちをもっとメインヒロインの扱いで登場させなさいってことよ!!」
蓮華「お、おおー!」
真理「というわけで作者!! 次の話は私と蓮華の二人だけで――」
美奈「さて、今回はこの辺で! 次回もお楽しみにー! SEE YOU NEXT TIME!」
真理・蓮華「ッ!? このコーナーのオイシイところも持ってかれた!?」