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約束の蒼紅石  作者: 夢宝
使者降臨編
17/29

世界の脈動

こんにちは! 夢宝むほうです!

めちゃくちゃ頑張って更新することが出来ました!

そしてニュースです! この「約束の蒼紅石」の本編とは別に、本編補完シリーズとして「約束の蒼紅石~SIDE STORY~」を連載しました!

こちらのほうも要チェックですよ!

そして、今週からテストが始まるので今度こそ更新がかなり遅れます(汗)次は2月下旬ほどになってしまいますが、今回、2話も同時掲載したので、それでご勘弁をということで。

それでは、本編のほうもお楽しみください!

 「お前……」

 ピラーはぼそりと呟いた。

 九鬼とピラーの視線の先には、黒いハットを被り、下はカウボーイのような、茶色の皮で出来た民族衣装のような服装の男がいた。

 ピラーとは打って変わって、細身だが凝縮された筋肉、そして身長は180を超える長身だ。

 そんな彼が手に持つのは西部劇に出てきそうな年季の入った拳銃が二丁。両手に握られている。

 「マジかよ、俺らの仲間がこんなにやられてるなんてよ」

 カウボーイの男は床に転がる討伐者たちを見て、そして九鬼を挟んで向い側にいるピラーに話しかけるように言う。

 「この俺、ジョン=スミスの出番かな!」

 男はキラリンと白い歯を光らせる。

 「お前の名前はミオルグ=ケティだろうが」

 変わらない調子で、しかし表情は少し呆れたようにカウボーイに突っ込む。

 「おいおい、ここはカッコいい名前で決めるところだっつーの」

 「知るか」

 自分の両端でそんな会話をしていると、さすがに苛立ちが抑えられないのだろう。

 九鬼が、忌々しそうに舌打ちして、口を開いた。

 「んだぁ!? 邪魔が増えやがってよ!」

 「おっと、失礼。俺はそこのピラーのパートナーでな。『道なき城塞』に配置されてるもんだ。歓迎するぜ? 最強さん」

 ケティは自分の目の前にいる相手が、最強の討伐者『絶対強者』と知って、なおこれだけ軽い調子で言う。

 「その根性だけは買ってやるよ。代わりに、ここをてめえらの墓場にしてやるよ」

 しかし、九鬼のその言葉にケティは動じた様子もなく、引き金部分に指を引っかけ、二丁拳銃をグルグルと回す。

 「ピラー、もうこうなった以上、城塞を心配している場合じゃねーだろ」

 「だが、しかし――」

 ピラーはケティの言葉に言い淀む。

 基本的に討伐者は戦う際には『断絶』と呼ばれる石の力を使う。これはある一定の空間を、世界から断絶させることで、その世界での破損や、崩壊を現実世界に影響を及ぼさないというものだ。

 つまり、言ってしまえば、ピラーも断絶を使えば『道なき城塞』の破損も問題ないのだが、しかしそうもいかないのが現実だった。

 『道なき城塞』には、城塞中にワイヤー状のスーパーコンピュータが設置されていて、

全自動制御型装甲オートマチック・ユニット』と呼ばれる最先端技術が施されている。しかし、これはまた大規模なもので、正直これだけの情報処理を城塞だけで行うのは不可能なのだ。それは何を意味するかと言えば、外部との接続もなされているわけだ。それでやっと『道なき城塞』は予測不可能なトラップなども起動できる。

 もし、『道なき城塞』で断絶を使えば、どうなるか。

 外部との接続が断たれ、城塞が城塞として機能しなくなってしまうのだ。

 傍から見れば不用心なのではないかと思う。しかし、そのための『自在伸縮性金属エラスティ・メタル』だった。

 はずなのだが、『絶対強者』はそれすらも物ともしない。

 こうなった以上、ピラーもケティとしてももう成り振り構って戦うなど簡単ではない。

 「どうやら、敵さんは考える時間を与えてはくれないみたいだけどな」

 ケティがニヤリと笑う。そして、ピラーはケティの目線の先を視界に捉えると、九鬼はいつの間にか通路の天井付近まで跳んでいて、その両足には靴のように黒い球体が覆っていた。

 (くそがっ! 対抗策なぞ無いと言うのにっ)

 ピラーは咄嗟とっさに大剣を前に構える。しかし、そこから足を動かすわけでない。

 一方、ケティは素早い銃裁きで、二つの銃口をすぐに宙にいる九鬼へと向ける。そして、次の行動までほとんどのラグがない速さで引き金を引く。

 ドバッ!

 引き金を引かれて響いた音は銃のそれとは違った。どちらかと言えば、コンクリートが鉄の塊に粉々に砕かれたような音だ。

 そして、ケティの持つ二丁拳銃から射出されたのは銃弾なんかではない。

 光の線というのが適切なのかもしれない。

 まるで蛇のように、銃口から放たれた光はうねり、そして九鬼へと向かう。

 「コイツを避けるのはそう簡単じゃないよー」

 軽い調子で、ケティはフッと煙も出ていない銃口に息を吹きかける。だが、九鬼もまたケティと同じ、いやそれ以上の余裕を表情にしていた。

 「ちっ! アイツには『不可侵領域』があるのを知らないのかっ!」

 ピラーは九鬼の余裕の態度の裏を知っている。だからこそ、ピラーも追撃するために大剣をブオン! と振り切った。

 閃光のごとく、三日月型の斬撃は真っすぐに宙にいる九鬼へと向かう。

 ケティの攻撃とピラーの攻撃が九鬼を完全に挟み撃ちにする。

 「だから、甘ぇんだって!」

 九鬼は宙に身を投げたまま右足を振るった。すると、右足に纏っていた黒い球体はまるで蹴られたサッカーボールのように、綺麗に回転しながらピラーの放った斬撃に直撃する。

 バコォン! という轟音と共に、それらは空中で爆発した。

 さらに、九鬼は身体をじって、左足にある黒い球体を、今度はケティの攻撃に向けて放つ。

 また同じ轟音が鳴り響く。

 今度はビリビリと金属の通路全体を振動させた。

 (『不可侵領域』を使わない……?)

 ピラーの頭に何かが引っ掛かった。しかし、それが何かまで模索するほどの余裕を九鬼は与えない。

 ドッ!!

 九鬼が金属の床に着地すると、とても人間が着地したような音とは思えないほど重いものが通路に響いた。

 そして、九鬼の着地したところはクレータのように凹んだ。

 「おいおい、今のをあっさり受け止めるわけ? こりゃまいったね」

 ケティは一筋の汗を流す。しかし、表情だけを見れば笑顔。

 そして、カチャという乾いた音を立てて、二丁拳銃にそれぞれ、銃弾ではない『何か』を装填そうてんする。

 「おせぇ」

 「!!」

 ケティが初めて動揺の色を見せた。そして、自分の手元の辺りに視線をやると、そこには九鬼の頭があった。

 そして、ケティの腹部あたりに掌を当てる。厳密に言えば掌の先にある黒い球体をだが。

 「グッ、げほっ!?」

 ケティはすかさず後ろへ勢いよく飛ばされる。

 ゴッ! という音と共に床に背中を叩きつけられると、それからまたノーバウンドで数メートル転がった。

 「ッ!!」

 その直後、九鬼の横腹辺り目がけて瞬時に距離を縮めたピラーが大剣の刀身を振り切る。

 が、

 ガキィイ! という甲高い音が響いて、代わりに大剣はその動きを止められていた。

 「言ったろ? さっきまでは0.5パーセントだって」

 (バカなっ!)

 九鬼は今度は黒い球体ではなく、黒い手袋のようにそれを手に被せ、そして片手でピラーの振るった大剣の刀身を掴んでいた。白羽取しらはどりなどという技術ではなく、あくまで力づくで受け止めたという感じだ。

 「つっても、0.5が0.6に変わった程度だが」

 その言葉にピラーは歯を噛みしめた。そして、九鬼の手から大剣を剥ぎ取ろうと何度か動かそうとするが、大剣は剥ぎ取るどころか、ミリ単位ですら動かない。

 「さて、潮時だな」

 九鬼はニヤリと笑うと、大剣を掴んでいるのとは反対の手で黒い球体を生成する。そして、数秒でその作業を終えると、そのまま躊躇ちゅうちょなくピラーへと向ける。

 (くっ!)

 しかし、ピラーは目を瞑ることなく、ただ迫りくる黒い球体を捉える。

 ピラーの顔面に、それが直撃する直前、

 バシュッ!

 という音と共に、黒い球体は砕け散った。

 「ああ?」

 九鬼は大剣を片手で掴んだまま、自分の背後を首だけ回して確認する。

 「こんなイケメンを無視するなんて、ひどいじゃねーか」

 先ほど飛ばされたケティが二丁拳銃を身体の前で構えて立っていた。

 「ケティ! 距離を取れ!」

 「!?」

 ピラーの声を聞いたときにはすでに、九鬼はケティとの距離をほぼゼロに詰めていた。そして、その片手には黒い球体がある。

 すると、ケティは一度だけ、片足で金属の床を思いっきり蹴った。

 

 ガコンッ!

 

 そんな音が通路に響いて、瞬間、九鬼の射程範囲からケティの姿が消えた。

 「……ッ!」

 九鬼は目を見開いた。そして、標的を失った黒い球体はそのままゴッ! という轟音と共に、勢い余って壁を粉砕し消えた。

 そして、首だけ後ろに向けると、そこには円状の穴が床に空いていた、よく見れば円の周りに等間隔に数ミリ口径の穴が空いている。

 「あんな挑発的な攻撃を仕掛けていて逃走ルートを確保していないわけないだろ?」

 下のフロアからケティの声が聞こえてきた。

 

 ケティは先ほど九鬼に吹っ飛ばされ、起き上がる前に床に穴を空けて下のフロアに逃げられるようにしていたのだ。

 「たくっ、心配かけやがる」

 ピラーもひとまず安堵の息を漏らす。しかし、その直後にまた緊迫した空気が流れる。

 それは、九鬼が口を開いたことによるものだ。

 「颯爽さっそうと駆けつけた割にかっこ悪いほどの逃げ腰だな」

 しかし、ケティはキザな感じで切り返す。

 「まあ、そう言うな。この俺が無様に逃げるだけで終わるはずがないだろ?」

 下のフロアまでの距離は5メートルほどだが、金属の通路は思いのほか響くのか、普通の声量でも十分に聞こえた。

 ケティはフッと息を漏らし、二丁拳銃を九鬼とピラーのいる上のフロアに向ける。

 ガチャリという乾いた音を鳴らし、ケティは拳銃のトリガーを引く。

 しかし、今度銃口から射出されたのは光ではない。

 見えない銃弾。空気砲の原理のようなものだろうか。

 

 ボコォ! ボコォ!

 

 という音と共に、九鬼の足元の金属が突起になる。

 だが、次はケティがトリガーを引いていないのに、さらにボコッ! と金属が突起状になる。

 「?」

 さすがに九鬼も不審を覚えたのだろう。

 その場から一歩下がろうとしたその瞬間、

 ドゴォ!

 まるで火山が噴火したように、金属の床は、あるいはケティから見れば天井が突き破られ、その部分の金属は九鬼のいるフロアの天井に叩きつけられた。

 「!?」

 九鬼はその勢いに巻き込まれ、体勢を崩す。しかし、靴の裏で生じる摩擦を利用して、何とか持ちこたえる。

 「隙ありっ!」

 今度は、九鬼の背後に構えていたピラーが大剣を横薙ぎに振るう。その切先は完全に九鬼の身体を捉えていた。

 「残念、俺に隙なんてねーよ」

 九鬼は背後から攻撃を仕掛けてくるピラーを見ることもせず、そんなことを呟くように言う。

 だが、

 ボコンッ!

 また床が突き破られ、今度はピラーと九鬼の間にそれが起きたため、お互い反対側に後退する。

 「わりぃわりぃ! だいじょーぶかぁー?」

 なんとも呑気な声が下から聞こえてくる。

 「ケティ! 俺まで攻撃してどうするんだ!?」

 「だって、これ俺じゃ制御できねーんだもん」

 パートナー同士、そんなことを放していると九鬼がぼそりと呟くように言った。

 「熱膨張ねつぼうちょうか」

 しかし、その声はピラーにもケティにも届いていた。

 「ご明察」

 ケティはあっさりと見抜かれたのに、変わらない調子で言う。

 「今放ったのは空気でも、熱気か。それも相当熱いのだろうな。空気は熱いものほど上に行く性質があるし、その上この城塞は金属。だが問題は非伝熱性の自在伸縮性金属エラスティ・メタルであるのに、何故その芸当が出来たかだ。まあ、詳しくは分からないが、大まかに言えば、石の力による性質変化、といったところだろうな。さっきの蛇のような光もそうなんだろう?」

 ケティはそれをまたもあっさりと肯定する。

 「すごいねー。まさかこれだけでそこまで見抜くなんて。満点だ。その通り、今の一撃は自在伸縮性エラスティ・メタルの性質から非伝熱性と硬化性を無効化してね。そうすれば、後は灼熱の空気が熱膨張を起こし、今みたいな不規則な攻撃になるわけ。どう? なかなかイケメンだろ?」

 「ああ、褒めてやろう。が、所詮はその程度だ。いくらお前らが足掻いたところで、『強者』には勝てはしない!」

 「!!」

 ピラーがすぐに大剣を構える。しかし、

 「ッ!」

 ピラーは気が付けば、通路の端まで飛ばされていた。

 ドゴンッ!

 後からそんな音がピラーの耳に届く。

 「かはっ!?」

 思いっきり金属製の壁に激突し、ピラーは一瞬、呼吸が止まる。そして、クレーターのように凹んだ壁からずるずるとその場に崩れ落ちる。

 「ピラー!?」

 下のフロアにいたケティには上の様子が分からない。しかし、自分のパートナーが今、九鬼に何かされたのだけは感じ取ることが出来た。

 だからこそ、石の力を得て、バンッと金属の床を蹴りあげ、円状の穴から上のフロアに飛び上がった。

 「!!」

 ケティは空中で床に倒れ込んでいるピラーを視認する。

 「安心しろ、お前も同じ運命を辿るんだからな」

 「!?」

 空中を飛ぶケティの耳元でそんな声が聞こえる。バッ! と身動きとれない空中で半ば強引に首を回すと、すぐ後ろに、それこそ身体が触れそうな位置に九鬼が迫っていた。

 そして、

 バコッ!

 という音が脇腹辺りから聞こえてきた。そして、その直後にミシミシと骨にヒビが入ったような音がケティの耳に届く。

 九鬼の蹴り、それも黒い球体を纏っている足で。それが勢いよくケティの脇腹にクリティカルヒットしたのだ。

 「ぐぎっ! がぁぁぁああああああ!!」

 ピラーと同様に、金属の壁に叩きつけられたが、生憎あいにく、気を失うことが出来ずに、全身に走る激痛に吠えるケティ。

 

 カラン、カラン。ケティの持つ二丁拳銃が、摩擦抵抗を無視したように滑らかに金属の床を転がる。しかし、それも反対側の壁にぶつかって止まった。

 

 ケティは霞む視界で、着地してこちらに近づいてくる九鬼を捉える。

 (くっそがぁ! 痛みで口を動かすことさえ――)

 「詠唱も唱えられねーか?」

 (……ッ!)

 自分の心が読まれたようで、ケティは目を見開く。しかし、ケティのその考えすらも読みとったように九鬼はニタリと笑い、続けた。

 「残念だが、俺に心を読む力はねーよ。だが、それだけ表情にハッキリ出てるだけだ」

 (畜生ちくしょうがっ! めちゃくちゃカッコ悪ぃじゃねーか!)

 しかし、もう立ち上がることも出来ない。それだけでなく、痛みすら感じなくなってきた。痺れから感覚が無くなったような感じだ。

 「ゲームオーバーだ」

 九鬼が静かに掌をケティの目前に差し出す。

 (!!)

 ほぼ無意識のうちにケティは強く目を瞑った。

 そして、数秒が経つ。しかし、視界を閉ざした自分に何も起こらない。代わりに、

 「お楽しみ中、失礼。ですが、『絶対強者アナタ』の目的であるモノの位置は分かりましたぜ?」

 そんな声が聞こえてきた。

 ケティはすぐに目を開ける。すると、九鬼は掌をこちらに向けたまま、しかし首だけは横を向いている。そして、その視線の先には――

 ファンキーな絵がプリントされたTシャツに、学ランのような上着、長い足を強調するようなジーンズに身を包む、ロン毛で、顔に刺青いれずみな日本人、東雲恭平しののめきょうへいが立っていた。

 「どうぞ、お納めください」

 そう言って、恭平は指に挟んだプレートとひょいひょいと左右に揺らした。言葉を裏腹に、その行動にはどこか適当さが見える。

 (アイツは……)

 ケティは呟こうとするも、痛みで声にならない。

 「『頂』か。チッ!」

 九鬼は苛立ったように舌打ちする。

 「まあまあ。絶対強者アナタのためにではなく、己の自己満足でやったことですから、そう気にしないでくださいよ。そして、これはもう俺にはいらないんで、捨てましょう」

 恭平はそっと床にプレートを置くと、そのままカーリングのように、九鬼の足元にそれを滑らせる。

 「……」

 九鬼はそれを無言で拾い上げる。それを確認すると、恭平はまた口を動かす。

 「さて、使い方は言うまでもないでしょうから、後は俺に祭りを引き継がせていただけると幸いです」

 「好きにしろ」

 九鬼はそれだけ言うと、プレートの中央を人差し指でタッチする。すると、今まで黒かったプレートが電子光で明るくなり、そこにはこの『道なく城塞』の一部分の見取り図が映し出されていた。

 「なるほど、この上か」

 九鬼はそれだけ言うと、すっと腕を天井に向ける。そして、

 ドゴッ!! と、黒い球体にあっさりと天井は突き破られる。

 そして、九鬼は迷うことなく、突き破った天井から上のフロアへと跳んだ。

 (くっ! みすみす行かせてしまうとはっ!!)

 ケティは忌々しそうに下唇を噛む。

 そして、同じフロアに残った恭平は崩れ落ちたピラーを見て、そして目の前に座りこむケティへと視線を移す。

 「で? どうする? 正直、もう戦えないんだろう? 俺はこれでも頭脳派でね。無駄な戦いをしたいってわけじゃないんだが。だが優しい正確でもあって、御所望なら相手をしないであげなくもないが」

 ゴホッ! ゴホッ!

 ケティは答えようと口を動かすも、代わりに咳込むだけで、それだけでも全身に痛みが走る。

 (戦えるわけねーだろ! こんな状態でよ)

 ケティはそんなことを思いながら反対側に落ちている自分の二丁拳銃に目をやる。

 しかし、よく見れば目の前にいる敵も武器を持っていない。もしかしたら、ふいに飛びつけば隙くらいは作れるかもしれない。

 そう思ってケティは腕だけを試しに動かそうとする。が、

 「グガァ!」

 思わず声が漏れるほどの激痛が再びケティを襲う。

 それを見て、恭平はケラケラ笑うように、

 「無理するなって。アンタなかなかイケメンなんだから、自分を大事にしろよ? 泣く女だっているんだろ?」

 「……」

 ケティは睨むわけでもなく恭平を見据える。

 「じゃあな。まあ、生き残れるか分からないが達者たっしゃでな」

 武器も持たない恭平は無防備にもケティに背を向けて歩き出す。

 今なら不意打ちを仕掛けられるっ!

 そう思うも、ケティの身体は動かない。少しでも動かそうものなら意識を保てないほどの痛みを伴う。

 だからこそ、のんびり立ち去って行く恭平の背中を無様に見ることしかできない。

 (惨め、だな)

 ケティは唇を力いっぱい噛みしめる。すると、ツゥーと一筋の血が流れる。

 


 

 ケティとピラーのいる一つ上のフロア。

 それまでの壁と一体化しているような扉とは打って変わって、開けるためではないその扉の四辺はすべて巨大なボルトで固定されていた。

 ドアノブや取っ手すら見当たらない。正直、扉と呼んでいいのかも疑うレベルだ。

 その扉の前に『絶対強者』の名を持つ九鬼は佇んでいた。

 「ここか」

 手に持つ電子タブレットと目の前の扉を見比べ、そんなことを呟く。

 そして、

 シュッ!

 擦れるような音と共に、その扉とも思えない扉は消えた。

 『不可侵領域』。九鬼の持つ力で、半径5メートル以内の射程範囲に入り、なおかつ九鬼が認識したものを『無かった物』にすることができるというもの。

 つまり、今九鬼は自分の目の前にある壁のような扉を『無かった物』にしたため、その存在が消滅したのだ。

 正直、黒い球体でも破壊出来たが、何分この中にあるのは壊れては困るものなのだ。どうしても丁重になる。

 「……」

 九鬼は無言で扉を失った部屋へと入る。

 すると、中にはまるでどこかの研究室ラボのように無数の機械が置かれ、壁には埋め尽くすように液晶ディスプレイが並んでいる。大きさはまちまちだが、どれにもグラフやら、なにやら桁数を数えるのが面倒なほどの数字の羅列が映し出されている。

 そして、

 その部屋の奥にもう一つ、今度は自動ドアだろうか。横びらきの扉があった。

 「面倒くせぇ」

 シュ!

 横びらきの扉もあっさりと『不可侵領域』によって消されてしまう。

 すると、ブォ! と九鬼の全身に冷気が当たる。そして、その部屋の中には、手前の部屋とは打って変わって液晶ディスプレイなどは一切なく、その代わりに部屋の中央に何やら巨大な金庫のようなものが固定されていた。

 直径2メートル程の円状のロックがかけられていて、そこには車のハンドルのようなものが取り付けられている。

 ロック、といっても、近未来的なものではなく極めて原始的なダイヤル式。だが、その桁数はあまりに多く二〇桁だ。パターンを計算するだけでも、その桁数が面倒なことになる。

 「おそらくはこの中か」

 九鬼は掌で金庫をなぞる。これも『不可侵領域』で消すことは容易だ。しかし、それだと『データ』がこの中にあると認識してしまったために、金庫と一緒に消えかねない。

 すると、コツンと足音が九鬼の背後から聞こえ、

 「よろしければ、ロックの解除をいたしましょうか?」

 恭平が部屋に入ってきた。

 「……」

 九鬼は丸腰の恭平を一瞥すると、無言で金庫の前から少しどいた。

 「では、」

 入れ替わるように恭平が金庫の前に行くと、手早い動きでダイヤルを回して行く。そしてものの数秒で二〇桁の数字を入力すると、ガチャリという音が部屋に響き、そして、ギギギと乾いた音と共に金庫が開く。

 「よく分かったな」

 「いえ、これは俺の得意分野なものですから」

 すると、速やかに九鬼とまた立ち位置を入れ替える恭平。

 そして、金庫の中を九鬼が覗きこむと、これまた鋼鉄の台座の上に張られた特殊ガラスの中に、小さなスティック、USBメモリと、『データ』を閲覧することが出来るノートパソコンが置かれていた。

 コンコンッ! と拳で特殊ガラスを叩く九鬼。そしてほとんど独り言のように呟く。

 「石の力を吸収する特殊ガラスってとこか。吸収球体アブス・スフィアの応用といったところだろうな」

 「どうします?」

 金庫の外で待つ恭平が軽い調子で問う。九鬼は無言を決め込むと、続いて恭平は今度は金庫内に入る。

 「俺の『相乗効果セルフ・マイナー』なら容易たやすいですが」

 その手にはいつの間にか巨大な金槌が握られている。

 「……」

 九鬼はそれを確認した上で黙る。

 これ以上は進展がないなと悟った恭平はそのまま問答無用で、金槌を軽く特殊ガラスに触れさせた。そして、

 パリンッ! と何とも気持ちの良い音と共に特殊ガラスは砕け散った。

 恭平の持つ『相乗効果セルフ・マイナー』はその名の通り、マイナーな方向へ結果を転がしてしまうもの。つまり、本来簡単に壊れることのないガラスというのがメジャーだとすれば、その逆、軽すぎる力で砕けるというのがマイナーな結果なのだ。

 「どうぞ」

 恭平は台座の上に置かれたUSBメモリとノートパソコンをセットで九鬼に手渡す。

 九鬼はそれを受け取ると、恭平は続けて口を開く。

 「まあ、移動手段は絶対強者アナタには必要ありませんが、俺の車にはデータを解析するためのマシンも搭載されています。どうですか?」

 「ちっ。ここは甘んじるしかない、か」

 九鬼はどこか納得いかないようだが、しかしそれを承諾する。

 そして、その部屋を出ようと身体の向きを変えた瞬間、

 ギギギギギッ!

 機械の間接音が二人の耳に届く。

 「おっと、こんなものまで配置しているのか」

 恭平は部屋の出入り口を見ると、口元を吊り上げ、楽しげに言う。

 「邪魔が多い」

 九鬼は舌打ち混じりにぼそりと言う。

 二人の目の前には、銀の金属で出来た人間型のカラクリが一〇体ほど立ち塞がっている。『道なき城塞』と同じく自在伸縮性金属エラスティ・メタルで出来た討伐者側の秘密裏に保持する兵器、人間型兵器ヒューマノイド・アームズ。別に遠隔操作で操っているわけではない。全自動制御型装甲オートマチック・ユニットによる自律行動型の兵器なのだ。

 「あんまり呆気なく壊してやらないでくださいよ? これでも数億単位の金が動いてるんだし」

 恭平は、まあ無理な相談か、などと付け足す。そして、九鬼もニィッと笑うと、

 「無理な相談だ」

 とそれだけを言う。

 ガッ!!

 人間型兵器ヒューマノイド・アームズが一斉に地面を蹴りあげた瞬間、九鬼も同時に動く。

 掌にはいつの間にか黒い球体が存在していた。だがそれは一瞬、

 ズズズッ! という奇妙な音と共に、黒い球体は棒状に変わり、そして最終的にはつばの無い剣の形へと姿を変えた。刀身も柄も全てが漆黒なため、どこまでが刃なのかも分からないようなシンプル過ぎるデザインだ。

 そんな漆黒の剣を手に持った九鬼は全速力で迫りくる人間型兵器ヒューマノイド・アームズとの距離を縮める。

 銃器を持った一体が銃弾を乱射するが、その度にキィン! という金属と金属がぶつかり合う甲高い音を立てて、その全てを九鬼は剣で弾く。

 次には接近戦武器を備えた人間型兵器ヒューマノイド・アームズが迫る。しかし、九鬼のスピードは落ちない。

 「この壊す瞬間は最高だ!」

 九鬼は満面の笑みを浮かべ、肉眼で捉えられないほどの速さで黒い剣を振り抜く。

 キィイイイイイイイイ!!

 爪を立てて黒板を引っ掻いたような嫌な音が甲高く響く。その音の原因は九鬼が放った斬撃。黒い斬撃は部屋の床を削りながら一〇体ほどの人間型兵器ヒューマノイド・アームズを一掃した。

 ドゴォ! という轟音と共に、爆風は部屋の外まで、そして人間型兵器ヒューマノイド・アームズを通路に放り出した。

 グギィ、グギイギギ……

 通路の壁に叩きつけられた兵器たちは再び立ちあがろうとするも、叶わずにその場に崩れ落ちた。

 「あーあ。数億の金が。それだけあれば美女をどれだけはべらせられるか」

 恭平は肩をすくめそんなことを言う。当然、九鬼はそんなことを気にも留めずに剣を手に持ったまま通路に出る。

 「どうやら、数億どころじゃないみたいだが」

 「?」

 九鬼が独り言のように呟いたその言葉に首を傾げる恭平。そして、九鬼に続いて通路に出ると、

 「ヒュー」

 恭平はわざとらしく口笛を吹く。

 通路には、その行く手を阻むかのように、先が見えないほどの数の人間型兵器ヒューマノイド・アームズが待機していた。

 「被害損額はとてつもないな」

 九鬼のその一言は、これだけの無数の人間型兵器ヒューマノイド・アームズですら、殲滅せんめつさせられると間接的に言っていた。

 事実、恭平もそのことに何の疑問も持たない。だからこそ、彼はすでに『相乗効果セルフ・マイナー』を手にしていない。

 「置き土産にしては、随分な嫌がらせになりそうだ」

 軽い調子で言う恭平。そして、その時には既に九鬼は敵の軍勢に突っ込んでいた。

 「突破ぁあああああああああ!!!」

 九鬼は叫びながら漆黒の剣を振るう。

 また嫌な甲高い音が響き、先ほどより一回り大きな斬撃が軍勢へと向かう。

 ドガァァァアアアアアアアア! という耳を塞ぎたくなるような轟音と共に、一気に数百体の人間型兵器ヒューマノイド・アームズは打ち上げ花火のように散る。

 だが、それでもなお人間型兵器ヒューマノイド・アームズの軍勢は陣を作っていた。

 各々、持っている武器を九鬼へと向けるが、そんなものでひるむ九鬼ではない。すぐさま振り切った漆黒の剣を構えなおし、それと同時に、幾多の機関銃から放たれた雨のような銃弾の数々が九鬼へと襲いかかる。

 「無駄無駄無駄無駄ぁあああ!」

 雨のごとく降り注ぐ銃弾はシュッ! という音と共に、全て消滅した。

 『不可侵領域』。九鬼の能力が発動したのだ。

 そして、機関銃を持った人間型兵器ヒューマノイド・アームズが弾切れを起こし、無意味に引き金を引こうとしているところに、九鬼の一撃が食い込む。

 ドッ! という鈍い音の後に、

 ズパァアアン! と津波が岩壁にぶつかったような音が、そして、斬撃が敵軍を一瞬のうちに崩す。

 片手にノートパソコンを持ちながら、それでもパソコンには傷一つつかないように、荒々しくも、見えないところで器用に戦う九鬼。

 次は中距離、または近接武器を持った人間型兵器ヒューマノイド・アームズが容赦なく九鬼に襲いかかる。

 それぞれの持つ武器は自分たち同様、特殊な金属製で、殺傷能力も十分過ぎる。

 いくら優秀な討伐者と言えども、この数を相手にすると無事では済まない。のだが、

 「絶対強者あのひとがあれくらいで止まるとは思えないんだけどなー」

 呑気な声を出して、後ろで観戦する恭平。そして、その言葉通りに、九鬼は止まらなかった。

 「哀れなカラクリ人形だ」

 それだけ言うと、九鬼は身を屈めて五体同時の攻撃をかわす。そして、身を屈めたまま、しかし威力は落ちないように漆黒の剣を三六〇度に振り切る。

 突風のような風が吹いた後、少し遅れて九鬼を囲んだ人間型兵器ヒューマノイド・アームズたちは壁に激突した。

 それで終わりではない。

 ズンッ! と足音を響かせるように、九鬼は片足を一歩前に踏み込み、そして、

 「きゃっはぁあああああ!」

 発狂はっきょうしながら、満面の笑みで剣を振り抜く。

 誰一人寄せ付けない。傷すらつけることのできない圧倒的な男。

 その最強の男の放つ攻撃。強烈という言葉を凌駕りょうがするかのようなその一撃は、後ろで観戦していた恭平にも恐怖を与えた。

 「おいおい、俺まで巻き添え喰らっちまうぜ!」

 だが、止まる九鬼ではない。

 「ぶっ壊れなぁぁぁああああああ!!!!」

 今度の斬撃に音はない。

 まるで全てを吸い込むブラックホールのように、奥行きも、そもそも立体なのかどうかすら分からないような漆黒の斬撃が、一瞬のうちに無数の人間型兵器ヒューマノイド・アームズの軍を斬り抜く。

 抵抗する一瞬すら与えないほどの速さ。第三者が見たら何が起きたのか本当に理解できないほどの圧巻の一撃だった。

  そして、その一撃は止まることなく、次は自在伸縮性金属エラスティ・メタルの壁をぶち抜き、最終的には『道なき城塞』から飛び出す。

 ドドドドドドドドドドッッッ!!!

 音は後からついてきた。

 光速と音速の違いから雷の音が後から聞こえるように。

 そして、人間型兵器ヒューマノイド・アームズは一体も残らず、穴の空いた『道なき城塞』の外に放り出される。

 「うおぉおい!?」

 恭平は九鬼の後ろにいたにも関わらず、台風以上ではないかと思えるほどの暴風を真っ向から受けて、なんとかその場に踏みとどまるように身体中の力を足に込めた。

 そして、直後に電子的な警報は一層音量を上げ、それに呼応するように『道なき城塞』も崩れ落ちる。



 

 九鬼と恭平のいる一つ下のフロア。

 九鬼に打ちのめされたピラーとケティはいた。ピラーは完全に意識を失っているが、ケティははっきりと意識がある。ただ、とても動けるような状態ではないが。

 「やべぇ……このままここにいるのは危険すぎるぜ」

 ケティは少し笑みを含んだ表情だが、この場合のその表情は強がりだろう。

 そして、上から今にも落ちてきそうな金属製の天井を見上げ、嫌な汗を額から垂らす。

 パラパラ、と金属の破片が次々とケティの上から降り注いでるところを見ると、いつ崩れ落ちても不思議はない状況だ。

 「おい、ピラー! 起きろって!」

 呼びかけるも、ピラーは意識を失ったままだ。

 (ちくしょう!)

 ケティは無言で歯ぎしりする。だが、それだけの力でも全身に痛みを走らせる。

 ピラーだけではない。『道なき城塞』に配置され、勇敢にも最強の男に立ち向かった同士たちがそこらへんに転がっている。もう生きているかどうかすら分からないように、ピクリとも動かない。

 ケティはその事実が辛かった。自分だけが意識があるのに、それなのに立ち上がることができない自分に苛立ちを感じていた。

 そして、結果を残せなかった自分に。

 (せめて、『指揮者コントローラー』に……)

 ケティは全身を走る痛みに耐えながら、それでも何とかカウボーイのような衣装のポケットから電子端末を取り出す。そして、動かすことも辛い指をゆっくり、それでも確実に動かし、何やら数行の文面を電子端末に打ち込むと、最後に一つのボタンを押す。

 電子端末の画面に『送信完了』の文字が表示される。

 ケティはそれを確認すると、ふっと手から力を抜き、電子端末が床に転がり落ちる。

 その数秒後に、天井の金属が落ちてきて、床に転がる電子端末を粉々に粉砕した。

 ケティはフッと息を吐くと、ゆっくり目を閉じる。

 (何がイケメンだよ……笑わせるな)

 グッ! と唇を噛みしめる。だからと言って、また九鬼に挑むために立ち上がることは出来ない。それがまたケティを苦しめる。





 討伐者アメリカ支部『道なき城塞』から200メートルほど離れたところに赤いスポーツカーは停まっていた。

 周りは一見すれば砂漠か荒野。しかし、スポーツカーは人工的に舗装ほそうされた道の脇に停車してある。

 200メートルほど離れていると言っても、『道なき城塞』からゴゴゴッという轟音は聞こえてくる。

 そして、そんなスポーツカーに、こげ茶ロン毛で、顔に刺青いれずみを入れている『頂』の一人、東雲恭平はいた。

 その横では、スポーツカーに体重を預けるようにもたれかかっている九鬼。すでに髪の色は黒に戻っている。

 「んー。これはなかなか」

 恭平は煙草たばこを口に咥えながら、さきほど『道なき城塞』から奪取したノートパソコンにUSBメモリを差し込んで、何やら操作している。

 「それがあれば『データ』を閲覧できるんじゃないのか?」

 九鬼は恭平に背を向けたままそんなことを呟く。恭平はパソコン操作しながら答える。

 「いやね、まあ見れるには見れるはずなんですが、何せ、USBメモリの方にも、パソコンの方にもパスワードがかけられている上、『データ』を閲覧するにしても、どうやら特殊暗号化されているようでね。おそらく上層部か、観測班だけに解読可能な文字といったところでしょうかね」

 しかし、恭平の表情はどこか余裕が見える。

 「どうするつもりだ?」

 「言ったでしょう? この車には特殊機器が備えてあるって。少し時間がかかるかもしれませんが、このUSBメモリに記憶されている『データ』をこちらに移し替えて、その上で特殊暗号を一般文字表示に変換しますので」

 「出来るのか、そんなこと。そのUSBメモリはデータの移し替えも出来ないんだろうが」

 「ええ、確かに『データ』の移し替えは無理でしょうね。ですが、案外機械を騙すなんて、造作もないことなんですよ」

 「……」

 九鬼が黙ると、恭平はふぅっと煙草を指で挟み、続けた。

 「正確には、『データ』を移し替えるというより、『データ』の在りどころを誤認させるというほうが適切かもしれないですかね。俺の車に搭載されている機器は、性能的には大容量記憶ハード、といったものでね、まあ特殊仕様ではあるんですけど? そして、今やっている作業は、簡単に言えば、この大容量記憶ハードを『データ』が入ったUSBメモリだと、パソコンに誤認させるためのプログラムを組んでいるわけですよ」

 「なるほど。『データ』の閲覧にはパスワードが必要だが、誤認させることが出来れば、パスワードを入力するまでもなく、パソコン側が勝手にデータを転移するというわけか」

 「まあ、そのプログラムがまた複雑なんですけど」

 そう言いつつも、恭平は手を止めることなくカタカタとキーボードを叩く。

 『道なき城塞』から奪取したのとは別に、自分のノートパソコンでプログラムを打ち込んでいく恭平。いわゆるC言語と呼ばれる文字や記号、関数の羅列が小さなウィンドウの中に次々と表れる。

 「ところで、あの『不可侵領域』ってのは石の力ではないですよね?」

 突然、恭平はプログラムを作成しながら言う。それに九鬼は沈黙する。だから、恭平は続ける。

 「それに、あの髪の色。まあ答えてくれるとは思いませんが、少々気になりまして」

 「知る必要もないだろうが。まあ、言うならお前らの持つ特殊武器のようなものだ」

 特殊武器、というのは恭平で言えば、『相乗効果セルフ・マイナー』。これは石の力に関与していない、詳細不明の武器だ。

 その言葉の意味を察した恭平はそれ以上突っ込んだことを聞きはしなかった。

 代わりに、今度は九鬼が質問する。

 「お前、そういうのに長けているんだな?」

 「ええまあ。これでも昔はハッカーとして名をはせていたんですよ? あなたが物理的に世界を変えようとするように、俺は内側から、見えない形で世界を変えようとしていた時代もありましてね。案外、こういう方法も楽しいものですよ? 見えない相手と戦うプログラムのぶつけ合い。しかし、いくら相手が見えないと言っても、失敗して足がつけばそれでゲームオーバー。ハッカーっていうのはある種のゲーマーなんですよ」

 そんな話をしている間にも、ウィンドウの中にはプログラムが書き綴られる。

 『道なき城塞』から得たUSBメモリとノートパソコンで、USB構造を探り、そしてもう一つのパソコン、そして車に搭載してあるハードから伸びるUSBコードをそれに差し込み、専用のUSBメモリ構造をそちらに打ち込む。

 正直、USBメモリの特殊構造を解読し、それを別のハードに情報転移する、なんて荒技はそう簡単に出来るはずもないのだが。

 「ん?」

 「なんだ?」

 ピタリと手を止める恭平。そして、『道なき城塞』から奪ったパソコンの画面を覗き込む。

 「ここ最近、外部からの情報転移が記憶されている。ああ、彼女か。なるほど、ヨーロッパ側のデータを転移した、というわけね。こりゃ想定外のプレゼントだ」

 独り言のように、口元を吊り上げる恭平。

 そして、再びプログラムを打ち込んでいく。

 (しっかし、このUSBメモリ、なんつー複雑構造だよ。一体どこに記憶しているんだか。ダミー情報が多いうえに、表示される記憶容量がどう考えてもおかしい。こんなゼロに近い容量のはずはないんだが……まあ、それでも、俺の頭脳テクニックの方が上だろうけど)

 などと考え込んでいると、突然奪ったパソコンの画面に小さなウィンドウが現れる。

 「なっ! エラー!?」

 恭平は思わず咥え煙草を落とす。

 「どうした?」

 「ヤバいですね。コイツ、思った以上に優秀。他のハードからの刺激も受信するようで……なるほど、そういうことか。ここはまだ『道なき城塞』の全自動制御型装甲オートマチック・ユニットの無線が飛び交っているわけか。それを無理矢理送受信させている。コイツは驚きだ」

 (このままだと、ハッキングを恐れた『データ』が勝手に自爆しかねない。なんとか阻止しないと)

 恭平はすぐに新しいウィンドウを表示させ、今まで打ち込んでいたのとは別のプログラムを凄まじい速さで打ち込む。

 (まずは、この鬱陶うっとうしい無線を切断しねーとな)

 無線、というのは送信する側と受信する側がそれぞれスイッチをオンにする必要がある。つまり、どちらか片方がオフになれば無線は自動的に切断されるわけだ。

 そして、恭平は今流れている無線に紛れ、『道なき城塞』のコンピュータに侵入し、その上で遠隔操作で無線を切断しようとしているわけだ。

 「いいねぇ! 最高だ!」

 状況は決していいとは言えない。しかし、恭平は心からこの状況を楽しんでいる。

 指が止まることはない。

 リズムよくキーボード叩く音が静かに響く。

 「さて、これでどうかな?」

 一通りプログラムを作成した恭平は止めと言わんばかりにバンッ! と最後のキーを押す。

 すると、奪ったパソコンの画面からエラー警告メッセージは消えた。

 「ふぅ。これでとりあえずは大丈夫かな」

 そして、今度はさっきまで書いていたプログラムのウィンドウを最前面に持ってくる恭平。

 (あともう少し。最後に記憶形式をこのプログラムに打ち込めれば、このパソコンに誤認させられるはず)

 「さすが、『頂』の頭脳だ」

 九鬼はほくそ笑みながら、そんなことを呟く。

 それに返答することなく、いや、集中している恭平の耳には届いていない。

 「こんなものか」

 恭平はふぅっと息を吐いて、パソコンの画面から顔を離す。

 「出来たのか?」

 「ええまあ。これで誤認させることは出来るでしょうよ」

 そう言って、恭平は自身のパソコンに差し込んであるUSBケーブルを引き抜くと、次は奪ったパソコンにそれを接続する。

 「さて、ここは腕の見せ所だね」

 恭平は舌舐めずりし、奪ったパソコンのキーを叩く。

 『データ』の入ったUSBメモリと、車に搭載された機器から伸びるUSBケーブルを接続したパソコンには二つのウィンドウが表示される。

 「ふむ、これで誤認させるための準備は終わりだ。『データ』を閲覧する前に、こうやってパソコンに『データ』を移してっと」

 カチカチとマウスをクリックすると、USBメモリに記憶されていた『データ』は一瞬でパソコンの方に移し変えられる。

 「閲覧ばかりに気を取られた奴らの負けだな」

 恭平は勝ちを確信したようにほくそ笑む。

 「次は、このデータをこちらの装置に入れ直す!」

 特殊なUSBメモリだと誤認させた機器の方に、今度はパソコンに移したデータを移し直す。こうすることで、特殊暗号化された『データ』も、恭平の持つ機器に移されることにより、自由に閲覧することができる。

 パスワードも、文字の表示形式も、全て恭平が思うがままに設定できるからだ。

 ピリリリリリという電子音と共に、アイコンがいくつも一気にパソコンのデスクトップから消え、その代わりに、大量記憶装置の容量が埋め尽くされて行く。

 「大成功。これで俺でも簡単に『データ』の閲覧が出来ますぜ」

 「ほぉ」

 恭平はもともと『データ』が入っていたUSBメモリを引き抜くと、残ったウィンドウのアイコンをクリックする。

 すると、今度は次々と新しいウィンドウが画面に表示されていく。

 「どうぞ」

 そこまでの作業を終えると、恭平はノートパソコンごと、九鬼に手渡す。

 それを受け取った九鬼は、慣れた手つきで表示されていくウィンドウに次々と目を通す。


 「くくくっ! やはり、そうか!」

 九鬼は画面を見るなり、不気味に笑う。

 「どうやら、ビンゴのようで」

 恭平はスポーツカーの座席に座りながら、新しい煙草を口に咥える。

 「ああ。最高だぁ!」

 九鬼の眺めるパソコンの画面には、ウィンドウの中に描かれたグラフが表示されていた。ほとんど平行な一直線のグラフだが、一カ所だけ、上に凸、下に凸の波模様を描く部分もある。

 「それが、空間の歪みってヤツですか?」

 「間違いない。俺が感じたものと全て一致する。くはぁ! 最高すぎるぜぇ!」

 「それは良かった」

 九鬼は今見ているのとは別のウィンドウをドラッグして最前面に持ってくる。

 今度はグラフではない。まるでメモ帳のような画面に具体的な数値と、地名が書かれていた。

 「5年前にドイツ、フランクフルトにて振動数毎秒九八三〇〇〇回、8年前にアメリカ、ニューヨークにて振動数毎秒一一四〇〇〇〇回。回数に多少の誤差はあるも、なぁに、あれだけの大規模な力が動いているんだ。この程度は微々たるものか」

 九鬼は画面に表示されている文字の一部を読み、納得したような表情を浮かべる。

 「振動数というのは?」

 恭平の問いに、九鬼はほとんど独り言のように、

 「空間の歪みと同時に、空間が振動する。本来はあり得ないが、これだけの振動数が起これば、空間になんらかの変化が生じてもおかしくはない。くくっ! 俺が感じたものも確かにこんなものだったな」

 「で? 次にその歪みが現れるのはどこで?」

 「……鳴咲市、というのが一番考えやすいな」

 「そうですかい。まあ、とりあえず俺は街のバーに戻りますわ。遊女も待たせてあるし? 絶対強者アナタはどうします?」

 「俺は俺で勝手にする。この件には感謝するが、これ以上は俺一人で十分だ」

 「心配せずとも、これ以上首を突っ込むつもりもありませんって。しばらくは女たちとの遊びに専念しますからっ」

 それだけ言うと、九鬼からパソコンを受け取り、恭平はスポーツカーを舗装された道で走らせる。

 

 

 「最高だねぇ! 世界規模の変革ってのはよぉ!」

 

 残された九鬼はたったそれだけを呟くように言った。




 アメリカ合衆国、ワシントンにある外交対談施設。

 本来なら、アメリカの大統領と、外交官などが表には公表できない秘密裏に取り扱われる対談に用いられるこの施設は、大統領の邸宅、ホワイトハウスから2キロほど離れたところに位置する。

 外観はホワイトハウス同様、豪奢ごうしゃにして荘厳そうごんに建っている。フロアは6階まであり、縦長というよりは横に長い。

 施設を取り囲むのは人工的な雰囲気を醸し出す手入れが完璧に行き通った黄緑色の芝生しばふ。そして、隅々には赤や黄色といった色鮮やかな花が植えられていた。

 当然、この施設に入るには、あらかじめ規定の手続きをする上、何重もの指紋照合機や、瞳孔照合機を潜り抜けなければいけない。

 警備の数もそれはもう壮大で、入り口だけで三桁は軽い。


 そんな、警備が厳重過ぎる施設の一室に二人の男はいた。

 昼間なのに、カーテンは締め切られ、そのアンティークな感じの窓縁まどぶちが室内にいる二人の目に入ることはない。

 このカーテンは、特殊繊維で出来ていて、外部からの狙撃の際に放たれる赤外線を完全にシャットアウトするためのものだ。

 ここの施設では秘密裏に扱われる対談がほとんどのため、そういった狙撃も少なからずある。そういったものの対策の一つとして、基本的にカーテンは常時閉めている。

 だが、カーテンを閉めているにも関わらず部屋の電気も、小さな豆電球一つといった感じで、昼間だということを忘れてしまうかのように薄暗い部屋。

 部屋自体も長方形のシンプル構造だが、置かれている家具という家具も、これまた長方形の机に、その周りを取り囲むように木製で、クッションが取り付けられている椅子が六脚しかない。

 そして、そんな椅子の一つに腰掛ける男。ブランド物のスーツに身を包み、年齢は五〇代だろうが、その金色の髪の艶は今も健在で、髭も綺麗に切りそろえてある、誰がどこから見てもセレブな男性。

 この男こそ、現アメリカ合衆国の大統領。

 その大統領の向い側に座る男は――

 「では、残り半期の予算案はこれでよろしいな?」

 アメリカ大統領がどこか威厳のある声で向いに座る男に確認する。

 男は軽く頷き、

 「ええ。異論はありませんよ大統領。これだけあれば半期といわず、一〇か月は持ちます。」

 「ふんっ、これだけの大金で一〇カ月しか持たんというのはいかがなものかね? 指揮者コントローラー

 「おや? ご不満ですか? 私たちの組織が、本来立つべき舞台ではない表の治安も維持しているというのに」

 『指揮者コントローラー』と呼ばれる男。

 彼もまた、大統領同様に、ブランド物のスーツに身を包む。しかし、その顔つきはどうみても一〇代後半、多く見積もっても二〇代前半というほど若々しい。

 金髪に青い瞳の青年だ。

 しかし、セレブに多いメタボではなく、すらっと引き締まった肢体はまるでモデルのような芸術品だった。

 そんな彼を見据え、大統領はこほんと咳払いをする。

 「だが、お前さんが人前に出たくないと申すから、わざわざこの施設まで貸し切ったのだぞ。それだけの金も、本来ならこの必要経費に加えるのが筋だと思うがな」

 「ハハッ。これはまた手厳しい。これでは、お互いの利得関係もクソもありませんね。こうして大統領であるあなたと直接的に交渉できる辺り、もう少し信頼関係が築けていると思っていましたが」

 「冗談を。お前さんがこちら側に信頼関係など望むとは思えないがな」

 大統領はどこか忌々しそうに吐き捨てる。

 しかし、指揮者コントローラーは気にした様子もなく、会話に応じる。

 「それはどうでしょう? こちらとしては、是非とも信頼関係を築いていきたいと思っていますよ? 正直、他国のこちら側はあまり、直接的に国のトップとこういった席を設けているわけではないのですよ。つまり、いざというときに国を動かすのにどうしても時間がかかってしまう。それに比べ、アメリカはこうして直接的に我々が繋がっているではありませんか? これは来るべきときに必ず大きな力を生み出すと思いますが」

 青年のその言葉を大統領は無言で聞く。しかし、やがて口を開く。

 「しかし、お前さんは金が無くなったときは迷うことなく我々を切り捨てるのだろうな」

 「いえ、正確には利用価値が無くなったらです。私はこれでも、『金の切れ目が縁の切れ目』という言葉は好きではないのですよ? 金だけが人の、いや組織の利用価値とは限りませんので」

 「……今なら、お前さんにハッキリ言えるな。このクソ忌々しいキツネめが」

 それだけの暴言を吐きつけられても、青年は動じない。それどころか、眉ひとつ動かすことなく、笑顔のままだ。

 「褒め言葉として受け取りましょう。しかし、こちら側としてもアメリカを守りたいという意思はありますよ? それだけは取り違えないよう気を付けていただきたい。そう考えれば、この経費は間接的にあなたのためにもなっているのでは?」

 「なら、あの数兆という金が動いた城塞、あれがどう私に利益を生んでいるのかぜひとも論説していただきたいものだな」

 「なら、いずれあの城塞に取り入れられている技術をこの国に譲渡いたしましょう。正直、産業革命なんてものでは済まないですよ? これはまだ表には出せない技術ですが、もし我が国が一番乗りになれば、おそらくは『世界征服』なんて幼稚な夢も叶えることができましょう」

 「その言葉も、どこまでが真実なのか。城塞に人ではなく、ほとんどがカラクリを配置しているというのもそれが理由かね?」

 「ええ。人件費もかかりませんし、便利なものですよ」

 青年は、ほくそ笑むと自分の前に置かれた紅茶を一口、口に含む。

 大統領は手元に置かれた印刷用紙を数枚手に取り、そこに書かれている事柄に一通り目を通す。

 「お前さんたちのやっていることの詳細はよく分からないが、そろそろ本題を聞きたいものだがね」

 大統領は資料をパラパラと捲りながら言う。

 「まさか、予算案にケチをつけるためにわざわざロスから来たわけでもあるまい?」

 「相変わらずですね。まあ、今回は図星ですが」

 青年がそこで一旦言葉を区切ると、室内にどこか重々しい沈黙が訪れす。

 ズズズッと紅茶をすすると、青年は再び口を開く。

 「やはり、アメリカ合衆国という大国家のトップである大統領アナタにはいち早く耳に入れておかなければと思いましてね」

 「……何をだ?」

 大統領はいつの間にか、手にもつ資料を放していた。

 「単刀直入に言いましょう。結論から申しますと、そう遠くないうちに、『こちら側の都合』で世界規模に国家が揺らぐ可能性があります」

 「――ッ!?」

 大統領は言葉を失った。しかし、スーツに包まれたその身が小刻みに震える。

 青年は構わず続ける。

 「まあ、とは言っても、まだこれは確定事項ではないので、ただそういう可能性があるということを頭の隅にでも置いておいていただければ結構ですので」

 だが、黙ってそれを受け入れる大統領ではない。

 バンッ! と両手で机を叩き、思わず立ち上がる。

 「バカなっ! お前さんたちは一体何をしようと言うのだ!?」

 感情的になる大統領に対し、青年はいたって冷静に、

 「いえ、私が何かをするわけではありません。むしろ私はそれを阻止する立場にありますので。強いて言えば、日本が策略者ということになりますが。無論、これを黙って見ているわけにもいきません。極力、それを阻止するために尽力を尽くすつもりではいますよ?」

 「……戦争、か」

 「ニュアンスとしては大体正解ですね。まあ、しかし戦争にはなり得ないでしょうが。そもそも力の差が歴然なのですよ、『こちら側』と『そちら側』ではね」

 その言葉に、大統領はごくりと息を呑む。

 戦争にすらなり得ないという言葉の意味を、大統領は適切に受け取ったからだ。

 喧嘩は力が対等だから成立するもの。しかし、どちらか一方が圧倒的な力を持っていれば、それは喧嘩ではなく、単なる虐待になり下がる。

 青年の言葉はつまりそういうことだ。

 「ですが、まあそれほど心配する必要もありませんでしょう。すでに、『こちら側』の意味で、ヨーロッパがこれを阻止すべく動いてくださっているようですし。もしそれが駄目だとしても、アメリカという大国も動き出せば、あんな島国一つではどうすることも出来まいでしょうから」

 「本当に大丈夫なのだろうな?」

 「大統領、この世に『絶対』はあり得ないのですよ。歴史的に見ても、戦争なんてどれも発端を見れば私的なことから世界規模にまで発展している。今回だって、突き詰めれば同様ですよ? しかし、『絶対』があり得ないからといって諦めるには繋がらないでしょう? 出来るだけ最善の策を模索する努力くらいはしなければ。それに、国のトップがそんな弱腰では国民は誰もついてきませんよ。まあ、『独裁者』になり下がるのは遠慮していただきたいですが」

 青年がそんなことを言っていると、突然、ブブブブッ! と青年のスーツポケットに入っている電子端末が振動した。

 「?」

 青年は手で失礼といわんばかりに租借すると、ポケットから電子端末を取りだした。

 携帯電話と別のそれは、いわゆる『討伐者側』でのみの連絡に使うものだ。

 ボタンは無く、スマートフォンのように画面だけの端末を取り出すと、青年は慣れた手つきでそれを操作する。

 (緊急連絡?)

 届いたのは一通のメッセージだった。

 指で画面をタッチして、届いたメッセージを開く。そこに書かれていたのは、

 『城塞に侵入者二名。「データ」を奪われ、城塞は半壊状態』

 と、何の脈絡もない文面だった。

 しかし、それだけで『指揮者コントローラー』はそれが何を意味するのか理解した。だからと言って、別段動揺するわけでもなく、心中は穏やかだった。

 「何かあったのかね?」

 不穏な空気を感じ取ったのか、大統領が尋ねる。

 「ええまあ。城塞がちょっと侵入者に壊されたみたいでね」

 あっさりと答える青年。そこに躊躇ためらいなど存在しない。

 「なっ!?」

 逆に、大統領の方は驚きを露わにする。

 「冗談だろう!? あの城塞には一体いくらの金をかけたか分かっているのか!?」

 激昂する大統領。だが、青年は落ち着いた様子で電子端末をポケットにしまい、

 「そう怒らないでください。言ったでしょう? あれは特別な技術を持って造られているのですよ? 半壊程度なら、一日もあれば修復するでしょうよ」

 「そんなことがあり得るか!」

 「それがあり得るのですよ。まあ、こんなとんでもビックリな技術ですから時が来るまで楽しみにしていてくださいよ」

 大統領をなだめるように言うと、青年は指を顎に当て、何かを考え込むような仕草をする。

 (問題なのは、『データ』が奪われた、という方か。まあ、時間の問題だとは思っていたが、タイミングを見謀みはかられたかな)

 そして、どこか楽しげな表情を浮かべ、


 「『道なき』程度では駄目、か。なら、次は『生なき城塞』にでも造り変えようか」

 

 と、独り言のように呟く。


「約束の蒼紅石」第17話、いかがでしたでしょうか?

新章突入して、2話目ですが、はい、主人公は出ません(汗)

しかし! 次話からちゃんと出番がありますのでご安心を(予定では)

さて、前書きでも宣伝しましたが、サイドストーリーのほうも同時に読んでいただけると幸いです!

それでは、今回はこの辺で。

また次話にお会いしましょう!

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