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フロント・アレイ、彼のもとへご案内いたします

 

 朝の日差しが本腰を入れだした頃、メイン通り周辺は、ただならぬ空気に包まれていた。

 行き交うのは憲兵ばかりで、それに怯える街の人、連行されていく人も何人か見かける。

 昨日とはまるで違う不穏な光景が、そこには広がっていた。


 ノオたちは憲兵を避けて宿に向かった。


「早く出ようぜ、こんな街」


 宿に着くなり、オージは荷造りを始めた。


「ねぇ……やっぱりほっとけなくない?」


 クインはまだ、ハフナーの街を案じているようだ。


「じゃあ、”犯人役”一緒に探してやるか? お人好し野郎」


「解決の方法は他にもあるはずでしょう? そりゃあ、すぐには思いつかないけど……」


 ノオは窓のそばに立ち、外の様子を見ている。


「ノオ? どうかしたの?」


 クインがノオのそばに寄る。


「この街に入った時からだ」


 ベッドに寝転がっているダンが、あくびをしながら言った。


「ずっと、見張られている」


「え!? やだ、本当だわ」


 建物の陰に隠れて、こちらをうかがう人影をクインも見ることができた。


「……イューロピアの連中か?」


 オージは荷造りの手を止めた。


「恐らく違うが……とっ捕まえて吐かせるか?」


「ダン」


 ベッドから起き上がり、見張りをとっ捕まえに行こうとするダンをノオはとめた。


()()()の身内か?」


「多分ね」


 クインとオージを置いてきぼりに話すノオとダン。


「胡散臭い、よくしゃべる見てくれのいい男のことか?」


 オージは妙に察しのいい時がある。


「お前、合流してからずっとあいつのこと見てたな。何者だ? アーチー・スミス……知り合いなのか?」


 割と周りが見えるタイプなのか。


「そういや、あの店に行きたいって言ったのもお前だノオ……なにか理由があるのか?」


 ノオ限定なのか。


「人を捜していると言ったら、あの店を紹介された」


 ノオはいつものように、淡々と答える。


「人捜しを依頼するつもりだったのか?」


「いや、依頼はしない」


「???」


 察しのいいオージもわからない様子だ。


「10年前、この街で何があったか知りたい」


 ノオは端的に話しすぎる。もう少し説明が欲しいタイプだ。

 オージは荷造りをやめた。


「仰せのままに」


 ノオの一声で、4人はハフナーに留まることとなった。



 *** 



「思い出したくもないが……10年前ウーバではテロリスト達が、革命を語ってやりたい放題してたのさ」

「それで、ウーバの政府軍と激しい戦闘になってな……」

「ひどい有様だった……大人も子供も、ウーバ人がたくさん死んだよ……本当に思い出したくない。あんなの二度とごめんだ」

「それをおさめてくれたのがショウ様! ショウ・イューロット殿下さ!」

「そうさ! ウーバをイューロピアに併合してくれた! 今この国が平和なのは、ショウ様とイューロピア帝国のおかげだよ!」

「みんな感謝してる!」

「ショウ様万歳! 併合記念日万歳! イューロピア帝国万歳!」


「……っとまぁ、誰に聞いてもこんな感じだったわ」


 げんなりした顔でクインが話す。

 昼下がり、宿に戻ってきた4人は昼食をとりながら情報を共有していた。

 昼食は宿の近くにある店のサンドイッチ。

 オージは定番のBLTサンド。

 ノオとクインは本日のおすすめサンド。

 ダンはハバネロ、カプサイシンのマリアージュサンドを選んだ。


「ショウ・イューロットが……()()が英雄だとよ……笑えるな」


 オージの顔は笑っていなかった。


「ゴグガバズダババガザグ……」


 ダンは食べながら話しているため、何を言ってるのか分からない。


「えぇ、そうねダン……で、これからどうする?」


 理解できたのか軽く流されたのか、クインが話を進める。

 静かに考えていたノオの瞳が、怪しく光った。



 *** 



「なんのつもりだ! 縄をほどけ!」


 しばらくしてダンが、縄で縛り上げられ暴れる男を小脇に抱えて戻ってきた。

 男は極めて個性的な柄のジャケットを着ている。


「あぁ、先輩ね。名前……なんだったかしら?」


「知らん」


 先輩は、縛り上げられたまま椅子に座らされ4人に囲まれた。

 クインもオージも190近くある長身のため威圧感が半端ない。


「な、なんだよ……」


 小柄な先輩は、さらに小さく見える。


「10年前、この街で何があったか知りたい」


 ノオはすぐ本題に入った。


「はぁ? 10年前? なんでそんなこと知りたいんだ?」


 ノオがダンに目配せする。腕まくりをして先輩に近づいていくダン。


「待て待て待て! せっかちだなぁおい……ダン待てって、な? 少し離れようか」


 ダンは先輩のすぐそばまで来ている。


「そもそも! あんたらには関係のないことだろ? 余計な事せず、さっさとこの街から出てけよ……って近いな、ダン!」


 ダンの顔は先輩の真横にあった。


「なによ、そんな言い方しなくても……」


「違うよクイン」


「え……?」


 ノオはクインの言葉を遮った。


「悪いけど、あんたらの意図はまだ汲んでやれないんだ」


 ノオの言葉に先輩は驚き、クインは何やらピンときた様子だ。


「意図……もしかして、わざと……? わざと“嫌な奴”を演じて遠ざけたの? あたし達が巻き込まないように」


 はぁ……とため息を吐き、先輩が話し始める。


「異国人はただでさえ目立つ。憲兵たちは早く見せしめが欲しい。やった、やってないは関係ない。ヨソ者ってだけで”犯人役”になるんだ」


 先輩は苦々しい顔をしている。

 クインは今朝のメイン通り周辺の光景を思い出した。


「わかってるなら、早くこの街から出てってくれないか!」


 クインはアーチーの不器用な気遣いを理解した。

 オージは気に食わない、という顔をしている。


「でもさ、そっちが呼び寄せたのに随分な話じゃない?」


 ノオは屈んで先輩と目線を合わせた。


「なに……?」


「見張りがついたのは、「フロント・アレイを捜している」と言った時から」


 先輩の顔が強張る。


「あのりんご売りも仲間なんでしょ?」


 ノオは昨日のことを思い返す。


「いらっしゃい」

「りんごを4つ……それと、人を捜している」

「まいど、えっと……人ですかい?」

「そう……フロント・アレイを捜している」

「……フロント・アレイ……でしたら、”夜半の凱旋”にお行きなされ」


 ノオはじっと先輩を見ている。


「そ、それは……」


 先輩がたまらず目線をそらした時、部屋のカーテンが動いた。


「へぇ、緊縛プレイですか」


 関心したような顔のアーチーが、部屋の入口に立っていた。


「昼間から、なかなかオツな遊びをしていらっしゃる。どなたのご趣味で?」


「アーチー!」


 先輩は待ってましたと言わんばかりの顔をしている。


「先輩を返していただけませんか? 代わりと言っては何ですが店に本職の子がおりますので、チェンジとしましてより楽しんでもらえれば……」


「結構よ。お気遣いどうも」


 クインはアーチーの申し出を途中で遮った。


「そうですか……では、ご案内いたしましょう」


「あんたね……話聞いてる?」


 半ば呆れて返すクインにアーチーは怪しい笑顔で答えた。


「えぇ、もちろん」


 アーチーはそう言って、ノオの方を見る。

 ノオはずっとアーチーを見ていた。


「フロント・アレイ、彼のもとへご案内いたします」


「……」


 ノオはアーチーの言葉を推し量っていた。

 フロント・アレイのもとへ案内すると言ったアーチーの言葉を。

 ノオはすでに知っていた。

 フロント・アレイがどこにいるのかを。


「お願いするよ」


 ノオはアーチーの提案に乗った。


 ハフナーの空は茜色に染まりだそうとしていた。


 


 

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