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宰相閣下は『壁の草』をご所望です!~転生モブ令嬢は推しの溺愛に気付かない~  作者: 真波潜


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008 ムホッ!?

「お邪魔だったかな?」

「ちょうど承諾してもらったところだ」


 国王レイラードはつかつかとメルルたちの方へ進み、立ち上がったリベリオスの目の前までくると、彼の首に腕をかけて破顔した。


「そうか! それは良かった!」

「おい、やめろ」


 気軽な様子ではしゃぐレイラードと、言葉では嫌がりながらもそれを受け入れているリベリオスの様子に、親友っていい、とメルルは内心で手を合わせる。

 てえてえ、という声なき声が胸に響く。


『てえて……なに?』

(気にしないでファルちゃん、前世での鳴き声だよ)

『メルルの前世って獣……?』


 レイラードとリベリオスは幼い頃から主と側近候補として交流を持つ幼馴染だ。ゲームのシナリオが進むと、ヒロインの前でも二人の気の置けない様子がうかがえる。

 戦闘では合体スキルなども発動する、仲のいい二人なのだ。


 他に元攻略対象の脳筋枠現近衛騎士や元悪役令嬢現王妃のロゼリアも似たような関係だが、ゲームの最中でも親友と言っても良い関係だったのはリベリオスだけだ。


 なお、前世の世界ではレイリベ及びリベレイのボーイズなラブの二次創作も盛んであった。


 メルルはリベリオスの夢女だが、推しの全てが知りたいタイプの夢女だったので、積極的にどちらも読み、欲しいエッセンスだけを自分のものとして妄想に活用していた。作者にはとても言えない楽しみ方である。


 彼女にカプの地雷は存在しない。バイオレンスすぎる内容は受け付けない、という地雷の少ないオタクだ。


(は~てぇてぇ~~……こんな近くで二人のやり取りが見れるなんて……学園に居た時はずーっとよそ行きな主従の二人しか見れなかったのに……ありがたや、ありがたや……眼・福!)

『メルルの心あったかだけど、なんか……ねばって感じ』

(ごめんファルちゃん本当ごめん今だけ許して)


 ファリーダがメルルの肩で嫌そうな顔をしたため、オタク心が多少ひっこんだ。

 ファリーダは毛皮に納豆でもくっつけたかのような顔をしている。心なしか、乗っている位置も肩の外側に寄った気がする。


 そんな内心をおくびにも出さず、表面上は微笑みながら親友二人の様子を眺めていたメルルだが、目の端でロゼリアの動きも捉えていた。


 人払いの指示をし、部屋の扉を閉じてこちらに向かってきた王妃だが、なぜかメルルへと向ける視線は厳しい。


(おや……ロゼリアに嫌われることしたっけ? いや、まぁ魔力無しだし嫌われても仕方ないんだけど……、ご実家にはお世話になっております)


 あえて顔を向けて一礼すると、ロゼリアの方が驚いて顔をそらした。


 ロゼリア・ディア・グリフォルナード……旧姓ウェルゴー。

 ウェルゴー公爵家の令嬢で、レイラードが王太子の時に結婚。婚約したのはずっと幼い頃だ。


 深紅の波打つ髪に金色の瞳の彼女は、炎のような激しい性格をしている。魔法も炎属性にかなりの適性があり、魔力量も多い。


 小柄な体型ながらスタイルは良く、顔立ちは幼さを残すが瞳には激しさとそれを制御する知性も讃えている。

 少しばかりつり気味のアーモンドアイは、顔立ちとあいまって可愛らしい猫のような雰囲気を作っていた。


 ゲームでの彼女は、ヒロインの恋路をどのルートでも邪魔する。ヒロインがとにかく気に入らない、という感じだった。

 この国では武功をたてれば爵位を受けることができるにしても、攻略対象は皆伯爵家以上。一番下の騎士爵、または準男爵、頑張って子爵まで受けられたとしても、身分違いには違いない。


 それになにより、ロゼリアはレイラードが大好きなのだ。

 ヒロインの妨害をするせいで、どのルートでも最後は婚約破棄されていたのだが、この世界ではいい感じにまとまったらしい。


(ロゼリア良かったねぇ……! 私は嫌いじゃなかったから嬉しいよ……自分がヒロインの立場でありたかった、っていう苦悩や、どうしてもついて回る身分や責任からくるしがらみ、そういうものをまるっと無視して自分の好きな人や周囲の友人に粉をかけるヒロイン……、ごめん! ここだと私はヒロインじゃないけどごめん!)

『複雑な乙女心……?』

(それとはちょっと違うかも……?)


 ゲームでのロゼリアとヒロインの対立を思い出して心の中で謝ったが、この世界ではメルルはヒロインではなくただのモブだ。

 ヒロインはしっかり元攻略対象の隣国の王子を攻略して隣国へと移住済みである。


 ファリーダはメルルの心の動きが分かるせいで、先程からずっと怪訝な顔をするはめになっている。

 メルルが前世の記憶を持っていることも知っているが、ここまで心の中が騒がしくオタク心が出てきているのは珍しい。


「さて、では実務の話をしたい」

「あっ、は、はい! もちろんです、陛下」


 いつの間にか親友間の話はひと段落したらしい。切り替えるように告げたレイラードはリベリオスが座っていたソファに腰を下ろした。ロゼリアはその隣に収まり、リベリオスは一人がけの席に移った。

 メルルも再度腰を下ろし、気持ちを切り替えて背筋を伸ばした。


「どこまで話した?」

「私の部下になって欲しい、まで」

「分かった、何も話していないのだな」


 苦笑してリベリオスに頷いたレイラードはメルルに向き直る。人好きのする笑みを浮かべているが、レイラードは乙女ゲームでの腹黒ドS枠のキャラだ。


 ヒロインを助けつつ、ある程度突き放したり放置したりする。だが、肝心な時には現われて手を差し伸べ、最後には「他の誰かに泣かされるなんて、許せない」とヒロインの涙を拭う甘さを見せていた。


 パッケージで一番大きく描かれているだけあって攻略難易度は低い。

 一度好感度が高くなればなかなか下がらないが、多少上げるのが大変な相手ではある。

 あまり従順な選択をしていると関心を引かないのだ。性格に難がありすぎる。


(今はちょっと性格変わったのかもしれない……結婚して丸くなったのかな)

『まるまるっ』

(それだとちょっと、ふくよかそうな感じになるわね……)


 見た目は極上に甘く、柔らかな金色の髪に薄水色の瞳の儚げな美形だ。女性的な部分は無いが、かっこいい以上に綺麗な男性、という形容が合うだろう。

 顔立ちは男らしいとは言えないが、魔法の他に剣も弓もなんでも使う万能型で体つきは意外とがっしりしている。パーティーには外せないアタッカーだった。


 その綺麗な顔に意味深な笑みを浮かべていたレイラードは、その笑みを一段深くして口を開いた。


「実は、謀反の動きがあってな」

「ムホッ……! げほっ、けほっ」

「令嬢!?」


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