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宰相閣下は『壁の草』をご所望です!~転生モブ令嬢は推しの溺愛に気付かない~  作者: 真波潜


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024 ストーカーです

 グリフォルナード王国の王都・ルーデリヒには三枚の城壁がある。

 城壁の上は物見の兵士が巡回できる通路になっており、内部にも通路や武器庫、矢間もあり、この国が魔王領と戦争していた長い歴史を感じさせる。


 一番外側の第三城壁は外敵を防ぐためのものだ。一番高く、分厚く、王都をぐるりと囲んでいる。東西南北に王都に入るための門があるが、基本的に平民も貴族も北門以外を使用する。北門は王城と最も近く、普通に通ろうとしても西門か東門に回されてしまう。

 王都に暮らす者は第三城壁に囲まれている部分を『第三区域』と呼び、外の人間が王都と言えば通常この第三区域を指す。グリフォルナード王国の商業の中心地であり、冒険者ギルドの本部もこの第三区域にある。


 中間の第二城壁は貴族街と第三区域を隔てており、半円の形をしている。

 第二城壁から第一城壁の間は貴族の屋敷や貴族向けの高級店が立ち並ぶ区画で、外側の平民が住む区画や商業区、工業区を含む第三区域に比べて半分以下の広さだ。

 第二と第一の間にある王侯貴族のための区域は、通称『貴族街』と呼ばれる。


 さらにその内側に王城を半円で囲む第一城壁がある。城の南側は第一城壁で囲んでいるが、背後の北は第三城壁のみで守られている。北門が普段使用できないのはそのためだ。


 メルルは第二城壁をこえて馬車を走らせ、第三区域を西に向かう。

 大通りを外れて住宅街を壁際の郊外に向かうと、小さな庭付きの店が一件佇んでいた。

 住宅街に程近いせいで、買い物しようという人間が向かう大通りや商業区から離れている。静かではあるが、商売する気がある立地ではない。


 メルルはその店の前で馬車を降りた。


「こちらにピクシリア伯爵令嬢のお知り合いが?」

「そうよ。……驚くかもしれないけど、これは試練だから。剣は抜かないでね」

「はぁ? どんなヤベー奴がいる店なんだよここ……雑貨屋みてぇだけど~?」


 馬車に同乗していたアイザックに問われて、最終決戦に向かう戦士のような顔でメルルは頷いた。

 馬で馬車の外から護衛していたエイリックが頭の後ろで腕を組んだやる気のない様子で店の前に掲示された看板や出窓の陳列を見て首を傾げる。


「危険ではないのよ。ただ、……まぁ会えばわかるわ」

「……」

「……」


 メルルの曖昧な説明に後ろに控えている双子は無言で責めるような視線を向けてくる。

 メルルの肩に乗っているファリーダはそんな二人に向かって舌を出した。よほど嫌いらしい。


『メルルのこと睨んだって無駄だもんねー! んべー!』

(説明のしようがないしねぇ……あ~気が重い……)

『メルルはソラール嫌い?』

(ううん、嫌いなわけないじゃない。でもねぇ、リベリオスの婚約者になったから、それを公に言うのはダメになっちゃったんだよねぇ)

『複雑な人間模様……』


 可愛らしい白塗りの扉を開くと、ドアベルがカランカランと来客を告げる。

 だが、そのドアベルと同時にメルルに向かって向かってくる影があった。


「メールールー! 会いたかったよマイレディ!!」

「おいっ!」

「離れろ!」

「あー……」


 影は二メートル近い長身の青年だった。

 夏の空のような澄んだ青色の髪で色白な青年が、メルルに向かって音もなく近寄り、双子の護衛が気付いた時にはすでに腕の中にメルルを閉じ込めていた。

 慌てて引きはがそうとするも青年は気にも留めない。本当に嬉しそうにメルルを抱きしめている。

 抱きしめられている方は虚空を見つめながら気の抜けた声を発するので精一杯だ。


「おや、今日は友人連れかい? メルルの友達ならサービスするよ、メルルと仲良くしてね。そうだ、飴ちゃんあげようか? それとも男の子だから、ソルトクッキーの方がいいかな?」

「おい、お前に言ってんだよ! その女から離れろ!」

「これ以上警告を無視するのなら実力行使になる」

「お二人とも、落ち着いて。……ソラールさん、とりあえず離して」

「うん、いいよ。飴ちゃんとソルトクッキーを持ってくるね、メルルにはソラール特製ケークサレだ」

「ううん、その前に色々説明したいからそこで止まって、黙って」

「はーい、メルルのお話し聞くよ」


 呆気にとられる護衛双子の目の前で、ソラールは忙しなくメルルの世話を焼こうとしている。店の奥に行って本当に子供に渡すようなおやつを持ってこようとしていたが、彼女に言われた通り大人しくカウンターの前に立ち、彼女に笑みを向けて話を聞く姿勢だ。


「おい、なんだよコイツ。お前の恋人か?」

「婚約するのなら事前に片付けておくべきだろう。若様に迷惑をかける気か? 魔力が無いだけではなく尻も軽いとは、一体何を考えているんだ」


 エイリックはいよいよメルルを「お前」呼ばわりなうえ、アイザックは口調だけは硬いが内容は大変な侮辱である。ファリーダがハリネズミのようになっているので控えて欲しい、頬に刺さる、とメルルは諦めの顔で秘かに考えていた。


(うーん、一瞬で誤解を招きまくった……さてどうするかな)

『メルルは前世からリベリオス一筋だよ! 尻軽なんて言わないで!』

「え? 今メルルの事悪く言ったの? もしかして、お友達じゃなくて始末したくて連れて来たのかな?」

「あ?」

「……」


 メルルの背後で剣に手をかける気配がする。

 はぁ、とため息を吐いてメルルはソラールに注意した。後ろの二人に注意しても聞かないのだからこっちに言うしかない。


「ソラールさんはややこしくなるから黙ってて、今説明するから」

「分かったよ」


 にこにこしたまま物騒なことを言ったソラールに、双子の警戒は高まるばかりだ。なお、警戒と共にメルルへの心象もどんどん悪くなっている。

 メルルはソラールの前に立つと、双子を振り返った。


「まずこちら、ソラールさん。ピクシリア領から私を追いかけて王都に店まで出したストーカーです」

「こんにちは、雑貨店をやっているソラールです。メルルのストーカーです!」

『ストーカーは自分で言っちゃダメだとおもう』

(自覚ないよりずっとマシだからいいわ……)


 ストーカーを紹介する令嬢と、それを否定もせずに自ら名乗る青年。

 双子が二人に向ける視線は痛い程に厳しい。今にも手をかけている剣を抜きそうな、一触即発の空気が狭い店内に満ちる。


「……」

「……」

「離れた土地で暮らす、以外はなんでも言うことを聞くので先にこちらに説明に来ました。リベリオス様にも後で報告とご相談をするので、あなたたちが報告するのも構いません。これはどうにもできないので」

「そうだよ、どうにもできないことだから。あと、メルル以外のいう事も聞かないよ」

「恋愛感情はゼロなので、そういう意味で浮気ではありません」

「そうだよ、君たちは赤ちゃんに欲情するのかい? 僕はメルルがこーんな小さい頃から知ってるからそんな気は全くないよ」


 こーんな、と言いながらソラールは人差し指と親指で二センチ程の幅を作ってみせた。それは胎児だ、とメルルは冷静に思うのだが、彼にとってはそういうスケールなんだろうなとも思う。だからつっこむ無駄を悟って何も言わない。


「で、ソラールさん。こちらはボウウェイン騎士団の騎士、エイリック卿とアイザック卿。右分けがエイリック卿で左分けがアイザック卿ね」


 メルルの紹介に、双子が微かに驚いたように眉を跳ね上げる。

 大袈裟ではないが、一段警戒を強められたような気がする。

 見分けがついていることに驚かれているのかもしれないが、髪の分け目という差をつけてくれているのだから分からないわけがない。


「へぇ、メルルは騎士団に入ったの?」

「ううん。あともう少し話すから、黙ってて」

「分かったよ」

「昨日申し込まれてボウウェイン公爵閣下の婚約者になってね、今までいたウェルゴー公爵邸からボウウェイン公爵邸に引っ越したのよ。たぶんもうこの店には来られないわ」


 リベリオスの家から出るのがまず大変だ。今日も二時間かけてこの店まで来たのだ。

 馬車でそれなので、まず訪れることはないだろう。ウェルゴー公爵家からならば一時間あれば到着したのを思うと、リベリオスの家の敷地の広大さがよく分かる。


「そうなんだ。なら、僕もボウウェイン公爵家に就職しないとね。それより婚約おめでとう! ずっと婚約したがってたよね、夢がかなってよかった! 僕も嬉しいよ!」

「お祝いありがとうソラールさん。でも就職はちょっと待ってね、私が先にリベリオス様に聞いてみるから」

「そんなお世話もしてくれるの? 手厚いなぁ、嬉しいよ」

「……じゃないと無理矢理就職するでしょう?」

「うん」


 使用人の一人が行方不明になってそのポストにちゃっかり収まるとかやりかねないのがソラールだ。婚約や引っ越しのことを彼に黙っていて後でバレたら確実にその手段をとって気付けばボウウェイン邸に居場所を得ているだろう。


 そんな真似をされて、リベリオスに迷惑をかけたくない。その一心のメルルは、どうしても先にソラールに話を通す必要を感じていた。

 メルルやその周囲に害を加える存在ではない。だが、周囲、の範囲がソラールから見て、という曖昧な基準であり、かつ、メルルの側を離れることは絶対にない。


「じゃあ、用は済んだし帰るわね。先に私が相談するから! 絶対勝手に動かないで!」

「分かったよ。三日後に結果を聞きに行くね」

「……分かったわよ」


 それ以上止めようがないと知っているメルルは首を横に振って諦めの了承を告げる。

 やっぱり領地に帰って欲しい、という言葉をさしはさむ隙がなかった。肩を落として店を出ようとするメルルの後ろで、お引越し、お引越し、とはしゃいでいる声が聞こえる。

 

「あ、メルル」

「ん? なにかしら」

「帰り、気を付けて(・・・・・)ね」

「……分かった、ありがとう。またね」


 ソラールの表情に変化はなく、声も普通の落ち着いたトーンのままだ。

 なのに、メルルを呼び止めてまでそれを言った。その意味を考えて、メルルはその言葉に真剣に頷いて店を後にした。


「……おい、浮気尻軽女ぁ。あれ、なに?」

「ストーカーだと? つきまといならば衛兵につき出せばいいのではないか。何を隠している?」

「……」

「おいなんとか言えよ、図星だから言い返せねぇの~?」

「若様には俺達から報告するが、良いのだな?」


 店から馬車までの短い距離の間に、護衛双子はメルルに詰め寄る。態度は最悪で、ボウウェイン公爵邸を出るまでは一応あった体面もなくなっていた。

 主人の婚約者に対しての態度でもなければ、内容も護衛として逸脱したものだ。


『ねぇメルル、こいつらどうする? ファルもう我慢するのやなんだけど』

(さすがに形だけでも敬わないなら何も答える義理はないわよ。私は今人前でソラールさんに対応するっていう一山超えて疲れてるし……)

『護衛、膨れ上がっても替えてもらお?』

(ダメよ、リベリオスが自由に使える人手は減らしたくないもの)


 メルルが馬車に乗り込むと、今度はエイリックが乗り込んできた。同乗するのは交代したらしい。

 メルルに了承を取るでも行先を聞くでもなく、馬車は動き出した。アイザックが指示したのだろう。このままボウウェイン公爵邸に戻るのだろうし、メルルもそれに異存はないが、明らかに逸脱した行いである。


(……帰り、気を付けてねってことは、何かあるよね?)

『あるよー、ソラールがあんなこと言うならある』

(……何かの中身より、この双子が何するかわかんないのが一番めんどくさい)

『ファルが守ってあげるからね!』

(うん、ありがとファルちゃん。頼りにしてる)


 馬車は第三区域を貴族街に向かって進み出したが、その動きは五分もしないうちに止まってしまった。


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― 新着の感想 ―
メルルの心の声が楽しくて毎日更新を楽しみに待っています。 自分の憶測や感情だけで相手を悪様に、ましてや本人に聞こえるように言うなんて小学生ですら怒られる行為ですよ。これを公爵騎士って肩書を持つ大人が…
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