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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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お前たち……なんなんだ?

 朝の光はまだ細く、窓枠の端に触れただけの金色が、客室の空気にゆっくり溶けていった。


 昨夜、あれほど賑やかだった館は、今は息を潜めているように静かだった。

 壁には家族の笑い声が残ったままなのに、その下に沈む空気だけは、はっきりと違っていた。


 今日、互いに向き合う話の重さを、ナオキとリヴはよく理解していた。


 ナオキは机の前に座り、背嚢に指を置いた。

 どこにでもある麻袋。少しほつれかけた端を、昨夜リヴが直してくれた跡がまだ新しい。


 外見だけなら、どこにでもある荷物だ。

 けれど、この中に詰まっているのは――この世界では説明のつかない物ばかりだった。


 袋の存在そのものが、静かな重みを帯びている。

 嘘というより、まだ語っていない“現実”。その重さだった。


 その袋を見つめるナオキの横で、リヴがそっと袖をつまむ。


 少しだけ冷えた朝の空気の中でも、その指先は温かかった。

 震えはない。むしろ、ナオキの呼吸に合わせるように、寄り添う気配だけがある。


「……ナオキ。ほんとうに、出すの……全部……?」


 囁く声は不安ではなかった。

 拒絶でもない。


(いっしょに背負うよ)


 そんな意志が、声の奥に静かに宿っていた。


 ナオキは袖を引く指にそっと触れ返す。


「隠したままだと……あとで困らせちゃうと思う。

 ヴァルターさんには……ちゃんと話したいから」


 その声は柔らかく、揺らがなかった。

 昨夜、ヴァルターがあれほどの言葉をくれたのだ。

 ――ならこちらも、信じて向き合うべきだ。


 リヴはその言葉に細く息を吸い、ゆっくりと頷いた。

 昨日よりも少し大人びた表情。その横顔に迷いはない。


 こん、と扉が軽く叩かれた。


「入るぞ」


 落ち着いた声。

 昨夜の宴で見せた優しさと同じ響きがあった。


 扉が開き、ヴァルターが姿を見せた。

 髪は整えられ、白いシャツの袖口はきっちり折られ、商人としての顔になっている。

 だが、目の奥には――昨夜の信頼がそのまま残っていた。


「昨日の続きをしたくてな。この部屋で構わんか?」


「もちろんです」


 ナオキが返すと、リヴも丁寧に頭を下げた。


「……お願いいたします」


 袖をつまむ指先がきゅっと強まっていた。

 怯えではない。

 今日の話が“本当の意味での一歩”になることを理解している、その緊張だった。


 ヴァルターは椅子に腰を下ろし、机の上の背嚢に視線を落とす。


「向こうの品を持ってきたと言っていたな」


「……はい。扱いの難しい物が多いので……順番に、説明しながら」


 ナオキは静かに背嚢の紐を解いた。


 麻布の擦れる音が、やけに大きく響いた。

 緊張のせいか、空気が澄みすぎているせいか――その音が、この部屋の始まりの合図のように思えた。


 最初に取り出したのは、包丁だった。


 光を受けて、刃が淡く輝く。

 整った刃線。均一な厚み。磨かれた銀の光。


 ヴァルターが手を伸ばし――刃を見た瞬間、指先が止まった。


「……おい。これは……」


 手に取って角度を変え、側面を軽くなぞる。

 刃の鋭さに、わずかに指が震えた。


「……調理具、なのか?」


「料理に使う包丁です。刃が鋭いので、扱いに気をつけてください」


「鋭い……? いや、この均一さ……“魔剣”の線すら超えているぞ……?」


 ヴァルターは光にかざし、ひとつひとつ確かめるように眺めた。


「鍛冶師が何十年修行しても、これは……。

 鍛冶師を百人集めても、この線は出せん……」


 もう声の色が変わり始めていた。


 次にナオキが取り出したのはガラス瓶だった。


 透き通った硝子。曇りも歪みもない。


「これは飲み物を入れる瓶です」


「瓶……? 透明……すぎる……歪まん……。

 どこの工房が……? いや、魔道具をどう使えば……?」


 驚きに、ほんのわずかな恐れが混じり始める。


 リヴが袖を引き、小さく囁いた。


「これ……出すの……? ほんとうに全部……?」


「今のうちにね」


 ナオキは次々と取り出した。


 グラス。

 密閉容器。

 石鹸、タオル、ハンカチ。

 ティーバッグ、スープ、乾燥食料。

 常備薬の箱。

 ライト、ハサミ、針と糸。

 メモ帳、地図、栓抜き、水筒。


 机が埋まっていく。


 リヴの袖をつまむ指は、いつの間にかナオキの手を握っていた。


 ヴァルターは完全に“常識の外の光景”の中にいた。


 眉が上がり、目が細くなり、額には汗が浮かび、呼吸が浅くなる。

 椅子に深く座り直し、机に手をついて、必死に支える。


 十を超えたあたりで――


「…………なあ」


 声が低く、かすれていた。


「お前……まさかとは思うがな」


 ナオキは目を向ける。


「はい」


「これら全部を……その袋で持ってきたと言うのか?」


「……これで、まだ全部じゃないんです」


 ヴァルターの思考が止まった。


 沈黙。

 本物の沈黙だった。


「……いくらなんでも、限度というものがあるだろ……」


 困ったように笑うナオキの横で、リヴがさらに手を握り込んだ。


 ここで――ナオキはもうひとつの真実を告げる準備をした。


「ヴァルターさん。全部をお見せするなら……言っておかないといけないことが、もうひとつあります」


「……まだあるのか?」


「リヴは……魔法が使えます」


 空気が――止まった。


「…………………………は?」


 ヴァルターの声が完全に止まった。

 あれほど喋っていた男が、言葉そのものを失っていた。


 リヴは驚いたようにナオキを見上げる。


「えっ……ほんとうに言うの……?」


「うん。隠しごとはもう……終わりにしよう」


 リヴは小さく息を整え、椅子から立ち上がった。

 胸の前で指をそっと重ねる。

 誰にも見せる必要のなかった、いつもの“始まりの形”。


 光が咲いた。


 小さな花が開くように、やわらかく、あたたかい輝きが彼女の掌に生まれる。

 詠唱も、魔力の揺らぎすらもない。


 ただ、そこに“現れる”。


「……む、無詠唱……?」


 ヴァルターの声が震えた。

 その震えは恐れではなく、理解が追いつかないことへの純粋な驚愕だった。


 リヴは続けるように、指をすっと動かした。


 水が、音もなく丸い球となって浮かぶ。

 完璧な球形。

 不自然なほど安定しており、滴りもせず、揺れもしない。


「す、水……!? 形が崩れ……いや、崩れなさすぎる……!?」


 次に空気が揺れ、机の上の紙がふわりと浮きかける。


 風。


 続けて、リヴの掌の上に小さな火が灯る。

 炎は驚くほど静かで、彼女の呼吸にすら揺れない。


 火。


 床の一部が、わずかに盛り上がる。

 土の属性。


 ――五属性。


 魔法として語られる“頂点”の領域。

 伝説でしか存在しないとされる技。


 リヴは息一つ乱れず、当たり前のように手を下ろした。


「えっと……こんなかんじ……」


「こんな感じじゃない!!!!」


 ヴァルターの叫びが部屋に響く。


「五属性!? 複数属性の魔法など、歴史に名を残す大魔導師ですら二属性が限界だぞ!?


 それを無詠唱で……

 負荷もなく……

 何度も……!? 


 お前……なんなんだ……精霊か何かか!!?」


「え、えっ!? せ、精霊……!? ちが……うよ……普通だよ……?」


「普通じゃない!!!」


 ヴァルターが机を掴み、立ち上がる勢いで前のめりになった。

 目はぎらぎらし、息は上がり、額には汗。


 常識が音を立てて崩れる中で、彼はようやく椅子に戻った。


「……だめだ……脳が……焼ける……」


 頭を抱え、天井を見上げる。


 ナオキは困ったように言う。


「ヴァルターさん……落ち着いてください……」


「落ち着けるか……! 五属性……無詠唱……無負荷……そんなもの、歴史に一度も存在しない……!」


 ヴァルターは震える声で続けた。


「……いや、ある意味では……昨夜の段階で覚悟はしていた……。

 料理の手際も、気配の薄さも……“妙に普通じゃない”とは思っていたが……それでも……五属性は……!」


 額を押さえたまま、深く深く息を吐く。


 その間、リヴは不安げに袖をつまみ、ナオキの方を向いた。


「ナオキ……わたし、やりすぎた……?」


「いや……君は悪くないよ……」


「そうなの……?」


「悪いのは……タイミングだけ、かな……」


 リヴはしゅんとした顔で肩をすぼめる。

 その姿を見て、ヴァルターが思わず叫んだ。


「悪くない! むしろ……すごすぎて……どうしていいか分からんだけだ!!」


「ど、どうしていいか……」


「分からん!!!」


 完全にパンクしていた。


 しかし――まだ終わりではなかった。


 ナオキが静かに口を開く。


「……ヴァルターさん。もう一つ……大事なことがあります」


 ヴァルターが顔を手で覆う。


「まだあるのか……? なんなんだ……今日は処刑日か……?」


「俺の荷物は……全部、アイテムボックスに入れてきました」


 その瞬間――


 静寂が落ちた。


 さっきまで叫んでいたヴァルターが、一切の声を失った。


「…………………………は?」


 ゆっくりと、硬い動きで顔を上げる。


 そして、震える声で言った。


「アイテムボックス……?

 あれは……時空魔法の最終到達点で……理論だけ残っている“伝説級”だぞ?

 存在した者はいない……!

 研究しても再現できない……!

 国家が何百年研究しても成果ゼロの……あの……アイテムボックス……?」


「はい」


「お前は……それを……?」


「はい」


「………………………………」


 時間が止まる。


「お前たち……なんなんだ……?

 本当に物語の中から歩いてきたのか……?」


 ヴァルターは、机に突っ伏した。

 完全に、言葉を失った。


 机に突っ伏したヴァルターは、一言も発さなかった。

 肩がわずかに上下している。

 呼吸が整っていない。


 静かな客室の空気が、凍ったように動かない。


「……あの……ヴァルターさん……?」


 ナオキがそっと声をかけるが、反応はない。


 リヴは心配そうに胸の前で手をそわそわと動かした。


「だ、大丈夫……? 水……いる……?」


 ようやく、机に突っ伏したまま、ヴァルターが搾り出すように呟いた。


「……少し……待ってくれ……脳が……今……旅に出ている……」


「旅……?」


「常識の外に……旅に出ている……!!」


 ガタン、と椅子が鳴った。

 ヴァルターが上体を起こし、髪を手でかき乱す。


「アイテムボックス……? 五属性……? 無詠唱……? あれだけの品を全部袋に……?

 なんだその……おとぎ話の主人公みたいな設定は……!」


 めちゃくちゃ真剣な顔なのに、言っている内容が混乱しすぎていて、リヴは思わず小さく笑いそうになった。


「ナオキ……ヴァルターさん……混乱してる……」


「だね……完全に……」


 ヴァルターは額を押さえながら、ぎりぎりの理性で椅子に座り直した。


「……すまん……二人とも……怒ってるわけじゃない……」


 荒い呼吸のまま、続ける。


「ただな……驚きの量が……限度を越えているんだ……!」


「ご、ごめんなさい……?」

 とナオキが申し訳なさそうに言うと、


「謝るな!!!!」


 ヴァルターが叫んだ。


「謝られるほうが困る!!!!

 むしろ……感謝してるんだよ……!!

 隠し事をせずに全部見せてくれたことに……!!」


 リヴのまつ毛が揺れ、ふっと表情がゆるくなる。


「じゃあ……怒ってない……?」


「怒るか……! 怒るどころか……覚悟が決まった……」


 ヴァルターは背筋を伸ばし、二人をまっすぐ見た。


 その表情は――昨夜の笑い声の余韻とは違う。

 商人としての顔とも違う。


 “人としての、決断”だった。


「いいか、ナオキ。リヴ」


 声は驚くほど落ち着いていた。

 その落ち着きが逆に、言葉の重さを際立たせる。


「……お前たちは、もう俺の常識では測れん。

 国の魔導師でも、軍でも、鍛冶師でも、商人でも……

 どの立場で考えても、“規格外”だ」


「……すみません……」


「違う! 謝るなと言った!!」


 ヴァルターは机を軽く叩いて続ける。


「問題は“力があること”じゃない。

 力をどう使うかだ」


 リヴがそっと袖をつまみ、小さく聞いた。


「……わたしたち……危険……?」


「危険じゃない!」

 ヴァルターの声は強かった。


「危険なのは……お前たちを見て“恐れる側”だ」


 リヴは目を瞬かせ、ナオキは息をのみ込む。


 ヴァルターは続ける。

 一語一語、噛みしめるように。


「強すぎる者は……弱い者から恐れられる。

 理解できない力は……脅威に見える。

 人は、分からないものを恐れるからな」


 リヴの指が震えそうになった瞬間――


「だが」


 ヴァルターは即座に切った。


「俺は恐れん。

 昨日、お前らと飯を食った。

 話した。

 笑った。

 あの時間で十分すぎるほど分かった。

 お前たちは“危険な力”じゃなく、“優しい力”だ」


 リヴの目が潤んだ。


「……ヴァルターさん……」


 ナオキはゆっくりと息を吐き、胸の奥が温かくなるのを感じた。


「だから――」


 ヴァルターは椅子を引き、立ち上がった。


 鋭くも優しい目で、二人を真正面から見据える。


「――俺がお前たちを守る。

 ヴァルター商会としてではない。

 ヴァルターという“一人の男”としてだ」


 リヴは息を呑み、ナオキは思わず目を見開いた。


 その言葉に、嘘も誇張もなかった。

 商人の駆け引きでもなければ、利益のためでもない。


 ただ――人としての友情と信義。


 それだけが宿っていた。


「お前たちが隠れて怯えて暮らす必要はない。

 力をひけらかす必要もない。

 堂々と、生きればいい。

 そのために……俺が立つ」


 リヴの頬がつっと熱くなる。


 ナオキは小さく頭を下げた。


「……ありがとうございます。そんなふうに言っていただけるなんて……」


「礼はいらん。

 昨日の甘味の礼も、今朝の誠実さの礼も……全部合わせれば、むしろ俺のほうがお前たちに礼を言いたいくらいだ」


「甘味……」

 とリヴが小さく呟く。


「うむ。あれは……本当に幸せな味だったからな」


 ふっと空気が柔らかくなる。


 その流れのまま、ヴァルターは深く息を吸い、静かに宣言した。


「ナオキ。リヴ。

 ――お前たちは今日から、ヴァルター商会の“身内”だ」


 その瞬間、リヴの瞳がふわっと揺れた。


「み……身内……?」


「そうだ。客でも協力者でもない。

 守るべき“家族の側”に入れるということだ」


 ナオキの喉が静かに震えた。


「……俺たちを……?」


「お前たちをだ。

 理由ならいくらでもある。

 だが一番大きいのは――」


 ヴァルターは胸に手を当てた。


「――俺は、お前たちが好きだ。

 人として。

 守りたいと思った」


 リヴは口元を押さえ、目に涙を浮かべた。


「……ありがとうございます……ほんとうに……」


 ナオキも、もう言葉が見つからなかった。

 この世界に来て、誰かにこれほど強く“受け入れられた”ことはなかった。


 ヴァルターは照れくさそうに咳払いし、紙束を手にした。


「さて。感傷はここまでにして……商人としての整理を始めよう。

 お前の品がどう街に影響するか。どう扱えば安全か。

 全部、俺が判断してやる」


 二人は同時に深く頷いた。


「お願いします」


「お願いします……!」


 空気はようやく落ち着き、けれど、確かに温かかった。


 朝の光は強まり、窓辺の影を少しずつ消していく。


 ヴァルターは深く椅子に腰を下ろし、紙束を手元に置いた。

 もう混乱の影は薄れている。

 代わりに、商人としての鋭さと、父親のような優しさが同居した表情が戻っていた。


「さて……ナオキ。リヴ。ここからは“扱いの整理”をする」


 紙をめくりながら、ヴァルターは品々を順番に指さした。


「まず包丁だが……これは外に出せん。鍛冶師を壊す」


「壊す……?」


「精神が、だ」

 ヴァルターは真顔だった。


「こんな刃を見せたら、何十年修行してきた者が膝をついて泣く。

 技を捨てるか、追いかけるか、どちらにせよ騒ぎになる」


「……うん、なるべくしまっておくね」


 ナオキが苦笑すると、リヴが袖をちょんと引いて小声で呟く。


「鍛冶師さん……泣くんだね……」


「泣くぞ。間違いなく泣く」


 その即答に、部屋の空気がほんの少し和らぐ。


 ヴァルターは次に透明な瓶を持ち上げた。


「これは……薬師が喉から手が出るほど欲しがる。

 だからこそ、出さない。出せば調薬の基準が崩れる」


「そんなに……?」


「そんなにだ。純度が上がれば薬の力が変わる。

 医療の価値が変わる。

 街の“命の流れ”が変わる」


 リヴはぽつりと呟く。


「じゃあ……これも、わたしたちだけ……?」


「そうだ。お前たちが使う分なら問題ない。商会内だけで静かに扱う」


 ヴァルターは次にライトを手にした。

 その瞬間、表情が引き締まる。


「これは――最も危険だ」


「やっぱり……」とナオキ。


「当然だ。灯りは“支配の象徴”でもある。

 貴族も、軍も、街の治安も、この光一つで変わる」


 それでもヴァルターは静かに続けた。


「だが……必要なら使う。

 お前たちの身を守るためならな。

 ただし絶対に外に見せるな」


「分かりました」


 ヴァルターは深く頷き、次に石鹸へ手を伸ばす。


「これは……君たち専用か、せいぜい商会の女性陣の特別品だな」


「女性陣……?」


「昨日、うちのラナや妻の反応を思い出せ。

 あれで一般販売などしたら戦争だ」


「戦争……?」


「香りでだ」


 リヴが恥ずかしそうに目を伏せる。


「うう……そんなに匂う……?」


「いい匂いなんだよ……」とナオキが小声で言うと、


「お前まで素直に言うんじゃない!!」

 とヴァルターが照れ隠しに机を叩いた。


 そのやり取りに、少しだけ笑いが生まれる。


 ヴァルターは紙束の最後の一枚をめくり、静かに言った。


「つまりだ。

 ナオキの品は、どれひとつとして“普通の品”では扱えん。

 扱えば世界が変わる。変われば混乱が起きる。

 だから――俺が管理する。

 お前たちを守るためにな」


 ナオキは深く息を吐き、静かに頭を下げた。


「……お願いします。俺じゃ……判断を誤りそうなので……」


「そこが良いところでもあるがな」

 ヴァルターは笑みを浮かべた。


「ナオキ。お前は誠実すぎる。

 誠実な人間は“正しいこと”のために動けるが……

 同時に、それで自分を危険に晒す」


 言葉は厳しいのに――優しさが滲んでいる。


 リヴがそっと袖をつまみ、ナオキの顔を見つめた。


「ね……だから……わたしも、一緒に考える……」


「うん……頼りにしてるよ」


「……うん」


 二人のやり取りに、ヴァルターは大げさにため息をついた。


「お前ら……夫婦か?」


「ええっ!? ま、まだ……!」


 リヴが跳ねるように顔を真っ赤にし、袖で頬を隠した。


「……でも、言われたら……ちょっと……うれしい……」


「リヴ……そういうこと言われると俺も困る……」


「困る……?」


「嬉しいけど困る……!」


 そのやり取りに、ヴァルターは豪快に笑った。


「ほらな。

 こんな空気を持つ二人を“危険な者”と見る奴は信用ならん。

 だから――俺が守る。

 それで街も守れる」


 笑いが落ち着いたあと、ヴァルターは真面目な目に戻り、最後の確認だけを告げる。


「よし。話はここまでだ。

 ここから先は、品を少しずつ整理し、外の動きも読む。

 今日から本格的に……一緒に動くぞ」


 ナオキとリヴは並んで立ち、同時に頭を下げた。


「よろしくお願いします」


「お願いします……!」


「よし。任せろ」


 ヴァルターは立ち上がり、三人の間に朝の光が差し込んだ。


 外では商会の人々が動き始めている。

 街の朝はもう始まっていた。


 机の上の地球の品々が、金色の光を受けて静かに輝く。


 その光景は――

 異世界の朝に、新しい未来がそっと混ざり始めた瞬間に思えた。


 そして、この朝が後に、

「街の流れを変えた最初の日」と語られることになるとは、

 三人の誰もまだ知らなかった。

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