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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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香りの宴、はじまる夜(後編)

 そのあと、宴はさらに深まり……

 ヴァルターの“酔い語り”が始まっていく。


 甘味と笑い声で賑やかな食卓は、ゆっくりと落ち着いた空気に変わっていった。

 だが、それは静けさではなく、

 次の“賑やかさ”を迎える前の、短い休憩のような時間だった。


 酒を飲み進めたヴァルターの頬が、ほんのり赤くなり始める。


「……ふぅ……こいつは効くな……。

 喉に優しいのに……芯が熱い……。

 なんだこれ……飲むたびに体が喜んでるみたいだ……」


「飲みすぎだよ、ヴァルターさん」


「大丈夫だ! むしろもっと飲みたいくらいだ!」


 すでに絶好調だ。


 セラが呆れたように言う。


「あなた、お客様の前なのだから……ほどほどにね」


「いいじゃないか! 今日は祝いだぞ。

 森を越えた友が戻ってきたんだ。

 甘味も、酒も、こんなに揃って……」


 ヴァルターは盃を置き、

 妙にしんみりした声で言った。


「……ナオキ。お前が来ると……家が明るくなるなぁ……」


「そ、そんな大げさな……」


「大げさじゃない! 本気だ!

 だってな……この家、昔はもっと静かだったんだぞ」


「まあ……そうね」


 セラが微笑みながら続ける。


「ラナが少し落ち込みやすい子で……。

 あなたが来てから、あの子がよく笑うようになったの」


「お母さん……それ言う必要ある?」


 ラナが真っ赤になって俯く。


「いいでしょ、たまには言わせて。

 あなた……子どもの頃は泣き虫だったんだから」


「わぁーっ!! 言わないでって言ったのに!!」


「かわいい泣き虫だったのよ?」


「やめてー!!」


 賑やかな悲鳴でテーブルが揺れた。


 ヴァルターは酔いもあってか、さらに調子づいた。


「ラナなんてな、昔は俺の足にしがみついて離れなかったんだぞ。

 “怖いよー、こわいよー”って泣きながら……!」


「お父さんまで!? なんでそんな昔のこと言うの!?

 ナオキさん聞いてるよ!? リヴもいるんだよ!?」


「聞いてるよ。かわいいなぁって思ってた」


「リヴまでぇぇ!!」


 リヴは小さく笑いながら、胸の前で手をそろえた。


「ラナ、今もかわいいよ。

 甘いもの食べて笑ってる顔……すごく好き」


「……うう……もう……やめて……」


 顔を真っ赤にしたラナはクッションで顔を隠し、

 隙間からちらりとナオキの様子をうかがう。


「ナオキさん、わたし……変じゃない……?」


「変じゃないよ。自然で、すごくいいと思うよ」


「……ほんと?」


「うん。ラナはそのまんまが一番だよ」


「…………やめてよ……もう……泣いちゃう……」


「泣いてもいいよ」


「泣かない!!」


 勢いよくクッションを振り回す娘に、

 リヴは楽しそうに肩を上下させて笑った。


「ラナ、かわいい……」


「リヴ!? 今日いつもより素直じゃない!?

 なんで!? 酒の匂いだけで酔ってるの!?」


「あはは、そんなことないよ」


 セラが穏やかに口を開いた。


「リヴって……本当にかわいらしい子ね。

 あなた、少しナオキさんのこと……好きなんじゃない?」


「えっ……」


 リヴはぴたりと動きを止め、

 ナオキの横顔をちらっと見てから、指先を胸に引き寄せた。


「…………うん。好き……」


 その小さな声に──

 テーブルが一瞬、完全に固まった。


「「えっっっ!!」」


 ラナの叫びとヴァルターの声が重なった。


 ナオキは思わず咳払いをし、

 リヴは両手で頬を押さえ、小さく揺れる。


「あの……その……言うつもりじゃなかったのに……」


「いや、いいんだよリヴ。正直な気持ちだと思うし」


「……ナオキ……」


 セラはその様子を、母が子を見守るような目で見ていた。


「大丈夫よリヴさん。

 女の子が誰かを好きになるのは……とても自然なこと。

 恥ずかしいことなんて何もないわ」


 その声に、リヴの肩の緊張がすっと抜けた。


「……ありがとう……セラさん……」


 ラナはなぜか両手を広げて叫ぶ。


「え、え、え!? じゃあ……じゃあ……!!

 ナオキさんとリヴって……そういう……!?

 もう付き合ってるの!? 仲いいもんね!?

 え、え、結婚とか……!!」


「ラナ、落ち着け」


「むり!!!」


 娘の興奮が止まらず、

 ヴァルターは腹を抱えて笑った。


「ひゃーっはっは! ラナが一番酔ってるじゃねぇか!

 酒飲んでねぇのに!」


「だって……だって……二人ともかわいいから……!!」


「かわいいのはお前だよ」


「ちがうー!!」


 リヴは照れながらも、ラナの反応が可愛いらしくてたまらないのか

 思わず頭を撫でていた。


「ラナ、ありがとう」


「なんでありがとうなの!?

 なんか……なんか……どういう状況!?

 わたし、酔ってないのに頭ぐるぐるする!!」


 セラが娘の背を撫でる。


「落ち着きなさい、ラナ。

 あなた、興奮するとすぐこうなるんだから」


「お母さん……今日のわたし本当におかしい……」


「大丈夫よ。甘さと……嬉しさのせいね」


「……うぅ……」


 リヴがそっと手を重ねる。


「ラナ、いい子だよ。

 わたしね……ラナみたいな子、大好き」


「……っ……そんな……こと言われたら……

 全部許す……」


「許すって何……?」


「わかんない……」


 娘はもう完全に甘味で酔っていた。


 そんな空気の中、

 ヴァルターが酒瓶を握りしめ、深く深呼吸した。


「よし……語るぞ……!」


 全員の視線が向く。


「酔い語りタイムか……」


「ナオキ、茶化すな。大事な話だ」


「わかったよ……どうぞ」


 ヴァルターは盃をくるりと回し、

 深く息を吸った。


「……俺はな……

 ずっと、家族のために走ってきたんだ。

 商人になって……働いて……

 食わせて……守って……」


 声はほんの少しだけ震えていた。


「だけど……昔は……

 家に帰ると……静かだったんだ……。

 セラは笑顔を作ってくれたけど……

 ラナは泣き虫で……

 俺自身……どうしてやればいいか……わからなくて……」


「あなた……」


 セラがそっと手を添える。


「でもよ……今は……違うんだ……。

 今日みたいに笑って……

 うまいもの食って……

 こんなふうに……家族で騒いで……

 その輪に……ナオキやリヴまでいてくれて……」


 ヴァルターは目を細めた。


「……悪くねぇなって……そう思うんだよ……」


 リヴが優しく微笑む。


「わたしたちも……すごく嬉しいよ」


「そうだね」


 ナオキが静かに頷くと、

 ヴァルターは驚いたように目を見開く。


「お前……今の顔……親父みてぇだな……!!」


「やめてくれよ!」


「いや本当だ!! さっきの頷き方とか、

 “息子が帰ってきて嬉しい親父”のそれだった!!」


「違うから!」


「セラ、聞いたか!」


「はいはい、聞きましたよ。……あなた酔ってるわね」


「酔ってない!!

 俺の心がしゃべってるんだ!!」


「それが酔ってるって言うのよ」


 その一言で、家族全員が笑い崩れた。


 宴はまだ終わらない。

 この夜は、もっと深く、あたたかく、

 そしてさらに賑やかになっていく。


 ヴァルターの酔い語りが一段落し、

 食卓には温かいやり取りの余韻が広がっていた。


 だが、そこへラナが再びスプーンを掲げて言う。


「ねぇねぇ! ナオキさん! 質問してもいい!?」


「うん、いいよ。どうしたの?」


「ナオキさんってさ……リヴのどこが好きなの!?」


「ちょ、ラナ!?」


 リヴの耳が真っ赤になる。


「いや、その……急にそんな……」


「だって気になるんだもん!

 二人いつも仲良いし……今日なんて、もう……!」


「ラナ。今日のあなた、ちょっと行きすぎよ」


「だってお母さんも気になるでしょ!」


「……まあ、気になるわね」


「お母さんまでぇ!!」


 セラが微笑んでナオキに目を向ける。


「ナオキさん。

 無理に答えなくてもいいのだけど……

 もしよければ少しだけ……ね?」


「お母さん!? 完全に聞く気じゃん!!」


「気になるものは気になるの」


 リヴは胸元をぎゅっと押さえ、ナオキを見る。

 期待と照れと不安が全部混ざっているような目だった。


「ナオキ……」


(うわぁ……その目はズルい)


 ナオキは小さく息をつき、素直に言葉を探した。


「……そうだな。

 リヴのことは、その……守りたいなって思う。

 一緒にいて落ち着くし……

 話してると楽しいし……

 なんていうか……自然なんだよね」


「ナオキ……」


 リヴの頬に淡い赤みが広がる。


「え!? え!? えぇ!?

 それもう……好きでしょ!? そういう意味でしょ!?

 やっぱり二人そうなんでしょ!?」


「ラナ、落ち着いて」


「落ち着けるかぁぁ!!」


 ラナがテーブル越しにリヴの方へ詰め寄る。


「ねぇねぇ! リヴは!

 ナオキさんのどこが好きなの!? 全部!? 顔!? 声!?

 それともさっきの“守ってくれる感じ”!? え!? どれ!? 全部!?」


「ラナ、落ち着いて……!」


「無理!! だって……!!」


 リヴは胸に手を当て、顔をさらに赤くしながら

 ぽつりとつぶやいた。


「……全部……好き……」


「ぎゃあああ!!!!!」


「ラナ、声!」


「お父さんも黙ってて!!」


「なぜだ!?」


 台所の皿が揺れるほど娘の悲鳴が響く。

 ヴァルターは爆笑し、セラは頬を押さえて笑いをこらえている。


 リヴは恥ずかしさに耐えながらも、

 ほんの少し、嬉しそうに笑った。


「だって……本当に好きなんだもん……。

 ナオキといるとね……あったかいんだよ……」


「…………リヴ」


 その声は小さいのに、しっかり胸に響いた。


 ラナは机に突っ伏しながら叫ぶ。


「なんでこんな良い場面見せられてるのわたし!!

 これ……胸が苦しいんだけど!!

 なんなの!? 二人かわいすぎるんだけど!!」


「ラナ。呼吸しなさい」


「うぅぅ……」


 ラナがばたばた暴れる横で、

 ヴァルターはしんみりと酒を飲んでいた。


「……なんか……いいなぁ……。

 若いって……いいなぁ……。

 俺もセラと若い頃は……」


「あなた、酔ってるわ」


「酔ってねぇ!! これが俺の心の声だ!!」


「あなた、それさっきも言ってたわよ」


 夫婦のやり取りに、テーブルが再び賑やかになった。


 やがて料理も甘味もすべて食べ終わり、

 夜が深く静かになっていく。


 ラナは甘味と興奮で疲れ、

 セラの膝に頭を預けて眠り込んでいた。


 セラは娘の髪を撫でながら、リヴに言う。


「リヴさん。

 あなた……とてもいい子ね。

 今日ずっと見ていて思ったわ」


「え……」


「ラナも、あなたになついてる。

 それは……あなたの人柄よ。

 優しくて、やわらかくて……。

 見ているだけで安心するわ」


「……そんな……」


 リヴは照れたように俯き、指先を胸の前で揃えた。


「ナオキさんは……いい人を連れてきたのね」


「セラさん……ありがとう」


 そのやり取りが、まるで家族に迎えられたようで──

 リヴの胸がそっと温かく染まった。


 ヴァルターは大きく伸びをして、

 ナオキの肩をどんと叩く。


「おいナオキ。

 お前は今日……しっかり覚えておけ。

 家族ってのはな……こうやって笑うためにあるんだ」


「うん……そうだね」


「お前が来て……リヴが来て……

 うちの家族が……またちょっと増えた気がするんだよ」


「家族……?」


「そうだ! 勝手に言って悪いけどな!!

 俺は……そう思ってる!!」


「ヴァルターさん……」


 酔っているのに、

 その言葉だけは真っ直ぐで乱れがなかった。


 夜風が窓を揺らし、

 甘い香りと温かな空気が静かに落ち着いていく。


 リヴはナオキの袖をつまんだ。


「……ねぇナオキ。

 今日……すごく幸せだね」


「うん。俺もそう思うよ」


「また……こういう夜があるといいな……」


「うん。何度でも来よう」


「……約束、だよ?」


「約束だよ」


 リヴがやわらかく笑う。


 宴のにぎやかさが静かに沈んでいき、

 甘味の余韻と家族の温もりだけが、

 残された夜の空気を満たしていた。


 ヴァルター家の温かな夜は、

 ナオキの胸に、深く深く刻まれることになった。

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