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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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時空転移の芽

 夕方の名残がまだ薄く漂っている部屋の中で、リヴは静かに息を整えていた。

 テーブルのそばにしゃがみ、柔軟剤のボトルをそっと手に取る。その姿には、もう迷いの影はなかった。


「これ、またやってみてもいい?」


「うん。軽いものなら無理しなくていいよ」


 ナオキの声はいつものように穏やかで、受け止めるように柔らかかった。

 リヴは小さく頷き、胸の奥へ意識を沈める。手の中にある柔軟剤の形と重さを軽く感じたのち、その輪郭がゆるくほどけていく。


 空気が一度、静かに落ちた。

 次の瞬間、柔軟剤はふっと消えた。


「……うん。できた」


 リヴは驚くでもなく、淡い呼吸のままつぶやいた。

 その表情に焦りも力みもない。まるで慣れた動作をもう一度確認しただけのようだった。


 ナオキは柔らかく笑った。


「本当に、アイテムボックスを使いこなしてきたね。昨日と全然違うよ」


「胸の奥の部屋、アイテムボックスがね、すぐそこにあるみたいなの。手を伸ばしたら、もう触れてる感じ」


 リヴは胸に手を当て、指先でそっと押さえた。その仕草は感覚をたしかめるようで、見るだけで胸が温かくなる。


「戻すね。ちゃんと出すよ」


 息をひとつ整え、影に触れた瞬間、柔軟剤のボトルが静かに姿を現した。

 本当に、自然な動作だった。物をしまうことへの抵抗が、もう彼女の中にはない。


「すごいよ、リヴ。安定しすぎてる」


「ううん……なんて言うのかな……空間が分かるっていうのかな……。手の届く場所が、はっきりしてきた感じがするの」


 その言葉は曖昧だったが、不思議と伝わってきた。

 リヴが胸奥に感じている“場所”は、彼女の理解に応じて形を整えていくのだと、自然に思えた。


 ナオキは頷きかけたが、その途中でリヴがふっと立ち上がった。


「……ねぇ、ナオキ」


「ん?」


「たぶん、だけど……もっとできると思う」


 その言い方があまりに自然で、ナオキは思わず瞬きをした。

 挑戦するような気負いはどこにもない。ただ日常の延長に、一歩先を置いたような話し方だった。


「何を?」


「ちょっと見てて」


 リヴは視線だけで部屋の隅を指した。

 そこにはティッシュの箱が置いてある。


 次の瞬間。

 空気の層がわずかに揺れた。


 ほんの一呼吸の間に、ティッシュ箱は部屋の隅から消え、リヴの手元へ、なにもない空間からそっと現れた。


 ナオキは声を失い、わずかに口を開いた。


「……え?」


 リヴは少し照れたような微笑みで、ティッシュ箱を見つめた。


「なんとなく……できると思ったの。やってみたら、本当に来た」


 言い終えるより早く、ティッシュ箱は再び影に溶け、元の部屋の隅に戻った。

 動きには乱れがなく、迷いもなかった。

 ただ、そこにあったものが、一度だけ場所を変えただけ。


 ナオキは深く息を呑んだ。


「……ワープ? 転移ってこと?」


「うーん……そんな難しい言葉じゃない気がするんだけど……」


 リヴは指先を胸に当て、静かに目を閉じた。


「ずっと……行き来してたからだと思う。ナオキと一緒に、あっちの世界と地球を何度も超えてきて」


 淡い声が部屋に落ちる。


「重さとか……風とか……時間の流れ方とか……そういうの、身体で覚えてしまった感じがあるの」


 リヴは胸奥の部屋へそっと意識を向けたまま、続けた。


「それに……地球で学んだ物理とか、アニメで見る空間のイメージとか……全部がつながったみたいで」


 目を開け、ナオキを見る。


「なんとなく……噛み合ったの。空間って、こういうふうに扱えるんだって」


 ナオキは言葉を失ったまま、それでも笑おうとした。


「……すごいよ、本当に」


「すごいのかな……。なんかね、その向こうにあるものが、ちょっとだけ見えた感じがしたの」


 リヴは自信ではなく、ただ確かめるような柔らかい顔でそう言った。

 ナオキの胸に、じんと熱いものが広がる。


(この子……本当に、とんでもない才能だ……)


 ティッシュ箱は、何事もなかったかのように部屋の隅へ戻っていた。


 ナオキはゆっくりとティッシュ箱へ目をやり、そしてリヴへ視線を戻した。

 その動きのひとつひとつが、信じがたいものを前にしたとき特有の静けさをまとっていた。


「……いや、本当に……これは、ちょっとすごすぎる……」


 言葉は小さいのに、驚きが隠しきれていない。

 呼吸が浅くなるのを自覚しているのか、胸に手を当てて深く吸い込んだ。


「アイテムボックスみたいに、物をしまったり出したりするのは固有スキルなんだと思う。あれはリヴの中の部屋が動いてる感覚で……」


 そこでナオキは一度言葉を止めた。

 口を開きかけて、もう一度ティッシュ箱を見る。当たり前の存在なのに、もう当たり前ではなくなっている。


「でも今のは、まったく仕組みが違う。これは……」


 喉がひとりでに鳴った。


「……アポートだよ。時空転移って呼ばれるやつだ。物の位置そのものを変える魔法」


「魔法……なんだね、やっぱり」


「うん。内側の部屋とか、そういう構造じゃない。外の空間そのものに触れてる」


 リヴは自分の指先を見つめた。

 たしかにさっきの動きは、胸の奥の部屋に触れた感覚とは違っていた。


「分かるよ……。さっきのは、しまうっていう感覚じゃなかった。胸の部屋には触れてないの」


「じゃあ……どんな感じだった?」


「えっとね……」


 リヴは考えるように目を伏せ、それからゆっくりと言葉を紡いだ。


「空気の中に薄い膜みたいな場所があって……その少し向こう側にあるところを、指でつまんだみたいな、そんな感じ……うまく言えないけど」


 ナオキは無意識に息を呑んだ。


「……それ、完全に時空魔法の感覚だよ」


「そうなの?」


「うん。空間の層を少しずらして、ものを引っ張ってくる……そういうの、転移系の魔法に近い」


 リヴは少しだけ肩をすくめた。


「でもね、怖いって感じじゃなかったよ。むしろ、できそうって思ったら、できた感じ」


 その言い方があまりに自然で、ナオキの方が困惑する。


「そんな、散歩みたいに言うことじゃ……」


 けれど、叱る気持ちはまったく起きなかった。

 ただただ、目の前の少女の異常な才能が、またひとつ形を見せたことに圧倒されているだけだ。


「ほんとに、魔法を使ったって感じだったの」


 リヴが小さく言った。


「私の中の部屋じゃなくて……外の空間に触れたみたいな感覚だったの」


 その言葉を聞いた瞬間、ナオキの背中にひやりとしたものが走った。

 でも続けて、胸の奥が温かく満たされる。


(この子……本当に、とんでもない場所まで行けるんじゃないか……)


 それは不安ではなく、期待に近かった。


 アイテムボックスを使えるようになったこと。

 地球と異世界を行き来して得た身体感覚。

 地球で学んだ知識。

 アニメで見た空間表現。

 それら全部が、ひとつの線でつながった。


 そして今日、初めて空間そのものに触れた。


「リヴ。……これは、始まりだよ」


「始まり?」


「うん。転移魔法の。たぶん、その最初の芽だよ」


 リヴは胸元をそっと押さえ、少し困ったように笑った。


「どうしよう……なんか、できちゃった」


 その言葉が、あまりにも自然すぎて。


 ナオキはしばらく笑うことしかできなかった。



 リヴが胸元を押さえたまま「できちゃった」と笑ったあと、

 部屋にはしばらく言葉のない空気が漂った。


 ナオキはしばらく考えてから、リヴへ静かに向き直った。

 その表情には緊張ではなく、確かめるような穏やかさがあった。


「ねぇ、リヴ。さっきの話の続きなんだけど……もう少しだけ説明していい?」


「うん。ちゃんと聞くよ」


 リヴは姿勢を正し、まっすぐこちらを見つめる。

 その瞳に不安の色はない。理解しようとする柔らかな意志だけがある。


 ナオキは胸の奥でひと呼吸して、言葉を選んだ。


「空間を扱う力ってね……とてもきれいなんだけど、同じくらい繊細なんだ。

 重力とか、時間とか、空気の流れとか……そういうのが全部そろって、ようやく一つの“場所”ができてるんだよ」


「うん……なんとなく分かるよ。世界って、全部がつながってる感じがするもん」


 リヴの素直な言葉に、ナオキは小さくうなずいた。


「だからね、転移って力は、ただ物を動かすだけじゃなくて……

 この世界の“決まりの線”に触れることでもあるんだ。

 その線が揺れている時に無理をすると、場所がずれることがある」


「ずれるって……どんなふうに?」


「例えばだけど。地球って、すごい速さで回ってるんだよ。

 一秒の間にも、地面そのものが何十メートルも動いてる。

 もし“動いてない場所”に向けて転移したら……うっかり外に放り出されることだってあるんだ」


 リヴは目を見開いたが、怯えではなかった。

 その言葉をしっかりと飲み込むような静かな反応だった。


「……本当に?」


「うん。理屈だけで言えばね。

 でもリヴの転移は、そういう“強引な魔法”じゃない。

 空間の流れに合わせて、安全な場所しか触らない……優しい転移なんだ」


「それなら……よかった」


 リヴの肩が少し緩んだところで、ナオキはもう一つ、大切なことを伝える。


「ただ……一つだけ。絶対に覚えててほしいことがある」


「うん。なに?」


「リヴ自身の転移は、絶対にしないでほしい。

 物を動かすのと、自分が動くのは……まったく別の話なんだ」


 リヴの呼吸が一瞬だけ止まる。

 ナオキはその気配に気づき、声の調子をさらに優しく整えた。


「物ならね、位置が少しずれても、その箱が落ちたり跳ねたりするだけで終わる。

 でも、人間はそうじゃない。

 重力の向きとか、空気の密度とか、時間の流れとか……全部が合ってないと、身体がついていけない」


「……うん」


 リヴのまつ毛がわずかに揺れる。


「それに……リヴは生きてる。

 心臓も動いてるし、血も流れてるし、体温もある。

 そういう“生きてる条件”って、ものすごく複雑なんだ。

 それを一度に別の場所へ移すには……今のリヴの優しい転移じゃ、足りないんだよ」


 静かな部屋の中で、ナオキの声だけが柔らかく落ちていく。


 リヴは胸に手を置き、小さく息を吸った。


「……分かった。

 自分には絶対に使わない。

 怖いからじゃなくて……ちゃんと理由が分かったから」


 その答えに、ナオキは深く安堵した。

 顔には出さないようにしていたが、胸の奥に温かいものが広がる。


「ありがとう、リヴ。それだけで安心したよ」


「ううん。言ってくれてよかったよ。

 なんとなく“やっちゃいけない”って感覚はあったけど……理由が分かると、ちゃんと守れるから」


 ナオキはその言葉に目を細めた。


(この子は、本当に……強いな)


 恐れではなく、理解で止まれる。

 それがどれだけ難しいことか、ナオキにはよく分かっていた。


 リヴはそっとナオキの隣に体を寄せた。


「ねぇナオキ。

 わたし……もっと学んでいくね。

 空間のこと、世界のこと……ちゃんと分かって使いたい」


「うん。俺が全部ついていくよ」


 小さく返すと、リヴは安心したように微笑む。

 夜の静けさが二人のまわりに溶け、

 部屋には優しい緩やかな気配だけが残った。


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