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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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ポケットの仕組み

 夕方の光は静かに部屋へ差し込み、床に長い影を落としていた。窓の外では赤みを帯びた空がゆっくり沈みはじめ、境目が柔らかく溶けていく。昼の熱気がようやく引き、ひんやりした空気が部屋の隅に重なっていた。


 ナオキとリヴは買ってきた生活用品の袋を開き、少しずつ取り出しながら、それぞれの手元の動きに神経を傾けていた。石鹸の匂いがふわりと広がり、湯上がりを思わせる柔らかさが部屋を満たしていく。


 棚の上には段ボールが積み重なり、片付けを待つだけの存在として、長いあいだそこに残っていた。ナオキはその山に目を向け、どこか申し訳なさの混じった笑みを浮かべた。


「……いつか片付けようとは思ってたんだけどな。気付くと増えてるんだよ、こういうの」


 指で段ボールの側面を軽く叩くと、こもった音が返ってきた。リヴは首を傾げたまま、その山をじっと見つめていた。横顔は慎重なのに、どこか好奇心が隠しきれない。


「地球の人でも、物の置き場所って困るんだね」


「困るよ。俺みたいに片付けるのが得意じゃないと、すぐこうなるんだよ」


 ナオキが苦笑すると、リヴもつられて小さく笑った。しかしそのあとも段ボールを観察するように視線をさまよわせ、考え込む時特有の、まつ毛の影がゆっくり揺れた。


「……便利な物って、作れたらいいのに。見えない場所に物をしまえるような、小さな入れ物とか」


 ふいに漏れた声には、ひらめきの気配があった。


 ナオキは思わず動きを止めた。何気ない問いなのに、どこか核心に触れているようで、自然とリヴの顔を見つめてしまう。夕陽を映した瞳がゆるやかに揺れ、遠いものを見ているようだった。


「ああ……あるよ。子どもの頃に見てたアニメでね、そういうのが出てきたんだ」


「アニメ?」


 リヴの目が少しだけ丸くなる。


「青いロボットが出てくるんだよ。そいつが持ってる小さなポケットがあってさ。異次元ポケットって呼ばれてた。見た目は普通なのに、どんな物でも入るって設定でね。子どもからしたら夢みたいだったよ」


 リヴは帽子のつばを軽く摘み、ナオキの横に腰を下ろした。段ボールの影がふたりの足元に落ち、外の風が静かに揺れている。


「どんな物でも……重くても、大きくても入るの?」


「そう。外からは小さく見えるのに、中は広がってるっていう話だったな。実際には無理だけどさ、子ども心にはすごく惹かれたよ」


 ナオキはふと思い出したようにスマホを取り出し、写真フォルダを開いた。朝のニュース番組で見た宇宙特集の画像が残っていた。画面には曲がった空間を示す図があり、網目のような線が交差している。


「これ、時空の話の図なんだけど……布みたいに見えない?」


 リヴは体を前に倒し、画面に顔を近づけた。息が少し画面に触れ、真剣な目が映る。


「……本当に布みたい。空間って、こんなふうに曲がるんだね?」


「らしいよ。見えないけど、こうやってたわんだり伸びたりするって考えると、意外と想像できるだろ。もし誰かがこの端をそっとつまんで別の方向に引っ張れたら、小さなくぼみみたいなのを作れるんじゃないかって話もあるんだ」


 リヴは吸い込まれるように図をなぞった。線の曲がり方を指で追いながら、その奥にある感覚を探るような手つきだった。


「そのくぼみに……物を入れられるの?」


「そういう話もあるね。まあ実際には誰にもできないけど。もし本当に空間をつまめる人がいたら、それはもう魔法だよ」


 リヴはゆっくり目を上げた。瞳の奥には、確信というより、小さな理解の光が灯っていた。


「異次元って……行ける場所じゃないんだよね?」


「行けないよ。俺たちの体は三次元だから、形を保てなくなるって言われてる。物ならともかく、体は複雑だしね」


 リヴは小さくうなずき、静かに言った。


「じゃあ……物だけなら、もしかしたらってことなんだね」


 ナオキは穏やかにうなずいた。


「物だけならね。形が単純なものならより安全だって話もある。ファンタジーだとよくあるだろ。小さな入れ物に大量の荷物をしまえるやつ」


 リヴは微笑んだ。


「私の世界にもおとぎ話で出てくるよ」


 ナオキは彼女の横顔を見つめた。自分の世界の創作と、リヴの世界のおとぎ話が自然に重なる瞬間は、どこか心がほどけるようだった。


「前に紙で説明したとき、リヴは“掴めそう”って言ってたよな」


 リヴは胸の少し上に手を当てた。指先がわずかに震え、その奥に柔らかな気配が宿っている。勉強した知識では説明しきれない、もっと曖昧で、でも確かに存在する何かを探すような仕草だった。


「完全にはわからなかったよ。空間が動くことは理解できても、違う場所同士を重ねるようなことは、想像が届かなかった。でも……さっきの図を見て、少しだけわかった気がした」


 ナオキは否定せず、ただ静かに耳を傾けた。


 リヴは胸に触れたまま、深く息を吸った。


「無理にやるつもりはないよ。けど……あの図と、私の中にある空き場所が、少しだけ似てる気がしたの。感覚が重なるというか……そんな感じ」


 ナオキは穏やかに微笑んだ。


「リヴがそう感じたなら、それで十分だよ。焦る必要はないし、感覚はゆっくり育てればいい」


 優しい声だった。リヴはその言葉に息をゆるめ、笑みを浮かべた。


 夕陽はゆっくりと傾き、部屋の空気を金色に染めていく。影が伸び、光のゆらぎがふたりの距離を柔らかく包んでいた。決意とも呼べない小さな火が、リヴの胸の奥でそっと灯った。


 しばらく静かな時間が流れた。窓の端には夜の青がにじみ、世界がゆっくり切り替わっていく。


 リヴは段ボールに触れたまま、少しだけ笑った。


「ねえ、ナオキ。異次元ポケットって、どうしてあんなに子どもに人気だったの?」


 ナオキは少し考え、苦笑した。


「必要なときに助けてくれるからかな。困ったときに道具を出してくれて、ワクワクするような物ばかりだったし。子どもにはそれだけで夢だから」


 リヴの表情が柔らかくなった。


「私から見たら……地球の道具そのものが夢みたいだよ。昼より明るい光も、美味しいご飯も、お菓子も。いつでも出せたら、確かに憧れるね」


 ナオキは照れたように笑った。


「それはそっちの世界の魔道具だよ。未知の道具って、どうしても惹かれるんだよな」


 リヴは笑顔でうなずき、ふたりの間にふわっと明るい空気が広がった。しばらくのあいだ、子どもの頃の遊びや見た夢の話で盛り上がり、静かな夜の中に穏やかな笑いが溶けていく。


 やがてリヴは膝を抱え、ナオキの方へ体を向けた。


「ねえ、ナオキの異次元ポケットって……未来の道具なんだよね」


「そうだな。未来の技術って設定だった。だから実現できないけど、想像するだけで楽しかったよ」


 リヴは天井を見上げ、外からのわずかな光を目に宿しながらつぶやいた。


「未来の道具なんて……地球なのに異世界みたいだね」


「まあ、実際にはまだまだ遠い話だからな。けど、こんなふうに想像して楽しむのは子どもの頃の特権だよ」


 リヴはくすっと笑った。


「子どものときの私も、森でお話を作って遊んでたよ。葉っぱを重ねて本にして、お話を書いてるつもりだったの。入ってるのは葉っぱと小枝だけだったけど……なんでも入れられる気がしたんだ」


 ナオキは温かくうなずいた。


「いい思い出だな」


 リヴは膝に置いた手を握りしめた。


「だからかな。あの空き場所の感覚……懐かしいのかもしれない。遊んでた頃の感覚と似てる気がするんだ」


 ナオキは息をのみ、その言葉を胸の中でゆっくり受け止めた。


「リヴはちゃんと覚えてたんだな。忘れずにいられるのは、すごいよ」


「忘れてたんだけど……ナオキと話すと、少しずつ思い出すの」


 言ったあと、リヴは恥ずかしそうに目をそらした。だがその頬は、夜の優しい影の中でどこか灯りを持って見えた。


 ナオキは穏やかな笑みを返した。


「俺もだよ。リヴと話してると、子どもの頃の気持ちをよく思い出す」


 短い言葉だったが、リヴの胸の奥に静かに染みていく。


 しばらくして、リヴは立ち上がった。部屋の空気を確かめるように歩き、ゆっくりと手を伸ばした。薄暗い中で動く指先は、風をなでるように静かだった。


「ねえ……境目って、こんな動きなんだよね?」


 空気をすくうように動かす手は、ごく自然で、練習しているようなぎこちなさはない。ただ、自分の中の感覚を試してみているだけだった。


 ナオキは軽くうなずいた。


「リヴがそう感じるなら、それで間違ってないよ。自分の感覚を大切にしていい」


 リヴは手を下ろし、ゆっくりとナオキの前に歩いてきた。歩幅は丁寧で、夜の静けさの中にその足取りが溶けていった。すぐそばで立ち止まり、少し上目遣いに彼を見上げた。


「ねえ、もしアイテムボックスができたら……最初に何をしまう?」


 その質問には冗談の響きもあり、どこか本気の色もあった。


 ナオキは軽く考え、苦笑しながら答えた。


「地球のお土産の袋かな。持っていくときかさばるし、しまえるなら便利だし」


 リヴは思わず笑った。


「そういうところ、ナオキらしいよ。もっとすごい物を入れようとか思わないの?」


「身近な物のほうが安心するんだよ。最初は特にね」


 リヴはその答えに小さくうなずき、柔らかく微笑んだ。


「安心……そうだね。何を入れるかより、入れたときにどう感じるかのほうが大事なんだね」


 ナオキは照れくさそうに肩をすくめた。


「まあ、俺はものに限らず、そういう考え方が好きでね」


 リヴの頬がほんのり赤く染まり、その微笑みは夜の空気に溶けていった。


 リヴは静かに息を吸い、胸の奥で灯る小さな火を確かめた。


「今日の話ね……とても大事に思えるよ。空間の図も、未来のポケットも、子どもの頃の記憶も。全部つながった気がしたんだ」


 ナオキは優しくうなずいた。


「それならよかったよ」


 外の世界はすっかり夜に変わり、窓から入る淡い光が部屋の輪郭を静かに照らしていた。段ボールの影も柔らかくなり、今日一日の終わりがゆっくりと降りてくる。


 リヴは胸にそっと手を当てた。


(あの空き場所……きっと、もう少しで触れそう)


 それは言葉にしないまま、静かに夜に溶けていく。


 ナオキはその横顔を穏やかなまなざしで見つめ、やさしく声をかけた。


「今日はゆっくり休もうか。明日にはまた違う発見があるかもしれないしね」


 リヴは目を開き、ナオキの方へ顔を向けた。


「うん。焦らないよ。だって……ナオキと話してるだけで進んでる気がするから」


 その笑顔は夜の静けさに溶け、部屋に柔らかな光を落とした。


 ふたりは電灯をつけず、薄明かりの中でゆっくり片付けを終えた。石鹸の匂いはまだほのかに残り、段ボールの影は少しだけ小さくなっていた。部屋全体が静かに落ち着きを取り戻し、夜がそっと降りてくる。

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