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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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初めての買い物

 夕方の風が頬に触れた瞬間、リヴはふうっと息を吐いた。

 さっきまで味わっていたプリンの甘さが、口の奥でまだわずかに残っている。そのせいか、胸のあたりがずっとぽかぽかしていた。


「……甘いのって……すごい……」


 黒いキャップのつばを指先でつまみ、軽く揺らしながら呟く。

 十六歳の少女が初めて知った“地球のデザート”の衝撃が、まだ身体に残っているようだった。


「気に入ったならよかったよ」


「うん……ごほうびって、ああいう味なんだね。森では……あんなの、ない……」


 語彙は追いつかないのに、気持ちが全部顔に出るから、ナオキは見ていて飽きない。


「このあとどうする? まだ歩けるなら……どこか寄ってみるか」


 何気なく言ったつもりが、リヴはきゅっと息を吸った。


「……買い物……今日も……できる……?」


 遠慮がちで、でも期待が隠しきれない。


「もちろん」


 その一言で、リヴの肩の力がふっと抜けた。


「どこのお店かは……よく分からないけど……もう少しだけ……地球のお店、見たい……」


 控えめな声なのに、嬉しさがあっさり滲み出ている。


「なら、ショッピングセンター行くか。歩いてすぐだし」


「行く!!」


 返事が早すぎて、ナオキは思わず笑った。


 歩き出してしばらくすると、リヴは自分の足元をちらりと見た。

 黒いスニーカーは、初めて地球に来た日に慌てて買った“とりあえず”のもの。


「この靴……ちょっと重い……。走ると足の裏がつかれる……」


「今日はちゃんとしたやつ買おう。長く歩くなら軽いほうがいい」


「……いいの……?」


「もちろん」


 それだけで、リヴの口元がふわっと緩んだ。帽子の影から、小さな笑みが見えた。


 大通りに出ると、ガラス張りの大きな建物が目に入った。

 夕暮れの空を反射して淡い色に光っている。


「……これ全部、お店……?」


「全部だよ。中にいろんな店が入ってる」


「ぜ……全部……?」


 驚きが声の形になり、ナオキの袖がそっとつままれた。


「人は多いけど、大丈夫。誰もリヴのことなんて見てない」


「……うん。ゆっくり、見る……」


 自動ドアが音もなく開く。

 外とは違う、ひんやりとした空気と、さまざまな匂いが一気に流れ込んできた。


「……すご……甘いのと……布と……なんかきれいな匂い……」


「服も雑貨も食べ物もあるからな」


「森とぜんぜん違う……けど、きらきらしてる……」


 リヴの瞳は光を追い、まるで宝石箱の中に迷い込んだようだった。


 そのまま歩いていくと、一番手前に洋服売り場が広がった。

 整然と並ぶ色とりどりの服の列は、森育ちのリヴにとっては未知の風景だった。


「……これ、本当に全部、服……?」


「季節で変わるからな」


「季節で……変わる……。地球って……服で季節が分かるんだ……」


 リヴはそっと袖をつまみ、生地を指先で押してみる。


「糸が細い……すっごく細かく縫ってある……。森の服は……もっと……こう……元気な糸……」


「元気な糸って表現は初めて聞いたな」


「だって……森のは太くて……ちょっと乱暴で……でもあったかい……これは……きれい……」


 息を吸うように「かわいい」が漏れた。


 ナオキは、胸のあたりが静かに温かくなるのを感じた。


「こっちは靴の売り場だ。欲しい靴があれば選んでみようか」


「……全部、靴……? どうしてこんなに種類が……」


「用途ごとに違うからな。走る用、歩く用、重い荷物を運ぶ用……色々ある」


「地球……靴だけで森ひとつ埋まる……」


 呆然と言いながらも、リヴの視線は一足の白いスニーカーに吸い寄せられていた。


「これ……軽い……かわいい……」


「履いてみるか」


「いいの……?」


「当たり前だよ」


 座って靴を履いた瞬間、リヴの体が止まった。


「……っ……! なにこれ……守られてるのに軽い……。走ったら風になる……!」


 目がきらきらと揺れる。


「似合ってるよ」


「ほんと……?」


 少し歩いて確かめたあと、リヴは小さく跳ねるように言った。


「これ……すき……! すごくすき!!」


「じゃあ、それにしよう。歩くのが楽になる」


「……ほんとに……? ありがとう……」


 白いスニーカーが入った紙袋を抱える腕は、大事な宝物を持つみたいにぎゅっとしていた。


 靴売り場を出ると、リヴは袋を胸に抱えたまま、きょろきょろと視線を動かしていた。

 見慣れない世界に、興味が尽きる気配がない。


「こっちが日用品の売り場だ」


「にちようひん……?」


「家の中で使うもの。タオルとか、石鹸とか、洗うやつ、拭くやつ……」


「家の……道具……?」


 言葉を繰り返すだけで、リヴの足取りが自然と早くなる。

 そのまま売り場へ踏み込んだ瞬間、ぴたりと固まった。


「……ナオキ……」


「どうした」


「これ……全部……家にある……?

 タオルも、石鹸も、この匂いの瓶も……この丸いのも……この棒のやつも……これ何……?」


 指先は高速で棚を指し示し、目は驚きで丸くなっている。


「まあ、家の種類にもよるけど……だいたいあるな」


「……地球の家……強い……」


 リヴはタオルの棚を見つけて、そっと触れた。

 ふわふわの表面に頬を押し当て、目が細くなる。


「これ……雲みたい……。森なら……こんなの絶対作れない……。

 あったかくて……柔らかくて……体ふいたら……そのまま寝ちゃう……」


「寝るなよ」


「寝る……これは寝る……」


 完全にとろけた声だった。


 次に石鹸の棚に移ると、リヴはひとつひとつ蓋を開けては、慎重に香りを吸い込んでいった。


「花の匂い……本物の花みたい……。森の花より……花……。なんで……」


「香りが付けてあるんだよ」


「香りが付く……? 瓶から……石に……? 地球、魔法……?」


「魔法じゃない。加工だよ」


「加工って魔法みたい……」


 香りの瓶を開けては閉じ、また別の棚に手を伸ばす。

 そのたびに小さな息が漏れた。


「この匂い……森の雨の日みたい……。こっちは……甘い……。これは……落ち着く……。

 ナオキ、これ家にある……?」


「あるよ」


「すごい……。地球の家……全部、祭りの日の匂い……!」


 祭りの日の匂いが何かは分からないが、だいぶ気に入ったらしい。


 ひと通り棚を見て回ったあと、リヴは石鹸のひとつに名残惜しそうに触れた。


「森のみんな……これ嗅いだら……絶対さわぎになる……。“花の香りの石”って言って……取り合い……」


「取り合うのは困る」


「困るけど……気持ちは分かる……」


 名残惜しそうにもう一度手を伸ばしたので、ナオキはそっと声をかけた。


「次、食べ物の売り場行くか」


「……行きたい!」


 その返事は靴売り場のときよりさらに速かった。


 エスカレーターを上がり、食品コーナーの入り口に近づくと、リヴの歩みがまたぴたりと止まった。


「……食べもの……多い……」


「多いな」


「季節……関係ない……?」


「ほとんどない」


「いつでも……こんなに……?

 ナオキ……地球って……ほんとに……恐ろしい……」


 目は完全に戸惑っているのに、同時に興奮が隠せていない。


 野菜売り場で、リヴは大根を持ち上げて固まった。


「これ……大きすぎない……? 木の根じゃないのに……」


「野菜だよ」


「森のウサギが見たら逃げるサイズ……」


 続いて、果物コーナー。


「リンゴ……光ってる……磨いてあるの……?

 これ……石じゃないのに……こんなに赤い……?」


「普通に売ってるやつだよ」


「森の木の実……こんなに主張しない……。これは……強い果物……」


 また“強い”が出た。


 肉売り場では、包装された肉を見てまた固まる。


「肉が……石板の中に閉じ込められてる……。

 これ……保存魔法……?」


「ただのラップ」


「らっぷ……? 透明な布……?」


「布ではないな」


 説明したところで通じる気がしない。


 魚売り場では、リヴの目がさらに大きくなった。


「魚……切られてる……。森では……丸ごと……なのに……

 切られてるのに……魚……すごい……こわい……」


「怖いのか」


「なんか……生き物の形じゃないのに……魚……こわい……でも面白い……」


 こわいと面白いの間を行き来している。


「地球……食べ物の扱いが……全部すごい……。

 でも……楽しい……。知らないの……いっぱい……」


 その瞳には、森では見たことのない色が宿っていた。


 袋を両手で抱えながら出口へ向かうと、外の風が頬に心地よかった。

 白いスニーカーの袋は、まるで宝物を守るようにぎゅっと抱えられている。


「ナオキ……今日ね……すごくすごく楽しかった……」


「ならよかったよ」


「地球の道具……全部すごい……。でも……いちばん楽しかったのは……」


 リヴは帽子のつばの影から、そっと顔を上げた。


「ナオキが……ひとつずつ……ゆっくり教えてくれたこと……」


 胸の奥が、たしかにあたたかくなる。


「また来よう。いつでも連れてくよ」


「ほんとに……?

 じゃあね……次は……“おやつのお店”にも行ってみたい……」


「甘いものの専門店か」


「うん!!」


 その返事は、今日食べたプリンより甘かった。



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