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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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森の子と下着の話

 プリンを食べ終えても、ふたりはテレビをつけたまま他愛ない話を続けていた。画面の中では深夜番組がにぎやかに笑っているが、部屋の空気はどこか柔らかい。気づけばもうすぐ日付が変わろうとしていた。


「……今日は、ここに泊まってもいい?」


 リヴがスプーンを置き、少し緊張したように尋ねた。


「もちろん。布団は一組だけど、どうにかなる」


「ふとん……ナオキの世界の、ふかふかの床……」


 言葉を言い終える前から頬が緩んでいた。目的がどちらなのか少し疑いかけたが、ナオキは飲み込んだ。


「じゃあ、とりあえず風呂な。テレビで見ただろ?」


「ふろ……! あの、あたたかい大河のやつ……!」


 目がきらきらしている。完全に風呂が本命らしい。


 ガスの捻り方、シャンプーとボディソープの違い、湯温の調整を丁寧に説明する。


「じゃ、ゆっくり入ってこい」


「うん……入ってくる……」


 浴室の扉が閉まり、すぐに水音が聞こえ始めた。


「……あつ……でも……きもち……」


「……あわ……ふわ……すご……」


 断片的に聞こえる声は、どうやら無事に楽しんでいる様子だった。


 ナオキはテレビのニュースを眺めながら、どこか落ち着かない気分でいた。


(異世界ハーフエルフ、初めての日本の風呂……聞いただけでイベント感が強いな)


 そう考えているところで浴室の扉が開いた。


 湯気の中から出てきたリヴは、濡れた髪をタオルで軽く押さえ、頬が少し赤い。肩にバスタオルを掛け、足元を慎重に運んでいる。


「泡、花みたいな匂いした。森とは違うけど……やわらかい匂い」


「それならよかったよ」


 リヴは洗面所に置いた自分の服に視線を落とした。


「……ぬれた服は、どうするの?」


「このカゴに入れてくれ。あとで洗濯する」


「せんたく……川でこすってたのと似てる?」


「まあ、機械に任せてるけどな」


 服を抱え上げた瞬間、紐と布を結んだだけの簡素なふんどしが見えた。森での生活をそのまま写したような布切れだ。


(……そりゃ擦れるよな)


 そのまま見つめるのは悪い気がして、ナオキはそっと視線を逸らす。


「……そういうの、見られたくないだろ」


「え? 見られたくないもの……あった?」


 ナオキは固まった。


「いや……その、下着とかさ。恥ずかしいだろ?」


「ただの布だよ? 村の川で干すとき、みんな普通に見てるよ」


「……文化の差って、すげぇな」


 逆にリヴが首をかしげる。


「じゃあ、ナオキの下着がカゴにあるのは……恥ずかしい?」


「……聞くな」


「じゃあ、ナオキの世界の下着のほうが“恥ずかしい布”なんだね」


「言い方」


 リヴはナオキのTシャツと短パンを借り、そのまま布団に潜り込んだ。背中までぴったり布団に沈み、天井を見たまま小さく息をこぼす。


「……ふか……ここ好き……」


「完全に布団目的じゃねぇか」


「ちが……寝る準備……」


 声が小さい。ほぼ布団に負けていた。


 部屋が静かになると、ナオキの頭だけが妙に冴えてきた。


(リヴの下着……森じゃあれが一番なんだろうけど、長く歩くにはつらそうだよな。擦れるし、紐もすぐずれそうだ)

(こっちのショーツなら動きやすいし、少しは楽になるはずだ)


 スケベではない。生活改善だ。

 強く自分に言い聞かせながら、ナオキはスマホを取り出し、通販サイトを開いた。


 綿素材。装飾少なめ。淡い色。

 サイズは……たぶんM。無難なところだ。


(……真夜中に女物の下着選んでる男って、字面にすると終わってるけど……必要経費だ)


 リヴ用に数枚。森の仲間にも試せるよう数枚。

 注文を確定した。


(これで少しでも楽になるなら……悪くない買い物だろ)


 静かな部屋に、寝息がひとつ。

 ナオキはスマホを伏せ、そっと電気を落とした。




 数日後。

 森の拠点に戻った頃、天気はよく晴れ、木の葉の間から優しい光が差していた。風の音も軽い。日常へ戻ったという安堵が胸に広がる。


 荷を降ろし、拠点の机の上に置いていた小さな袋を手に取る。中身は、届いたばかりのショーツ数枚。柔らかい綿布が、まだ新品らしい静かな香りを保っている。


(さて……どう渡すか……これも妙に緊張するよな)


 リヴが薬草の仕分けを終え、振り返った。


「ナオキ。どうしたの?」


「見てほしいものがある」


「また新しい罠?」


「違う。安全なやつだよ。こっち」


 リヴへ袋を差し出すと、首を少しかしげて開けた。

 そして、中身を取り出した瞬間、指先がぴたりと止まった。


 淡い色のショーツ。

 ふわりと柔らかい綿布。

 縁には控えめなレース。

 前には小さなリボン。


「……えっ……これ……」


 震えを含んだ声が漏れた。

 驚き、戸惑い、そして少しの照れが混ざる。


「きれい……」


 レースにそっと触れ、目を落とす。

 触れた指先がきゅっと小さく震えた。


「……ナオキ、これ……服……? 飾り……?」


「いや……それは、その……下に着るものなんだよ。こっちの世界の下着」


「下着……? ふんどしみたいな……?」


「役目は近いけど、こっちのは身体に沿うように作ってある。

 歩いてもずれにくいし、擦れにくい。森だと、あっちの布は横に寄ったりしてただろ?」


 リヴは目を瞬かせた。


「……寄る……。

 木に登る日なんて……すぐ片方に寄っちゃう……」


 視線が下に落ち、さらに小さな声。


「……月の日も……ずれたらすぐ匂いが広がる……。

 獣に気づかれるから……奥のほうには行けない日がある……」


 ナオキは静かにうなずいた。


「このショーツなら、当てる布もしっかり挟める。

 身体に沿うから、動いても落ちにくいと思うよ」


 リヴははっと顔を上げる。


「……ほんとうに……?

 ずれないなら……森の奥まで……行ける……」


「無理はするなよ。でも……少しでも楽になるなら、そのための道具くらい用意する」


 リヴはショーツを胸の前でそっと包むように持ち、

 まるで大事なものを抱えるように目を細めた。


「なんで……こんな細かい模様……糸で描けるの……?

 森の織り機じゃ……絶対できないよ……」


「こっちでは普通の仕立てなんだ。機械で細かいところまで作れる」


 リヴはリボンに触れ、首をすこし傾けた。


「……下に着るのに……こんなかわいい飾り……?」


「下着は飾り付きでもいいんだよ。見えない場所でも、自分のためにかわいくしていいって文化なんだ」


「……かわいくしていい……」


 その言葉をゆっくり転がすように言い、

 リヴの頬に淡い色が差した。


「……こんなの……身につけていいの……?

 ふんどしは“働く布”って感じだったけど……

 これは……なんか……“大事にされてる布”って感じがする……」


 ナオキは少し目を細めた。


「使ってみてほしい。たぶん、そのほうが楽だ」


「……うん……」


 リヴはショーツを胸に当て、少し照れながら笑った。


「……かわいい……

 これ……身につけたら……わたしも、ちょっときれいになる気がする……」


(きれいだよ。もう十分だって)

 その言葉は喉まで出かかったが、ナオキはそっと飲み込んだ。


 翌朝。

 森は早朝の冷たい空気に包まれていた。露が光り、小さな虫が草を揺らす。


 支度を終えたリヴが、すこし照れた顔で立っていた。


「……今日、試してみる……」


「無理すんなよ」


「無理じゃないよ。歩くの、好きだから」


 そう言って、いつものように森の斜面へ消えていった。

 きのこ、薬草、罠の確認。軽い小走り。いつもの朝だ。


 一方でナオキは街のサロンで、工具を確認しながらどこか落ち着かないまま過ごしていた。


(どうだったかな……)

(少しでも楽になっていればいいけど)


 夕暮れ。

 森の拠点に戻ると、焚き火の前でリヴが待っていた。

 炎の明かりで頬が赤く照らされている。


「……ナオキ」


「どうだった?」


 リヴは汗を拭いながらも、嬉しさを隠しきれない目で言った。


「今日、一日歩いたのに……ふともも、全然擦れなかった」


「それはよかった」


「いつもなら……昼すぎには“あ、擦れたな”ってわかるんだよ。

 帰るころには赤くなって、斜面の日は痛いぐらいで……」


 ショーツのあるあたりに自然と視線が落ちる。


「でも今日は……ぜんぜんならなかった。

 布がずっと同じところにいてくれた。

 紐のやつみたいに歩くたび横に寄らなかった」


 そして、声を少し落とす。


「月の日にも使いたい。

 当て布がずれなかったら……匂いで獣に追われないし……

 森の奥まで……入れると思う」


 ナオキは静かに息を吐いた。


「無理はするな。でも……行ける場所が広がるなら、そのための道具くらいならいくらでも用意する。そうだ、地球の生理用品も試してみてもいいかもな」


「……生理用品……?」


 リヴの目がぱちっと開いた。

 聞き慣れない言葉に、焚き火の光がそのまま吸い込まれるようだった。


「なにそれ……月の日の布の、仲間……?」


「まあ、仲間……だな。こっちの世界だと、月の日用の道具が何種類もあって……布より安定するんだよ」


「安定……? 落ちないの……?

 歩いても……跳んでも……ずれない……?」


「ずれない。ちゃんと身体に合わせて作られてる。

 匂いも広がりにくいし、替えるのも簡単だよ」


 リヴは小さく息をのんだ。


「……そんな道具、あるの……?

 わたしたち、布を挟むだけだよ……。

 朝、広げて乾かすときも……風が吹くと飛ぶし……」


「飛ぶのか……」


「飛ぶよ……。崖の下に落ちたこともある……」


「それは……大変だったな……」


「大変だよ……!

 拾いに行くの、危ないし……恥ずかしいし……」


 リヴは膝の上で両手をぎゅっと握りしめた。


「……でも……落ちないなら……

 それだけで、月の日が楽になる……」


「使い方は少し教える必要があるけどな。

 難しくはないよ。痛いわけでもないし」


「痛くないの……?」


「痛くないよ。柔らかいからな。

 あと、肌が擦れないように作ってある」


 リヴは焚き火の明かりを見つめたまま、胸の前で小さく息を吸った。


「……ナオキの世界って……

 月の日のことまで、楽にする道具があるんだ……」


「ある。必要なら、いくつか持ってくるよ。

 無理に使わなくてもいい。選べばいいんだ」


「選べば……いい……」


 リヴはその言葉をそっと反芻した。


(選んでいい……

 月の日まで、怖がらなくていい……

 そんな世界……本当にあったんだ……)


 目を伏せると、まつげが焚き火の影をやわらかく落とした。


「ねぇ……ナオキ」


「ん?」


「……わたし、ちょっとだけ……泣きそう……」


「泣かなくていい。大丈夫だよ」


「だって……楽になるって……こんなに嬉しいって思わなかった……」


 ナオキは火の側へ一歩近づき、リヴの肩にそっと手を置いた。


「こっちの世界の道具は便利なだけだ。

 でも、それでリヴの毎月が少し軽くなるなら……それでいい」


「……うん……」


 リヴは小さく頷き、火を見つめた。

 その頬はほんのり赤く、焚き火の色と同じくらい温かかった。


「月の日って……怖くて、痛くて、森に入れなくて……

 でも……ナオキが……“選べばいい”って言うと……

 なんか、守られてる感じがする……」


「守ってるわけじゃないよ。困ってることを一緒に減らしたいだけだ」


「それが……守られてるって言うんだよ……」


 ナオキは返事を失い、少しだけ目線を落とした。

 言い返す言葉が見つからず、焚き火の音がそれを埋めた。


(……やっぱり、持ってきてよかったな)


 静かな夜がふたりの周りに降りてくる。

 リヴは焚き火の明かりの向こうでふわりと笑った。


「……ナオキの世界の道具って、たまに変だけど……」


 瞳が、森の夜よりやわらかく細まる。


「……すごい。かわいいし……便利だし……

 身につけるのが、ちょっと楽しみになる……」


 火がぱち、と弾けた。

 夜風がふたりの間を静かに通り抜ける。


(……持ってきてよかったな)


 ナオキは胸の内でそっとつぶやいた。


 森の奥では遠くで獣の声が響き、

 焚き火の光の中で、ふたりの影が寄り添うように揺れた。揺れていた。

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