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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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夜道の帰り道、プリンを抱いて

 コンビニの自動ドアが背中で閉まり、夜の空気が頬へ戻ってきた。人工の光の中にいたせいか、空気はひときわ冷たく感じる。


 リヴは胸の前でプリンの袋を両手で抱え、ゆっくりと歩き始めた。足取りは軽いが、妙に慎重だ。袋が揺れるたび、肩をびくっと震わせる。


「……これ、落としたら死ぬ……」


「プリンで死ぬなよ」


「大事って意味……!」


 ナオキは苦笑した。真剣に言っているのだから笑ったら悪いとは思いつつ、こらえるのが難しい。


(そんなに大切にしてくれるなら、買ってよかったよな)

 そう心の中でつぶやきながら、ナオキはリヴの歩幅に合わせて歩いた。


 舗装路には街灯の光がまっすぐに落ちていた。ふたりの影は細長く伸び、歩くたびに寄ったり離れたりする。夜風が少しだけ頬を撫でる。


 リヴはふいに足を止め、夜空を見上げた。


「……星、見えにくいんだね」


「街灯が明るいからな。星の光より強いんだよ」


「ウロだと……夜は空の光だけで……世界が広いって思えるのに……」


「こっちは、街のほうが広く見えるんだよ」


 リヴはしばらく星の少ない空を見つめていた。それから、胸の前のプリンの袋をそっとぎゅっと抱いた。


「でも……なんか、落ち着く。暗い森みたいじゃないし……ここにいていいって思える」


「それならよかったよ」


(慎重なのに、楽しそうなんだよな)

 ナオキは横目でそっと見た。リヴの顔に浮かぶ安堵は、地球の夜を受け入れ始めた証に見えた。


 アパートに近づく頃には、緊張はもうすっかり抜けていた。


「ナオキの世界って……ふしぎで、こわいけど……でも、あったかいね」


「夜はただ、みんな寝てるだけだよ」


「ナオキがいるから、あったかいの」


「はいはい」


 言葉では軽く流しているが、ナオキの心は妙に嬉しい。


(……そんな風に思ってもらえるなんて、悪い気はしないよな)


 階段を上がり、鍵を回すと扉が開く。リヴは中に足を踏み入れた途端、ほっと息をついた。


「……はぁ……ここ、落ち着く……」


「そうか?」


「うん……ナオキの匂いがする」


「やめろって」


 からかうように笑い、リヴはプリンをそっと差し出した。


「プリン……食べる?」


「冷やさないと美味しくならないぞ」


「それはだめ!」


 本気で慌てた声に、ナオキは思わず笑った。


「だから冷蔵庫。持ってこいって」


「優しく持ってね……!」


「落とさねぇよ」


(こういうときのリヴは本当に子どもみたいだ)

 内心で苦笑しつつ、ナオキはプリンの袋を受け取り、冷蔵庫へ向かった。


 しばらく冷やし、ほどよい頃合いで取り出してテーブルに置いた。カップの表面はほんのり冷えて、照明をやわらかく反射している。


 リヴの目が一瞬で輝いた。


「……すご。プリンが“本場”の顔してる……」


「どういう意味だよ」


「なんか……強い感じがする……」


「強いプリンってなんだよ」


「説明できない……でも強い……」


 もう意味が分からないが、リヴの中では説明可能らしい。


 席につくと、リヴは背筋を伸ばし、落ち着かない手つきでプリンを見つめた。


「……ナオキ、ふた……開けて……」


「自分で開けろよ」


「こわい。中身が逃げるかも……」


「逃げねぇよ」


 金色のふたをぺりっと開けると、甘い香りがふわりと広がった。


 リヴは目を細めた。


「……いい匂い……なんか幸せの匂い……」


「ほら、スプーン」


 両手でスプーンを受け取ったリヴは、そっとひと口すくう。ぷるんと震えるカスタードが照明に滑らかに光った。


 口に運び、舌に載せた瞬間、リヴの瞳がゆっくりと開いていく。肩もふるりと震えた。


(……絶対、美味いって言うな)

 ナオキはその反応を見ながら、心の中で苦笑していた。


「……やさしい……あったかい……冷たいのに……あったかい……」


「矛盾してるぞ」


「だって……心が……ぽってなる……」


「擬音が雑だな」


「ナオキのせいだよ!」


「なんで俺なんだよ」


「プリン食べさせてくれたナオキのせいで……心がぽってなるの!」


「はいはい」


 言いながらも、ナオキはどこか照れくさかった。


 リヴはスプーンをそっと動かし、プリンをまたひと口すくった。

 ぷるりと震え、光を細かく散らしながらスプーンの先へ乗る。


 その様子を見て、ナオキは少しだけ息をゆるめた。


(ほんとに……嬉しそうに食べるよな)

(こんな小さなカップで、こんなに表情が変わるなんて……)


 リヴは二口、三口とゆっくり進める。味わうたびに胸の前の空気がふわっと揺れる。


「……おいしい……なんで……こんなに……やさしくて……あったかいの……」


「プリンだからだよ」


「そんな理由でいいの……?」


「いいんだよ」


 リヴはふとナオキの顔を見た。

 そして、かすかに笑った。


「……ナオキがいっしょに食べてくれてるから……もっとおいしいんだよ……」


「またそういう……」


(……わかってるくせに)

 照れくさいが、悪い気はしない。

 むしろ胸の奥がやけにあたたかくなっていく。


 リヴはプリンの最後の一口をすくい、名残惜しそうに口へ運んだ。


「……終わっちゃった……」


「食べるの早かったな」


「だって……おいしかったんだもん……」


「明日また買えばいいだろ」


「買ってくれる?」


「まあ……多分な」


「その“多分”って言い方がずるい……」


 そう言いながらも、リヴの目は嬉しそうで、膨れているというより甘えているように見えた。


 空になったプリンのカップを両手で包み、じっと見つめる。


「……なんかね……このプリン……ただの食べものじゃない気がするの……」


「どういう意味だよ」


「なんていうか……ナオキが……地球のこと、少しずつ教えてくれてるって感じ……」


「そんな大げさなもんじゃないだろ」


「大げさじゃないよ。わたし……知らないものばっかりで……でも……ひとつひとつ、こうやって“おいしい”って思えたら……地球がちょっとずつ優しくなる……」


「……そっか」


(そう言われると……変に胸にくるな)

(案内してるだけなのに……そんな風に感じてもらえるなら……悪くない)


 リヴはナオキの横顔を見て、すこし微笑んだ。


「ナオキって……やっぱりやさしいね」


「どうした急に」


「だって……きょうも……迷子にならないようにずっとそばにいてくれた……」


「店も道も初めてなんだから当たり前だろ」


「当たり前じゃないよ。ナオキだから当たり前なの」


「それは理屈になってないぞ」


「もう……ナオキ……」


 軽く口を尖らせるが、すぐに柔らかく目が緩んだ。


「……今日ね……すっごく楽しかったの……初めての匂いとか、音とか、色とか、こわかったけど……全部おもしろかった……」


「うん」


「いちばん楽しかったのはね……」


 リヴは少し息を吸い込む。


「ナオキと歩いたこと」


 ナオキはそこで言葉に詰まった。


(……こういうこと……平気で言うんだよな……)

(おれの心の準備とか期待とか、そういうの軽く越えてくるんだよ……)


 どう返せばいいか分からず、少しだけ視線を落とした。


「……ありがとな」


「ううん。ありがとうはこっちだよ」


 ふたりの声は小さかったが、静かな夜には充分すぎるほどよく響いた。


 部屋の中は、プリンの甘い香りと、さっきまでのコンビニの光の余韻が薄く残っていた。


 リヴは空のカップを大切にテーブルに置くと、そっと身体をゆらした。


「……ねぇ。ナオキ」


「なんだ」


「また冒険したい」


「コンビニが冒険か」


「冒険だよ。今日は……小さな世界をひとつ見つけたんだよ」


 ナオキは目を細めて笑った。


「じゃあ……また連れてってやるよ」


「約束ね」


「ああ」


 リヴの顔に、今日いちばん静かで温かい笑顔が浮かんだ。


 その笑顔を見ながら、ナオキは思った。


(地球の夜は……こんなにも優しかったか)

(いや……きっと、こいつと歩いたからだな……)


 窓の外には街灯の頼りない光と、少しだけ見える星。

 部屋の中には、ほんのり甘いプリンの後味。


 世界は広くて、まだ知らないものがたくさんある。

 でも、今この瞬間はそれで十分だった。


 ふたりの小さな冒険は、

 静かで温かい夜にそっと溶けていった。


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