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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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コンビニ探検

 自動ドアが静かに閉まった瞬間、外の夜気はふっと途切れた。白い店内の光だけがふたりを包む。ガラスの向こうでは月も街灯もまだ夜を続けているのに、この小さな店に踏み込んだだけで別の世界へ移ったように思えた。


 リヴはその場に固まり、胸の前に手を添えて店内を見渡した。棚の列、冷蔵ケースの明かり、揚げ物の香り、紙とプラスチックの匂い。それら全部が、ひとつの世界を作って渦のように迫ってくる。


「……これ……ほんとにお店……? なんか……光りすぎてる……」


 横で様子を見ていたナオキが小さく声をかける。


「大丈夫か」


「だいじょうぶ……でも胸が忙しい……」


「緊張してるんだな」


「うん……こんな場所、初めて見る……」


 ナオキは少し笑いながら店の奥を指した。


「ここは便利なところなんだよ。狭いけど、ほとんど何でもある」


(なんでも……? なんでもって……どのくらい? 世界ってそんなに圧縮できるの……?)

 リヴは心の中で混乱したまま、ナオキの背中を頼りに歩き出した。


 入り口から左へ進んだとき、リヴの足がぴたりと止まった。


「……これ……絵じゃないよね……ぜんぶ本物みたい……」


 棚には色とりどりの雑誌。笑っている人、料理、海の写真、都会の夜景。どれも紙とは思えないほどくっきりしていた。


「写したものだよ。現実をそのまま紙にするんだ」


「写す……? 絵師が描くんじゃなくて……?」


 リヴは雑誌をそっと手に取り、慎重にページをめくった。紙は薄いのに鮮やかで、生きているようにすら感じた。


「この紙……ヴェルンなら宝物だよ……高級サロンの壁に飾られるレベルだよ……」


「ああ、まあ……」


 そこまで言ったところで、リヴの目が横へずれた。次の瞬間、表情がぴしっと固まる。


 表紙いっぱいに水着の女性が笑っていた。ほぼ布がない。


「な、ナオキ……これ……外で着るの……?」


「まあ……海なら普通だな」


「ふ、普通……? 普通……? 守備力ほぼゼロだよ……?」


 リヴは袖をちょんと引っ張った。


「ねぇ……ナオキ……こういうの……すきなの……?」


「落ち着け落ち着け! 違うって! 広告だよ広告!」


「ほんとうに……?」


「ほんとだって。安心しろよ」


(よかった……ほんとうによかった……でも地球のお店こわい……)

 リヴは胸に手を当て、こっそり息を整えた。


 雑誌棚を離れた瞬間、空気が変わった。頬にひやりとしたものが触れる。


「ひゃっ……なにこれ……? 冷たっ……」


 飲料ケースの冷気だった。


 ガラス扉の向こうには、青い水、緑茶、透明なスポーツドリンク、派手なエナジー飲料。光を浴びて整然と並んだボトルは、まるで宝物の棚のようだった。


「飲むものが……こんなに……?」


「まあ……種類は多いよな」


(多すぎるよ……選べないよ……まず名前も意味わからないよ……)

 リヴの視線が、炭酸水のボトルにとまる。中で小さな気泡がきらきら昇っていた。


「これ……瓶の中で星が生まれてる……」


「ああ炭酸だな。振ると噴き出すから気をつけろ」


「ひっ……爆発するの……!?」


「蓋が飛ぶくらいだから」


「それでもこわいよ……!」


(やだ……地球の水って……爆発するんだ……)

 リヴはそっと手を引っ込めたが、炭酸の星はどうしても気になるようでたびたび視線を送っていた。


 冷気の棚を過ぎると、空気が少しあたたかさを取り戻した。そこには袋に入ったパンが整列している。


 リヴはひとつを両手で持ち、そっと押し込んだ。


「……焼きたてじゃないのに……生きてるみたい……やわらか……」


「工場で作るからな」


「こうじょう……料理人の軍団が……昼夜問わず働いてる砦……?」


「まあ……だいたい合ってる」


(いや合ってない気がする……でもナオキが言うなら……)

 リヴはまだ納得していない顔だったが、クリームパンの絵を見つけた瞬間、ぱっと目を輝かせた。


「あっ……ウロで食べたやつ……!」


「好きだったよな」


 弾むような声に、ナオキはやわらかく笑った。


 パン棚を離れると、ほのかに温かい空気が流れてきた。レンジの音や、出入口とは違う独特の匂いが漂ってくる。


 そして――弁当棚が現れた。


 整然と並ぶ箱の列。その中には、彩りのいい惣菜や米、揚げ物がぎゅっと集まっている。リヴはそっと近づき、箱の中をのぞき込んだ。


「……ナオキ……これ……料理の箱……?」


「ああ。ひとつで一食分になってる」


「お肉も……煮ものも……野菜も……全部……?」


「全部」


「ひとり分……?」


「ひとり分」


 返事をするたびに、リヴの目が見開かれていく。


「料理って……家で作って家で食べるものでしょ……? こんな……箱に入れて……外で売るなんて……祭りの日だけだよ……?」


「ここでは毎日だな」


「ま、毎日……!? 夜なのに……? 家で火を使わずに……?」


「工場でいっぱい作って、車で運ばれてくるんだよ」


「こうじょう……。料理人の砦……」


 リヴの頭の中で、巨大な調理施設の妄想が暴走していくのが分かった。


(絶対に炎とか飛んでる……きっと料理の神殿だ……)


「旅人が布に包んで持ち歩く食事と違う……箱の中で……ごちそうが待ってる……」


「便利ってやつだな」


「地球の便利……台所に住む精霊がやってる……」


「いないよ」


「いるよ……絶対いるよ……」


 完全に思い込みモードだったが、ナオキは否定しきれず困ったように笑った。


 ふと横を見ると、ひときわ派手な棚がある。リヴは近づく前から顔をしかめていたが、近づくにつれてさらに眉が寄る。


 お菓子棚だった。


 赤、黄、緑、紫。袋の絵が元気よく跳ねているようで、棚全体がうるさく感じられるほどだ。


「なっ……なにこれ……絵が全部叫んでる……! なんでこんなに主張してくるの……?」


 袋菓子。チョコ。クッキー。グミ。飴。


 異世界では見たことのない色と量。


 リヴは震える手で、小さな袋を取り上げた。動物のイラストがこっちに笑いかけている。


「これ全部……食べ物なの……?」


「だいたい食べ物だよ」


「だいたい!? なんでだいたいなの……!? 甘い? しょっぱい? これ何の色!? 地球の人……毎日が祭りなの……?」


「言われてみれば……まあ……そんな気もするな」


「わたし帰るまでに何個か味覚が迷子になりそうだよ……」


(お菓子怖い……でも気になる……でも怖い……)

 リヴの心は激しい攻防戦をしていた。


 最後の棚へ辿りついた瞬間――


 リヴは足音も忘れて吸い寄せられる。


 そこには、小さな三つ入りプリン、大きめのカッププリン、二層プリン、生クリーム入り、瓶に入った高級プリンまで並んでいて、棚は一面やさしい黄色に輝いていた。


「ナオキ……これ……全部プリン……?」


「全部プリン」


「ぜ、全部……!?」


 リヴの目が、完全に丸くなる。


 リヴは一つずつ手に取り、確かめていく。


『……ウロで食べたの……この小さいやつだよね……?』


『そうだな』


 大きいプリンを持つと、ずしりと重さが伝わる。


「お、おおきい……味が……いっぱい入ってる……?」


「いっぱい入ってる」


 瓶プリンを持ち上げる。


「ひゃっ……これ……ガラス……!? どうして瓶!? これ……神殿の供え物じゃん……!」


「高いんだよそれ」


「た、高い……!?」


(買っちゃ……だめなやつ……! 高すぎて壊しちゃいけないやつ……!)

 リヴは瓶プリンをそっと棚に戻し、しかし視線は外せない。


 右へ。

 左へ。

 また右へ。

 そしてまた瓶へ。


 どのプリンを見ても「これがいい」「でもあれもいい」が顔に全部出る。


 ついに涙目になりながらナオキを見る。


「ナオキ……助けて……選べない……全部ほしい……」


「ひとつだけだぞ」


「ひとつ……? 全部は……だめ……?」


「だめ」


「うぅ……」


 声が今にも泣きそうに揺れた。その顔が本気すぎて、ナオキは真剣に考えてから、棚の中央を指した。


「今日はこれにしよう。ウロで食べたやつより大きいし、本場の味だ」


 リヴは大きめプリンを両手で抱きしめた。


「これ……食べたい……ナオキと……いっしょに……」


「ああ」


 その答えを聞いた瞬間、リヴはぱっと笑った。


「地球……すごい……こわいけど……すっごくたのしい……」


 ナオキも笑うしかなかった。


 プリンをしっかり抱えたまま、リヴは名残惜しそうに棚を振り返りながらレジへ歩いていった。足取りは軽いのに、視線だけはあちこちへ飛び続けている。


「……あっちまだ見てない……こっちも……」


「リヴ。まずは会計だぞ」


「うん……でも……でも……」


(見るところ多すぎるよ……気を抜くとまた迷子になるよ……)

 そんな心の声が見えるようだった。


 レジの前に立つと、リヴは急に固まった。レジ横のカゴ菓子、ホットスナック、見慣れない形の調味料。誘惑が多すぎて、目が忙しい。


「リヴ。プリンをここに出して」


「は、はい……」


 両手で抱えていたプリンをそっとカウンターに置くと、こんっと控えめな音が響いた。その瞬間、リヴは驚いて肩を跳ねさせる。


(音がする……なんで音がするの……? 壊れてないよね……?)

 心配する表情でプリンを睨みながら、レジの店員の手元を凝視した。


 ピッという音と共にバーコードが読み取られる。袋に詰められていく。その動きは機械的で流れるようだった。


「……魔法……じゃないよね……?」


「機械の仕組みだよ」


「機械……また新しい種類が増えた……」


(地球の仕組み、どんどん増える……脳が追いつかない……)

 リヴは頭を抱えたくなっているようだが、なんとか気丈に立っていた。


 支払いを済ませ、商品を受け取ると、リヴは両手で袋を抱えながら深く頭を下げる。


「ありがとう……」


 店員は微笑んで会釈しただけだが、リヴにとっては大儀式を終えたような達成感があった。


 店を出ると、静かな夜がふたりを迎えた。さっきまでの店内の明るさとは違い、月と街灯だけの薄い光がふたりの影をのばしていく。


「……さっきまでの場所……すごかった……」


「そうか」


「うん……小さいのに……世界がいっぱいあった……」


 リヴは袋を胸に抱え、プリンの重さを何度も確かめるように揺らした。


「疲れたか?」


「疲れた……でも、ぜんぶ楽しかった……」


 リヴは振り返り、コンビニの光が遠ざかっていくのを名残惜しそうに見つめた。


「飲み物の……あの星が出るやつ……こわかった……」


「炭酸だな」


「お菓子の棚はもっとこわかった……なんであんなに色が叫んでるの……?」


「まあ……あれは……派手だよな」


「でも……ちょっと気になる……でも……こわい……」


(戦場より派手……たぶん勝てない……)

 リヴの表情は複雑だが正直だった。


「でも……プリンは……すごくうれしい……」


「よかったよ」


「ナオキが選んでくれたの……うれしい……」


 鼻先を少し赤くして笑うリヴの姿は、夜の静けさにふわりと浮かび上がるようだった。


 ふたりの影が並び、伸び、また寄り添う。風が弱く吹き、リヴの髪が揺れた。


「ナオキ」


「ん?」


「地球……こわいところもあるけど……やさしいところもある……」


「そうだな」


「ナオキがいるから……そう思える……」


 その言葉に、ナオキはゆっくり目を伏せた。


「……ありがとな」


 ただの一言なのに、静かに響く。


 リヴは微笑み、足元の影を見つめる。ふたりの影はまた寄り添う。


「これ……家で……いっしょに食べよう……」


「ああ」


 短い返事でも、やわらかい響きだった。


 コンビニの光が完全に見えなくなった頃、ふたりは静かな路地をゆっくりと歩き続けていた。袋の中のプリンが小さく揺れ、それに合わせてリヴの胸の鼓動も少し弾んでいるように見えた。

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