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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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夜の商宴――火と知恵の灯

 夜の帳が街ヴェルンを包み込み、瓦の上には橙色の灯がゆらゆらと揺れていた。

 昼の喧騒はすっかり遠ざかり、代わりに杯の触れ合う音と、愉快な笑い声が石畳の通りを満たしている。


 ヴァルター商会の奥庭も同じだった。

 火桶にくべられた薪がぱちぱちと音を立て、

 焼いた羊肉の匂いが香草パンと混じって、夜の風に溶けていく。


 長机の上には皿がずらりと並び、果実酒の壺には灯が映り込んで揺れた。


「ようこそ、森の旅人と東の技師よ」


 ヴァルターが豪快に杯を掲げた。

 その声に応じ、商会の使用人たちが歓声を上げる。


「今日は祝いだ。新しい知恵が、ついに我らの手の中に転がり込んだ日だ」


 その言い方に、リヴが少しだけ照れながら盃を受け取る。


「こんな賑やかな食事、久しぶりです」

「森では静かに食べるのか?」

「ええ。食べ物の音より、木の揺れる音のほうが多いです」


 ナオキは盃を持ったまま、リヴの横顔を見つめて微笑む。


「でも、俺は退屈しませんでした」


「……え?」


「リヴがそばにいたから。あれだけで、森の時間は十分賑やかだった」


 リヴは慌てて顔を向け、耳まで赤くした。


「な、なにそれ、いきなり言わないでよ……!」

「事実だからな」


 その一言に、ヴァルターが笑い声を響かせた。


「仲が良いな。まるで夫婦のようだ」


「ふ、夫婦!? ち、違います! まだ――!」


 リヴの声が裏返り、使用人たちの笑いが庭いっぱいに広がる。


「“まだ”、か」

 ヴァルターはにやりと口角を上げた。

「なら、いずれ――ということだな」


「な、ならないですっ!」

「そういう否定ほど信用できんものだ」


 ナオキは苦笑し、盃を傾ける。


「技術者として言うなら……まだ“試作段階”ですね」

「そういう問題じゃないってば!」


 再び笑いが起こり、庭の空気は柔らかく揺れた。


 笑いが落ち着いたころ、ナオキが姿勢を正す。


「……あの、今日は角砂糖や飴、缶詰だけじゃなくて、もう少し持ってきてまして」


「ほう? まだあるのか」


 ヴァルターが目を細めた瞬間、

 ナオキはリュックを開き、次々と“異質なもの”を机に並べ始めた。


 白い固形燃料。

 手のひらに収まる圧縮タオル。

 銀紙に包まれた乾パンとカロリーブロック。

 花の香りを放つ石鹸。

 親指ひとつで火が出るライター。

 そして、小さな針が北を指す方位磁石。


 その光景に――

 ヴァルターの顔が途中から完全に固まった。


 リヴでさえ、呆れ混じりに口を開けている。


「……ナオキ、それ全部売るつもり?」

「試供品です。明日から順番に説明を――」


「まてまてまて!」


 ヴァルターが机を叩いた。


「お前は俺をショック死させる気か!」


 使用人たちの爆笑が夜空に弾ける。


「どれも聞いたことも見たこともないぞ……!

 おい、リヴ、止めろ。君から説得して――」

「無理ですよ。彼、こうなると止まらないんです」


「ははは、そうか……なら、明日の朝まで何も言うな。

 でないと私は心臓がもたん……!」


 その言い方が妙に可笑しくて、リヴも吹き出した。


 ナオキは少し頭をかき、苦笑した。


「では……最後にひとつだけ。“味見”をしませんか?」


「味見……?」


 ヴァルターの眼光が鋭く動いた。


 ナオキはリュックの底から銀色の缶を取り出す。

 蓋を開けると、ふわりと湯気が立ちのぼった。


 姿を見せたのは、甘いタレで煮込まれた鳥肉。

 表面には薄く油が光り、箸を入れればほろりと崩れそうだ。


「……料理、だな」

「出来立てを閉じ込めてあります。開けるだけで食べられます」


 ヴァルターは一口、口に運んだ。


 瞬間――

 ほんとうに、目を見開いた。


「……これは……臭みがまるでない……!

 味が深い……塩加減も絶妙だ……!」


 ナオキは次の缶を開ける。

 中には、油で柔らかく煮た海の魚。


「海の……魚? ここは内陸だぞ」

「煮て封じれば、運べます」


 さらに甘い香りの缶。

 透明な蜜の中で果実が宝石のように輝き、火桶の灯りを受けてきらりと揺れる。


「果実の保存食です。香りを逃さず閉じ込めています」


 ヴァルターは呆然と息を吐いた。


「……肉、魚、果物……。三つでこれだ。

 あといくつある?」


「十種類以上あります。全部出すと……本当に倒れますよ」


 リヴが吹き出し、ヴァルターも笑った。


「確かに……胃袋より先に頭が悲鳴を上げるわ……。

 だが、こんな未来を持ち込むとはな」


 ナオキは穏やかな声で返した。


「焦るつもりはありません。

 ただ……食べてみれば分かることが、一番多いので」


 ヴァルターはその言葉に微笑み、杯を掲げた。


「いい夜だな。

 食で始まり、食で締める夜にしよう」


 三人の盃が静かに触れ合う。

 火桶の炎が揺れ、銀色の缶が橙色の光を返した。


 その夜――

 ヴェルンの商会に、初めて“未来の食卓”が並んだ。


 翌朝からの変化を、まだ誰も知らなかった。

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