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『32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~』  作者: ひろボ


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第5話:綺麗な布と、壁を抜ける男

 4畳間のウロの中は、隅に置かれた謎の光る道具によって、ぼんやりと明るかった。


 準備を終え、ナオキは少女のそば、ブルーシートの上に距離を取って座り込んだ。金属バットを手の届くところに置き、彼女が目を覚ますのを待った。


 どれくらい時間が経っただろうか。


 ランタンの光の中、ベッドの上の少女が「……ぅ」とうめき声を上げ、ゆっくりと目を開いた。


 少女の目が、数回まばたきをした。


 見慣れない木の天井、自分の体が柔らかい寝袋の上にあること、そして部屋の隅で淡く光る謎の道具に、彼女の目が混乱で見開かれる。


 彼女は自分の足に巻かれた、異様な感触に気づいた。


 そこには、見たこともないほど真っ白で、清潔な「綺麗な布」が巻かれていた。


 次の瞬間、彼女の視線が、ウロの隅に座るナオキを捉えた。


「――ッ!!」


 少女は即座に起き上がろうとしたが、足に走る激痛に「ぐっ!」と顔を歪め、動けない。


 自分の武器(弓矢)が近くにないことを確認し、代わりにナオキの手元に金属バットが置いてあるのを見て、彼女の表情が絶望と警戒に染まる。


「%#$&’!!」


 負傷した獣のように、少女はナオキに向かって必死に何かを叫び、威嚇する。もちろん、ナオキには一言も理解できない。


「わ、わ、待て!落ち着け!」


 ナオキは即座に両手を上げ、ゆっくりと立ち上がった。


 少女がビクッと身構える。


 ナオキは敵意がないことを示すため、手の届くところにあった金属バットを掴むと、ウロの「森側の出口」のほうへ、カラン、と音を立てて転がした。


「敵じゃない。安全だ」


 言葉が通じるはずもないのに、ナオキは必死に声をかける。


 彼は準備しておいた「スケッチブック」と「鉛筆」を取り出した。少女が「それは何だ」と訝しげに見つめる前で、ナオキは拙い絵を描き始めた。


 まず、少女(らしき人)が森で倒れている絵を描き、×印をつける。


 次に、ゴブリン(らしき怪物)の絵を描き、敵だ!と危険な仕草をする。


 次に、ナオキ(らしき棒人間)が、少女の足に包帯を巻いている絵を描く。


 最後に、このウロ(木の穴)の絵を描き、丸(○)をつけて、安全だ、という仕草をした。


 そして、ウロの隅の物資の山から「ペットボトルの水」と「カロリーブロック」を取り出し、彼女のベッドから2メートルほど離れた床に、そっと置いた。


 少女はナオキの拙い絵とジェスチャーから、大まかな状況(ゴブリンから隠れ、治療された?)を、かろうじて理解したようだった。


 だが、彼女の目から警戒と不信は一切消えない。


 こいつは何だ? なぜ私を助ける? 罠か? 奴隷商か? この食料に毒は?


 そんな疑念が、彼女の鋭い視線から伝わってくるようだった。


 ナオキが、これで少しは落ち着くか、と息をついた瞬間。


 少女はナオキの隙を見て、負傷した足の激痛をこらえ、ベッドから這い降りた。そして、ウロの「森側の出口」に向かって、床を這いずろうとした。


「おい!待て!バカ!」


 ナオキが慌てて彼女の前に立ちはだかる。


 少女はナオキが襲ってくると身構え、負傷した獣のようにナオキを睨みつけた。


「違う!」


 ナオキは必死にジェスチャーで訴えた。


 スケッチブックの新しいページを開き、急いで描く。


「足の傷の絵」→「外の絵(ゴブリン?)」→「巨大なバツ印(×)」


 そして、ナオキは自分の首を掻っ切る仕草をして「死ぬ!」と叫んだ。


 彼は少女の足の包帯を指差し、「まだダメだ」「動くな」と強く首を横に振る。


 少女の動きが止まった。


 ナオキの必死の形相から、外に出れば「死ぬ」ということだけは伝わったらしい。


 彼女はしぶしぶベッドに戻ったが、その鋭い目つきは、ナオキを睨みつけたまま離さない。


 緊迫した睨み合いが、どれくらい続いただろうか。


 数時間が経過し、ウロの中はランタンの光だけが二人を照らしていた。


 ナオキは、アパート側でトイレを済ませてくるのを忘れていたことに、今更ながら気づいた。強烈な尿意が、下腹部を圧迫し始めていた。


(ヤバい、トイレ行きたい……!)


 ナオキは葛藤した。


 こいつが起きてる前で、どうやってアパートに戻る?


 あのポータルに向かって消えるところを見られたら?


 かといって、こいつを気絶させるわけにはいかない。怪我人だ。それに、次に目を覚まし時、完全に敵対される。


 かといって、こいつが寝るまで待つ? 無理だ、さっきから睨みっぱなしで寝る気配がない。膀胱が……限界だ。


 ナオキは意を決した。


 彼は少女に対し、「動くな」と強く手のひらを向けて見せる。


 そして、少女が固唾を飲んで見守る中、意を決して『32型』(少女から見ればただの木の壁)に向かって歩き、そのまま壁に吸い込まれるように消えた。


 少女の目が、恐怖と混乱に凍りついた。


 消えた……? 壁に? 幽霊? 魔法使い? 幻覚か?


 少女が壁を触ろうかと迷っていると、約1分後、ナオキが同じ壁から、何もない空間から現れた。


 彼はトイレを済ませ、ついでに新しい水を持ってきた。


 少女は、さっきまでの「警戒」や「敵意」よりも、明らかに「恐怖」と「畏怖」の表情を浮かべ、ベッドの上でナオキから距離を取ろうと後ずさった。


 ナオキは少女のその反応を見て、内心で呟いた。


(クソっ、見られた……! 俺がアパートに戻るところを)


(でも、これでよかったのかもしれない)


(こいつが俺を「得体の知れないヤツ(壁を抜けるヤツ)」と恐れてくれれば、下手に襲いかかってくるリスクは減る)


 ナオキは、ポータルの存在(少女から見れば壁抜け)がバレてしまったことを、逆に「威嚇」の材料として利用することに頭を切り替えた。


 彼は何も言わず、ウロの隅からカセットコンロと小さな鍋、レトルトのお粥を取り出し、火をつける準備を始めた。


 少女は、足の怪我(動けないという現実)と、目の前の「壁を抜けて火を(ライターなしで)起こす不気味な男」を天秤にかける。


 彼女は、少なくとも「傷が治るまで」は、この「不気味だが敵意は(今のところ)ない男」の監視下で、この「安全なウロ」に滞在するしかないと判断したようだった。


 ナオキが温かいお粥を器に入れ、ベッドのそばに置いた。


 さらに、さっき床に置いたペットボトルの水を指差し、「飲め」とジェスチャーした。


 少女は、まず水に手を伸ばした。


 喉がカラカラだったのだろう。彼女はペットボトルを掴むと、蓋を……どう開けるのか分からない、という顔で固まった。水筒でも皮袋でもない、奇妙な透明な容器だ。彼女は蓋を力任せに引っぱってみるが、ビクともしない。


 ナオキはそれを見て、慌てて自分の手を(ジェスチャーで)ひねってみせた。「こう、回すんだ」と。


 少女はナオキの動作を睨みつけ、真似するように蓋を掴んでひねった。


 カチッ、と乾いた音を立てて蓋が回る。


 少女はビクッと肩を震わせたが、蓋が外れたことを確認すると、ためらいがちに一口、口に含んだ。


 その瞬間、彼女はわずかに顔をしかめた。


(……ん? 不味かったか?)


 ナオキは彼女の反応を見逃さなかった。


(ああ、そうか。森の天然水と違って、こっちの水はカルキ臭いのか……)


 少女は、その不味そうな(薬臭い?)水を飲み下すと、次に温かいお粥に手を伸ばした。


 ナオキを睨みつけながらも、震える手でその温かい食べ物を、ゆっくりと口に運び始めた。

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