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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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街道の影――人間の牙

 昼下がりの街道を、乾いた風が渡っていった。

 砂を巻き上げながら地平の向こうへと流れていき、その向こう側に続く世界の広さだけが静かに主張している。

 人影のない道は、ただ二人の足音だけを返し、空はどこまでも澄んでいた。


 その静寂の只中で、リヴがふと立ち止まり、耳を傾けた。

 風向きを読むように瞳が揺れ、一瞬だけ胸が上下する。


「……前。人の気配がする。四……五……もう一人。六」


 その声音には、わずかな緊張が滲んでいた。

 ナオキは歩みをゆるめ、彼女に優しく目線を合わせる。


「魔力で探ったんだね?」


「うん。でも……隠れてない。普通に、歩いてきてる」


 リヴの言うとおり、街道の曲がり角に影が差した。

 太陽を背にして現れた数人の男は、歩幅が妙に軽く、肩の荷物から剣の柄がのぞいている。

 革鎧はところどころ擦れ、手にした剣は研がれていない。

 それでも、そこに流れている空気はひどく生臭い。


「おいおい、若いのが二人だとよ」


「こんな街道を歩いてりゃ、そりゃ獲物だわな」


「はは、いい女つれてやがる。お前ら、運が悪かったな!」


 風に混じって届く彼らの声は、軽い調子なのに、どこか底が冷えていた。

 リヴが肩をすくめ、小さな息を呑む音が聞こえる。


 ナオキは彼女の震えを感じ取り、目だけで安心を伝えるように微笑んだ。


「大丈夫。ゆっくりでいい。俺が合わせるよ」


 盗賊たちは笑いながら距離を詰めてくる。

 剣が抜かれ、金属がこすれる音が乾いた空に響いた。


「おとなしく出せば痛い思いしねぇで済んだのによ」


「六人と二人。勝負になると思ってんのか?」


 ナオキは静かにリュックへ手を伸ばし、小さな金属缶を握った。

 掌に触れる金属の冷たさを確かめながら、穏やかに息を整える。


「六人……そうだね。じゃあ、六に合わせて対処しようか」


 ぱちん、と小さな安全ピンが外れる音がした。

 その瞬間、リヴの青い瞳が淡く光を帯びた。


「風、前へ。土は下から突き上げる形で」


 魔力が地面を鳴らす。

 乾いた大地が呼吸するように盛り上がり、突風が前列の二人を弾き飛ばした。

 砂が巻き上がり、視界が揺れる。

 地面に叩きつけられた盗賊の呻きが、耳に生々しく残った。


「なっ……なんだ!? 魔法使いだと!?」


「聞いてねぇぞ、こんな化け物みたいな……!」


 恐怖と怒りが混ざった叫びが飛び交う。


 ナオキは一歩だけ前に出て、優しい声でリヴへ囁いた。


「風は右後ろに流れてる。距離は二メートル。……大丈夫、ゆっくりでいい」


「……わかった」


 リヴが息を整えたのを確認し、ナオキは金属缶をわずかに傾ける。


「じゃあ……今だ」


 白い霧が鋭く噴出した。

 風がそれを掴み、前方へ押し流す。

 刺激の強い匂いが一気に広がり、喉へ刺さるような痛みが走った。


「げほっ……あ、目が……!!」


「くそっ……なんだこの匂い……!」


 盗賊たちは目を押さえながら転げ回る。

 涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになり、剣を投げ出して叫んでいた。

 霧と砂が混ざり、白い煙幕のように辺りを覆っていく。


 リヴは顔をしかめ、足を震わせながら後ずさった。


「こんなの……怖い……」


 ナオキはそっと肩に手を置いた。

 その手は温かく、リヴの震えを静かに包んだ。


「大丈夫。君が守ったんだよ。誰も傷つけずにね」


「……でも、足が……震えて止まらない……」


「初めてなら当然だよ。むしろ、ちゃんと怖がれるのは偉いことなんだ」


 リヴは瞳を揺らしながら、逃げ惑う盗賊たちを見つめた。

 彼らは視界を失い、砂を蹴り上げながら逃げ去っていく。


「ひいっ……近づかねぇ! もう二度とだ!」


「二人がかりの魔法使いなんて聞いてねぇ!」


 街道に再び静寂が落ちる。

 風が砂を押し流し、散った霧の残り香がまだ鼻にわずかに残っていた。


 ナオキはクマ撃退スプレー缶を軽く振る。


「残りは……二秒くらいかな。少し多めに使ったな」


 リヴは深く息を吸い、震える自分の指先を見つめた。


「……ナオキ、私……人間って……やっぱり怖い」


「うん。理由をつくって傷つけようとするとき……一番厄介になる」


 ナオキの声は静かで、どこか寂しげだった。


「獣は、生きるために噛む。でも人は……別の理由を探して噛むんだ」


 リヴは胸に手を当て、ゆっくりと頷いた。

 その横顔はまだこわばっていたが、ナオキのそばにいることで、少しだけ呼吸が落ち着いたようだった。


「……戻ろう、ナオキ。街の方へ。歩いてれば……少し忘れられるかも」


「そうだね。手、貸すよ」


 ナオキは自然に手を差し出した。

 リヴは迷うことなくその手を握った。

 震えが指先に残っていたが、温度が混ざり合い、少しずつ落ち着いていく。


 二人は並んで歩き出した。

 夕暮れの光が背後から伸び、影を長く伸ばす。

 風が緩やかに二人の足元を撫で、遠くの丘の向こうに白い城壁が浮かび上がる。


「……あれが、ヴェルン」


 リヴが小さくつぶやいた声は、先ほどよりもわずかに強かった。

 ナオキはその横顔を見つめ、静かに頷く。


「うん。もうすぐだよ。今日は……よく頑張ったね、リヴ」


 そのひと言に、リヴの頬が熱を帯び、指先が少しだけナオキの手を握り返した。


 二人は夕暮れ色の街道を、ゆっくりと、確かな歩幅で進んでいった。

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