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『32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~』  作者: ひろボ


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第41話:出発前の確認と贈り物

 地球から持ってきた品々を卓上に広げる。  緩衝材の袋がぱふっと鳴り、ナオキは一つずつ取り出しては、紙に短く書きつけた。


「まずは消耗品。圧縮タオル二十。水で広がる。お湯なら“ふわ”が強い」


「ちいさっ! ……これ、雲みたい」


「次、折りたたみバケツ。満水で十リットル。縁のワイヤ補強で安定」


「“ぱかっ”て開くの、気持ちいいね」


「非常火種。固形燃料。湿気に弱いから缶ごと持つ」


「缶に耳がついてる。かわいい」


 ナオキが一息ついたとき、リヴは机の端にあった小袋を手に取った。


「これ、キラキラしてる……中、なに?」


「飴だ。砂糖を煮詰めて固めたお菓子。

 ただ、純粋な砂糖の結晶は味も価値も強すぎて危ない。

 だから、これは“食べられる程度”に加減してある。」


 リヴはそっと一粒を舌にのせた。  瞬間、瞳がぱっと輝いた。


「……! なにこれ! こんなに甘いの、どこにもないよ!」


 頬がとろんと緩む。  その顔を見て、ナオキは思わず笑った。


「保存も利く。街で売るなら包装を改良してみるといい」


「これでも騒ぎになりそう」


「……だろうな」


 ナオキは軽く息を吐き、手元のメモを見直した。


「問題はそこだ。地球産のものを軽々しく出せば、すぐに噂になる。  “どこの錬金師だ”“異国の秘具だ”って。最悪の場合、拘束される」


「でもナオキは、そういう人たちの目をごまかすの苦手だよね」


「だからこそ、慎重に出す。相手を選ぶ」


 彼の指先が、メモの端をなぞる。


「ヴァルターに会う。街で商会を仕切ってる男だ。――前に君が話してた“あの人”だろ?」


 リヴはうなずいた。


「うん。前に少し話したよね。私が追われてたときに助けてくれた人。

 角砂糖と“清潔の概念”を話したら、“その知恵は人を救う”って言って、取引にもしなかった」


「“金のなる木”を放すような真似をしたわけだ」


「そう。普通なら、縛られててもおかしくなかったのに」


「……つまり、欲より理性で動く人か」


「理性と、ちゃんとした優しさ。どっちも持ってる人」


 ナオキは腕を組み、短く頷いた。


「ヴァルターなら、話が通じる。信用してみる価値はあるな」


「私は大丈夫だと思う。あの人なら、きっと裏切らない」



 リヴは笑って頷いた。


 二人はリュックを前に、持ち出す品を吟味した。  必要最低限、かつ軽く。


「地球産の最終仕分け。街に持ち込むのは――飴、乾パン、乾燥果実、包材サンプル、圧縮タオル少量、折りたたみバケツ一つ。浄水器は保険として内緒」


「了解!」


 リヴは小さく拳を握る。


「甘いもの担当は私ね」


「頼んだ、甘味部長」


 笑い合ったあと、ナオキは箱の底から、ひとつの包みを取り出した。  薄紙に包まれたそれは、森の色に似合う――けれど、この世界にはない“甘さ”を持っていた。


「……最後に、もう一つ」


 薄紙をほどく。  桜色のワンピース。白いレースが道筋みたいに走り、裾は軽く踊る仕立て。  リヴの瞳が、森の朝露みたいに丸くなる。


「わ、わ……なにこれ……」


「君に、似合うと思って」


「似合うかな……」


 リヴは小屋の奥でそっと着替え、くるりと出てきた。  その瞬間、空気がひと拍おいて、ふっと明るくなる。


「どう?」


 裾がふわりと揺れ、白いレースが光を受けた。  ナオキは思わず息を呑む。  理屈がすべて消える一瞬――ただ、見惚れていた。


「……見惚れていた」


 ぽつりと自分で言って、ナオキは目を逸らす。  リヴは頬を染め、指先で裾を摘まんだ。


「ありがとう。……恥ずかしいけど、すっごく嬉しい」


 その声が、甘い風みたいに小屋の中をくすぐった。


 笑いが弾ける。  ナオキは肩の紐を結び、ウエストのリボンを少しだけ締め直した。


「歩幅が広い君でも裾を踏まないよう、前を七ミリ短くしてある。回る時は――」


「こう?」


 くるん。  白いレースが円を描き、一瞬だけ森の光を集めた。


「ワンピースは?」


「最重要、士気向上装備。――携行」


 リヴが胸を張る。


「任された!」


 その声が、小屋に残った空気を軽く弾ませた。


「ねえ」


 背中から、リヴの声。


「“ぷれぜんと”、ありがとう。心まであったかい」


 ナオキは短く頷く。


 二人は並んで外へ出る。  新しい裾が、森の光をすくっては、また返した。  ――旅立ちの朝に、ぴったりの色だった。

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