表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~』  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/51

第40話:街への支度(つなぐの灯)

 薄いカーテンの向こうで朝の光が揺れていた。

 地球のナオキのアパートは静まり返り、電子音だけが小さく空気を震わせた。


 ベッドの端で背筋を伸ばし、膝に置いたノート端末の電源を入れる。

 青白い光が暗がりを押しのけ、ホーム画面がゆっくり立ち上がった。


 通販サイトを開くと、飾り気のない画面にずらりと並ぶ商品説明。

 ナオキは真剣に指を走らせた。


「保存食……調味料……非常用ろうそく、乾電池……いや、電力は向こうじゃ使えないな。

 折りたたみバケツ、携帯浄水器、圧縮タオル……文明、飛び越えすぎか」


 小さく苦笑しつつ、手は止まらない。

 “異世界で役に立つもの” を選び、タブレットに次々保存していく。

 オフラインで読めるよう説明文も画像も変換して、メモに要点を書きつける。


「リヴに見せたら、また喜ぶだろうな」


 そう呟いて端末を閉じた。

 それは彼にとって、“地球の知恵を持ち出す”ための、最初の小さな試みだった。


 ――ウロの拠点。


 木漏れ日の奥、ナオキはリュックから同じ端末を取り出す。

 画面に灯った薄い光が、森の空気に馴染むように溶けた。


「なになにー?」

 リヴが覗き込み、目元をほころばせる。


「地球の“道具屋”みたいなものだよ。欲しいものなら、ほとんど揃ってる。

 向こうじゃもう繋がらないから、必要そうなものを持ってきた」


「だうん……ろーど?」

「情報を持ち運ぶって意味だ。向こうでは、知識も商品も全部“形のないデータ”になる」


「へぇぇ……!」


 驚きがそのまま瞳に光った。


「じゃあさ、お菓子は? ある?」

「もちろん。甘いものの宝庫だ」


 ナオキが“お菓子”のフォルダを開くと、

 プリン、シュークリーム、どら焼き、バームクーヘン……画面が甘さで埋め尽くされた。


 リヴは息をのむ。


「……きれい。これ、全部食べ物なの?」


「一応な。だけど……」


 ナオキは苦笑し、指でプリンの画像を弾いた。


「持ち歩けば溶けるし、冷やさなきゃ固まらない。

 森を抜けて街へ届くまで、まず保たない」


「むぅ……残念すぎる」


 肩を落としつつ、すぐまた顔を上げる。


「じゃあ、こっち。“くりーむぱん”! 中に甘いの入ってるんでしょ?」

「卵も乳も入ってる。旅には向かない」


「異世界の壁……厚い」


 ナオキは少し考え、別ページを開いた。


「でも、飴やクッキーなら大丈夫だ。長く保存できるし、包装も簡単だ」


「ほんとに!? 甘い匂いで、お客さん呼べるね!」


 ナオキは笑いながら端末を閉じた。


「前に一緒に食べたプリン……いつか、この世界で作ってみよう。

 “プリンを売る日”を目標にしたっていい」


 リヴは顔を輝かせる。


「街の子どもたちが『ぷりん!』って叫ぶんだよね!?」

「いいだろう、“森のレシピ”。看板に書くか」


「かわいい、その名前!」


 笑い声が小屋に広がり、光に溶けた。


 プリン――その小さな甘味の夢は、

 この世界で生きていくための灯りになるのだと、ナオキは感じていた。


 ――地球のアパート。


 同じ端末の画面が、薄暗い部屋を静かに照らしている。

 さきほどのリヴの笑顔を思い出しながら、ナオキは息をひとつ吐いた。


 画面を切り替える。

 そこには、地球で彼が営んでいたリラクゼーションサロン

 《つなぐ》の管理アプリが映っていた。


 最後の営業記録は三ヶ月前。

 施術メモ、予約一覧、常連客の名前……

 どれも愛おしかった日常なのに、今は遠い記憶のように見えた。


 ナオキはしばらく画面を見つめ、それからゆっくり指を伸ばした。


「一時休業 ――理由:長期出張」


 ピ、と小さな音が鳴り、表示が切り替わる。

 “休業中”の文字は、不安を含みながらも、不思議と背中を押してくれる文字だった。


「……これで、一区切りだな」


 小さく呟く声は少し寂しげで、でも確かな決意を湛えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ