表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~』  作者: ひろボ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/52

第39話:静かな警戒網

 朝の森は、夜の名残をまだ少し抱いていた。


 霧の向こうで鳥が鳴き始め、ウロの周囲に淡い光が満ちていく。


 リヴは火床の灰を掻き混ぜながら呟いた。


「昨日の夜、もう少し早く気づけたら、落とし穴まで来る前に分かったかも。」


 ナオキは頷きながら、メモをめくった。


 《魔力波ソナー:探知成功・持続不可》


「うん。けど、魔力ソナーは“持続”が問題だな。


 波を出し続けたら制御だけで手一杯になる。」


「確かに……感覚を広げるほど、体が止まる。


 視るために動けなくなる感じ。」


「つまり、“索敵を維持しながら行動”は非現実的。


 なら、現代式で補うしかない。」


 そう言って、ナオキはリュックから小さなケースを取り出した。


 中には手のひらサイズの機械がいくつも入っている。


「なにそれ?」


「Bluetoothモジュール。センサーを繋げて、無線で信号を飛ばす。……いわば電子鳴子だ。」


 リヴが首を傾げる。


「ぶるとーす? もじゅーる? デンシの鳴子?」


「そう。赤外線センサーで熱反応を検知して、Bluetoothで中継して知らせる。


 鳴子が“音で知らせる”なら、これは“光と信号で知らせる”んだ。」


 ナオキはしゃがみ込み、木の根元にセンサーを設置する。


 レンズのような部分を森の方向に向け、角度を微調整した。


「ここで誰か、あるいは何かが通ると――」


 ピピッ、と小さなLEDが点滅。


 同時に、リヴの首もとに下げた小さな端末が青く光る。


「……光った!」


「成功。反応は一秒遅れ。鳴子より静かで、距離もある。


 しかも、中継機を置けば五十メートル先まで届く。」


 リヴは目を丸くした。


「すごい……魔法でも鳴子の代わりはできないよ。さすがカガクの力だね。」


 ナオキは笑い、肩をすくめた。


「リヴの魔法に遅れをとってたけど、こういうのはまだ地球の道具が優れてるね。」


「確かに……いつか魔法で再現できたらいいな。」


 リヴは胸の前で拳を握りしめる。


「リヴ式・持続鳴子センサー魔法!!」


 ナオキが吹き出す。


「そこまで再現されたら……俺の役目がなくなるな。」


「そのときは一緒に改良して、“共同開発”ってことで!」


 二人は笑い合い、朝の光が木漏れ日となって落ちてきた。


 昼までに、二人は周囲へ小型センサーを設置していった。


 方位ごとに三台ずつ、Bluetoothで連結し、中央の受信端末を小屋に固定。


 通信が切れない範囲を確認しながら、試験的に森を歩いた。


 リヴが枝の影を横切ると、ウロから微かな青い光が点滅する。


「うん、完璧。森が私たちを“覚えた”みたい。」


「いや、“観測してる”んだ。違いは大きいぞ。」


「でもね、ナオキ。こういうの、ちょっと楽しい。」


「ん?」


「魔法じゃなくても、“気づける”っていい。


 危険が来る前に準備できるって、勇気になる。」


 ナオキは笑った。


「お前、もう完全に防衛技術者だな。」


 夕方。


 全てのセンサーが稼働状態になり、中央端末が淡く点滅していた。


 通信試験は成功。遅延は一秒以下。反応距離はおよそ四十五メートル。


 リヴが手を叩いて喜ぶ。


「これで、もう夜の森も怖くないね。」


「いや、油断はするな。敵はまだ魔法を使う世界の生き物だからな。」


「じゃあ、魔法と科学、二つで守ろう。」


 ナオキは頷き、地図の端に新しい記号を描いた。


 《警戒網設置:Bluetooth赤外線センサー稼働/範囲半径50m》


 焚き火の火が、センサーの青いランプを淡く照らす。


 それはまるで――森の中に浮かぶ、目に見えない要塞のようだった。


 夜半を過ぎたころ。


 風向きが変わり、焚き火がぱちりと弾けた。


 ――ピピッ。


 センサーの微かな音。


 リヴが目を開くより早く、ナオキは手を伸ばしてランタンを消す。


「……来たな。」


 闇の奥で、低い唸り声。


 ゴブリンだ。三体、いや四。


 リヴが静かに立ち上がり、矢筒に手をやった。


「私、外に出る。」


「待て。様子を見る。」


 ナオキは地面に耳を当て、息を潜めた。


 草を踏みしめる重い足音。


 それが一歩、また一歩と小屋の外周へ近づいて――


 ずるっ。


 短い悲鳴とともに、闇の中で何かが落ちる音がした。


 すぐに二つ目、三つ目。


「落ちた……!」


「外周の落とし穴だ。深さ五十センチ、斜めの壁。上がれない。」


 続けざまにセンサーが反応する。


 リヴが弓を引き、矢を一本だけ放つ。


 火の粉のように光った魔力の矢が、夜気を裂いた。


 ゴブリンの叫びが途切れる。


 森が再び静寂を取り戻す。


 夜明け前。


 リヴが外に出て、罠を点検する。


 落とし穴の中には絶命したゴブリンたちが数体、泥まみれで転がっていた。


「魔法で深く掘って埋めよう。死体を置くと匂いで魔物を呼ぶ。」


 リヴが小さく頷き、魔法で死体を埋めた。


 二人で淡々と作業を進めるその姿は、戦闘というより“片付け”に近かった。


 ナオキは肩をすくめて呟く。


「……まるで要塞だな。」


 リヴが笑って、胸を張る。


「ふふ、“キャンプの魔法使い”の防衛魔法だもん。」


「いや、もうそれ“野戦築城士”だろ。」


「じゃあ、肩書きに追加していい?」


「やめとけ、名刺が二段になる。」


 二人は笑いながら片付けを終えた。


 朝日が差し込み、森がまた息を吹き返す。


 ナオキは地図の端に、新しい記号を描いた。


 《防衛実験:成功/電子警戒網有効》


 ナオキは立ち止まり、振り返る。


 森の奥で青い光が点滅し、まるで小さな命が瞬いているようだった。


「……これで、夜は完全に味方だ。」


 リヴがうなずく。


「うん。魔法でも、機械でも、森を“守る”ことに変わりはないね。」


 風が木々を渡り、電子の光が静かに瞬く。


 それはまるで、文明と自然の境界に灯る静かな警戒の灯だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ