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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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現実を癒す場所

 気づけば、看護学校を休学していた。

 そして、介護の現場も離れていた。


 生活費と時間。どちらも、自分の手で確保するためだ。


 今のナオキは――

 自宅アパートの一室を使った、小さなリラクゼーションサロンを始めていた。


 ---


 白いカーテン越しに、春の光が柔らかく差し込む。

 ナオキは、窓際に取りつけた木のプレートを見上げた。


 > リラクゼーションサロン「つなぐ」


 名前には、ささやかな願いがある。

 世界と世界。人と人。

 離れたものを、また“つなぐ”ために。


 中古のベッドが一台。

 間接照明がひとつ。

 リヴのスケッチを真似て買ったフェイクグリーン。


 たったそれだけの部屋なのに、どこか満ち足りて見えた。


 配置も、照明の角度も、自分の感覚で決めた。

 夜勤明けの疲れた顔を、何年も見てきたから。

「休まる場所」がどういうものか、体で知っていた。


 ---


 昼前、インターホンが鳴る。


「お邪魔しまーす。……って、本当にやったのね。」


 来たのは美咲だった。

 介護施設で一緒に働いていた先輩で、今は最初の予約客。


「言ったら、やるタイプなんで。」


「ふーん。じゃあ口だけじゃなかったのね。」


 美咲は部屋をぐるりと見回した。

「……思ったより本格的。部屋の匂いもいいね。

 病院の消毒薬の匂いと違って、落ち着く。」


 ナオキは笑い、オイルを少し手に取った。

 ラベンダーとオレンジが混ざった香りが、静かに広がっていく。


「消毒薬の匂いより、アロマの方が緊張しないでしょ。

 集中力も上がるんですよ。」


 指先でオイルを温め、タオルを整える。

 深く息を吐き、心の中で呟く。

 ――いつも通りでいい。余計な力を抜け。


 ---


 背中に触れた瞬間、

 指先から、呼吸の浅さと筋肉のこわばりが伝わった。


「右肩、ちょっと重いですね。」


「え? なんでわかるの?」


「疲れてる人は、肩で息するんです。

 それと、脈が少し早い。」


「へぇ、なんか先生みたい。」


 ナオキは笑って首を振る。

「いや、ただの観察です。」


 オイルを馴染ませながら、背中から肩、腕へと圧を流す。

 呼吸に合わせて押し、抜く。

 手のひらの熱が、ゆっくりと体に沈んでいく。


 気づけば、無心になっていた。

 何も考えず、ただ“ほぐす”という行為に集中していた。


 ---


「……軽い。ほんとに、嘘みたい。」


 一時間後、美咲は腕を回して笑った。

 顔色が明るくなり、頬に血が戻っている。


「これ、整骨院よりすごいよ。ナオキ君、あんた才能あるね。」


「そりゃどうも。でも、明日筋肉痛になっても怒らないでくださいね。」


「なるの!?」


 二人は吹き出した。


 ナオキはタオルを片づけ、棚から小さなガラス瓶を取り出した。


「これ、サービスです。乾燥対策のオイル。

 首と手の甲に少しだけ。」


 透明な液体を指先で伸ばすと、美咲が目を丸くした。


「……すご、これ。肌が吸い込んでいく感じ。」


 少し間を置いて、美咲は首をかしげた。


「……ねえ、これってさ。

 前に施設で私が手を切った時、

 ナオキ君が塗ってくれた“あの傷薬のやつ”と似てない?」


 ナオキは一瞬だけ動きを止め、苦笑した。

「覚えてたんですか。あれは、ちょっと濃すぎた試作品です。」


「やっぱりそうなんだ。」

 美咲の瞳に、うっすら笑みが浮かぶ。

「傷が一晩で塞がって、跡も残らなかった。

 みんな不思議がってたけど、私は知ってたんだよ。

 あれ、本当に“企業秘密”だったんでしょ。」


 ナオキは小さく息をつき、肩をすくめた。

「企業秘密です。」


 美咲はくすりと笑う。

「そっか。じゃあ、今回のこれは――“美容バージョン”ってわけね。」


「まぁ、そんなところです。」


「……やっぱり不思議な人だね、ナオキ君。」


 その笑みには、驚きよりも信頼と少しの理解があった。

 彼の秘密に触れそうになりながらも、

 それ以上は踏み込まない“優しさ”のような。


 ---


 美咲が帰ったあと、ナオキは静かにドアを閉めた。

 部屋の中に残るアロマの香りが、まだ温かい。


 夕方。

 ベッドを片付け、窓を少し開ける。

 春の風が入り、カーテンがふわりと揺れた。


 机の上のスケッチブックを開く。

 リヴの「リケイ・メモ」。


 > 【理式投圧、成功! 石が飛んだ! 連射できる!】


 ナオキは吹き出した。


「おいおい、名前つけてんじゃねぇよ。」


 ページの端には、飛んだ石の軌跡と

 “空気の圧の流れ”の落書きが並んでいた。


 矢印と丸印。

 きっと、試行錯誤しながら描いたんだろう。


「……理屈は合ってる。ほんとに覚えやがったな。」


 呟きながら笑うと、胸の奥が少し熱くなった。

 リヴが、“わかる”という感覚を掴んだときの顔が浮かぶ。


 ---


 ナオキは毎晩、ウロでリヴと顔を合わせていた。

 魔法の練習の報告や、世界の理屈について語り合う時間。

 それはもう、日課のようなものになっていた。


 今日のリヴは、「理式投圧」の改良で失敗したらしい。

 けれど、嬉しそうに笑っていた。

 その笑顔を見るたび、ナオキの心に“現実を動かす力”が戻ってくる。


「……やっぱ天才だな、あの子。」


 カーテン越しの夕陽が、床を金色に染めていた。

 ナオキは椅子に腰かけ、静かに天井を見上げる。


 誰にも言えない。

 自分が異世界に関わっているなんて、絶対に。


 でも――

 ここには、たしかにリヴの痕跡がある。


 あの世界と、この世界。

 遠くても、どこかで繋がっている気がした。


「……こっちも、少しずつ動かしていくか。」


 照明を落とす。


 外では、街灯がぽつりと灯り始めていた。

 小さなリラクゼーションサロン「つなぐ」の灯りが、

 夜の街に、ひとつだけ残る。


 外の光がゆれて、ナオキはふと微笑んだ。


 ウロのランタンの灯りに、少し似ていた。



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