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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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心が、ちょろっと動いた夜

 ナオキは、泥と涙にまみれたリヴの身体を、しばらく強く抱きしめていた。


 腕の中の体温は驚くほど軽かった。

 細く、弱く、羽のようで――

 抱えているのが人の命であるとは思えないほどだった。


 三か月という時間の重さが、言葉より先に伝わってくる。

 一度の抱擁で知ってしまう残酷さに、胸がじんと痛む。

 胸の痛みがじんと広がり、手のひらが静かに震えた。


 その温もりの中で、リヴが自分の泥と汗に気づいた。

 小さく身がすくみ、震える声がこぼれた。


「……ごめ……ナオキ……よごす……」


 その一言は、恥ずかしさと疲労、そしてどうしようもない不安が混ざった、小さな本音だった。

 本当は謝らなくていいはずなのに、謝ってしまう。

 それほどまでに弱りきっていた。


 ナオキの胸に、強いものが走った。

 汚れなんてどうでもいい。

 この細い体が、生きて戻ってきた――

 それだけでよかった。


 言葉より先に、腕が動いた。

 もう一度、ぎゅっと力をこめて抱きしめる。


「いい。汚れなんて気にするな。……よかった。帰ってきてくれて」


 胸の奥から自然にあふれた本音だった。


 リヴの力が少し抜け、身体が預けられてくる。

 弱い体温が服越しに伝わり、ナオキはそっと息を吐いた。

 離したくない、と思う気持ちが静かに広がる。


 しばらくして、ナオキは腕をほどき、リヴを座らせる。


「まず休もう。話は、それからでいい」


 ナオキはウロの奥から鍋を取り出し、水を注いだ。

 火をつけると、小さな湯気が生まれ、乾いた泥の匂いと混ざった空気がゆっくり温かくなっていく。


 タオルを湯に浸し、軽く絞る。

 その熱が指先にじわりと広がった。


 ナオキはタオルをリヴの頬にそっと当てた。

 泥がタオルへ移り、白い肌が少しずつ戻っていく。


 触れた場所に、ほのかな緩みが生まれた。


「……あったかい……」


 かすれた声だった。

 その音に、ナオキの胸がまた痛んだ。


 髪についた草と土を取りながら、ナオキは彼女の側頭部を支える。

 介護士として身につけた、痛みを与えない手つき。

 ただそれだけなのに、胸に沁みるほど優しかった。


 リヴはくすぐったそうに目を閉じた。

 まぶたは重く、緊張がほぐれていく。

 呼吸が、少しずつ落ち着いた。


「……ありがと……ナオキ……」


 弱く、けれどまっすぐな囁きだった。

 その声が出せるまで追い詰められていたことを思うと、胸がまた締めつけられた。


 清潔なTシャツを渡し、袖を通すのを手伝うと、リヴは小さく身じろぎし、目を伏せた。

 羞恥と安堵が混ざった、弱い仕草だった。


 毛布をかけると、リヴの身体から力が抜けた。

 張りつめていた肩がゆるみ、胸が静かに上下を始める。


 安全な場所を思い出したように。

 帰ってきた心が、ようやく休もうとしているように。


 静かな寝息が流れ始めた。


 ――生きて帰ってきてくれて、本当に良かった。


 その思いだけが、ウロの静けさに深く染み込んだ。


 ナオキは火を弱め、鍋にチキンブイヨンを注ぐ。

 刻んだ玉ねぎと人参を加えると、柔らかな甘い匂いが広がった。

 それは異世界では滅多に出会わない、“心を温める匂い”だった。


 鍋の音を聞きながら、ナオキは何度もリヴのほうへ視線を向けた。

 毛布から覗く細い肩は、まだかすかに震えていた。


(こんなになるまで……ひとりで)


 胸が沈む。

 守れなかった時間の長さが、痛みとして広がった。


 数分後、ナオキは毛布の横に膝をついた。


「リヴ。何か……食べたいもの、あるか?」


 まつげが震え、ゆっくりと上がった。

 乾いた瞳に、かすかな光が戻る。

 水をひと口飲んで喉を潤し、視線を迷わせながら、小さく息を吸う。


「……クリム……パン……たべる……」


 たどたどしく、それでいてまっすぐだった。

 三か月の孤独が、その一言へと結晶した。


(……ずっと、欲しかったんだな)


 胸が静かに温かくなる。


「ああ。あるぞ。買っておいた」


 ナオキは微笑み、パッケージを丁寧に開けて渡した。


 リヴは両手でパンをそっと包み込む。

 柔らかさに指が沈み、驚いたように息をのむ。


「……やわ……これ……すごい……」


 その素直な声が、胸を打った。


 そっとひと口。

 甘さが舌に触れた瞬間、肩がふるりと震える。


「……あまい……」


 その一言に、飢えも、不安も、孤独も――

 静かにほどけていく音があった。


 続いて、温かいクリームシチューのスプーンが唇に触れる。

 リヴの瞳が自然に閉じた。


「……おいしい……

 ナオキ……つくる……おいしい……ごはん……」


 弱く、けれど嘘のない声だった。


 リヴは気づいていた。

 胸が痛いほど高鳴る理由を。

 怖くても、苦しくても、どうしようもなく――

 この人のそばにいたい、と感じてしまったことを。


 ナオキは、その姿を黙って見守っていた。

 言葉にできない喜びと、後悔と、優しさが胸いっぱいに広がる。


 ウロには、二人の呼吸と、温かな料理の香りが満ちていた。


 三か月の孤独の向こうで、ようやく戻ってきた小さな命を祝福するように。

 静かで、忘れがたい夜明けの匂いが漂っていた。

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