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32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~  作者: ひろボ


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生活スキルがレベルアップ

 朝の光が、部屋の中をゆっくり押し広げるように伸びていった。カーテンの隙間から入り込んだ一本の筋が、布団の上で細く揺れている。それがリヴの頬に触れた瞬間、彼女はむずむずと身じろぎをした。


 目を開ける前に、ものすごくゆっくりとまばたきを三回した。

 それは、最近のリヴの朝の習慣だった。

(いちど めを あけて、まぶしくて すぐとじる……それ、きらい)

 そんな理由で編み出された三回まばたきルールだった。


 半分だけ目を開けると、布団の端を指でつまみ、そおっと持ち上げる。

 中世の旅暮らしでは一瞬で跳ね起きる癖があったため、最初の頃は毎朝勢いよく布団から飛び出し、ナオキに驚かれていた。今はゆっくり起きるのが気に入っているらしい。


 体を起こしたリヴは、ぼんやりした顔のまま布団を整えた。寝癖のままでもシーツだけはしっかり伸ばす。これも半年の成果だった。


「……ん」


 短い声をこぼしながら、カーテンを数センチ動かす。

 外の風が吹き込み、リヴの髪が少し揺れた。


「きょう……あたたかい。すこしだけ」


 眠気が残った声でつぶやき、胸の前で指をちょこんと重ねた。


 換気はもう身についた習慣だった。最初にナオキから教わった時、リヴは窓を開けながら首を思い切り傾けていた。


(そと の くうき を、いれかえる……? この いえ の くうき、にげる?)


 そんなことを真剣に考えていたのだ。

 今思えばそれも可愛い記憶だった。


 リヴが台所へ向かった時、寝室からナオキがふらりと出てきた。

 髪が信じられない角度で跳ねている。


「おはよう、リヴ」


「おはよう。ナオキ、かみ……すごい」


「寝癖ひどいって言いたいのか?」


「うん」


「即答だな……」


 ナオキは軽く頭をかいた。寝癖はともかく、朝の家の空気は悪くなかった。


 リヴはすぐに布巾を取って、日の当たるところへ掛け直した。

 最近は布巾に対して異様に厳しい。


「それまた干すんだ?」


「これ……ぬれたまま、おいておくと、くさくなる。みさきが いった」


「その通りだよ」


「だから、きょうも ひに あてる。くさくならないように」


「偉いなあ」


「くさかったら……やだ」


 そこだけは妙に力強い。

 異世界では匂いにあまり敏感ではなかったはずなのに、地球に来てから驚くほど気にするようになった。


 そのままリヴは洗面所へ向かう。

 ナオキは水を飲みながら様子を見守るようについていった。


 洗面台の前で、リヴは歯ブラシを構えた姿勢のまま、なぜかじっと動かない。


「……ナオキ」


「どうした?」


「これ……ねむいと、まちがって となり みがきそうになる」


「となり?」


「ナオキ」


「俺の歯磨くなよ」


「みがかないよ」


 そう言いながら、少しだけ笑った。

 それから小さく歯ブラシを口に運び、歯磨き粉の泡にまた一瞬驚いて目を丸くする。


「まだ慣れてないのか?」


「なれてる。でも……あわ、きょう すこし おおい」


「気のせいだよ」


「きのせい……?」


「たぶん」


 リヴはそれを信じるようにうなずき、しっかり磨き始めた。

 異世界の頃は木の枝を噛んでいた彼女が、泡だらけになりながら歯を磨く姿を見ると、ナオキは自然と肩の力が抜けた。


 磨き終えると、リヴは洗面台の水滴を丁寧に拭き取り、顔を上げた。


「ここ、ぬれてると……あとで しろくなる。しろくなるの……へん」


「へんだけど汚れだからな」


「だから、ふく。きょうも」


「いい心がけだよ」


 そこまで日常化しているなら十分だった。


 リヴが居間に戻った時、ナオキがストレッチをしていた。

 腕を上げた姿が妙に間抜けで、リヴがくすりと笑う。


「ナオキ、きょう……のびてる?」


「伸びてるよ。固いのよ、体」


「かたい……へん」


「へんって言うな」


「へんじゃない?」


「いや、まあ……へんではないけど」


 会話がゆるく転がりながら、部屋の空気が少しずつ明るくなっていく。


 リヴは冷蔵庫を開け、朝食の準備を始めた。

 開いた瞬間、冷気が顔にまとわりつく。


「ひゃっ……」


「そこはまだ慣れないんだな」


「うん。これ、まほうみたい」


「魔法って言うとなんでも片付くと思ってるだろ」


「べんりなことば」


「便利な言葉だな」


 リヴは真面目な顔で言うので、ナオキは笑ってしまう。


 次にコンロに火をつけると、青い炎がふっと上がった。

 その炎を見て、リヴは胸を張る。


「きょうは……こわくない」


「おお。強気だな」


「なれた。いちど びっくりしたけど」


「したな。ライターの火見て跳ねてたよな」


「うん。あれ……すごく あついって おもった」


「可愛かったよ」


「からかわないで」


 つまみを丁寧に回して火を弱める姿は、本当に上達していた。

 半年の成長が見える瞬間だった。


 湯気が上がる頃、リヴはまたナオキを見た。


「ナオキ」


「ん?」


「わたし……この いえの ひと に……ちょっと みえる?」


「みえるよ。普通に」


「ほんとう?」


「ほんとう」


 リヴは安心したように息を吐いた。

 だがその次の瞬間、またふわりと胸の前で指を重ね、少しだけ首をかしげて言った。


「でも……すこしだけ、へん」


「どこが?」


「ナオキの……かみ。まだ へん」


「そこ直す必要ある?」


「あるとおもう」


「厳しいな」


 そんなやり取りが、朝の空気にやわらかく混じった。


 リヴが火を止めたあと、鍋の余熱を確かめていると、床の端に落ちていた小さな埃が目に入った。

 その瞬間、リヴの目が細くなる。


「……よごれ」


 その言い方はまるで敵を見つけた戦士のようで、ナオキは椅子に座ったまま「また始まったな」という顔をした。


「リヴ、掃除するの?」


「する。これ……きになる」


「気になるんだな」


「うん。すこしでも、きになる」


 リヴは床用ワイパーを取り出し、スッ、スッ、と的確に床を掃きはじめた。

 その姿には妙な威厳がある。

 掃除に対してだけ、急に人が変わる。


「綺麗好きになったよなあ」


「よごれ……あると、むずむずする」


「むずむず?」


「むずむずする。おしりが」


「おしり?」


「うん。なんか……おしりが、ざわざわする」


「理由そこ?」


 ナオキは笑いを堪えるのに必死だった。

 本人は真剣なのに、理由があまりにリヴらしくて面白い。


 掃除がひと段落すると、次はゴミ箱の前に立った。

 分別ルールを覚えてから、リヴはほぼ毎回確認する癖がある。


「これは……もえる。これは……もえない。これは……みさきが、まちがえやすいっていってた、ビン」


「ビン大丈夫か?」


「だいじょうぶ。もう、みるだけでわかる」


「達人じゃん」


「たつじん……。それ、すごい?」


「すごいよ」


「じゃあ……わたし、たつじん」


「自分で言うんだな」


 胸を張る姿が可笑しく、ナオキは吹き出しそうになった。


 ゴミ分別を終えると、リヴは洗濯機をのぞき込んだ。

 そろそろ洗濯が終わる時間だった。


「……おと、くる」


「おと?」


「がたんって、おと。くる」


「予告してるの?」


「しないと、びっくりする」


「そこまで?」


「そこまで」


 言った途端、洗濯機がガタンと鳴った。

 リヴは肩をひゅっと跳ねさせた。


「ほら、きた……!」


「その反応好きだよ」


「すきじゃない……こわい」


 毎回驚くのに、絶対に逃げない。

 その性格がなんともリヴらしかった。


 洗濯機が止まるまでの時間、リヴは居間に移動し、テーブルの上にあったクッションを整えた。

 最近はクッションにもこだわりが強い。


「これ……ちょっと、ずれてた」


「気づくんだ」


「うん。なんか……ずれてると、ざわざわする」


「またおしり?」


「ちがう。これは……こころ」


「使い分けあるのかよ」


 ナオキはツッコミながらも、リヴの細かいところに気づく性格が少し嬉しい。


 しばらくして洗濯が終わり、二人は洗濯機の前に戻った。

 リヴはふたを開け、洗濯物の匂いをそっと確かめた。


「……いいにおい」


「今日の柔軟剤のやつだな」


「すき。やさしい」


 そう言いながら洗濯物を両手で抱える姿は、昔の中世のリヴとはまったく違う。

 旅の途中では、水が冷たすぎて洗濯を諦める日も多かった。

 その頃の記憶を思い出すと、リヴの表情がふわりと緩んだ。


(あのころと……ぜんぜんちがう)


 ベランダに出ると、リヴは洗濯物をじっと見つめ、干す位置を決め始めた。


「タオル……こっち。シャツ……こっち。ナオキの……これは、かげ」


「なんで俺のだけ陰?」


「ひに あてると……すこし、におい、かわる」


「俺が一番陰担当なんだ」


「うん」


「即答やめてくれ」


 干し終えると、リヴは満足そうに手をパンと叩いた。


「できた!」


「今日も完璧だな」


「こんどは……スーパー、いきたい」


「また?」


「ねぎと……チーズ。おやつ」


「結局チーズなんだな」


「すき」


「知ってるよ」


 玄関に向かう途中、リヴは靴を履きながら口を少し尖らせた。


「でも……くつひも、きょう……ちょっと、きにいらない」


「また?」


「うん。きのうより……ちょっと、へん」


「ひもが?」


「ひもが」


「ひもに厳しくない?」


「ひも……だいじ」


 めちゃくちゃ真剣な顔で言うので、ナオキは笑うしかなかった。


 外に出ると、リヴはすぐ電柱の影を避けて歩き始めた。

 ナオキはそれを見て、今日はさすがに聞くことにした。


「影踏まないの、なんで?」


「え……ふんだら、いなくなるかもって」


「影が? 誰が?」


「わたし」


「影踏んだら消える設定あった?」


「わたしの世界のひと、そういう話……してた」


「迷信じゃん!」


「めいしん……?」


「あとで教えるよ」


 そんな会話をしながら、二人はスーパーへ向かった。


 コンビニへ入ると、冷房ではなく、暖房の風がふわっと流れてきた。

 外の冷たい空気に慣れていたリヴは、逆に目を丸くして立ち止まった。


「……あったかい。ここ、きょう……つよい」


「暖房強めだな。外寒かったしな」


「さむかった……かぜ、つめたかった」


「冬の手前は風が冷たいからな」


「ふゆ……まだ? いま……はんぶん?」


「まあ、冬の入り口ってとこだな」


「じゃあ……あったかいの、つよい。ふゆの……いりぐち」


「入り口って言い方かわいいけど、意味は合ってる」


 リヴは胸を張り、なぜか勝ち誇った顔をした。



 リヴはすぐに野菜コーナーへ向かい、迷うことなくネギを一本つかんだ。

 以前はネギの根本を見て「生えてる? どうなってる?」と真剣に悩んでいたのに、今では選ぶ基準まであるらしい。


「リヴ、それ選ぶの早すぎない?」


「きょうの……これ、みずみずしい」


「プロか?」


「ぷろ……? ねぎの……たつじん」


「さっきも達人って言ってたな」


「わたし、いろいろ……たつじん」


「雑だな」


 そのまま乳製品の棚に移動すると、リヴは真顔でチーズの種類を見比べ始めた。


「……きょうは、これ」


「いつもと違うやつだな」


「うん。きょう……すこし、ちがうきぶん」


「チーズで気分変えるタイプなのか」


「ちょっとだけ。おとな」


「どこが?」


「きょうの、きぶんが」


「説明になってないよ」


 ナオキは笑いながらリヴのかごを覗き込んだ。


「他に何かいる?」


「……ジュース」


「ジュースか。何にする?」


「オレンジ。すき」


「あー、分かる」


「ナオキも?」


「まあ……たまに飲む」


 リヴはナオキの返事を聞くと、なぜか嬉しそうに胸の前で指をそっと重ねた。


(ナオキと、おなじ……ちょっと、うれしい)


 そんな気配が表情から漏れている。


 レジに向かうと、リヴは財布を取り出して、今日も真剣に小銭を準備し始めた。

 その姿は、何度見ても妙に緊張感がある。


「これ……おねがいします」


 いつもの丁寧なお辞儀。

 店員が優しい声で対応すると、リヴはすぐに数字を確認し、小銭を黙々と数える。


「ありがとう、ございます」


「今日も完璧だな」


「かんぺき……?」


「うん。かんぺき」


「じゃあ……きょう、わたし……かんぺき」


「自分で言っちゃうんだ」


「へん?」


「へんじゃない。可愛いよ」


「かわいくない」


「はいはい」


 店を出ると、午後の光が二人の影を長く伸ばしていた。

 リヴは袋を抱えながら、ほっとしたように大きく息を吐く。


「ふぅ……」


「緊張したの?」


「ちょっとだけ。でも……きょう、はやかった」


「確かに早かったな」


「れんしゅうしたから」


「練習したの?」


「うん。みさきと」


「美咲と……レジの練習?」


「おかねの……れんしゅう」


「真剣か」


「しんけん」


 胸を張って言う姿に、ナオキはまた小さく笑った。


 アパートに戻る途中、リヴは急に足を止め、空を見上げた。


「……あれ」


「どうした?」


「くも……おいしそう」


「おいしくないよ」


「たべられない?」


「食べられないよ」


「みたかぎり……ふわふわで……すこし……もちもち」


「そんな質感してないって」


「そっか……」


 しょんぼりするほど本気で考えていたらしい。

 ナオキはその横顔に苦笑し、そっと歩き出す。


「雲は食べられないけど、帰ったらスープ飲めるぞ」


「……それなら、いい」


 リヴはすぐに機嫌を戻し、袋を抱え直した。

 家までの道を、軽く弾むような足取りで歩いていく。


 玄関に着くと、靴を脱ぎながらリヴがふと振り向いた。


「ナオキ。わたし……けっこう、がんばってる?」


「がんばってるよ。めちゃくちゃ」


「じゃあ……きょうの おやつ、おおめにたべる」


「それ、どさくさ紛れじゃない?」


「ちがう。ごほうび」


「はいはい」


 そんなやり取りをしながら、二人は部屋へ入った。


 部屋の空気に戻ると、外で感じていた緊張がゆるむのか、リヴの肩が少し落ちた。

 袋を台所に置いて、すぐに鍋の前に立つ。


「ねぎ、きる」


「じゃあ包丁出すよ」


「だいじょうぶ。じぶんで、できる」


 胸を張ってそう言い、まな板と包丁を並べる姿に、ナオキは静かに頷いた。


 リヴは包丁を手に取り、ネギをまっすぐ置き、真剣な顔で構えた。

 その表情は、魔物と戦う直前とほぼ同じだった。


「……ちょきん」


「ちょきんじゃなくて、トントンな」


「とんとん……とんとん……」


 口で言いながら切るのが最近のリヴの癖で、ネギを刻むリズムも本人なりにあるらしい。

 だが調子に乗るとテンポが上がる。


「とんとんとんとんとんっ」


「早い早い早い!」


「……あぶない?」


「ちょっと危ない」


「じゃあ……すこし、おそくする」


「うん、その方がいいよ」


 速度を落とすと、リヴは安心したように深呼吸し、刻んだネギを鍋へ入れた。

 湯気がふわっと立ち上がり、リヴはぱちぱち瞬きをする。


「……におい、いい」


「リヴのスープうまくなったよな」


「ほんとう?」


「ほんとう」


 ナオキが言うと、リヴは耳の先を少し赤くし、鍋のふたを小さく持ち上げては閉じる。その動きが妙に可愛らしい。


「……あれ」


「どうした?」


「かさ、すくない」


「蒸発したんじゃない? 火つけっぱなしだったから」


「むじょう……?」


「蒸発。水がなくなるやつ」


「まほう……?」


「魔法じゃないって」


「ちょっと、まほうみたい」


「便利な言葉で片付けないで」


 リヴはうーんと考え込み、結局「すこしだけ、みず、たす」と呟いて鍋に水を足した。


「いい判断だな」


「たつじんだから」


「自称スープ達人やめなさい」


「でも……たつじん」


「はいはい」


 そんな掛け合いのあと、二人はスープをテーブルに並べた。

 湯気がゆっくり立ち上がり、部屋に柔らかく広がっていく。


「いただきます」


「いただきます」


 スプーンを口に運ぶと、リヴは目を丸くした。


「……おいしい」


「うん。すごいな」


「これ……わたし?」


「そうだよ」


 リヴは自分のスープをもう一度見て、胸の前で指をぎゅっと重ねた。


「……すごい。おとなの、あじ」


「大人って何基準?」


「わかんない。でも……おとな」


「基準ゼロじゃん」


「きじゅん……ゼロ?」


「ゼロだよ」


「じゃあ……おとなゼロ」


「いや、ゼロはゼロでダメだろ」


 そんな会話が自然に続き、二人の食卓はゆっくりと賑やかになっていった。


 食後、リヴは皿を重ねて流しに持っていき、丁寧に洗い始めた。

 泡が流れるたびに、彼女は真面目な顔で皿をチェックする。


「これ……まだ、ぬるぬる」


「スポンジでこすってみ?」


「こする……」


 こしょこしょと洗う姿は、どこから見ても努力家だった。


「ナオキ」


「ん?」


「おさら、きれいにすると……こころ、すっきり」


「分かるよ」


「じゃあ……ナオキも、やって」


「いきなり俺に振られた」


「ナオキも、こころ、すっきり」


「分かったよ」


 皿洗いを二人で分担すると、台所はあっという間に片付いた。

 夕方の光が弱まり、部屋の中に静かな影が伸びていく。


 リヴは洗濯物を確認するためにベランダへ出た。

 少し冷たい風に肩をすくめながら、乾いた服を手に取る。


「……かわいてる」


「今日、風あったからな」


「いいにおいの……かぜ」


「風に匂いあったっけ?」


「ある。きもちの……におい」


「新概念生まれたな」


「ん……きのうも、あった」


「昨日も匂ってたんだ」


「うん。やさしい」


 リヴは洗濯物を抱えながら、ほわっとした笑顔を見せた。


 部屋に戻ると、ナオキがソファに座っていた。

 リヴは洗濯物をたたむために横に座り、一つずつ丁寧に折りたたんでいく。


「ナオキの……これ、たたむの、むずかしい」


「俺のTシャツが?」


「まがる」


「そんなに?」


「まがる。へんなところ」


「俺のTシャツのクセじゃん」


「クセ……?」


「まあ、個性だよ」


「じゃあ……なおきのTシャツ、こせい」


「言い方よ」


 笑いながらも、リヴはしっかりと整えてたたんでいく。

 その姿を見て、ナオキは改めて感じた。


(ほんとに……生活の全部が、変わってきたんだな)


 夜になり、部屋の明かりが柔らかく灯る。

 リヴは布団を敷きながら、ふとナオキの方を見た。


「ナオキ」


「うん?」


「きょう……いっぱい、できた」


「できてたよ。すごかった」


「じゃあ……ごほうびに、チーズ」


「またチーズか」


「すき」


「はいはい」


 布団に入る前、リヴは静かに息を吸い、胸の前で指を重ねた。


「ナオキ」


「ん?」


「わたし……ここ、すき。ちゅうせいと、ぜんぜんちがうけど……すき」


 その言葉は、ふわりと温かい。

 ナオキは小さく息を吐いてから、やさしく答えた。


「俺も……すごくうれしいよ」


 リヴはその返事を聞いて、布団に潜り込み、小さく丸くなった。


(あしたも……がんばる)


 そんな気持ちが静かに胸に芽生え、やわらかい息といっしょに夜の中へ溶けていった。

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