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『32型テレビが繋g...(略)~手取り15万、現代物資(10秒制限)で成り上がる~』  作者: ひろボ


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第12話:マジカルなキノコの秘密と簡易ラボ(ウロ)

 ナオキは、リヴとの再会に備え、手に入れた異世界資源の検証に取り掛かった。


 彼はまず、自分の知識の限界を認めた。高校の化学レベルとネット検索だけでは、青黒い薬草の有効成分やキノコの正確な組成など、分かるはずがない。


 彼はスマホを取り出し、中古の分析機器を検索した。


「……桁が違う」


 画面に表示されたのは、数百万円、数千万円――手取り15万の彼には絶望的な価格だった。


「クソッ。金がないと、研究すらできねえのか」


 ナオキは専門機器の購入を諦めた。しかし、彼は諦めない。


(待て。俺のチートはポータルだ。機械じゃなくて、情報と知恵で勝負する)


 彼は安価で手に入る物で「簡易ラボ」の構築を決めた。


 次の仕事の休みの日。ナオキは100円ショップとホームセンターへ向かった。


 購入したのは、高倍率のルーペ、小さなプラスチックの容器数個、薬局で売っているリトマス試験紙、そしてスポイトだ。すべて32型ポータルを通る小さなものばかりだ。


 アパートに戻ったナオキは、ブルーシートの上にそれらを広げた。


 彼はまず、リヴがくれた青黒い薬草を水に浸し、そのゲルの断片をルーペで拡大して観察する。薬草は、細胞が非常に不規則で、何か複雑な高分子構造を持っているように見えた。


「これは……うーん、見ても全く理解できないな。専門家でなければ、細胞の構造を知っても役に立てられないし」


 ナオキはリトマス試験紙でゲルのpHを測るなど、地道な検証を続けたが、専門的な機器がないため、すぐに限界に達した。


 彼の視線は次に、もう一つ対価――干しキノコへと移った。


(薬草のことは保留だ。まずは安全な食料か、それが問題だ)


 ナオキは慎重にキノコを水で戻し、数片だけ切り取ると、プラスチック容器の中で潰し、その汁(水分)を抽出した。


「パッチテストだ」


 ナオキは、アレルギー反応がないか確認するため、抽出液をごく少量、腕の内側の柔らかい皮膚に塗りつけた。


(リヴも食べていたから、あんまり心配はしていなかったが、念のためだ)


 彼はその数時間、他の作業(薬草の分析など)を行いながら、腕を注意深く観察した。幸い、皮膚に異常はなかった。


 毒性が低いと判断し、いよいよ調理に取り掛かった。


 ナオキは慎重にキノコを数片だけ切り取り、カセットコンロで熱した鍋にサラダ油を薄く敷いた。


 キノコは調理後、皿に盛られた。見た目は普通のキノコと変わらない。ナオキは匂いを嗅ぐ。特有の土臭さが強かった。


 ナオキは箸でそれを少しだけ掴み、口に運んだ。


「……ん」


 味は極めて淡白だった。マズくはないが、旨味も香りもない。これだけで主食にするのは、確かにリヴにとって苦痛だろう。


 ナオキは試しに、食卓塩をひとつまみ振りかけた。


 塩が加わることで、キノコは主食として成立する味になった。


 そして、その直後。


 ナオキは、異変を感じた。


 彼の身体が、カッと熱くなった。溜まっていた疲労が、血液の中から一瞬で押し出されるように消え失せた。


 脳が一気に覚醒し、心拍が安定する。まるで高濃度のブドウ糖を静脈に注射されたときのような、一時的な、異常な即効性だった。


「……なんだ、これ」


 ナオキは顔色を変えた。単なる満腹感ではない。これは、疲労回復薬だ。


(糖質はない。だが、この即効性は尋常じゃない。リヴはこれをただの食料としていたが、この瞬間的な回復効果は、地球から来た俺の身体に特有の反応なのかもしれない……!)


 ナオキはキノコをマジカルマッシュ……ではなく「エナジーキノコ」と命名した。


 ナオキは次に、キノコの効果を条件別に検証することにした。


 ブルーシートの上には、ルーペ、皿、キノコの切れ端、スポイト、メモ帳、スケッチブックが整然と並ぶ。


 まず、少量のキノコでの即効性を確認。口に入れて数十秒後、体内の血流がわずかに活性化し、頭がクリアになる。


(少量でも効く。ただし、持続時間は短いな)


 次に、通常量の倍を口にする。体がカッと熱くなり、疲労感は完全に消えた。心拍は安定し、頭はシャキッと冴える。


 ナオキはスケッチブックに、量と体感の関係を図にして記録した。


 さらに、加熱時間の違いを検証。軽く炒めたキノコは即効性が高く、しっかり加熱したキノコは若干効果が減る。


 塩を振らない状態でも体感の強さは変わらなかったが、味付けによる心理的満足感は作業効率に影響することも確認した。


 ノートには箇条書きで「即効性・持続時間・量・加熱・塩の有無」を整理し、視覚と文字、身体感覚で三重に理解を深める。


 一人での孤独な作業だが、ナオキの胸は好奇心で高鳴った。


(これは……ただの食料じゃない。異世界の資源と現代の知識の融合。俺の体が反応しているってことは、この先、応用もできるかもしれない)


 数日後。


 ナオキは職場に復帰したが、彼は出勤前に必ず少量のエナジーキノコを食べるようになった。


 以前なら疲労を感じていた深夜の排泄介助や、明け方のレポート作成も全く苦にならない。


(すごい。食べた直後の数時間、疲労がポンと飛ぶようだ。これは、即効性の疲労回復アイテムだ)


 ナオキは、異世界の資源と現代の知識がもたらした「仕事の負荷を一蹴する、一時的な優位性」を手に入れたことを自覚した。


 そして、彼の好奇心はさらに燃え上がった。青黒い薬草の秘密、キノコの完全な成分、未知の効能――解明すれば、もっと可能性が広がるはずだ。


 ナオキの目に、実験と発見の新たな冒険への光が宿った。

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