9.『自画像』
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コンテストまでには、三か月間ありました。
出展作品のテーマは毎年自由で、いつもエマが描きたいと思うことを見つけ、好きに描いていました。
でも、どうしても描きたいと思うことが見つかりませんでした。
仕方がなく、その年は先生が決めました。
『自画像』
それが、エマに与えられたテーマでした。
エマは諦めるように絵筆をとりました。
描きたくないのに描かなければならないのは、嫌なものです。
絵筆を握ると、どうしても絵が好きだったお父さんを思い出してしまいました。
それに、どんな絵を描くのか、こっそりミザリーに見張られている気がして、それも描きたくなくなってしまった理由の一つでした。
いずれにしても、毎日三時間、キッチリと絵を描かされていたのですが。
こうしてエマは、テーマが決まった翌日から制作に入りました。
それなのに、先生が風邪をこじらせて肺炎を起こしてしまったのです。
まだ下絵を描き始めたばかりのころでした。
ミザリーは、風邪なんてすぐに治るだろうと考えていましたので、代わりの先生を探しもしませんでした。
そのためエマは約一か月のあいだ、ひとりで絵を描く事になったのです。
ミザリーは、エマがどんな絵を描いているのか気にも留めていませんでした。
『自画像』なんて、ただ自分の姿を描くだけのもの。――そう、思っていたからです。




