7.ブラッド
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お父さんが亡くなってから十日ほどして、ようやくミザリーは退院して帰ってきました。
エマは一度も、病院にお見舞いに行きませんでした。
『ミザリーが毎晩のように連れ出していなければ、お父さんは殺されずにすんだのに……』
そう思うと、ミザリーが憎くて仕方がなかったのです。
エマは本当に、永遠に、お父さんから引き離されてしまったのです。
けれども心配はしていました。
きっとショックで、やせてしまっているだろうと思っていたのです。
それなのに、帰ってきたミザリーの頬はバラ色で、以前よりもいっそう元気に見えました。
玄関にも出迎えにいかないでいると、自らエマの部屋にやって来て、言いました。
「ただいま、エマちゃん! さびしくなかった?」
彼女の弾むような声と笑顔に、エマはあっけに取られて何も言えませんでした。
「もうお父さんはいないから、これからは、私がお父さんの代わりもするからね」
そう言って、鼻歌混じりで部屋を出ていったのです。
ミザリーは、悲しみというものを、いっさい忘れてしまったかのようでした。
葬儀が終わってまだ日も浅いというのに、もう喪服を脱いでいました。
召使たちはその夜、声を落としてささやきました。
『元気そうで何よりね』
『あの方、涙を見せたことってあったかしら』
『ほんとうに、お強い方ね……』
それは、ゆがみかけたエマの世界が、そっと立てた軋みのような音でした。
その日からブラッドが、ほとんど毎日、やって来るようになりました。
お父さんの仕事を手伝っていた人でしたから、顔くらいは知っていました。
けれど、エマとはほとんど、話したことがありませんでした。
エマにとってブラッドは、こういう人でした。
『背が高く、ミザリーより少し年上くらい、いっさい無駄なことを言わない人、目つきが怖い人』
おとうさんの遺産の整理や、仕事の後始末のために来てくれている、とだけは聞いていましたから、屋敷で見かけると挨拶だけはしていましたが、どうしても好きになれない人なのでした。
ブラッドは、来るとすぐにミザリーの部屋に入り、一時間ほどで帰ることもあれば、朝から晩までいる日もありました。
そこには、ミザリーも必ずいました。
『お二人は、前からのお知り合いなのではないかしら?』
そんな疑念が生まれてしまうのも、ごく自然なことでした。




