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7.ブラッド

                 ※ ※ ※


お父さんが亡くなってから十日ほどして、ようやくミザリーは退院して帰ってきました。

エマは一度も、病院にお見舞いに行きませんでした。


『ミザリーが毎晩のように連れ出していなければ、お父さんは殺されずにすんだのに……』


そう思うと、ミザリーが憎くて仕方がなかったのです。

エマは本当に、永遠に、お父さんから引き離されてしまったのです。


けれども心配はしていました。

きっとショックで、やせてしまっているだろうと思っていたのです。


それなのに、帰ってきたミザリーの頬はバラ色で、以前よりもいっそう元気に見えました。


玄関にも出迎えにいかないでいると、自らエマの部屋にやって来て、言いました。


「ただいま、エマちゃん! さびしくなかった?」


彼女の弾むような声と笑顔に、エマはあっけに取られて何も言えませんでした。


「もうお父さんはいないから、これからは、私がお父さんの代わりもするからね」


そう言って、鼻歌混じりで部屋を出ていったのです。


ミザリーは、悲しみというものを、いっさい忘れてしまったかのようでした。

葬儀が終わってまだ日も浅いというのに、もう喪服を脱いでいました。


召使たちはその夜、声を落としてささやきました。


『元気そうで何よりね』

『あの方、涙を見せたことってあったかしら』

『ほんとうに、お強い方ね……』


それは、ゆがみかけたエマの世界が、そっと立てた軋みのような音でした。


その日からブラッドが、ほとんど毎日、やって来るようになりました。


お父さんの仕事を手伝っていた人でしたから、顔くらいは知っていました。

けれど、エマとはほとんど、話したことがありませんでした。


エマにとってブラッドは、こういう人でした。


『背が高く、ミザリーより少し年上くらい、いっさい無駄なことを言わない人、目つきが怖い人』


おとうさんの遺産の整理や、仕事の後始末のために来てくれている、とだけは聞いていましたから、屋敷で見かけると挨拶だけはしていましたが、どうしても好きになれない人なのでした。


ブラッドは、来るとすぐにミザリーの部屋に入り、一時間ほどで帰ることもあれば、朝から晩までいる日もありました。

そこには、ミザリーも必ずいました。


『お二人は、前からのお知り合いなのではないかしら?』


そんな疑念が生まれてしまうのも、ごく自然なことでした。

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