4.エマの癖
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陰湿なミザリーとの生活に、なじめぬまま、気づけば九歳になっていました。
心がふさがれてしまってもおかしくないほど、嫌な日々がひたすらに続いていたのです。
エマはもう、くじけそうで、つらくて、苦しんでいました。
それなのに、屋敷でも学校でも、そんな素振りなど何一つ見せませんでした。
屋敷では、あまり話をする相手がいませんでしたが、学校ではいつも明るくニコニコと笑い、みんなの人気者でした。
エマは可愛かったので、気のある男の子たちにちょっかいを出されたり、やきもち焼きの女の子たちに意地悪をされたりもしました。
でも、まったく気になりませんでした。
そんなこと、エマが抱える悩みに比べたら、本当にちっぽけなことだったのです。
エマは、心の中ではひとりぼっちでした。
『お母さんは今も、これからも、ずっーと、天国からエマを見守ってくれているんだよ』
どんなに寂しいときでも、つらいときでも、この言葉が支えでした。
それなのに、そう教えてくれたお父さん自身が、もうそれを信じていないように見えるのです。
『天国も、ないのだったら……』
エマは、自分が『この世界』にいてもよいのかとさえ、考えるようになっていました。
色々なことが、だんだんと信じられなくなって、心の中から少しずつ、お母さんの存在が遠のいていくような気がしました。
ロケットをぎゅっと握りしめるのが、いつのまにかエマのくせになっていました。




