16.表彰式の前夜
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喜びと悲しみが入り混じりながらも時間は過ぎて、いつしかコンテストも終わりに近づいていました。
展示の最終日を明日にひかえた夜、きっと翌日の最後に表彰式があるからでしょう。珍しくミザリーがエマに話しかけてきました。
「明日は、私も一緒に行くわ」
エマは心の中でつぶやきました。
(絵なんて、どうでもいいくせに……)
『自分こそが良き母親であり、優れた教育者だ』
と、人々に見せつけるために出席したいのです。
そんなことくらい、エマは分かっていました。
ですから、明日のことを考えると、憂鬱でなりませんでした。
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夜になるとエマは、いつものように、皆が寝静まった頃ベッドを抜け出しました。
忍び足で部屋を出ると、その日は秘密の部屋へ行く前に、食堂に立ち寄りました。
燭台を、うっかり部屋に置いてきてしまったのです。
そのことに気付いたエマは、食堂で一つ借りていくことにしたのです。
燭台は、部屋の隅の高い棚に置かれていました。
背が届きませんでしたから、そばにあった木の椅子を押してきて踏み台にすることにしました。
そうして、椅子の上に乗り、いっぱいまで背伸びをすると、どうにか指先が燭台に届きました。
そんなふうにして、少し苦労しましたけれど、どうにか燭台を手に入れると、金属のひんやりとした冷たさを確かめてから、ほっとして小さく息をつきました。
それから、また忍び足で食堂を出ようとしたその時でした。
近づいてくる足音が響き、開け放たれた扉の向こうに、ろうそくの光がゆらりと揺れました。
驚いたエマは、慌てて一番近い窓のカーテンの陰に身を潜めました。
幸いにも、そのカーテンは窓の脇に束ねられ、足元まで長く垂れ下がっていました。
おかげでエマの小さな体は、すっぽりとその陰に隠れることができたのです。
隠れた途端、二つの人影が現れました。
食堂の火は消されていましたが、窓から差し込む青白い月の光が部屋を照らし、姿をはっきりと浮かび上がらせました。
そこに現れたのは、ミザリーと――なんとブラッドだったのです。
先週に続き、EP1〜15を全体的に見直しました。
語り口やリズムを整えて、より読みやすくしています。
とくにEP3とEP7では、ミザリーとブラッドの関係を少し加筆しましたが、
物語の流れはそのままですので、読み直していただかなくても大丈夫です。
今日から、土日祝を含めた毎日18:15投稿になります。
あと9話ほどで完結予定です。
最後まで見届けてもらえたら嬉しいです。




